ファッション2021.08.13

「遊びと冒険でホットになるの」美川憲一が直感でキャッチする、おしゃれの磨き方

好きなものと生きていく#43

2021年でデビュー56年を迎えた歌手の美川憲一さん。これまでテレビやステージで見せる豪華絢爛な衣装が大きな話題となってきましたが、最近では2019年から始めたインスタグラムで披露するファッショナブルな私服に注目が集まり、現在、フォロワー数は30万人越え。若い世代にもファン層を広げています。さらに最近YouTubeチャンネルも開設。そのバイタリティは、いったいどこから湧いてくるのでしょうか?

どんな時も自分らしく輝き続ける美川さんに、本当に似合うスタイルの見つけ方や、買い物の楽しみ方など、美川流・ファッションの美学を教えていただきました。
(執筆/秦レンナ、撮影/佐坂和也、編集/メルカリマガジン編集部)

銀ブラに古着ミックス……子どもの頃から磨かれてきたセンス

――美川さんがおしゃれに目覚めたきっかけは何だったのでしょうか?

目覚めるも何も、気づいた時には、もうおしゃれだったのよ(笑)。子どもの頃は、漫画やゲームなんて全然興味がなくて、お小遣いを貯めて買うのはお洋服ばっかり。母親がおしゃれな人だったから、その影響はあるかもしれないわね。

父親が亡くなってから、母はずっと働き詰めで家計を支えてくれて。それでも仕事が休みの日曜には、「一緒に銀ブラに行こう」って、連れ出してくれたのよ。当時、銀座は流行最先端の街。舶来品の飾ってあるショーウィンドウを覗いていると、「こういう素敵なものを着たかったらね、一生懸命自分磨きしなきゃダメよ」って、母が言うんです。そうやって、教育してきてくれたんですよね。

――20代の頃の美川さんのことも知りたいです。どんなファッションをされていたのでしょうか?

当時はまだ原宿に古着屋さんが一軒しかなくて、そこへよく通っていたの。それで、ちょっと破けたアーミーパンツとか、ダメージデニムなんか買って履いていると、「芸能人がそんな汚いもの着ない方がいい」なんて言われてね。でも、私は全然気にしないの。古着に、エルメスのスカーフやシルクのブラウスなんか合わせて着ていましたよ。今でもそんな風に古着とブランドものをミックスしてコーディネートするのが好きね。
――すごくおしゃれですね……! 古着やヴィンテージの魅力はどんなところにあると思いますか?

海外のフリーマーケットなんかをはしごして見てまわるのも大好きなんですよ。買うときに、これはこんなに丁寧な刺繍がしてあるし、もともとは結構な値段のものだったんだわ……なんて、自分が手にするまでのストーリーを想像するのが好きなんです。でも、その場では知らん顔して値切ったりしてね(笑)。

気分転換はメルカリ。コロナ禍で知った、新たな買い物の楽しみ方

今日は、エルメスのバーキンをアクセントに。「ハンドルに巻いたスカーフは、自分でピッタリのものを探したのよ」

ハートの形がかわいいダイヤとオニキスのリング。「インナーのブラックと合わせてみたわ」

――やはり、美川さんのファッションといえば、あの豪華絢爛なステージ衣装のイメージがあります。

衣装に注目され始めたのは、「NHK紅白歌合戦」に7回目に出場したときじゃないかしら。カラスの羽のジャケットが当時ずいぶん話題になったんですよ。その後、紅白では小林幸子さんとの「衣装対決」がおなじみになってね。毎回、ステージ衣装は本当にこだわって作って、もう全部やりきったという感じなんです。悔いは何も残ってないんですよ。でも、悔いがないと言えるなんて、すごく幸せなことよね。やりたいことやって、着たいものだけ着てきたもの(笑)。

――とはいえ、その裏側には見えない努力や苦労もたくさんあったわけですよね。美川さんは辛いときや苦しいとき、どんな風に気持ちを切り替えていらっしゃるのですか?

今はコロナ禍で、皆さん大変な思いをしていて、精神的に参っている人もたくさんいると思うんですよ。一人だと孤独も感じやすいしね。私も本来、時間があれば365日、毎日外に出て人に会ってというタイプだから、コロナ禍でずっと家にいるのは、やっぱりしんどいこともあるんですよね。そんな中、どうやって気持ちを切り替えているのかというと、メルカリなの。これ、本当よ。

ーーなんと…びっくりです! 今日もたくさんメルカリで手に入れたアイテムをご持参いただいたとのこと。メルカリを使い始めたきっかけを教えていただけないでしょうか?

これまでネットで買い物なんてしたことなかったんだけど、仲良しのはるな愛に勧められて始めてみたら、ハマっちゃって。かなり使ってるわよ。洋服もあれば、ブランドバッグもあるし、絵画とかインテリア雑貨もあるでしょう。それこそ、フリーマーケットで掘り出し物を見つけるみたいな感覚で、見ているだけで面白いわよ。

バスキアの絵柄のサマーセーターはメルカリで5,000円で購入。「パンツはシンプルなものと合わせるのがいいわね」

――メルカリでは、どんなものを購入されたのですか?

始めてからすぐに見つけたのが、このバスキアの絵柄のサマーセーター。彼の作品はもともと好きでね、「バスキア」と検索したんじゃなかったかしら。恐竜の絵柄のTシャツも買ったわよ。

一番のお気に入りはこのグリーンのリザード(トカゲ)革の長財布。写真を見てすぐに「これだ!」って。大きさもちょうどよくて、すごく使いやすいのよ。バッグやお財布なんかは、中古品を買うのに抵抗がある人も多いと思うんだけど、メルカリには商品の状態とかサイズが詳細に書いてあるから、それはきちんと読むようにしています。それが失敗しないためのポイントね。私、審美眼には自信があるのよ。

リザード革の財布はどちらも新品で購入。6,999円(上)と1万1,000円(下)。「使う前には、お塩を入れて一晩寝かして清めるの」

「あたたかみのある色合いが素敵だし、いかにも金運がアップしそう」と購入した龍の絵は、1,000円。この絵に合わせてわざわざ額縁をオーダーしたそう

トムとジェリーが追いかけっこしている様子がかわいいサンダルは、2,490円。夏場、ホテルなどで履くスリッパ用に

ちなみに、はるなはメルカリで結構失敗してるの。だから、気になっているものがあれば、まず私に教えなさいって言ってあるわ(笑)。それで、これは取手が使い古しているからダメとか、角が汚れているからやめなさいとか、私が鑑定してあげて。その代わり、メルカリの使い方でわからないところがあれば教えてもらったりしてね。そう、助け合いよ(笑)。昨日の夜もずっと2人で電話しながら、メルカリを見ていました。そうしていると、まるで一緒にショッピングしている気分になれて、すごく楽しいんですよ。

大事なのは、インスピレーション。買い物のセンスは誰にも負けない

――ネット以外では、日頃どんな風にショッピングを楽しんでいるのでしょうか? いいものに出会うコツがあれば教えてください。

お気に入りのセレクトショップがあってね、手頃な値段で大好きなの。ブランドものももちろん買いますけど、案外よく着るのはそういうお店で買ったものだったりするのよね。買うときは早いわよ。「コレ!」という、インスピレーションが大事なんです。買い物のセンスは誰にも負けないわよ。

この間も、チャイナカラーのすごく素敵な麻のセットアップを見つけて、もうその場であのブローチをつけようとか、あの靴と合わせようとか、思い浮かんでくるの。ピンとくるお洋服に出会うと、どんな風に着ようか、すぐにイメージできるんです。

鳳凰の繊細な刺繍が美しいヴィンテージのジャケットは3万円で購入。「手直しして着るのが楽しみね」

――お買い物をするときに、コーディネートまで考えられているのですね!

メルカリで即決して買った、このヴィンテージのジャケットは、ボタンの位置を付け直そうと思っているんです。着るときは袖を少しまくって、裏地の赤をアクセントに効かせて、あとはブローチもつけようかしら。そうやって、あれこれ考えているだけでもワクワクするでしょう? 買ったものにあえてハサミを入れて、リメイクすることもよくあります。新品だとなかなか勇気のいることだけど、古着だったら遠慮せずにできるわよ。そういう遊び心が、おしゃれをますます楽しくさせてくれるのよね。

――自分の似合うものがわからない、自信のなさゆえ、型にはまったコーディネートにおさまってしまう……という方もいると思うのですが、美川さんのように独自のスタイルを楽しむためにはどうしたらいいのでしょうか?

自分には似合わないと決めつけてしまうのはもったいないこと。自分が似合うように着こなせばいいのよ。たとえば、私は、オレンジ色が似合わないとずっと避けていたんだけど、合わせるバッグやアクセサリーをいつもと少し変えたり、合わせるパンツの色をオレンジの映えるシックな色にしたり、あれこれ工夫して着てみたの。そうしたら、周りからは「新鮮で素敵!」と大好評。自信がつきました。そうやって冒険することで、自分のファッションセンスもどんどん磨かれていくはずよ。

襟元につけたヒョウの顔のブローチは、ハンドメイドの一点物。「ジャケットのヒョウ柄に合わせてみたの。遊び心が大事よ」

――異性の目線や年齢を意識してしまい、自分の本当に好きなファッションを楽しめなくなっている方もいますよね。

自分の好きなものを着ているときが、一番素敵に見えるのよ。自信を持ちなさい。それからね、何より大切なのは、おしゃれを面倒くさがらないこと。せっかくの魅力も台無しよ(笑)。シンプルなTシャツだって、ちょっとブローチやブレスレットを合わせるだけですごく素敵になるんだから。ほんの一手間で変わるわよ。あとはメイクね。一重でも二重でも、自分の顔に合ったメイクをすればいいの。少し頬紅をさせば柔らかい雰囲気になるし、明るいアイシャドウを入れるだけでも目元がグンと引き立つはず。そうやっておしゃれを楽しんでいる人は、何歳であってもとっても魅力的だと思いますよ。

どんなときもおしゃれが基本。気持ちをホットにしてくれる大切なもの

――美川さんのファッションの美学や輝き続けるための秘訣を教えてください。

視野を広く持つこと、それから好奇心旺盛でいるってことね。好奇心が旺盛な人ほど、「素敵! 面白い!」と、なんでも感覚的にキャッチできる。それって、自分を磨いていくためにすごく大切なことだと思うわ。
それで私、新しいこともどんどんやってみるんです。最近始めたYouTubeでもサソリ食べてみたり、TikTokやってみたり、ともかくいろんなことをやっているんだけど、世界が広がるのは楽しいことよ(笑)。

――新しいことへ挑戦するのにとまどいはないのでしょうか?

私は時代と共に生きてきた人間。時代に乗り遅れたくないのよ。ファッションもそう。美川憲一といえば、「夜の貴公子」なんて言われた時代もあったし、派手なステージ衣装が注目された時代もあった。だけどいつだって、そのイメージだけにおさまりたくないという思いがあったのよ。自分で言うのもなんだけど、私服の方がずっとおしゃれだったしね。でも、今はインスタで私服の私を見てもらえるじゃない? 毎回コーディネートを楽しみにしてくださる方もいて、すごく嬉しいわよ。おしゃれするのがますます楽しくなったわ。

――美川さんの人生におしゃれは欠かせないものになんですね!

私は、どんなときもおしゃれが基本なの。だから、好きな服を素敵に着こなすためには、健康であること、体型をキープすることだって大切。コロナ禍で体重が増えたときには、断食して、さらにブルブルマシン(エクササイズ用の振動マシン)して、スクワットやったりダンベルやったりして、3日間で4kg落としたわよ。私、やるって言ったらやらないと気が済まない性格なのよ(笑)。

おしゃれって、気持ちをホットにしてくれるじゃない。値段やブランドじゃないの。大切なのは、自分の着たいものを、自分に似合うように着ればいいってことなんです。そういうことがわかったのも、人生いろんなものを見て、着て、経験してきたからね。若い頃は、鼻もちならないほど嫌味だったもの(笑)。今はもっと自由。明日は取材だから、あれ着よう、あのアクセサリーしようって、考えているだけでも本当に楽しくて幸せよ。

美川憲一(みかわ・けんいち)
東宝芸能学校を経て、大映ニューフェイスとなる。1965年『だけどだけどだけど』で歌手デビュー。1967年『柳ケ瀬ブルース』の大ヒットで一躍脚光を浴びる。以後、『さそり座の女』を筆頭に次々にヒット曲を飛ばす。タレントのコロッケのモノマネやCM『タンスにゴン』で特異なキャラクターを前面に出し活躍。ライフワークであるシャンソンを毎年開催して、2019年10月に20回目を終えた。2020年から、インスタやブログに挑戦し、多々ニュースに取り上げられている。芸能界のご意見番として君臨し、2021年6月から歌手生活57周年。8月25日に新曲【こころに花を】をリリース。9月8日に中野サンプラザにてソロコンサートを開催予定。

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メルカリマガジン編集部

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