欲しいものを探すとき、検索に使うキーワードを様々な人に訊いてまわる新連載。ここでは、日々膨大な数のアイテムが出品される中でひとつの「指針」となるようなお話を伺っていきます。第一回目のゲストは、メルカリ黎明期からサービスをフル活用して色んなジャンルの「アーカイブ」を掘っていたという、俳優の伊藤万理華さん。ケンゾーの花柄アイテムやヴィンテージのミッソーニなどファッションのお話を中心に、「ちょっとマニアックだけど、たしかに今そういう気分!」という絶妙なポイントを突いてくれました。
(撮影/信岡麻美、執筆・取材/長畑宏明[LIFT]、衣装/宮川美穂、長畑宏明[LIFT]、ヘアメイク/田中美希、撮影協力/フロットサムブックス、編集/メルカリマガジン編集部)
伊藤 ちょっと自分の購入リストをチェックしてみますね。えーっと、最初に買ったのは……何だったっけ?(笑)かなり前のはず。ちなみにメルカリができたのっていつですか?
ー今から8年前ですね。
伊藤 ということは、メルカリが始まったあたりから私も使い始めています、たぶん。
ー普段もっともよく購入するジャンルは?
伊藤 洋服、シューズ、小物、あとは家具かな。クリアのインテリア(※1)やミッドセンチュリー系(※2)は珍しいモデルが時々出品されています。また、本を探す時にもメルカリが便利で、特に古本はお店にないものでもメルカリだと見つかることが多くて。昔のZINE(※3)2000年代のCUTiE(※4)ここでよくディグっています。あとそうだ、ぬいぐるみも。
ーぬいぐるみ?
伊藤 それは昔のスナップ雑誌に、りんご王子のぬいぐるみを片手に持っている人が掲載されていたので、「そういえば自分もむかし持っていた!」って思い出して、その場で「スイマー りんご王子」で調べたっていう(笑)。
伊藤 好きなブランドはいくつか入れていますけど、基本的に保存せずその時に気分で新しく打ち込んでいます。まずはブランドとアイテムで絞り込んで、そこから「新しい順」「おすすめ順」「いいね!順」などタブを切り替えていく。それでラインナップがガラリと変わるので、ちゃんと全部チェックします。
ーああ、なるほど。タブの切り替えは人によっては盲点かもしれません。「ふわふわ」とか「キラキラ」みたいな抽象的なワードを使うことはありますか?
伊藤 この前、なんとなく「セットアップ」が欲しくなった時に、とはいえどのブランドが良いのかわからなかったんです。だから、「セットアップ スカート レディーススーツ」を検索窓に入れて、そこからさらに色をグレイに絞り込んだら、最終的にポールスミスの良いセットアップが見つかりました。
ー「○○円以下しか買わない」など、メルカリを使う時の個人的なルールはありますか? 自分の場合は、「どうにかして4000円以下で手に入れてやろう」とか考えちゃうのですが。
伊藤 同じものが複数出品されている場合は、一応価格が低い順でチェックしてなるべく安いものを買いますが、特に価格の上限は設けていません。メルカリでは安いものを買うという発想ではなく、「この時期のこのブランドのアイテムが欲しい」と思ったらまずはメルカリで検索するという感覚なんです。たとえば、私は古いケンゾー(※5)のアイテムを買う時に必ずメルカリを使うんですが、まだ価格が安定していなくて掘り出し物が多い。あと、メルカリでワードを検索したことで、「へー、昔こんなにかわいいコレクションがあったんだ」という発見もあったりして。ここから得ている知識もたくさんあるはず。
ーメルカリでは出品者が色んなタグをつけられるから、伊藤さんが欲しいアイテムを探しているうちに近しいテイストのものも発見できると。つまり、かつての雑誌に近い体験と、アーカイブショップとしての機能が両方あるわけですね。
伊藤 そうだと思います。ここで新しいブランドを初めて知って好きになるパターンもあります。正直、ハイブランドのお店の中には緊張感があって入りづらいところも多いので(笑)、かわりにメルカリで買うというルートもあると思います。接客が苦手な方にはうってつけのアプリじゃないですか。
伊藤 最近でいうとミュウミュウのメンズ(※6)。以前からよく買っているのは、ジャンポール・ゴルチエ、コム・デ・ギャルソン、プラダスポーツ。そういえば、ワールズエンド期のヴィヴィアン(・ウエストウッド)をここで買えたんです。
ーうげ。それはさすがに高かったんじゃないですか?
伊藤 まあ、うん(笑)。でもすごくレアなアイテムだったので。私はメルカリでもお金を出す時は出すんです(笑)。あと、90年代のアンダーカバーのベストなんかも。ドリス・ヴァン・ノッテンやマルニも、自分が持っている洋服はほとんどメルカリで買ったかな。気になるものをここで調べ出すと止まらないんです。ちなみに、失敗も多いです。ぴったりだと思って買ったシューズがブカブカだったとか。それでも躊躇なく買っています。
ーめちゃくちゃ楽しんでますね〜(笑)。ではここで伊藤さんの購入履歴を見ていきますね。初期の頃だと、マザー、トーキョーボッパー、メイドインヘブン、カガリユウスケ……4〜5年前の伊藤さんという感じがしますね。
伊藤 うわー、これをみると自分が好きだったものがわかりますね。(自分でも画面をスクロールしながら)そうだ、コズミックワンダー(※7)とかもよく探したなー。
伊藤 自分が何が欲しいのかを明確にした方がいいと思います。そのワードで調べると勝手に他の候補も色々と出てくるから、自然と知識が増えてくる。出品者って、仮にそのブランドのアイテムじゃなくても、テイストが近ければそのブランド名に設定していることがあるじゃないですか。
ーまだアプリ内のリストに登録されていないブランドの場合、メジャーなブランドの中から近いものを探すんですよね。たとえば出品アイテムがドリスっぽいものであれば、ブランド名を「ドリス・ヴァン・ノッテン」に設定するという。
伊藤 そうそう。自分にはそれがむしろ有り難くて。私も、どこかでみたヴィンテージのボタン型のトップをどうやって検索すればいいか分からなかったんです。それで、色々とサイトを調べていくとその呼び名が判明したりして。
ー身近に、伊藤さんほどメルカリを使いこなしている人っているんですか?
伊藤 そもそも、自分がメルカリを使っていることを共有する機会がなくて(笑)。あるとしたらプロのスタイリストさんくらい。まわりから「これをどこで買ったの?」って訊かれて「メルカリだよ」と答えるとびっくりされます。「よくこれを見つけたね」って。
伊藤 まわりの人たちから「伊藤さんにこれをみてほしい」とかってオススメされることが多くて、それをどんどん自分のものにしたくなるんです。それと私の場合、いま流行っているものをそのまま買うのではなく、そのルーツにあるものや、影響を与えたものを探していくのが楽しいんです。今ジャージが流行っているから(サンプリングネタとなることが多い)アディダスのヴィンテージ(※8)を掘ってみよう、とか。
ーそういえば、NIGOさんがケンゾーのコレクションで70年代の花柄を引用していましたが、その場合は最新アイテムよりも引用されている元を辿るということですよね。
伊藤 そうです、そうです。あのコレクションは良かったですよね〜。他にも、今のファッションの流れをみると、昔のミッソーニ(※9)なんかはかなり気分だと思うんですよね。そうやって自分の中でどんどん変換していく作業がおもしろいんです。
ーマニアックなところでオススメってありますか?
伊藤 以前、旅行で友達とドイツに行った時、ソールが下駄の形になっているトリッペン(※10)を発見して、「これってヴィンテージでも同じモデルがあるのかな?」と思ってメルカリで探したら、なんとルーツになったモデルが出品されていたんです。だからトリッペン、今けっこうオススメです。それと、私が実際にアクセサリー入れとして使っているテオブロマの缶(※11)。
伊藤 デザインがめっちゃかわいいんです。たぶん今もたくさん出品されています。缶だと資生堂パーラーがメジャーなんですが、個人的にはあえてテオブロマを推しています(笑)。
伊藤万理華(いとう・まりか)
1996年生。2011年から乃木坂46一期生メンバーとして活動。2017年に同グループを卒業。現在は俳優としてドラマ、映画、舞台に出演する一方、PARCO展「伊藤万理華の脳内博覧会」(17)、「HOMESICK」(20)を開催するなど、クリエイターとしての才能を発揮。2021年は地上波連続ドラマ初主演『お耳に合いましたら。』(TX)に出演。また、主演映画『サマーフィルムにのって』では、TAMA映画賞の最優秀新進女優賞および日本映画批評家大賞の新人女優賞を受賞。2022年の待機作に、山岸聖太監督の映画『もっと超越した所へ。』。
聞き手:長畑宏明(ながはた・ひろあき)
1987年、大阪府生まれの編集者。2014年にファッション雑誌『STUDY』を創刊。近年の誌面では頻繁にメルカリで購入した古着を使用している。ちなみに自分がメルカリでいつも探しているのは、絶妙なプリントが入った80〜90年代のスウェットシャツとTシャツ。