欲しいものを探すときに検索で使うキーワードを様々な人に訊いてまわる新連載。ここでは、日々膨大な数のアイテムが出品される中でひとつの「指針」となるようなお話を伺っていきます。第二回目のゲストは、毎晩メルカリのチェックを欠かさないという、スタイリストのTEPPEIさん。90〜00年代のブランドアーカイブを中心に、アプリ内を隅々までみてまわるマメさは、ご本人の緻密なスタイリングワークと見事にリンクします。
(撮影/信岡麻美、執筆・取材/長畑宏明[LIFT]、撮影協力/blue room、編集/メルカリマガジン編集部)
メルカリは、とにかく「フォーカス」がいいんです。
TEPPEI 毎晩かならずチェックしていますね。もしかすると(メルカリで洋服を買っていることを)ひた隠しにする人もいるかもしれませんが、自分は「これ、どこで買ったの?」と訊かれて「メルカリだよ」と答えることにまったく躊躇がないんです。
ーアプリを毎晩みるようになったきっかけは何かあったんですか?
TEPPEI コロナ禍になって、実店舗に行きづらくなったことがきっかけですね。そこから、メルカリで洋服を買うことが自然な行為になりました。それに、当時はみんなが断捨離をはじめた時期だったので、いま思えば良いアーカイブがゴロゴロ転がっていて。その状況が自分のモチベーションと一致したんです。最初は、一般市場ではなかなか見つからないものが実店舗よりも安く出品されている、という印象でした。
ーそれまで、ヤフオクなど他のサービスやブランド古着の実店舗も含めて、二次流通自体はどのくらい活用されていたんですか?
TEPPEI スタイリングの仕事で企画に合った洋服を探していると、「これはあそこのブランド古着屋さんにいけばあるかも?」みたいな話はあるので、選択肢に入った時は躊躇なく活用していました。ヤフオクも以前からよく使っていましたよ。
TEPPEI それは最近になってみえてきたところかもしれません。ブランド古着屋さんとヤフオクとメルカリでは、品揃えが違う。お利口な人は「中抜きされずにさばきたい」と思うだろうから、フリマアプリには珍しくて良いものが流れやすい。自分の手でさわってから手に入れたいと思う人もいると思うんですけど、自分はそこにこだわらないので。
その中でもメルカリは、とにかく「フォーカス」がいいんです。今の実店舗はもうちょっと大衆的な傾向があって、そのぶんヨウジヤマモトとコムデギャルソン、プラダ、グッチ、ドリス ヴァン ノッテンなどの王道系が揃ってる。だけど、ドープに服にハマってる人からすれば、「うわー、これあるのやべー!」というアイテムは、おそらくメルカリの方が見つけやすい。
一方で、だからこそ、自分とは世代が異なる人たちが裏原のアイテムを集めているブルールーム(今回の撮影でもロケーションとして使用した、青山の古着店。アベイシングエイプやアンダーカバー、グッドイナフなど90年代の裏原ブランドを中心に取り扱う。シュプリームのデザインチームやキム・ジョーンズが来店するなど、国外でも話題沸騰中)のようなお店が、一段とおもしろく感じられるんですよね。
TEPPEI そうだと思います。
メルカリだからといって値段が安いものだけをみているわけではありません
TEPPEI それこそ、この企画のテーマにもなっているキーワードから炙り出します。そこから出品者個人を引っ張り出していく。運がよければ、同じ人のところにプロフィールのところに自分が落札したものに関連したアイテムがバーっと出品されているんですが、なぜかその(TEPPEIさんが購入した)一個しか出していない人も多くて。たとえば、他には釣具とかお子さんの洋服しかない、みたいな(笑)。
ー普段よく使われているキーワードをいくつか教えてもらえますか?
TEPPEI めっちゃくちゃ多いんですけど……たとえば、マルジェラだったら、マルタンマルジェラで調べるよりも、「初期 マルジェラ」とか「ミスディアナ(※1)」とか「アーティザナル」で調べます。毎日チェックする。それと基本的には、値段が高い順でみるようにしています。ここらへんのマルジェラが安く出ることは、ほぼないので。新着で調べてもマルジェラに関係ないものが混ざってくるので、効率がよくないんです。
ー自分は「値段が高い順」を使ったことがなかったので、その視点はかなり新鮮です。
TEPPEI メルカリだからといって値段が安いものだけをみているわけではありません。自分が欲しいものに関しては、販売中以外のものもチェックして、「これはこれくらいで落とされているんだな」という相場感を調べます。たまにですが、同じものがかなりの値段差で出ていることもあるので。
ーマルジェラ以外で、初期のアイテムを探すことはありますか?
TEPPEI 2000年代前半に流行って、今でも現存するブランドの初期ものはメルカリが探しやすい気がします。「初期」で探すもの……えーっと、履歴をみてみますね。ギャルソン、ワールズエンド(ヴィヴィアン・ウエストウッドが1970年代に、当時パートナーだったマルコム・マクラーレンと始めたお店。「レット・イット・ロック」→「セックス」→「セディショナリーズ」と店名が変わり続け、1980年から「ワールズエンド」に)、IS(イッセイミヤケ内のライン)、ビューティビースト(※2)、20471120(※3)あたりもずっとみています。
ーいま着てらっしゃるミルクボーイのハイネックも昔のものですよね?
ミルクボーイって、パンキッシュなイメージも含めてかっこいいブランディングが担保されている気がしていて。じゃあ当時それをどうやって着ていたかと考えると、おそらく今の僕みたいなスタイルではないはず。今日は、好きなムービーのコーチジャケットに、カンゴール×ヤギエキシビションのニットビーニーをかぶって、フミカウチダのラップスカートを穿いてみました。ベルトはクロムハーツに、足もとはリクチュールとアディダスのコラボ。自分は最終的に、ミクスチャーな格好に帰結するんです。
ー「初期」以外でオススメのキーワードはありますか?
ブランドによっては、コレクションのタイトルで探します。アンダーカバーはバッドビューティフル(※4)期とスカブ期、(コムデギャルソン)オムプリュスだとサイケ期とゴブラン(※5)期、あるいは、「6・1 ザ・メン(※6)」と、ラストオージー2(※7)も。こういうものはオークションだと値段がどんどん上がるんですが、メルカリだとワンチャン安く買える可能性があるんです。
ーオムプリュスのゴブラン期なんて、まずお店でお目にかかるチャンスはなかなかありませんよね。TEPPEIさんは何をゲットしたんですか?
TEPPEI ベーシックなテーラード型を20万ちょっとで買いました。ギャルソンは同じコレクションでも入荷の時期によって価値がかわるんですが、それは初期入荷のものだそうです。
あくまで、自分の感性の中にブランドのアーカイブが自然に入ってくる
TEPPEI たしかに、当時は若くて値段的に買えなかったものが今になって買えるという、どこか懐かしい気持ちが付加価値になっている部分はあります。あと、当時は朝早くからお店に並んでいる人たちが買い占めたりもしていましたし。
ただ、「アーカイブが流行っているから買っている」という感覚ではないんです。90年代、00年代、10年代と服に向き合ってきて、古着も含めてあらゆる年代の服をシームレスにみてきた中で、じゃあ今はどんなアイテムが良いのかという話で。あくまで、自分の感性の中にブランドのアーカイブが自然に入ってくる、ということですね。
TEPPEI そうですね。当時のオリジナルだけではなく、今はヴィンテージといっても、古いボディに(音楽のアルバムジャケットや映画のメインビジュアルを)リプリントすることが当たり前だと思っている人もいます。そういう、いわゆるブートも含めて幅広くチェックしています。
ーヴィンテージやアーカイブの世界では、誰かが勝手に作った非公式のもの、いわゆるブートはブートでちゃんと価値がついていますよね。単なる偽物、ということでもない。出品者によっては、「これはオリジナルではありません」と丁寧に書いている人もいます。さすがに、オリジナルと謳ってブートを高値で出すのはルール違反だと思いますが。
TEPPEI もちろんステッチはオリジナルじゃないとダメという価値観は根強いし、僕もいくつも所有していますが、何万もするTシャツを着ていたらカレーもラーメンも食べられないじゃないですか。だから、結局は日常で着る用にオリジナルではないものを買ったりもしていて。たかがTシャツなのに大変ですよ。
ー今日は暑いし汗をかくからやめておくか、みたいな(笑)。音楽や映画ですと、具体的にどのあたりがお好きですか?
TEPPEI 最近になって値がついているんですが、エイフェックス・ツイン(※8)関連のアイテムは以前からよく探していました。この前は、裏にジェームスの顔、表にロゴがプリントされているロンTを買いましたね。たぶんブートなんですけど、デザインが良いからまったく気にしません。ブートでいうと、メルカリで見つけたディス・イズ・イングランド(2006年公開のイギリス映画)のTシャツも良かった。メインビジュアルになった写真を直球にプリントしているんですが、そのデザインでオフィシャルは出ていないはずなので、誰かが勝手に作ったのかもしれません。
あとは、ピーチーズやチックス・オン・スピード、ヤー・ヤー・ヤーズのような、自分がかつてクラブで聴いていたようなミュージシャンのアイテムも常に探しています。で、最新のお買い物が……(取材の日に着用していた北野武監督作のブラザーのコーチジャケットを指差す)
服の存在感が良い感じに前へ出てきて、場の空気がドライブしていくような格好は意識しています。
TEPPEI 「ブラザー(※9)やばいね」という会話が生まれるのはいいですよね。自分が好きなバンドのTシャツを着ていて始まる会話に近い。それを生ませようと思って着てきたわけではないんですが、服の存在感が良い感じに前へ出てきて、場の空気がドライブしていくような格好は意識しています。それもまたTPOじゃないですか。
そういえば、「北野武」で調べたら、同じコーチジャケットが2つ出てきて、その理由が気になったんですよね。誰かがブートとして作っているパターンもあるなと思いつつ、それにしてはデザインが高度だから。どこかのタイミングで小さいダムが崩壊して、みんな「これ要らない」というフェーズに入っているのかもしれません。ファッションにはそういうことがよくありますよね。
ーここに同時代性が垣間かいま見えるのがおもしろいポイントだと思います。ものを買う・買わないのジャッジは主にどの部分で下しているんですか?
TEPPEI まず気にするのは、コンディションと、エイジングの具合。逆に、希少性だけでは買うことは少ないんです。古着屋でも「これは見つからないよ」という話はよく出るんですが、それを言い始めると古着なんてだいたいのアイテムが希少ですから(笑)。だから、あんまり気にしていない。さすがに50年代の黒レーヨンとかになると、「まあそれはないよね」ということなんですが、そういうのは高円寺のサファリやサントラップのような、背景がしっかりしているお店で買いたいなと。
ーこれまでは洋服のお話がメインでしたが、スニーカーはどうですか?
TEPPEI スニーカーに限らず靴もよく買いますよ。古いものはぜんぶリクチュール(青山にアトリエを構えるスニーカーカスタムショップ)に頼んで、インソールとアウトソールを替えてもらいます。
去年、はじめてエアジョーダンの大きな仕事をさせてもらったんですが、そこでブランドと向き合うにあたって、エアジョーダン1レトロ・ローOGのシャドウ(※10)を買ってみました。正直それまで、自分はエアジョーダンにも興味がなかったんです。というより、自分で履く意味を持っていなかった、という言い方が正しいのかな。だから、お仕事をいただいたのはエアジョーダンを履く、すごく良いきっかけになりました。
TEPPEI そうなんですよ。いくつかものを買った時点で、出品者を調べてみたらすべて同じ人だった、ということもありました。自分はかつて、チューンのようなスナップ雑誌に載せてもらったときは、めちゃくちゃ細かくクレジットを書いて、そこで自分のメンタルを伝えていたんですよね。「マルジェラ」じゃなくて「マルタン」なんだぞ、みたいな。
ー懐かしい……読者としても、むしろそういう細かいところばかり追っていた気がします。「拾った」とか「もらった」もありますよね。ファッションに対する気のなさをアピールするという(笑)。あれは自己プロデュースの一環だったと。
TEPPEI そうそう。メルカリの出品者の中にもそういう細かい問いかけをしてくる人がいるので(笑)、掘れば掘るほど発見があるんです。
※1 ミスディアナ:1995年から2000年代初頭までマルジェラのニットアイテムを手がけていた伝説的デザイナー。「若かりし頃の自分からするとデザインがベーシックすぎたんですが、歳をとったら絶対に着たいと思っていたのがマルジェラ。ミスディアナが手がけたニットは実際に着ると一瞬でわかるくらい、クオリティがピカイチなんです。」
※2 ビューティビースト:1991年にデザイナーの山下隆生により設立。94年にはパリコレにも参加。2021年に設立30周年を迎え、復活を遂げた。「当時から銀河鉄道999やセーラームーンとコラボしていたので、いま考えてみると、アニメ×ファッションの先駆けともいえる気がします。」
※3 20471120:中川正博とLICAが92年に「ベリッシマ」を設立。94年からは20471120(トゥオーフォーセブンワンワントゥオー/トライベンティ)として活動。木下サーカスとのコラボショー開催、オリジナルキャラクター・ヒョーマくんのヒット、パリコレ進出など快進撃を続けた。「大阪の阿倍野でショーをやっていたころ、関西圏ではトップ・オブ・トップのブランドでした。自分の地元・滋賀のイオンモールでも普通に見かけるくらい、広く浸透していましたね。」
※4 バットビューティフル:パティ・スミスなど複数の女性アーティストたちの作品を参照した2004年秋冬のバットビューティフルから、シュルレアリストのヤン・シュバンクマイエルに影響を受けた2005年春夏のバットビューティフル IIまでを指す。コレクションとして現在でも高い評価を誇る。「ここ3〜4年で価格が数倍になりました。発売当時は全身アンダーカバーじゃないとダメな印象があったんですが、今ならミックスで着られます。」
※5 ゴブラン:コムデギャルソンオムプリュスのアーカイブの中でもとくに希少性が高い2000年春夏コレクション「進化する色」の通称。「学生の頃、ギャルソンのコレクションラインは値段が高くて買えなかったのですが、今になってようやく手を出せる。ただ、二次流通の市場でもここらへんは安定して価値がついているので、安く手に入ることはまずありません。」
※6 6・1 ザ・メン:1991年6月1日にコムデギャルソンとヨウジヤマモトが合同で開催したメンズコレクションの名称。「ファッションがカルチャーとして本格的にメインストリームに食い込んでくるきっかけになった重要イベントだと思います。」
※7 ラストオージー2:高橋盾とNIGOが文化服装学院在籍時に担当していた雑誌「宝島」の連載のタイトルであり、2人が手がけたショップ「ノーウェア」のオリジナルブランドの名称。なお、「ラストオージー」自体は、藤原ヒロシと高木完による「宝島」の連載タイトルから引用されたもの。「90年代に確立されたカルチャーが00年代に入って飽和状態になり、ロゴマークやイニシャルだけが記号として残ったという印象があって。僕はエイプのバックパックにスタッズを打って使ったりすることで、自分なりに解釈していました。周りからは、そんな風に着るもんじゃない、とバッシングされましたが(笑)。」
※8 エイフェックス・ツイン:本名リチャード・D・ジェームス。90年代から活動するエレクトロシーンのカルトヒーロー的存在。「単に、エイフェックスを着ることが自分のスタンスとして、今ちょうど良いんです。自分が原宿のドッグというお店で働いていた時は、BGMでよくかかっていました。」
※9 ブラザー:2000年に公開された北野武監督作。「これって本来、ファッション的ではないマーチのアイテム。そういうものでも着続けることで、ファッションとして成立していく。自分にとってそのカルト的な切り口のひとつが、北野武の映画ということです」
※10 エアジョーダン1レトロ・ローOGのシャドウ:エアジョーダン1のシグネチャカラーといえばこれ。「あまりに記号として強いシューズですが、自分の中で自然に履くタイミングがようやく掴めました」
TEPPEI(テッペイ)
2002年、高校卒業と同時に上京し、都内の専門学校スタイリスト学科に入学。卒業後2年間の古着屋勤務を経て、スタイリストとしてのキャリアをスタート。東京ストリートカルチャーにおける画期的な存在として注目を浴び、00年代を代表するデザイナーのジェレミー・スコットやベルンハルト・ウィルヘルムがスタイルサンプリングしたことでも知られる。近年のワークは、数々のアーティストイメージやブランドビジュアルのディレクション、ドバイ万博2021の日本館公式ユニフォームのビジュアルスタイリングなど。
聞き手:長畑宏明(ながはた・ひろあき)
1987年、大阪府生まれの編集者。2014年にファッション雑誌『STUDY』を創刊。近年の誌面では頻繁にメルカリで購入した古着を使用している。ちなみに、メルカリでいつも探しているのは、絶妙なプリントが入った80〜90年代のスウェットシャツとTシャツ。