ファッション2022.08.29

ミュージシャン オカモトレイジがメルカリを使いこなすための、リアル検索キーワード10選 MY REAL KEYWORD

欲しいものを探すときに検索で使うキーワードを様々な人に訊いてまわる連載。ここでは、日々膨大な数のアイテムが出品される中でひとつの「指針」となるようなお話を伺っていきます。第三回目のゲストは、世の中ではまだまトレンドとして浸透していないけれど、自分の中では盛り上がりつつあるもの=「ギリギリナシ」な逸品を探し求めて、日夜ディグし続けているオカモトレイジさん。いったん気になったら買うことにまったく躊躇がないというレイジさんですが、はたしてその目的とは? このインタビューから、消費とコミュニケーションの関係性について再考させられます。
(撮影/信岡麻美、執筆・取材/長畑宏明[LIFT]、スタイリング/TEPPEI、撮影協力/RECOUTURE、編集/メルカリマガジン編集部)

自分自身がその気持ちを忘れないために、「言葉」を「もの」に変換しちゃう

ーレイジさんといえば、「これ、いったいどこで買ったんだ!?」というようなアイテムを今っぽく着こなす達人という印象があります。その中で、もしかするとメルカリでディグっているのかもしれないと勝手に推測していたんですが、実際はどのくらい使われています?

オカモトレイジ その通りで、ものすごい頻度で買っています。誰かと「そういえば、ああいうのあったよね」みたいな会話になった時は、すぐに検索してとりあえず買う。例えば、今日の撮影でも穿こうかなと思ったんですが……(カバンから取り出して見せながら)アディダス×ジェレミースコット(※1)のボンテージパンツ。これは、コグレくんという友人と「懐かしくない!?」って盛り上がった品でした。

ーいやー、よく分かります(笑)。今はY2K(現在アメリカを中心にリバイバルしている2000年代初頭のファッションやムード全般を指す言葉)的なパンクの流れがある中で、ジェレミースコットという記号も一緒に盛り上がりつつありますよね。

オカモトレイジ これを買った2年前の時点では、まだ3000円くらいでした。その時の話の流れでパッと買うことが多いですね。
ーその瞬間に盛り上がった気分をものにして残しておく、という感覚でしょうか。

オカモトレイジ まさにそうです。自分自身がその気持ちを忘れないために、「言葉」を「もの」に変換しちゃうといいますか。するとそこから派生して興味がどんどん広がっていく。曲にしても、自分がDJでかけたかったら必ずiTunesで買うようにしています。そうじゃないと、後で聴きかえすことって絶対にないと思うので。

ーでは、お買い物のキーワードは他人と話す中で出てくるんですね。他に最近購入されたものは?

オカモトレイジ 雑誌のソウルジャパン(SOUL Japan)(※2)と、2012年あたりのケラ!(KERA)。世の中ではY2Kが流行ってきているから、僕らはもう2010年代にいこうかなって(笑)。ソウルジャパンには、ギャルと妄撮が組み合わさった「姐妄撮」という企画が掲載されているんですが、ただの妄撮とは奥行きが違うんです。自分の感覚として、その時点で「ギリなし」が一番イケているはずだから、とりあえず気になったものは買っておく。それが「ギリあり」になった瞬間に使ったり身につけたりすることで、最先端をコントロールできる気がしています。

ー昔の雑誌を今になって読み返すと、なぜか愛おしい気持ちに駆られます。

オカモトレイジ そうそう。あとは、2000年代のザッピィ(※3)も最近ディグっていました。ザッピィの付録CDRにしか入っていない(ミュージシャンの)BoAの肉声があるらしい、という話を聞いて、それはぜひDJで使いたいなと。改めて買い物の履歴をみると、ジャンルは本が多いです。そうだ、これも。カプコンのヴァンパイアのアートワーク本。自分は(ヴァンパイアのイラストを手がけるイラストレーターの)剛田チーズ(※4)が好きなので、そこから辿って見つけました。

ーレイジさんは、どのようにしてご自身の「好き」を形成していったんですか?

オカモトレイジ 父親がローリングストーンズのガチオタクで、ちょっと桁違いの知識を持っている人なので、自分の中で「観る」や「聴く」という言葉に独特の重みを感じているんです。だから、自分なんかはまだまだ「広く・浅く」という意識で、(父親と比べると)音楽も知らない。だからこそ、なんとなくワードが気になった時に検索して、ものを手元に残しておくことは意識しています。例えば、「(映画の)タンクガールの雰囲気かっこいいな」→「ジェイミー・ヒューレット(※5)という人がいるんだ」→「あ、この人がバンド・ゴリラズのイラストも描いているんだ」→「画集を買っておくか」みたいな順番で掘り下げていく。「検索」をきちんと「体験」にしたいんです。体に刻んでいくことが大事。ただ、古い本を探しに神保町にいくってなるとやっぱり面倒臭いから、メルカリみたいなサービスは便利ですよね。自分がわざわざ買いに出かけるものというと、レコードくらいしかないので。

ー「話していると発見が多いな〜」という人はどなたか思いつきますか?

オカモトレイジ VERDYさんのプロダクトなどを手がけているグラフィックデザイナーのホシ・エイスケさんとは、よくアーカイブ関連の話をしています。彼はレコードオタクで、僕がいまウェストバッグとして身につけているバンダリア(元々は、弾薬を運ぶためのポーチを帯状にまとめたミリタリーアイテム)をみて、「これ、もしかしたら、この人の私物かもしれない」と教えてくれたり。なんでそんなことが分かるんだって(笑)。実際にそのバンダリアらしきものを身につけてる人の写真も送ってくれました。

「ナシ寄りのナシ」を忘れちゃいけません。

ーちなみに、レイジさんのルーツというと、やはりパンクということになるのでしょうか?

オカモトレイジ そうだと思います。子供の頃、親父にローリング・ストーンズとジェームス・ブラウンとラモーンズ(※6)のビデオを延々観せられていたんですが、その中でいうとラモーンズが一番好きでした。そういえば最近、またパンク熱が盛り上がってきまして。自分が19でデビューした時は、まわりに毛皮のマリーズとかザ・ボウディーズみたいなバンドがいましたが、それ以降、表のフィールドにパンクっぽい人たちが出ることが減りました。クラブでもロックはまったくかからない。だから先日、初っ端からロックの7インチレコードだけをかけるDJをやってみたら、若い人たちからすると新鮮だったのか、めちゃくちゃブチあがっているんですよ。普段ラップしかプレイしないDJからも「あの曲なんですか?」って訊かれたりして、その瞬間はけっこう嬉しかったなあ。

ー具体的にはどのあたりをプレイしたんですか?

オカモトレイジ バディ・ホリーでも、スモールフェイセスでも、ザ・トラッシュメンでも何でも。村八分、キャロルみたいな日本のバンドも反応が良かったです。よく考えてみればコロナ禍って、もはやトラップを聴きながら仲間とブチ上がるみたいな世界観ではないんですよね(笑)。今はまたロックの気分じゃないかなと。自分はザ・ハイロウズ(※7)の「即死」をよくDJでかけるんですけど、あの曲の歌詞「ああしなさいとか/こうしなさいとか/もううんざりだよ」「何が正しいか知らない/何が楽しいか知ってる」は、まさにコロナ禍のレギュレーションに対するステートメントにもなっている気がしました。
先ほどの話に戻すと、最近になって、ロックのDNAを引き継いでいる自分がその魅力を伝えていかなきゃという気になったんです。DJとしては、ヒップホップもハウスもKポップもプレイできるけれど、(自分がロックをかけないと)ここにいる若い人たちはロックを聴かないまま年をとっちゃうのかなって。

ープレイヤーでもロックバンドが増えている印象はありますか?

オカモトレイジ ありますね。クラブイベントでも、BPM180くらいのEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)をかけるDJから始まって、次はラッパーで、最後はロックバンドという流れが増えてきました。で、その人たちは誰でもできるガレージサウンドを鳴らしている。具体名を挙げると、自分の知り合いにスピード(Xpeed)というコレクティブがいて、彼らはピュア2000というイベントを主催しているんですが、そこによく出演しているウォータ(Waater)とかサイコヘッズ(Psychoheads)は本当にかっこいい。ピュア2000のブッキングが自分の好みにぴったり合いすぎて、自分が主催したコンタクト(渋谷のクラブ)のイベントでも、メインステージのキャスティングをそのままスピードに依頼したことがあります。
ーファッションに関してはどうでしょう? レイジさんはスタイリングのインパクトが強すぎるせいか、具体的に何のブランドを着ているのかをまったくイメージできなくて(笑)。

オカモトレイジ 自分で服を買うことは少ないんですけど……あ、レッド・ベルベットというKポップのグループが好きなので、レッド・ベルベットというプリントが入っているギャルソンのTシャツは買いました(笑)。

ー勝手に情報をひもづけて楽しんでいるんですね。

オカモトレイジ そう、ギャルソンというブランドには全く興味があるわけではないんですけど(笑)。あとは気分として、h.NAOTO(※8)とかh.AnarchyみたいなV系は今かっこいいんじゃないですか。ヤングサグ(アトランタ出身のラッパー。柄や蛍光色を多用するファッションも注目を集める)が着ていても不思議じゃない。泥棒日記あたりもそろそろ値段が上がる気がしています。ザンダーゾウのようなブランドとも、間違ったアジア感という点でリンクしますし。まだナシ寄りのナシですが(笑)。こういうのを忘れちゃいけません。

ーまだまだ一周しきっていない感じ。まだ巷で流行っていない時点で目をつければ、比較的安く手に入れることもできますし、そうやって隙間を探していくこともまたファッションの楽しみですよね。

オカモトレイジ そうだと思います。でも、リアルタイムを知らない人からすれば、それが「普通にかっこいいもの」になりうる。そうだ、これも紹介したいな……Yuki Oshimiくんというハンドメイドで帽子を作っている子が、「レイジさん似合うと思うから」って帽子をひとつ送ってくれまして。どうやら最近、リル・ウージー・ヴァートが彼の作品を買い占めているらいんですが(現物を見せてくれる)
ーおお、COMME des FUCKDOWN(※9)のキャップに、フッドバイエア(07年にシェーン・オリバーら若いブラックのクリエイターによって発足したファッションブランド。カニエやリアーナが身につけ、その前衛的なスタンスとデザインでカルト的な人気を誇った。2017年に休止後、2020年に再始動)の耳がついている!

オカモトレイジ 最高ですよね。さっき自分が話したような気分と完璧にフィットした。インスタグラムのフィードにも「これはファイヤーだ!」という英語のコメントがついていました。同じ感覚で、ナジールマザー(レディー・ガガが着用した帽子で有名なロンドン発のブランド)やD.TT.K(2012年にスタートした東京発のブランド。近未来を思わせるスポーティなデザインが特徴)もいま面白いと思います。

ーここ数年は気分の周期がとにかく早いですよね。

オカモトレイジ そう。ただ、ネガティブな側面もなくはない。例えば、かつてはスケーターがベルトのかわりに靴紐を使ったとか、貧困層が大人のお下がりを着続けたことで自然とビッグサイズになったとか、そういう予期しない偶然でカルチャーが生まれていました。それが今ではSNSでみんな同じ情報にアクセスできるから、ガラパゴスの「なんじゃこれ」というものがなくなってきています。

SNSやDMは響き的に怪しいイメージを持たれがちなんですが、自分としてはわりと文通に近い

ーそうやってあらゆる価値が平準化していく中で、自分の興味の「点」を「線」にするためのコツがあれば教えてください。

オカモトレイジ まず自分が気になっている人がタグ付けされている集合写真を探して、そこから関連する周辺クリエイターを見つけていきます。「へえ、この人はこのフォトグラファーとよく一緒にやっているんだ」みたいな。逆に、自分も周りのクリエイターを積極的にタグ付けすることで、プロモーションに役立ちたいと思っています。

ーなるほど。レイジさんは、リアルな生活とSNSの世界をうまくリンクさせている印象がありますよね。

オカモトレイジ SNSに対するイメージって、海外と日本ではかなり異なる気がするんですよ。向こうでは、あくまで外の人とつながるために外の人にむけて発信していくのが当たり前。だから、知らない人からいきなりDMで問い合わせが来た時にも、当たり前のように受け付ける。あるいは、普段から投稿にいいねをつけることで(自分がその人の発信をみていることを)アピールしたり。日本ではまだ、インターネット世代ではない30代以上の人なんかは特に、ネット上で知り合うことに対して「こわい」とか「不気味」というイメージを持っている印象がありますいます。その先入観はガンガン壊していった方がいいんだろうな〜と。

ーレイジさんは海外のアーティストを国内のイベントにアテンドする機会が多いですよね。ユニオン・トーキョーの4周年企画でも、韓国のグラフィックアーティスト・WRECKとコラボした商品をYAGI名義で発表していました。

オカモトレイジ 彼らとは一回も会ったこともなければ、顔さえ知らないんですけど(笑)。ただ、シンプルに彼の作品がかっこよかったから、「ぜひこの企画で一緒にやりませんか?」とDMからオファーしてみたんです。僕も、彼がオンラインで売っているものは普段からプロパーで買うという意味では一人のファンだし、かわりに自分が作ったものを送ることもあります。

ーレイジさんは、たとえばインスタグラムで知らない人からDMが送られてくることに対する拒否反応はまったくないんですか?

オカモトレイジ ないですね。相手が本気なのか、それともただの悪ノリなのかは見極めますが、たまに真剣な相談が来ることもあるので、そういう時は僕も真剣に対応するようにしています。SNSやDMは響き的に怪しいイメージを持たれがちなんですが、自分としてはわりと文通に近いといいますか。この前も、コーヒーを学ぶために東ティモールに留学後、自分でコーヒー豆のブランドを始めた10代の男の子から、自身の活動を紹介する超丁寧なDMがきまして。
ーすごい! 自分の活動を憧れの人に知ってもらうまでの距離が縮まったことは、SNS時代のポジティブな側面ですね。

オカモトレイジ そうなんです。それで、実際に彼が仕入れた豆を送ってもらったんですが、家で挽いて飲んでみたら本当においしかった。そこからYAGIのイベントで出店してもらったり、自分から大阪の卸先を紹介したりしました。

ーレイジさんにとって「ものを買う」ということはあくまで手法で、目的は世界の広がりを楽しむことにある気がします。

オカモトレイジ 地元の商店街の感覚で、「今日は多めに収穫できたからオマケであげちゃう」みたいなコミュニケーションがあるじゃないですか。それと同じことをSNSでもやれるんじゃないかなと。だから、自分によくくれる人には自分からもよくあげる。友だちが作ったグラフィックで勝手にTシャツを刷って、まわりに配ることもあります。買い物とそういう行為が、自分の中ではすんなりつながっているんですよね。
■着用アイテム
ギャップのシャツ、クードスのネックウォーマー 、TTTMSWのレザーパンツ、ドクターマーチン×シュプリームのシューズ、エドカーティスのネクタイ、スウェーデン軍のバンダリア。全て私物。

※1 アディダス×ジェレミースコット モスキーノのクリエイティブディレクターを長年務めるデザイナー・ジェレミースコットとアディダスのコラボライン。国内では武井壮がシューズを履いたことでも話題に。「これに関しては希少価値うんぬんではなく、単純にデザインが良いなと」
※2 ソウルジャパン 創刊は2010年で、渋谷系不良ファッション「悪羅悪羅(オラオラ)スタイル」を提唱。2015年に休刊。「こういう雑誌の企画が、将来どこかでリファレンスとして生きてくるんですよね」
※3 ザッピィ 人気曲の一部を付録のCDRで試聴できる=ザッピングをテーマに掲げた音楽雑誌。「BoAの肉声目当てで一冊買ってみたらCDRがダメになっていて、雑誌だけが手元に残っています(笑)」
※4 剛田チーズ 株式会社カプコンでヴァンパイアシリーズの販促イラストなどを手がけたイラストレーター。「昔からこの方の細かいアメコミ調の作風が好きでした」
※5 ジェイミー・ヒューレット イギリス出身の漫画家でありイラストレーター。1998年には、若いころルームシェアをしていたミュージシャンのデーモン・アルバーン(ブラー)とゴリラズを始動。「インスタでパッと見るだけではなく、画集を買ってはじめてそのアーティストのことを知れる気がします」
※6 ラモーンズ 1974年にニューヨークで結成されたパンクバンド。「お客さんが全員モデルみたいなイケてるパーティでラモーンズをかけると、だいたい盛り上がりますね。」
※7 ザ・ハイロウズ 1995年、ブルーハーツの主要メンバーであった甲本ヒロトと真島昌利を中心に結成。2005年に活動休止。「ロックのDJをやる時は必ずかけます」
※8 h.NAOTO 2000年より、株式会社シンクの社内ブランドとして展開。パンクやゴスなどのテイストがごった煮のデザインは、当時の時代感をよく表している。「いま流行りのY2Kをこの方向から掘り下げるとおもしろいですよ」
※9 COMME des FUCKDOWN ニューヨーク発のストリートブランド・サーのデザイナーが手掛けるパロディラインとして発表され、ラッパーを中心に人気を博した。「これが2010年代前半。昔はトレンドが20年周期だったのが、今では7〜10年くらいに縮まっている気がします」

オカモトレイジ(OKAMOTO'S)

1991年生まれ、東京都出身。中学校の同級生で結成された4人組ロックバンド・オカモトズのドラマー。2010年にCDデビューを果たし、今年はUSツアーをまわった。ロックンロールからKポップまで幅広い音楽的素養を生かし、DJとしても活動中。自身でYAGI EXHIBITIONを手掛けるなど、編集者的な動きも行う。2022年9月27日からは、対バンツアー「OKAMOTO’S tourw/2022 〜ウェルカム マイ フレンズ〜」を開催。さらに2022年10月14日には、俳優として出演した映画「もっと超越した所へ。」が公開となる。

聞き手:長畑宏明(ながはた・ひろあき)

1987年、大阪府生まれの編集者。2014年にファッション雑誌『STUDY』を創刊。近年の誌面では頻繁にメルカリで購入した古着を使用している。ちなみに、メルカリでいつも探しているのは、絶妙なプリントが入った80〜90年代のスウェットシャツとTシャツ。

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