かつての憧れや「好きだったもの」との再会を果たしている人に、その魅力と思いを語ってもらう「あの頃のあのアイテムとメルカリで出会う」シリーズ。
第2回は、ファッションアナリストで『結局、男の服は普通がいい』の著者、山田耕史さん。山田さんが「メルカリで探すのを日課にしている」のは、90年代の槇原敬之やB’z、TM NETWORK、CHAGE and ASKAといったJ-POPアーティストのTシャツやキャップ。ほぼ90年代に製作されたものばかりだが、「ネタとして着たい」わけでも「あえてハズすためのおしゃれ」のためでもないそうだ。ファッションを知り尽くした彼がいまなぜ90`sのJ-POPアーティストに魅了されるのか、お気に入りのアイテムの紹介とともに話を伺った。
(編集・取材・構成/宗像幸彦、撮影/松木雄一、編集/メルカリマガジン編集部)
第2回は、ファッションアナリストで『結局、男の服は普通がいい』の著者、山田耕史さん。山田さんが「メルカリで探すのを日課にしている」のは、90年代の槇原敬之やB’z、TM NETWORK、CHAGE and ASKAといったJ-POPアーティストのTシャツやキャップ。ほぼ90年代に製作されたものばかりだが、「ネタとして着たい」わけでも「あえてハズすためのおしゃれ」のためでもないそうだ。ファッションを知り尽くした彼がいまなぜ90`sのJ-POPアーティストに魅了されるのか、お気に入りのアイテムの紹介とともに話を伺った。
(編集・取材・構成/宗像幸彦、撮影/松木雄一、編集/メルカリマガジン編集部)
人生初ライブだったB’z のツアーT
大学時代、コム・デ・ギャルソンの先鋭的なデザインに衝撃を受けてファッションに関心を持った山田さん。服飾専門学校在学中にパリへファッション留学し、
帰国後は一貫してファッション業界に身を置いていた。フリーランスとなった現在は、ファッションアナリストとして活動。2020年にはメンズファッションの入門書ともいえる『結局、男の服は普通がいい』(KADOKAWA)を出版した。
帰国後は一貫してファッション業界に身を置いていた。フリーランスとなった現在は、ファッションアナリストとして活動。2020年にはメンズファッションの入門書ともいえる『結局、男の服は普通がいい』(KADOKAWA)を出版した。
そんな山田さんが90`s J-POPアイテムに惹かれ始めたのは2017年のこと。10代の頃から憧れていたTM NETWORKのTシャツをオークションサイトで手に入れたのがきっかけだった。
当時は「状態も悪くないしデザイン的に普段使いでいけそうだ」くらいの軽い気持ちだったが、だんだん好きなアーティストのアイテムをインターネットで検索するのが楽しくなっていった。
中でも、ハマり始めたころにメルカリで出会ったのがこちら。95年に行ったB’zのライブツアーTシャツだ。
当時は「状態も悪くないしデザイン的に普段使いでいけそうだ」くらいの軽い気持ちだったが、だんだん好きなアーティストのアイテムをインターネットで検索するのが楽しくなっていった。
中でも、ハマり始めたころにメルカリで出会ったのがこちら。95年に行ったB’zのライブツアーTシャツだ。
「とにかくB’zの曲が大好きでした。高校時代はファンクラブにも入っていたし、『B’zライブジムプレジャー’95 BUZZ!!ツアー』が収録されたVHSも擦り切れるほど繰り返し見ました。人生で初めてライブを観に行ったのもB’zの大阪ドーム公演です」
山田さんが90年代 J-POPアイテムを買うとき、自分に課すルールがある。それは「好きなアーティストのものしか手に入れないこと」。
「自分が着ているものは『好きなもの』でないといやなんです。『B’z好きなんですか?』と聞かれて『別に……』って答えるのも興味を持ってくれた相手に悪いかなって気がしますし。と考えていますが、まだ90年代 J-POPTシャツを着ていて『そのアーティストが好きなんですか』と聞かれたことはまだありません(笑)」
「昔は恥ずかしくて着られなかったようなものが、今はむしろかっこいい」といった価値の反転はファッションの世界ではよくあること。なおかつ、こうした90年代アイテムを、原体験のない世代があえて手に取る、というのも珍しくはない。そんななか山田さんは、時代の潮流にとらわれず、自身の「好き」から軸をぶらさずに何を着るか考えている。
「自分が着ているものは『好きなもの』でないといやなんです。『B’z好きなんですか?』と聞かれて『別に……』って答えるのも興味を持ってくれた相手に悪いかなって気がしますし。と考えていますが、まだ90年代 J-POPTシャツを着ていて『そのアーティストが好きなんですか』と聞かれたことはまだありません(笑)」
「昔は恥ずかしくて着られなかったようなものが、今はむしろかっこいい」といった価値の反転はファッションの世界ではよくあること。なおかつ、こうした90年代アイテムを、原体験のない世代があえて手に取る、というのも珍しくはない。そんななか山田さんは、時代の潮流にとらわれず、自身の「好き」から軸をぶらさずに何を着るか考えている。
好きなものは好きと言える気持ち
山田さんがもっとも敬愛するミュージシャンは、槇原敬之だという。自己投影できる歌詞と伸びやかなメロディーにこれまで何度も励まされてきたそうだ。
山田さんが取材時に着ていたのは90年代当時のファンクラブ限定で販売されたTシャツ。メルカリにて4,800円で購入したという。
山田さんが取材時に着ていたのは90年代当時のファンクラブ限定で販売されたTシャツ。メルカリにて4,800円で購入したという。
さらに、キャップは「もう恋なんてしない」などのヒット曲を収録したアルバム『君は僕の宝物』のツアーグッズ。こちらはメルカリで検索条件を「2,000円以内」に絞り込んで見つけた掘り出し物だ。
「槇原敬之がいなければ今の自分はないと思えるくらい、大きな存在です。特にこの作品をはじめ90年代のアルバムは今でも新鮮な気持ちで聴けるぐらい、どれも最高ですね」
そう語る本人ですら、この「顔ジャケT」を着るのはやや勇気がいったそうだ。
「意外にも他人から何ソレ? みたいなことは言われませんね。パッと見では男性の顔がプリントされてるだけで誰だかよくわからないからかもしれませんが」
大胆なデザインのJ-POP Tシャツをサラッと着られてしまうのは「昔から好きで聴いているから」という素直な感情ゆえ。他人からどう見られたいかは関係ない。これこそが「自分らしさ」ではないか、と山田さんは語る。
「槇原敬之がいなければ今の自分はないと思えるくらい、大きな存在です。特にこの作品をはじめ90年代のアルバムは今でも新鮮な気持ちで聴けるぐらい、どれも最高ですね」
そう語る本人ですら、この「顔ジャケT」を着るのはやや勇気がいったそうだ。
「意外にも他人から何ソレ? みたいなことは言われませんね。パッと見では男性の顔がプリントされてるだけで誰だかよくわからないからかもしれませんが」
大胆なデザインのJ-POP Tシャツをサラッと着られてしまうのは「昔から好きで聴いているから」という素直な感情ゆえ。他人からどう見られたいかは関係ない。これこそが「自分らしさ」ではないか、と山田さんは語る。
「服装は自分らしさを他人に伝える格好のツールだと思います。たとえば、制服やワークウェアって職業と直結しているし、コスプレやゴスロリもその人の嗜好をダイレクトに反映しているじゃないですか。じゃあ今の自分を表現できるのはどんな格好だろうって考えたら、昔から好きなミュージシャンのTシャツだったわけです」
とくに山田さんの食指が動くのは、アパレルブランドとコラボしたオシャレなデザインよりも、アーティストの顔写真やロゴ、アルバムジャケットがそのままドカンとプリントされたようなもの。
「僕はそのミュージシャンならではのクセとか味をグッズを通して楽しみたい。だから、あまりデザインされすぎていない、90年代のアイテムに目がいっちゃうんだと思います」
とくに山田さんの食指が動くのは、アパレルブランドとコラボしたオシャレなデザインよりも、アーティストの顔写真やロゴ、アルバムジャケットがそのままドカンとプリントされたようなもの。
「僕はそのミュージシャンならではのクセとか味をグッズを通して楽しみたい。だから、あまりデザインされすぎていない、90年代のアイテムに目がいっちゃうんだと思います」
音と服がリンクしないコンプレックス
「僕にはずっとコンプレックスがあって。それは自分の好きなミュージシャンからファッションの影響をほとんど受けてこなかったということ。B’zの曲は好きでも、別に稲葉さんの短パンルックをマネしたいわけじゃない。ただ、唯一そのかっこよさに憧れたアーティストなら過去にいました。小室哲哉さんです」
1994年、東京ドームで行われたTMNの解散ライブがNHKでオンエアされた際、スーツでビシっとキメて山のように積まれたシンセサイザーを演奏する小室哲哉に中学生の山田少年は憧れた。その約四半世紀後、TMNやGlobeのグッズとメルカリで出会うとはよもや知らずに。
1994年、東京ドームで行われたTMNの解散ライブがNHKでオンエアされた際、スーツでビシっとキメて山のように積まれたシンセサイザーを演奏する小室哲哉に中学生の山田少年は憧れた。その約四半世紀後、TMNやGlobeのグッズとメルカリで出会うとはよもや知らずに。
90`sのJ-POPシーンを振り返ると、いわゆる渋谷系の中にファッションアイコン的アーティストがいたり、ラウド系バンドがストリートブランドとコラボしたり、音楽シーンがファッションとリンクし始めた時代でもある。
しかし、山田さんの場合はそうしたシーンに縁がないどころか、引け目すら抱いていた。彼が抱き続けたコンプレックスは、果たしてTシャツを購入することで払拭できたのだろうか。
「うーん、というよりもファッションとリンクしていない音楽を今あえてファッションとして楽しむことで、多少は自己肯定できてる感はありますね(笑)」
しかし、山田さんの場合はそうしたシーンに縁がないどころか、引け目すら抱いていた。彼が抱き続けたコンプレックスは、果たしてTシャツを購入することで払拭できたのだろうか。
「うーん、というよりもファッションとリンクしていない音楽を今あえてファッションとして楽しむことで、多少は自己肯定できてる感はありますね(笑)」
オリックス時代のイチローTに託す思い
ファッションアナリストとして「服を着ること」を客観的に考え続けた山田さんは、どういうプロセスを経て今の境地に辿り着いたのだろうか。オシャレの王道から自由にはみ出て楽しんでいるようにも見える一方で、好みや思い入れにこだわりすぎると逆に窮屈になるのでは――? そう聞いてみると、山田さんは「勝手に遊びのルールを作って、その中で楽しんでるだけ」と笑う。
「人の価値観って周囲の環境に左右される部分も大きいと思うんです。でも、自分は家庭を持って子どももいるので、モテを意識する必要もないし、仕事柄最先端のモードファッションもチェックはするけど実生活に取り入れようとは思わない。そんなときにメルカリで検索する楽しみに出会って、自分なりのファッションの遊び方を編み出してきたという感じです」
「人の価値観って周囲の環境に左右される部分も大きいと思うんです。でも、自分は家庭を持って子どももいるので、モテを意識する必要もないし、仕事柄最先端のモードファッションもチェックはするけど実生活に取り入れようとは思わない。そんなときにメルカリで検索する楽しみに出会って、自分なりのファッションの遊び方を編み出してきたという感じです」
「好き」を軸にした自分らしさやアイデンティティを表現できるもの。それはアーティストTにとどまらない。たとえば出身地だったり、ゆかりのあるスポーツや学校だったり。オリックス・ブルーウェーブ時代のイチローグッズなどはその最たる例だ。
「出身が神戸で、中学生の頃に阪神淡路大震災を経験したこともあってか、ブルーウェーブ時代のイチローには特別な思い入れがあります。ある種、復興の象徴みたいな存在でしたし、当時はかなり勇気づけられました」
それらを愛郷心や誇りと表現するのはやや大げさかもしれない。ただ、神戸になんの縁もなければ、こうしたTシャツやキャップに見向きもしなかったことだけは確かだ。
「出身が神戸で、中学生の頃に阪神淡路大震災を経験したこともあってか、ブルーウェーブ時代のイチローには特別な思い入れがあります。ある種、復興の象徴みたいな存在でしたし、当時はかなり勇気づけられました」
それらを愛郷心や誇りと表現するのはやや大げさかもしれない。ただ、神戸になんの縁もなければ、こうしたTシャツやキャップに見向きもしなかったことだけは確かだ。
「もし神戸に住んでいたら着なかった」という山田さんの母校・関西学院大学のTシャツ。東京に移ったことでなぜか母校愛のようなものが生まれてきてメルカリで購入。「自分とは縁もゆかりもないアメリカのカレッジ名が入ったTを選ぶよりこっちの方がいいんじゃないか」と思って買ったが、ここぞという機会がなくまだ一度も袖を通していない
自分らしい装いとは何か。服を選ぶ、買う、着るとはどういう行為なのか。90年代J -POP Tシャツを通して、山田さん自身もファッションの本質に考えを巡らせている。
「結局、自分の場合は買い物をする理由をずっと探しているんじゃないかなって思うんです。これ好きだったんだよね。だったら買ってもいいよね? っていう」
あの頃のアイテムは決して過去のものではなく、今の自分を映す鏡なのかもしれない。
「結局、自分の場合は買い物をする理由をずっと探しているんじゃないかなって思うんです。これ好きだったんだよね。だったら買ってもいいよね? っていう」
あの頃のアイテムは決して過去のものではなく、今の自分を映す鏡なのかもしれない。
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