趣味2022.08.01

ファミコン世代が癒される 昭和の消えていったレトロゲームたち

かつての憧れや「好きだったもの」との再会を果たしている人に、その魅力と想いを語ってもらう「あの頃のあのアイテムとメルカリで出会う」シリーズ。
第3回は音楽ユニット・トンガリキッズのメンバーとして「B-DASH」で一世を風靡した、ミュージシャン・ライターのニポポさん。倉庫専用として購入したという中古の一軒家を訪ねると、昭和のゲーム機や懐かしいソフトが所狭しと並ぶ。そう、彼は大のレトロゲームコレクターなのだ。
「レトロゲームを探すのにメルカリは欠かせない」と語るニポポさんがその道にハマった理由、特に自分の中で今一番熱いというLSIゲームの魅力について聞いた。
(聞き手・執筆/少年B、撮影/松木雄一、編集/株式会社GUINGA、メルカリマガジン編集部)

コンプリートできなかったPCエンジンを集め直したい

「団塊ジュニアランド」と呼ぶ、自身のコレクション専用の中古一軒家にて。オジサンを一瞬で昭和のゲーム少年に変えてしまう360°ノスタルジックな空間だ

幼いころからゲームが好きだったというニポポさん。20代前半のころ、たまたま実家の押入れに、幼少期に遊んでいたゲーム機が残っているのを発見したのをきっかけに、レトロゲームのコレクションにのめり込んでいく。

「普通、小さいころに遊んでいたゲームなんてみんな処分しちゃうじゃないですか。でも、実家の押し入れにそのまんま残っていた。それで再燃しましたね。もし押入れに何も残ってなかったら? 今こうなってなかったかもしれません(笑)」

時は2000年、ちょうどネットオークションが話題になり始めた頃。まだ多くの人がオークションサイトどころかインターネットに慣れていない時代のことだ。市場は完全にブルーオーシャン。貴重な商品が信じられない安値で売られていた。
二ポポさんが真っ先に目をつけたのが、PCエンジンと呼ばれるゲーム機だ。

「小学生時代のファミコン熱が、中学になったら一気にPCエンジン※へ移っちゃって。当時、メーカー側がコア構想というのを打ち出していたんです。PCエンジンに後付けでどんどん周辺機器をくっつけて、いろいろ増やして楽しみが広がるよっていう。あれは夢がありましたね」

ファミコンよりも圧倒的に高性能なグラフィックとサウンドを搭載したPCエンジンはゲーム好きにとって憧れの存在だったが、いち中学生にとってはハードルが高過ぎて全部を手に入れるには限りがあった。

「実際にほとんどのPCエンジンハードを持っていたんですが、自分の中でコンプリートまではできなかったなぁって気持ちが10年間近くずっと残っていたんです。それでPCエンジン関連のアイテムをネットで探してみたら意外に手頃な値段で売られていたので思わず飛びついちゃいました」

そういえばこんなゲームも欲しかったよなぁ、あれも結局ゲットできなかったなぁ──。PCエンジンを皮切りに、一つのゲームから芋づる式でどんどん記憶がよみがえり、収集欲を刺激してくる。ネットだけでなく、時にはリサイクルショップやフリーマーケットを回るようになりコレクションは徐々に増えていった。

※ハドソンと日本電気ホームエレクトロニクスにより共同開発され、1987年10月30日にNEC HEから発売されたHE-SYSTEM規格に基づく家庭用ゲーム機。

コレクションと並行し、2005年にはファミリーコンピュータ用の人気ゲームソフト『スーパーマリオブラザーズ』のBGMをアレンジした楽曲「B-DASH」をリリースし大ヒット。42万枚ものセールスを記録し「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)にも2回出演するなど、一躍時の人となった。自分の人生を変えた音楽。その根っこには常にゲームがあった。

独自のデザインが魅力的なLSIゲーム

昭和生まれのレトロゲームに惹かれ続けるニポポさん。彼がメルカリでここ数年夢中になって探しているのは「LSIゲーム」と呼ばれるソフトウェア内蔵型の小型ゲーム機だ。80年代に一世を風靡した任天堂の携帯型液晶ゲーム「ゲーム&ウオッチ」(通称ゲームウォッチ)のようなものと言えば、一定の世代以上の読者には伝わるだろうか。
例えばこんなアイテム。

小さなカセットが入っていて、敵を倒したときなどに音楽が流れたり、セリフが再生される「ミサイル遊撃作戦」。音声が出る前には「ガチャッ」とカセット特有の音が鳴る

コナミのアーケードゲームを移植した「スーパーコブラ」。発売元はなんと学研

こうしたLSIゲームが世に出回った時期は、70年代後半から80年代前半のまさに「ファミコン前夜」で、当時の価格は5,000円、6,000円は当たり前。子どもにはなかなか手が出せない価格だった。

学研はインベーダーゲームのLSIまで出していた

「LSIゲームは今見るとハードウェアの形が好きなんです。1個1個が単体のゲーム機で、面白い形してるでしょ? 以前、デザイナーとして働いていた頃、LSIゲームだけを集めた海外のデザインブックを見て、なんだコレめちゃくちゃかっこいいな!って」

ゲーム性とは関係なく、見た目に魅了されて集め始めた。ひとつとして同じ形のものはない、独自のデザインがLSIゲームの魅力だという。

光のボールを打ち分ける「野球」。スポーツと言えば野球だった時代のゲームだ

同じく野球ゲームの「マイコンベースボール盗塁王」。盗塁ボタンがついているのが特徴で丁寧に作り込まれたLSIゲーム

「本当、デザインが魅力的なんですよ。全部形が違ってユニークだし、何よりメイド・イン・ジャパンっていうのがいい。これのかっこよさに気がついたのが海外の人っていうのがちょっと悔しいんですけど」

夢中にさせる理由がもう一つある。LSIの場合、相場が定まりきっていないので、超レア物が信じられない価格で出ていたりもするのだ。いわば市場ができあがっていないウルトラブルーオーシャン。メルカリにトレジャーハンティング的な楽しみ方を求める自分とは相性がいいと二ポポさんは語る。

生存競争に勝てなかった愛しきゲームたち

レトロゲームへの愛しい眼差しは、LSIゲーム以外にも注がれている。

1970年代後半に発売されて人気を博した「BLACK RACER」。ステアリングにシフトレバー、スタートボタンが配置されており、デザインが秀逸

非LSIをもうひとつ。ブラウン管内臓カートリッジ交換式ゲーム機、バンダイ「光速船」。発売された1982年の定価は5万4,800円と非常に高価だった

「見てのとおり(上写真)画像はモノクロなんですけど、ファミコンとかのドット絵と違って、計算式で線画を描くベクタースキャン方式を採用してるので、線がめちゃくちゃ綺麗で動きも滑らかなんです。残念ながら80年代から激化していく業界の生存競争には勝てなかったゲームのひとつですが、そういった部分も含めて愛おしい」

ガンダムのボディ部分がパカッと取れてゲームに。これもなかなかレアな一品

レトロゲーハントの裏技、それは「打ち間違い」

ところで、ニポポさんは一体どうやってこんなレアなレトロゲームを探しているのだろうか。メルカリの検索履歴を見せてもらうと……。

「よく使う検索ワードは、『LSIゲーム』『電子ゲーム』『レトロゲーム』あたりでしょうか。『ゲームウォッチ』で探すことも多いですね。だいたいの出品者って細かいことはわからないので、とりあえずゲームウォッチって付けて出品するんですよ」

LSIゲームに限っては、検索方法にちょっとした「裏技」があるのだとか。

「たとえば『電子ゲーム』で検索すると、出品数が意外と少なかったりもするんです。僕が狙い目だなって思うのは、文字の打ち間違いで登録されているケース。出品者にとっては、それぐらいどうでもいいものなんだろうなって。1年以内に売れてくれれば御の字、ぐらいの気持ちで出してる人が多いから」

ある人にとってはガラクタ同然のどうでもいいものでも、マニアにとってはたまらないお宝なのが世の常。ライバルに先んじるには「こういう誤字や勘違いがありそうだな」とイメージする嗅覚が必要なのかもしれない。

「最近は商品の画像をアップした時点で『これは○○です』って認識システムがすぐに教えてくれるから、ミスは減りましたけどね。適正価格も出してくれたりするから、掘り出し物が減っちゃうのは残念だけど、出品者側にとっては嬉しいんじゃないでしょうか。探す方としては登録しておいたキーワードの関連で『こんな商品が出ましたよ』って教えてくれてすごく助かりますね」

ゲームかと思いきやこちらは目覚まし時計。ナムコの非売品なのだとか

失敗やストレスとは無縁。そこにあるだけで幸せ

ここまでせっせと買い集めたレトロゲームたちはどうしているのだろう。一応電源を入れれば遊べるはずだが。

「はい、ご覧の通り『積みゲー』です。もちろん電源を繋いで遊ぶこともあるし、コロナ禍になる前は友達を招待して子どもの頃欲しかったゲームで遊んだりもしたんですが、今はコレクションとして眺めて楽しむことが多いですね。それだけで癒しになるので」

積みゲーそのものがテトリスに見えてくるシュールな光景

大事にしているのは、探して見つけて手に入れるまでのドキドキ感と、所有の喜び。ゲームの中身に対するこだわりはそこまでない。

「手に入れたときがゴールなので、失敗したっていう意識もないんです。洋服や靴だと『サイズが違っててダメだった。クソッ』みたいになりがちでしょ。僕の場合はたとえ一部が壊れていても、それこそ電源がつかなくても気にしない。自分で探し当てた興奮や達成感は消えないし『家の中にそのゲームがある』という事実が何より大事だから。嬉しいはたくさんあっても失敗やストレスがゼロだし、精神衛生上すごくいい(笑)」

コレクションはまだまだCONTINUE中。当分GAME OVERにはなりそうもない。

ニポポ
ミュージシャン、ライター。
2005年、音楽ユニット「トンガリキッズ」のメインボーカルとしてデビューし
『B-DASH』のスマッシュヒットで40万枚以上のセールスとプラチナディスクを受賞。
以降、二ポポ名義でのソロ作品もリリースしている。
そのかたわら、ライターとしても活動中。
秘境スポット、芸能ゴシップ、宗教、不動産、珍品コレクションと守備範囲は広く、
トークイベントや動画などでも常に特ネタを発信している。

38 件

WRITTEN BY

メルカリマガジン編集部

誰かの「好き」が、ほかの誰かの「好き」を応援するようなメディアになりたいです。

好きなものと生きていく

メルカリマガジンは、「好きなものと生きていく」をテーマにしたライフスタイルマガジンです。いろいろな方の愛用品や好きなものを通して、人生の楽しみ方や生き方の多様性を紹介できればと思います。