趣味2021.11.10

ゲームの攻略本が、僕を異国へいざなう #04岩井勇気|『任天堂公式ガイドブック ゼルダの伝説/神々のトライフォース攻略本 上・下』

お笑いコンビ・ハライチでネタ作りとボケを担当する岩井勇気さん。2019年に刊行した初エッセイ集『僕の人生には事件が起きない』は累計10万部突破の大ベストセラーとなり、文筆業でも活躍を見せる。2021年は『週刊ヤングマガジン』でマンガ原作を手掛けるなど、お笑いにとどまらずマルチな才能を発揮している。

意外にも「あまり活字は読まない」と語る岩井さんだが、ずっと手放さずに持っている1冊として選んだヴィンテージ・ブックは、エッセイでも、マンガでもなく、スーパーファミコンのゲーム『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』の攻略本だった。(聞き手・構成/神田匠、イラスト/久保田寛子、編集/ノオト、メルカリマガジン編集部)

母親の本棚から見つけた予言の書

この本に最初に出会ったのは小学生のときです。母親がとにかくゲームが好きで、僕が生まれる前からファミコンとかずっとやってたみたいで。その中のソフトに『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』があったんです。

僕もゲームはやってたんですが、「1日1時間」みたいに決められてました。だいたいRPGだったらセーブデータが2つあって、母親のが上段で、僕のが下段。親は大人だからゲームを好きなだけできるんです。だから日を追うごとに母のほうばっかり進んでいくのが悔しかったのを覚えています。

母親がゼルダに関する本を読んでいたのは知っていたので、ゲームができないならせめてそっちをと思って探すんですが、ブックカバーをかけて隠してあったんですよ。誰もいないときに棚をあさってようやく見つけて。ペラペラめくるとこれから先起こることがすべて本に書かれている。予言書じゃんこれ、って。

そうやって攻略本を親に隠れて読んでいたある日、いつの間にか後ろにいた母親が「あ〜 見つかっちゃったか〜」って言ってきて。もうめちゃくちゃ怖かったです。子どもながらに「やっぱり見ちゃいけないやつだったんだ」って。ただ、そこから不思議とだんだんゲームへの規制がゆるくなって、攻略本を読む許可も出ました。

『神々のトライフォース』はすでに1度ゲームをクリアしてから読んだので、内容を知って驚いたとか、攻略法に救われたとかそういうわけではないんです。なぜ僕がこの攻略本を今もずっと持っているかというと、とにかく写真がいいんです。

攻略本にはゲームに登場する架空の場所を解説したページがあるんですが、普通だったらゲーム中の画像やイメージイラストが載っているところに、わざわざ実在する土地や建物の写真が使われていて。ハイラル城だったら世界のどこかの丘の上に立つ城、カカリコ村だったら薄もやに浮かぶレンガ造りの家、みたいに。それがゲームの世界観とぴったりハマっていた。特に上巻のほうですね。

BL漫画がならぶ岩井さんの本棚

僕は活字はあまり読まなくて、今の本棚はBL漫画がほとんどです。他のは実家に置いてきちゃったので、漫画以外だとこの攻略本が僕が持っている中で一番古い本ですね。小さい頃から写真集を見るように攻略本を眺めていました。いいな、いつか行ってみたい。ここはどこなんだろうと。

そこで最近、攻略本にあったハイラル城のイメージ写真の場所を明らかにしたいと思って調べたんですよね。Google画像検索で。そしたら「セゴビアのアルカサル」というらしい。スペインにある城みたいです。すげー! ここだ! と興奮はしたんですが、子どもの頃からずっと知りたかった場所が検索で1秒もかからずに表示されて、何というか積み重ねてきた思いが断ち切られちゃう感じがありましたね。

でもこれでようやく憧れの場所がわかったわけで。僕は基本、海外旅行は「遠いだろうな」とか行く前のストレスが勝って特に惹かれないんですが、この攻略本は僕が唯一海外に行きたいと思った本ですね。

この本を片手に、攻略本に載っている写真の聖地巡礼をしたいです。絶対楽しいじゃないですか。「セゴビアのアルカサル」の前で攻略本見ながらゲームを思い出したりして。現地で鉢合わせちゃったらどうしようって思いますね、リンクに。あの城に行けばリンクがいるんじゃないかなって、そんな気がしています。

※リンク=『ゼルダの伝説』シリーズの主人公

『神々のトライフォース』は「000」の称号を目指してやり込んだ

『神々のトライフォース』は大好きでもう10回以上はプレイしてますね。最短ルートを記憶してるのでクリアまでの時間は10時間切ってます。このゲームってセーブしたり、コンティニューしたりするとセーブ画面に数字がカウントされるんですよ。だけどノーセーブノーコンティニューでクリアすると、セーブ画面に「000」ってつくんです。その「000」を目指してプレイしてました。特に特典があるわけでもないんですけど。

ゲームをプレイして記憶に残っているのは闇の世界の「はぐれ者の村」のダンジョン。奥深くまでたどり着くと、姫が囚われているので助け出すんです。だけど窓から漏れた光が当たると姫が化け物になって戦うことになるという。さっきまで普通に話してた姫の首が取れて、ぐるんぐるん飛び回って。それがめっちゃ怖かったです。あと外でニワトリを斬り続けてると、バグるぐらいニワトリが飛んできたり。

『神々のトライフォース』は1991年に発売されましたが、そこから22年経った2013年に続編の『神々のトライフォース2』が出たんです。時が進んだ同じ世界を冒険するんですが、リンクが壁画になって移動するギミックがあって、ダンジョンの裏側の世界が見られるんです。俺らのやってたダンジョンに裏があったんだって、たまらなかったですね。

もうひとつ『神々のトライフォース2』を話す上で、CMは外せないですね。前作のCMソングはスチャダラパーさんが歌ってたんですけど、『神々のトライフォース2』ではそれをオマージュして1作目と同じテイストでCMをやっていて。映像も音も心をくすぐる出来で、さすが任天堂だなと。すぐにゲームを買いました。母親も同時期に買っていて、いっしょに協力プレイをしましたね。やはり思い出深いゲームです。

攻略本は想像の余地を与えてくれる

僕は合理主義なので、ゲームをするときは最初は何も見ずにプレイして、2回目は経験を踏まえて完璧にやりたいタイプなんです。それは何か創作するときも一緒かもしれない。ゴールが決まってて、まずは1回つくってみて捨てて、前はこんな感じだったから次はこうすればいいだろうみたいな、わりとシステマチックにつくっていくのが好きなんです。

文章を書くときにも合理性は自分のなかにあって、伝えたいことをこねくり回して書くのはあまり好きじゃないですね。難しい言葉を使えばすごく見えるということはわかるけど、これ一言でいけるじゃんみたいな。大喜利も答えが長いとつまんないんですよね。ズバッと短いほうがおもしろい。バーっとしゃべって笑いを取るよりも一言でぱっと笑わせるほうが好きなんです。省エネタイプなんで。

だからエッセイもずっと漫才のリズムで書いています。どこかで引っかかるとボケが台無しになっちゃうじゃないですか。お客さんを意識して読みやすく、わかりやすく書いてます。でも文章で難しい言葉や表現を使って、挑戦してこそ文学だろうと感じる部分もあるので、俺は書き物向いてないんじゃないかと思うこともありますね。

そういう意味ではこの攻略本は今読むと仰々しくて余計な文章が多い。でも同時に、それがこの本の良さでもある。読み物として成立しているし、ゲームを知らない人が読んでもおもしろい。例えば千年後にこの攻略本だけ見つかっても『神々のトライフォース』のすごさが伝わる気がします。たとえ未来にゲームがなかったとしても。

今は検索すると何でもすぐ出てきて、便利な反面、エンタメへの想像の余地がなくなっているように感じます。何でも答えが決まっちゃってて。みんなが「さあ楽しませてくれ」という感じで、自ら歩み寄って想像することが少なくなっている。僕は子どもの頃からこの攻略本を写真集として眺めて、いつかこの場所に行きたいと憧れ続けてきました。この本は今でもそんな想像の余地をくれるものだと思うんです。

スーパーファミコン用ソフト『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』の公式ガイドブック。上巻下巻の2冊完結で、ステージマップやアイテム百科、モンスターカタログのほか、開発者インタビューなどボリュームたっぷりの攻略本。

岩井勇気(いわい・ゆうき)
1986年埼玉県生まれ。幼なじみの澤部佑とお笑いコンビ「ハライチ」として2006年にデビュー。初のエッセイ集『僕の人生には事件が起きない』(新潮社)は10万部を超えるベストセラーとなり、今年9月28日出版した第二弾エッセイ集『どうやら僕の日常生活は間違っている』は早くも6万部を突破の大ヒット中。冠ラジオ番組「ハライチのターン!」(TBSラジオ)のパーソナリティーをはじめ、多数のレギュラーを持つ。今年は自身初原作・プロデュースの乙女ゲーム『君は雪間に希う』を発売、ヤングマガジンで原作漫画『ムムリン』の連載をスタートするなど活動の場を広げている。

▼岩井さんエッセイ第2弾
『どうやら僕の日常生活はまちがっている』

▼岩井さん原作・プロデュースのゲーム
『君は雪間に希う』

▼岩井さん原作漫画
『ムムリン』

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メルカリマガジン編集部

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