タバコと缶コーヒー。ここはそんなアイテムが似合う。男臭い、とあるお笑い劇場の楽屋。薄いパーテーション越しに芸人たちの笑い声が響き渡る。もはや楽屋というより部室というほうが近いのかもしれない。
ほどなくそこに、人気お笑いコンビ「千鳥」の大悟さんとノブさんが現れた。今日はそれぞれいつも持ち歩いてる必需品を持ってきてもらっている。最新のガジェットを広げるノブさんに対し、まるで昭和の押し売りかのような大悟さん。対極的な彼らのモノに対する哲学を聞いてみた。(編集/メルカリマガジン編集部、撮影/出村太)
大悟少年が瀬戸内海の島でもらった誕生日プレゼント
ノブ 「自分に合うモノを見つけたら、ずっとそれ一本ですね。イヤホンでも電気シェーバーでも、これというメーカーを見つけたら、あとはその進化についていく感じです。テレビもずっとPanasonicのVIERAを買い換えてます。芸人になる前にシャープで働いてたんで、本当はそっち買わなあかんのですけど」
モノに対してこだわりがあるノブさん。対して、「そもそもわしはモノを知らない」という大悟さん。
大悟 「今、自分が使っている携帯が、スマホかどうかすらもよくわからないくらい知らないんです。iPadとか音楽聴くやつとか持ってないです。いまだに漫画もちゃんと本で買ってるし、TSUTAYAに行ってビデオも借りてます」
とはいえ、新しいデバイスに関心がまったくないというわけではない。
大悟 「いちいちビデオを借りに行くよりも、絶対Netflixのほうが楽やねん。それはもうわかってる。だけどどこに買いに行って、どうしたらええのかわからない。いつか誰かに頼んで、全部セッティングしてもらいたいとは思ってるんですけど、『まあ、えっか』となって今に至ってるんです」
大悟 「ファミコンもなかったんで、いつも釣りや海で泳いで遊んでいました。“ビックリマンブーム”とか当時の子供の流行りも一応、島に来たは来たんですけど、その頃から世の中の流れにわしはちょっと遅れて入ってるから、それがずっと今も続いてるのかもしれませんね」
ちなみに島では、誕生日プレゼントでこんなモノをもらっていたという。
大悟 「小学校4年か5年生のときかな、漁師が履く、胸まで届く長靴(サロペット)の子供用をもらいました。それが本当にうれしかったですね。それこそみんながスーパーファミコンだなんだって言ってるときに、投網や竿が欲しかったから感覚がズレちゃって、それでiPadとかを持てない人間になってしまったのかなって思います」
山から街に出て、おもちゃ屋通いをしていたノブ少年
ノブ 「僕は誕生日が12月30日なんですよ。だからクリスマスと絶対一緒になって、プレゼントは年に1個しかもらえなかったんです。『それは嫌やな〜』とずっと思ってました」
いつもみんなで自転車で30分くらいかけ、隣町の「サノウ」というおもちゃ屋に行くのが楽しみだったノブ少年。「そこはもう夢の国でした」と振り返る。
ノブ 「でも、小遣いを定期的にくれる親じゃなかったんで、何にも買えないんですよ。ビックリマンも全然買えなかったし、シールも1枚も持っていませんでした。ビックリマンってシールだけ抜いて、お菓子を捨てるのが社会問題になりましたけど、僕はその捨てられたお菓子を拾ってめちゃくちゃ食べてました(笑)」
ところがそんな厳しい父親がある日、突然スーパーファミコンを買ってきた。
買いたいけど買えなかったビックリマン。そんなノブさんの過去の記憶に火が付いたのだろうか。今から数年前に、ビックリマンとももいろクローバーZがコラボした「ももクロマンチョコ」が出たときは、思わずそれに飛びついた。
ノブ 「全22種類のシールを全部集めたくなって、発売日の前の夜中11時にコンビニに行きました。でも店員さんに『まだ出せません』って言われたので、12時回ってから再度アタックしてみたら、今度は『1箱しか売れません』って言われて、結局コンビニをはしごして3箱買いましたわ。おかげで一晩でシール全種類集められました」
「集めているときが一番楽しい」と語るノブさん。現在はバットマンのグッズを集めている。そのきっかけは、まだ大阪で活動していた時代に後輩芸人たちが誕生日会でくれたプレゼントだ。
ノブ 「シンプルの西野(晶雄)って芸人が、かまいたちの山内(健司)やビタミンSお兄ちゃんとか競馬好き芸人を誘って、僕のサプライズ誕生日会を開いてくれたんです。それで、プレゼントとしてバットマンのごっつい戦車みたいな乗り物『タンブラー』の模型をくれたんですよ。それがホンマうれしくて今も家に飾ってるんですけど、そこからバットマンのフィギュアとか集めるようになりました」
その誕生日会では、冗談交じりに“ある都市伝説”が話題になったという。
やはりバットマンの伝説は本当なのだろうか。
今、2人が欲しいモノとは?
モノにそれほど執着がない大悟さん。しかし、ノブさんのように収集してはいないが今、気になっているモノがある。
大悟 「バーボンウィスキー『ブラントン』のキャップが、唯一気になっているモノといえばモノですね…。その蓋は騎手が乗った競走馬の形をしてるんですけど、普通に走ってるのとか、ゴールしたのとか、ムチ打ってるのとか8種類くらいあって、ウィスキーの箱を開けるまでどのキャップなのかわからないんです」
まるでガチャガチャやビックリマンのような楽しみ方もできるお酒だ。
大悟 「で、ブラントンって“ゴールド”っていうラインナップもあるんですけど、まだゴールドのほうの騎手がガッツポーズしてるキャップだけは出会ったことがないんですよ。いろんなバーに行って、いつかそれを見つけることができたら、飲み仲間の志村けんさんにあげようと思ってます」
ちなみに奥様には、こんな贈り物をしたこともある。
大悟 「確か嫁の誕生日に、2〜3万円くらい持っとったんかな…。『この金額で買えるもんにするか、パチンコに行って10万に増やして買い物に行くか、どっちがいい?』って聞いたんです。そしたら『パチンコしたいだけやろ?』って言われて…」
それに対し、素直に「うん」と答えて2人でパチンコへ。
大悟 「そしたら本当に勝って、そのままカルティエに行きました。確か買ったのは、ネックレスやったかな…。もし負けてたら、『回転寿司食って帰ろ』って言ってたんですけどね」
ちょっと照れ臭そうに答える大悟さん。勝てたので結果オーライな話だが、負けてもちょっとロマンチックな感じだ。
ノブ 「こないだロケで薄毛専門のクリニックに行ってきたんですよ。そしたらお医者さんに『今の状態はもうハゲです』って言われたんですけど、うちは遺伝で、おじいちゃんも父ちゃんも兄ちゃんもハゲてるんですよ。まだ耐えてるの僕だけなんです」
しかし5年後には本格的にハゲ始めると診断され、「今から対策しておいたほうがいい」と言われたノブさん。
ノブ 「それで器具の購入を勧められたんです。ヘルメットの中に遠赤外線の真っ赤な、怒ったときの王蟲みたいなのがいっぱい付いたやつで、それを1日18分被ることで頭皮に刺激を与えるんですけど、それが25万円もするんですよ…。買おうかどうか、めちゃくちゃ悩みました。でも競馬も負けてたし、身銭を切るロケが続いてベンツも買ったばかりだし、それに家で息子に笑われるだろうし…。本当は欲しいんですけど、なかなか買えないです」
大悟 「誰かが全部セッティングとかしてくれるんなら、やっぱiPadですかね。それが手に入れば漫画も読めるし、映画も観れる…んですよね? それを誰かにしてほしいな。でもそこまで足が向かない…」
と言ったところで、突如ハッとした表情をする。
大悟 「…そうや! わしは服とかこだわりないんですけど、唯一、今までにないくらい探してる服があるんです。去年の秋に出た、Y’sのカーキ色の薄手のコートです」
突然飛び出た、モノへの意外な執着。
そのコートの商品番号まで調べたが、もう流通していないという。
大悟 「一体どこで失くしたのか…。全く同じのを今買いたいんですけど、見つからない。ネットで古着を、それこそメルカリでも探してもらったんですけど、なかったんですよね…。もし誰かメルカリで出してくれたら、それ買います! 新品の値段でもいいので買います!」
ということで、そのコートをお持ちの方、出品チャンス到来です。
人気お笑いコンビ「千鳥」のお2人が、必ず楽屋に持ち込む愛用品を初公開👀
— メルカリマガジン (@MercariMagazine) December 18, 2019
最新のガジェットを広げるノブさん @NOBCHIDORI に対し「自分がいま使っている携帯がスマホかどうかもわからん」という大悟さん @daigotime 。
正反対なお二人の、意外なモノ哲学に迫ります❗https://t.co/g5twUeZHik pic.twitter.com/FuFi7RXw9k
千鳥(ちどり)
大悟(左・ボケ)とノブ(右・ツッコミ)が、2000年7月に結成したお笑いコンビ。ともに岡山県出身。ただし大悟は北木島の海辺、ノブは井原の山あいとそれぞれ対照的な環境で育つ。その後、2人とも笠岡商業高校に進学。しかし本当は名門・笠岡高校に行きたかったことから、同校の校章にちなんだ地元での愛称「千鳥」をコンビ名にして、大阪を拠点にもう一度“てっぺん”を目指すことに。2003年『M-1グランプリ』決勝に初進出。2004年には『ABCお笑い新人グランプリ』で最優秀新人賞を獲得。関西でレギュラー10本以上を抱える売れっ子になり、2012年に満を持して東京へ。テレビ埼玉『いろはに千鳥』で注目を浴びたことをきっかけに、見事全国区でブレイクを果たす。