趣味2020.12.26

「すべては壁、だけど楽しい」中川大志と清原果耶の夢中になれる仕事への向き合い方

好きなものと生きていく#39

伝説的な作品が、まったく違った作品として令和に戻ってきた。

芥川賞作家・田辺聖子が1985年に上梓し、2003年に実写映画となった『ジョゼと虎と魚たち』が、アニメーション映画として12月25日に公開された。足の不自由なヒロイン「ジョゼ」と、彼女の世界を広げる「恒夫」に声を吹き込んだのは、清原果耶さんと中川大志さんだ。

恋愛感情と現実のせめぎ合いを残酷にまでリアルに描いた実写版とは異なり、本作は「夢」というエッセンスが色鮮やかに描かれる。ジョゼは恒夫と出会い夢をみつけ、恒夫は海洋生物を学びながら、幻の魚を自分の目で見るためメキシコ留学を志す。もちろん、本作にも「障害」という大きな壁が立ちはだかり、ジョゼと恒夫はそれぞれもがき苦しむ。

「好きなら諦めんなよ」

劇中で恒夫はジョゼにこう言う。清原さんも中川さんも幼くして芸能界入りし、俳優業という夢を掴み、邁進している。そんな二人に、夢を仕事にすること、そしてその難しさについて聞いた。(編集/メルカリマガジン編集部、撮影/黒羽政士)

「この道以外は考えられないんじゃないか」

中川さんは小学生の頃、竹下通りでスカウトされて芸能界入りを果たした。当時は茨城に住んでいたが、原宿のダンススタジオに通っていたのだという。中学1年生のころに出演した『家政婦のミタ』をきっかけにブレイクし、今年でデビュー11周年になる。

「仕事を始めたのは小学生の時で、とにかく遊ぶことよりも楽しいと思いながら過ごしていたんです。現場が大好きで。俳優以外の将来って逆にあまり考えられないというか。この仕事以外の道は考えられないというぐらい、自分の一部になっていました」

「私がこの仕事を始めたのは、中川さんに比べるとすごく最近なんですけれど」と言う清原さんも、幼い頃からダンススクールに通い、12歳で「アミューズオーディションフェス」でグランプリを獲得し、地元の大阪と仕事場である東京を行き来する生活となった。

劇中で清原さん演じるジョゼは、「外は猛獣ばかり」と狭い家に閉じこもる暮らしを送っていた。自身は馴染みのない東京に通うことは不安に思わなかったのだろうか。

「12歳のときは、右も左もわからずという感じで、仕事はただ楽しいものだったんです。学校を早退して大阪から東京に向かうのも全く苦じゃありませんでした。多分、東京という場所もよく理解できてなかったんです。お仕事現場に行ってお芝居して帰る生活だったので、街歩きをするわけではなかったのも大きかったかもしれません」

この発言に中川も「12歳で仕事の意識がしっかりあってすごい」と驚き、「東京だ!と思うよりも仕事のことでいっぱいいっぱいだったとか?」と聞く。

「それもあります。あと、移動時間は長かったんですけど、お芝居をするにあたってインプットするものも多くて。自分が出させてもらう作品の原作を読んだり、そういう時間も含めて楽しいという気持ちが強かったです」

思春期の頃から第一線で活躍し続ける中で、壁にぶち当たったことはないのだろうか。前向きに好きなことを追求する二人に、敢えて投げかけてみると、その答えは想像以上にストイックなものだった。

清原さんは「すべて壁だなって思うようにしていて」と答える。

朝ドラ『あさが来た』の出演時には一度オーディションに落ちたものの、数ヶ月後に別の役でオファーが来た。直後は唖然としていたというが、大阪に戻り母と話している最中に嬉しくて泣いてしまったと過去に述べている。10代のうちから「選ばれる」環境に身を置いてきたからこそ、常に「壁」を意識するマインドが身についたのかもしれない。

今回の声優業も難しかったそうだ。まず、自分で芝居をする時と異なり、「ジョゼ」の顔や表情が先にある。「共感しようという気持ちより、どうしたらこの子に馴染んでいけるだろう」と考えた。大阪出身で関西弁はなじんだものんだが、ジョゼに合ったニュアンスを掴むのに監督と意見を交わしたしたという。

キラキラした仕事の世界と現実の狭間で

中川さんは、自分の学生時代に「壁」にぶちあたった時期を「今思えば大したこと無いんですけれど」と言いながら、回顧した。

「ちょうど中学2年生の時に、急に仕事が忙しくなって環境がガラッと変わったんですね。そのときは、精神的にバランスが取れなくなって苦しかった。親に当たるわけでもなく、ただただ人に会いたくなくなってしまった。学校に行かなくなった時もありましたし、撮影以外家から出たくない……みたいな」

その理由をこう分析する。

「ちょうどその時は茨城に住んでいたんですね。撮影現場はすごくキラキラしていて、そこから電車に揺られて現実に帰っていく。何者でもない中学生に戻っていくギャップが激しすぎた。撮影が終わった後は抜け殻みたいになっていたんです。同級生と感覚が合わないとかではなくて、環境の落差に感情がついていかない時期でした」

この「壁」の時期は、どうやって乗り越えたのだろうか。

「中学3年生の時は、ほとんど仕事をお休みさせてもらって、学生生活を満喫しました。修学旅行も体育祭も学校行事は全部出て、学生として同級生と本当に楽しく過ごせた。この1年間、学校にいられたことで、自分の中で納得感みたいなものが生まれて、それ以降はバランスを崩すことは減りました」

どちらに進めばいいのかわからない時期があったからこそ、若くして迷いなく俳優業に専念することができたのかもしれない。

中川さんは、今回演じた「恒夫」について「大人になっていくにつれ、夢を抱いたときの純粋な気持ちは薄れて達成することが目的になってしまったりするけど、恒夫はそうじゃない」とし、魅力的に感じるという。

迷い、忙しさに飲まれる瞬間があっても、芝居に対する「楽しい」という気持ちがある。劇中も壁を前に立ちすくむジョゼと恒夫ではあるものの、最終的に純粋な気持ちをもち、魚のように遠くまで泳いでいく。

全く新しい『ジョゼと虎と魚たち』は、自分の壁と向き合ってきた2人の芝居好きによって彩られている。

清原果耶(きよはら・かや)
2002年生まれ、大阪府出身。2015年、連続テレビ小説『あさが来た』で女優デビュー。ドラマ初主演となったNHKドラマ『透明なゆりかご』(18)での演技が絶賛され、若手女優として最も注目される存在となる。『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20)で映画初主演を果たした。21年は連続テレビ小説『おかえりモネ』のヒロインを務めるほか、映画も多数公開が控える。

中川大志(なかがわ・たいし)
1998年6月14日、東京都出身。NHK大河ドラマ『真田丸』、NHK連続テレビ小説『なつぞら』など、数多くのドラマや映画に出演。映画『坂道のアポロン』、『覚悟はいいかそこの女子。』にて第42回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。公開待機作に映画『砕け散るところを見せてあげる』(W主演/2021年4月9日公開)、映画『犬部!』(2021年公開)がある。2022年にはNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に出演予定。

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WRITTEN BY

嘉島唯

(かしま・ゆい) ニュースポータルの編集者、Buzzfeedの外部記者。cakesでエッセイを連載中。iPhoneとTwitterとNetflixが大好き。苦手なのは、人との会話と低気圧。

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