先行的なコロナ対策が功を奏して、パンデミック以前から感染者数を抑えることに成功したとみられていた韓国で、感染者数が急激に増えたのが2020年2月。主な感染経路は、新興宗教団体による集会や、海外からの渡韓者だった。それでも国の積極的な感染テストの実施や、追跡アプリといった対策もあって、5月には1日の感染者が1桁台になり、世界に先駆けて終息宣言ができるのではと予測されていた。
一方で、人々に気のゆるみが生じたのも確かで、電車や街中でもマスクをしない人が出てきた。学校が再開され、リモートワークも一部の会社で解除となると、再び感染者が増加。
8月に入るとスピードは加速し、9月初めには1日の感染者数が200人弱にのぼる第二波を迎えた。「社会的距離置き(사회적 거리두기/サフェジョク コリトゥギ)」という3段階における政策が設定され、レベル2.5まで引き上げられたのち、現在ではレベル2まで引き下げられた状況だ。しかしいまだ多くの店舗では、営業の一部が制限されている。
そんな韓国で行われているコロナ対策や、人々のライフスタイルの変化などについてご紹介していく。(取材・写真/二俣愛子、編集/メルカリマガジン編集部)
韓国のコロナ対策「追跡アプリ」と「QRコード管理」
韓国のコロナ対策として真っ先に思い浮かぶのが「追跡アプリ」だ。一番名の知れたサービスが「コロナマップ」。感染者がどこで発生し、また彼らがどこに移動したのかがわかり、自宅周辺で発生した場合にはアラートが届く。
さらに感染した人に対しては、政府がダウンロードを義務付けている追跡アプリもある。これは、彼らのスマホの位置情報とクレジットカード情報が紐づけられていて、どこに移動したか、どこで買い物をしたのかまで知ることができる。個人情報の観点からすると問題視される側面がある一方で、これをもとに発表された情報によって、感染をさけるための意識や行動を個人レベルでとることができるようになり、早い段階から感染者数を抑えることに一役買っていたのは確かだ。
また、最近では店舗を利用する際には、入口でのQRコード認証と発熱チェックが一般的になってきた。入店の際にカカオトーク(日本のLINEのようなツール)と連動した自分専用のQRコードを表示すると、店舗側は客の感染状況を含めた個人情報を確認できる。
さらに、特に多くの人が出入りする映画館や役所などでは、発熱をしていないか、マスクを着用しているかを一瞬でチェックできる機械が導入されている。なかには消毒液が自動噴射するものまで登場し、建物に入る際には、マスク着用、発熱チェック、個人情報の提供が徹底されている。
いたることろに消毒液とマスクあり
消毒液は、公共施設であればどこにでも置いてある。バスの中、地下鉄のチケット売り場、公園のベンチ、市場の通路、建物の入り口やエレベーターの中...。目につく場所にあるため、“消毒をし忘れた!”なんてことになっても大丈夫。また、目につくからこそ意識して使うようになる。
また、韓国ではマスクや消毒液が“買えない”という状況に陥ったことがない。品薄で価格が高くなったことはあったが、それでも薬局に並べば買えたし、インターネットでも商品にこだわらなければ購入できた。今では、ネットではもちろんのこと、ダイソーやコスメストア、スーパーでも気軽に購入できる。
しかも、韓国のマスクは高機能であることでも知られていて、国外のネット上では高値で取引きされていた。特に「KF〇(〇には数値が入る)」と記載されているものは、韓国の専門機関(韓国食品医薬品安全処方KOREA FILTER)で、その高い機能が認められている。
人との接触を防いだ「#コロナデート」が流行
人と接触しにくくなる中で、韓国のSNS上では「#コロナデート」というハッシュタグが話題になっている。Instagramで検索すれば、コロナ渦中で工夫したデートを楽しむカップルたちの様子を見ることができる。その中でも、数時間並んでチケットをゲットしなければならないほど人気なのが「自動車劇場」。これは、車の中から映画を鑑賞できるドライブイン・シアターのことで、1人20,000ウォン(約2,000円)ほど。車内では、韓国ならではのペダル(宅配)で、チキンやピザを注文するのがお決まり。
また、車のトランクとバックシートを使ってキャンプをする「トランクキャンピング」という楽しみ方も生まれた。韓国の人気バラエティ番組で、ドラマ『梨泰院クラス』に出演してブレイクした俳優のアン・ボヒョンが、休日に自分の車で「トランクキャンピング」を楽しむ様子が紹介されると、瞬く間にトレンドになった。一般的なキャンプに比べて荷物が少なく済むのも魅力なのだが、ライトを飾りつけたり、シーツやクッションを並べ、トランクを簡易ベッドのような空間にするのがポイント。SNSで「#트렁크캠핑(トランクキャンピング)」と検索すれば、それぞれのセンスが光る写真を見ることができる。
週末は“映える”ピクニックに夢中
9月中旬まで、飲食店の営業が夜21時以降禁止され、一部の店舗ではテーブル席の利用自体が禁止されていた。そんな状況の中での週末の楽しみとして改めて注目されているのが「ピクニック」。しかも、SNS映えするお洒落さも欠かさないのが、いかにも韓国らしい。シートからチェア、その他雑貨、フードまで丸っとレンタルできるサービスも登場している。写真におさめたくなるお洒落ピックニックは、週末の楽しみ方の定番になりつつある。
世界に先駆けライブをストリーミング!K-POPの「オンタクト」公演
BTSが9月8日、アメリカのビルボードで2週連続で1位を獲得したニュースは、彼らの母国である韓国でも大きな話題となった。世界的に関心を集めるK-POPは、コロナ時代にファンと繋がれる新しいライブの形を生み出したことにも注目したい。
それが、韓国の大手事務所SMエンタータインメントと、NAVERが共同で立ち上げた有料のオンラインライブサービス「Beyond LIVE」だ。AR(拡張現実)技術を組み合わせた今までにない演出や、全世界の観客とビデオチャットを通して繋がり、リアルタイムでコミュニケーションがとれる。マルチビュー画面はもちろん、インタラクティブ技術を駆使し、実際の会場で見ているかのような臨場感があるのが特徴。初めて行われたライブは、4月26日に開催された「SuperM-Beyond the Future」。SMエンターテインメントの人気アイドルを集結させたドリームグループのライブで、世界109カ国から約7万5,000人が視聴した。
このライブ形式は「オンタクト」と呼ばれ、非対面を意味する「アンタクト(Untact)」に、オンラインを意味する「接続(On)」を加えた概念で、韓国では新たなトレンドとして定着しつつある。その後、BTSが6月14日に開催したオンタクトでは、延べ75万6,000人が視聴し、ギネスが世界記録として認定。「オンタクトライブ」は、話題に事欠かないエンタメになった。世界的にも新しいこのライブの形は、コロナ時代のニューノーマルになりそうだ。
ここに来て「演歌」が大ブーム中!
今、韓国のエンタメ界では「トロット(韓国演歌)」が空前の大ブームとなっている。人気の演歌歌手は、今や祖父母世代だけではなく、20代の美女&イケメンもいれば、小中学生までいて、彼らはアイドル並みの人気を誇る。多くのメディアに登場し、目にしない日はないほどだ。自宅で家族と過ごす時間が長くなった今、全世代にわたって人気になった「演歌」は、専門のテレビ番組も続々と生まれている。
中でも『トロット神がやってきた』という番組では、演歌歌手と視聴者がインタラクティブに繋がったライブの様子を映し出し、人気を集めている。舞台には、大画面に分割された一般視聴者たちの顔が映し出されているのだが、結婚をするまで実家を出ない人が多いことで知られる韓国文化らしく、家族全員で一緒に楽しんでいる様子が伝わってくる。
ポジティブな流れを作ったジコのダンスチャレンジ
「アムノレ(Any Song)のジャケット写真。Instagramで「#아무노래챌린지(アムノレチャレンジ)」と検索すると、約10万件もの画像や動画がアップされている。画像提供:KOZ ENTERTAINMANT
コロナによる先の見えない不安感から韓国では「#コロナブルー」という造語も生まれたが、そんな気持ちを払拭してくれるような音楽も大流行した。それが、アーティストZICO(ジコ)の楽曲『アムノレ(Any Song)』だ。彼が、 “#아무노래챌린지(アムノレチャレンジ)”と題して、2020年1月、有名アーティストたちと曲にのって躍った動画をSNSにアップすると、それが瞬く間に広まり、著名人たちをはじめ、一般人にいたるまで多くの人が、友達や恋人、家族とこのダンスを踊った動画をアップ。“音を楽しむ”と書く「音楽」が持つ本来の力を感じさせるような現象に人々はハマり、一大ブームとなった。そして他のアーティストもこのムーブメントに追随。現在は、Jessi(ジェシー)の楽曲『NUNU NANA』によるダンスチャレンジが話題になっている。
肌荒れ鎮静コスメはもはやスキンケアの鉄板
韓国といえば忘れてはいけないのがコスメ。代表的なヒットアイテムとして知られるのが、ツボ草エキスを使用した「再生クリーム」だが、今やコスメストアに足を運べば「肌の再生」「肌荒れ鎮静」をうたったアイテムが、化粧水からパック、日焼け止め、導入美容液、リップに至るまで、とにかく豊富に揃う。肌荒れを鎮静させるコスメは、韓国で最も有名なコスメの口コミアプリ「ファへ」でも常にランキングのトップを占めていて、韓国女子たちの肌ケアの定番になっている。また、落ちないティントリップをはじめ、最近ではマスクに着かないクッションファンデなども登場。韓国コスメは、“即効性がないと売れない”と言われているが、一度使ってみるだけで効果や機能がすぐに実感できるため、新作が出ればどんどん試したくなる。
2027年までに「脱プラ」 サステナブルな動きが加速中
さらに、コスメ業界ではサステナブルな動きが広がってきた。フェアトレードによる原料を積極的に使用したり、再生可能なパッケージで作られる商品やブランドが続々と登場。コスメサイトをのぞけば、「オーガニック」「ヴィーガン」「再生可能」といったキーワードが躍るようになった。
実はここ数年、韓国ではコスメ以外にもサステナブルな動きが加速している。以前からプラスチック製のゴミ袋は有料で提供されていたが、2019年4月より店舗や企業ロゴ入りの袋の無料提供は禁止され、代わりにエコバッグが販売されている。また、スーパーでは、その地域で使用できる一般用ゴミ袋を購入する。ゴミ袋に買ったばかりの商品を入れることに戸惑うかもしれないが、ムダのない合理的な取り組みといえる。また、カフェでは、2018年からプラスチック製のカップは持ち帰り限定で、店内ではマグカップで提供するという形が浸透している。
しかし、コロナによってデリバリー需要が増えたことが原因で、プラスチックなどのゴミが増加していることが問題視されている。早い段階から「脱プラスチック宣言」をしていた韓国では、ゴミの大幅削減に成功していたが、江原道民日報の報道によると、プラスチックの家庭ごみは、コロナ以前に比べて60%も増加したという。
それでも「2027年までに使い捨てのプラスチックをゼロにする」という韓国政府の方針は変わっていない。韓国のサステナブルな施策は、今後もいたるところで見受けられそうだ。
二俣愛子(ふたまた・あいこ)
出版社にて約10年間ファッション誌の編集者として勤めたのち、海外留学を経て、フリーランスの編集ライターとして独立。2016年、大手IT企業でWebメディアの編集を担当。結婚を機に2018年12月からソウル在住。現在は、ライター、コーディネーター、バイヤー、翻訳者、日本企業と韓国企業をつなぐ仲介など、韓国をベースに活動中。また、instagram(@aiko_shin4)にて日々韓国の最新情報を発信。ブログ「MY K LIFE」(https://my-k-life.com/)では韓国コスメを中心にレビュー記事を掲載している。