趣味2021.03.20

「希望がある曲を書いてみたい」 崎山蒼志が転機の一年に抱く変化への期待

時代の変化の渦中で、アーティストが繰り広げる新たな挑戦に迫るメルカリマガジンの連載「新しい音楽」。第2回に登場いただくのは崎山蒼志さんです。

現在18歳の崎山さんにとって、高校を卒業して新生活が始まる2021年はまさに転機となる一年。AbemaTVの番組『日村がゆく』への出演で最初に注目を集めた2018年から、『いつかみた国』『並む踊り』と作品の発表を重ね、今年1月27日にはメジャーデビューアルバム『find fuse in youth』をリリース。一つの型にとらわれないサウンドと独創的な言葉のセンスで、彼にしか作り得ない唯一無二の音楽を追求しています。

高校3年生で直面したコロナ禍での変化、3月21日に予定されているバンド編成での久々のライブ、そして実家を出て一人暮らしを始めるタイミングでのリアルな実感まで――。たっぷりと語っていただきました。(取材・執筆/柴那典、撮影/Genki Ito [symphonic]、編集/坪井遥、メルカリマガジン編集部)

音楽でやっていくんだなって、改めて思うことが増えた

――この取材をしているのは3月10日です。まさに高校の卒業式が終わった直後だと思うのですが。

崎山蒼志さん(以下、崎山):そうですね。終わって1週間ぐらいです。

――新しい生活が始まる人生の区切りの時期は、どんな感じで過ごしていますか?

崎山:やることとしては、今までと変わらないです。曲を書いたり、いろんな音楽を聴いて、インスピレーションを受けたりしているので。ただ、高校が終わって、こっち(関東)に出てきたので、それは大きいですね。

僕の場合は進学をせずに社会人になるので、責任感を感じることもあります。音楽でやっていくんだなって、改めて思うことも増えましたし。そういう意味で、自分の作る音楽がどう変化していくのか楽しみではありますね。
――地元の(静岡県)浜松市から上京してきたタイミングなんですね。

崎山:そうですね。楽器相談可のところを探して、何軒か内見に行って決めました。ただ、新生活と言っても、今まで一人暮らしもやったことないので、まだ米が炊けるかどうかというレベルなんですけど(笑)。

――プロのミュージシャンとしてやっていくことを考えたのは、いつぐらいのことでしょうか。

崎山:音楽で食べていくことが夢になりはじめたのは中学校1年生の時ですね。TOKYO FMの『SCHOOL OF LOCK!』という番組がやっていた「未確認フェスティバル」の出演審査に、1学年上の方々と組んだKIDS Aというバンドで出たんです。

まわりはだいたい高校生の方々だったんですけど、自分たちは中学生バンドで三次審査まで行くことができた。そこで自信を持てたのが、音楽をやっていきたいという確信を持ったきっかけのひとつです。
――その時点の将来像はどんなものでしたか。バンドのイメージが強かった?

崎山:そうですね。バンドでやっていこうと思っていました。でも、だんだんメンバーの都合が合わなくなっていって、弾き語りを始めて。そこからはソロのほうが多くなって。その後、中学校3年生の終わりぐらいに『日村がゆく』にお声がけいただいて。今に至るという感じです。

――もともと弾き語りで音楽をやろうと思っていたのではなく、バンドのイメージで曲を作っていた。

崎山:そうですね。バンドしか聴いていなかったですし、小学校から中学校に上がっても、ソロミュージシャンの音楽はあまり聴いたことがなかったです。映画の主題歌とか、たまに『ミュージックステーション』で石崎ひゅーいさんの曲を聴いて「格好いいな」と思ってましたけど、やっぱり惹かれていたのはバンドでした。

中学1年生くらいの時にはきのこ帝国さんがすごく好きで、NUMBER GIRLさんも好きになって、そういう音楽をやりたいと思うようになったんですね。だからソロでやることが増えても、爪弾いて歌うよりは、バンドみたいにアグレッシヴにやりたかったんです。ジャカジャカ弾いてバンドっぽい音圧やグルーヴを出したいと思っていた。

それは1人になってからも大切にしていますね。フェスに出たときも、弾き語りなんですけど、リズムがある感じでやりたかったし、気持ちはバンドでした。
――フェスに出たりツアーやライブをやっていく中で、自分のライブパフォーマンスはどう成長していった感じがありますか。

崎山:自分のスタイルって、結構疲れるんです(笑)。めちゃめちゃ一生懸命弾いて、めちゃめちゃ一生懸命歌うので。でも、体力がついてきたというか、余裕が生まれて、聴いてくれる人のことをより意識するようになったと思います。高校2年生だった2019年の夏とか、2020年の2月くらいまでは、パッションにまかせず、ちゃんと歌うようにしていました。

――エンターテイナーとしての自覚が生まれて、パフォーマンスがどんどん進化している時に、新型コロナウイルスの感染拡大でライブができなくなった。そういうタイミングだったんですね。

崎山:そうだと思います。

優しい曲、希望のある曲も書いてみたい

――崎山さんはコロナ禍以降、どんな変化がありましたか?

崎山ライブができないので自宅にいることが多くなりました。自分にとっては、いろんな音楽を聴いたり、観たことなかったものを観たりする時間が多かったです。本を読んだり、マンガを読んだり、映画を観たり、海外アーティストのライブ映像をYouTubeで観たり、そういうのも発想のもとになりました。自宅で創作できるチャンスだったので、新しい試みもできたと思います。

――読んだ本の中では、どんなものが印象に残っていますか?

崎山:『サピエンス全史』は面白かったです。考え方もすごく面白いと思ったし、人が今までやってきたことの歴史を、別の形で俯瞰的に捉え直す形で書いていて。自分の詞にも影響を受けた部分はあります。あとは、内田百閒さんとか三島由紀夫さんの小説を読むようになりました。描写も格好いいし、刺激になりました。

――『サピエンス全史』の影響を受けて歌詞が変わったというと?

崎山:「waterfall in me」という曲は影響を受けています。そのまま受けたイメージを書いたというか――もともとJPEGMAFIAというアーティストに憧れていて、この曲は彼と同じように一行一行ちょっとずつ言っていることが変わって展開していくような詞の書き方をしているんですけど、その中に『サピエンス全史』の影響があるところがありますね。

でも、なにかを強く訴えているわけではなく、自分がただ思っているだけという、そういう切なさとして書いています。
――「waterfall in me」は1月にリリースされたアルバム『find fuse in youth』の曲ですが、このアルバムの収録曲は、言葉にしてもサウンドにしても、以前にやっていたこととかなり変わってきた感じがしますね。

崎山:そうですね、だいぶ違っています。たとえば「Samidare」の原曲になった「五月雨」は、もう6年くらい前に書いた曲なので。曲の作り方や影響を受けたアーティストはどんどん変わってきています。でも、不甲斐なさというか、自分がモヤモヤしている部分を歌詞に書いているのは変わっていない気がします。

――単純に、同じことを繰り返すことをしたくない気持ちがある。

崎山:そうですね。やりたいことがどんどん変わっているので。

自分の曲って、いい意味でも悪い意味でも完成されていないというか、途中経過をずっと見せているような感じがあるんです。それは若さゆえのことなのか、自分の音楽への向き合い方のせいなのか、まだわからないですけど。そういうのも、途中経過なりにもっとまとめていけたらと思います。

――先日リリースされたシングルの『Undulation』には「うねり」という曲がカップリングに収録されています。あの曲を聴くと、アルバムの『find fuse in youth』で追求しているいろんな方向性がひとつになっていく予兆を感じるんですが、そのあたりはどうでしょうか。
崎山:そうですね。だんだんまとまりを見せてきた感じではありますね。『find fuse in youth』で混沌としていたものが、まとまっていったというか。あのアルバムがなかったら「うねり」はなかったんじゃないかと思います。

――「うねり」はいつぐらいに、どんなモチーフから作った曲ですか?

崎山:去年書いた曲です。特定の人にすごく影響を受けたわけではなく、自分の中にあるものをこねくり回したような感じで書きました。自分のどうしようもないところを書いている、あまり救いのない曲ではあって。

あとは、The Gardenというバンドが(シンガーソングライターでプロデューサーの)Mac Demarcoと一緒にやった「Thy Mission」という曲のMVとか、Mac Demarcoの「Here Comes The Cowboy」という曲のMVとか、アンバランスで気持ち悪い、シュールなのか、ホラーなのか、とにかく変な感じのする映像に影響を受けています。

――「途中経過をずっと見せているような感じ」と仰っていましたが、ここ1年で自覚的にこう変わったんじゃないかと思えるところはありますか?

崎山:それが今あらわれているかどうかはわからないんですけど、僕の曲って、特に詞は悲しいというか、行き詰まっている感じで終わっていくことが多くて。それも良さだとは思うんですけど、もうちょっと優しい曲も書きたいというのはあります。希望がある曲を書いてみたい気持ちもめちゃめちゃあります。

いろいろな方の影響を受けながら、自分にしかできないことを

――3月21日には東京・恵比寿のLIQUIDROOMで久々のライブが予定されています。これに向けての準備も進んでいるんじゃないかと思うんですが、どうですか?

崎山:今日、この後にリハーサルをするんです。「どうなるんだろう」って感じです。配信をのぞけば、ライブハウスでライブをやること自体も久しぶりですし。

――バンドメンバーはキーボードに宗本康兵さん、ベースにマーティ・ホロベックさん、ドラムに守真人さんという面々で、みなさん名うてのプレイヤーですね。

崎山:そうですね。宗本さんはこれまでにレコーディングでも関わってくれていますし、マーティさんも「Samidare」で弾いていただいたんですけど、バカテクだな! って感じです。めちゃめちゃ音楽に精通されている方々で。

――そういう人との出会いで刺激になったものは大きかったですか?

崎山:大きいですし、今後、さらに大きい刺激になっていくんじゃないかなって感じがありますね。「こういう形態だったらこういう音楽をやってみたい」とか、そういう考えが生まれるかもしれないですし。

マーティさんもドラマーの守さんもジャズを経験されている方なので、刺激になります。安易な言葉かもしれないですけど、音楽的だな、っていう感じがします。
――崎山さんが感じた「音楽的」という言葉の実感を、もう少しかみ砕いて語っていただくと、どんな感じなんでしょう?

崎山:石若駿さんとか長谷川白紙さんとか、以前に一緒にやらせていただいた方もそうなんですけど、音大とか芸大を出て、きちんと音楽理論をわかっていらっしゃる。僕は小さい頃から音楽をやってますけど、理論もあまりわからずに好き勝手にやってきた部分もあって。音楽理論を通して繋がれる美しさみたいなものを理解してらっしゃる方々と一緒にやるのは刺激になりますね。

――崎山さんの音楽には、既存のスタイルに乗っかっていない感じがすごくあると思うんです。バンドにしても、弾き語りにしても、打ち込みにしても、それぞれのジャンルにある典型的な方法論に乗らない形でやっている印象がすごくあるんですけど、そういう意識はありますか?

崎山:たぶん、乗れていないんだと思います。乗れないし、そこまで乗ろうと思っていない。自分にしかできないことをやりたいというのも大きいですね。

いろんな方々の影響を受けながら、また違うことをやりたい。映像とか芸術作品に感化されることも多いので、そういうものが自分の音楽になっているような気もします。
――ちなみに、冒頭で新生活が始まると仰っていましたが、暮らしてみての実感はどうですか?

崎山:いや、まだ暮らしていないんです。洗濯機と冷蔵庫が数日後に届く予定で。月末に実家へ1週間くらい帰って、本格的な新生活はそのあとからですね。

――新生活を機にやってみようと思っていること、挑戦してみたいことはありますか?

崎山:住んでる街の散歩はしたいですね。あとは、同世代のミュージシャンと関わったりしていきたい。交友関係ができていったらいいなとは思っています。

崎山蒼志(さきやまそうし)
2002年生まれ静岡県浜松市在住。
2018年5月インターネット番組の出演をきっかけに世に知られることになる。現在、テレビドラマや映画主題歌、CM楽曲などを手掛るだけではなく、独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。またFUJI ROCK FESTIVAL、SUMMER SONIC、RISING SUN ROCK FESTIVALなど、大型フェスからのオファーも多い。
2018年7月「夏至」と「五月雨」を配信リリース、12月5日にはファースト・アルバム『いつかみた国』をリリースした。合わせて地元浜松からスタートする全国5公演の単独ツアーも発表し、即日全公演完売となった。
2019年5月には自身初となるホール公演「とおとうみの国」を浜松市浜北文化センター大ホールで実施、10月にセカンド・アルバム『並む踊り』を発売し全国10公演のリリースツアー「並む踊りたち」を開催。
2021年1月27日にアルバム『find fuse in youth』でメジャー・デビュー。2月24日にフジテレビ”ノイタミナ”「2.43 清陰高校男子バレー部」エンディングテーマの「Undulation」リカットシングルをリリース。3月31日に、Amazon Prime Video独占配信のドラマ「賭ケグルイ双(ツイン)」主題歌の「逆行」を配信リリースする。また、NTTドコモの新プランahamoや、みずほ銀行のキャンペーンとのコラボなど、活動の幅を広げている。

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メルカリマガジン編集部

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