自宅で過ごす時間を食で豊かに、楽しく。
心に残る料理やレシピ、キッチンアイテムを紹介いただく企画「メルカリ食堂」。第1回は『たまごかけご飯だって、立派な自炊です』『自炊力』の著者でフードライターの白央篤司さんの思い出のメニュー、「カレー風味グラタン」です。
(執筆・撮影/白央篤司、編集/メルカリマガジン編集部)
心に残る料理やレシピ、キッチンアイテムを紹介いただく企画「メルカリ食堂」。第1回は『たまごかけご飯だって、立派な自炊です』『自炊力』の著者でフードライターの白央篤司さんの思い出のメニュー、「カレー風味グラタン」です。
(執筆・撮影/白央篤司、編集/メルカリマガジン編集部)
グラタン皿と、母の味の記憶
思い出深い料理なんて、一体いくつあるだろう。
さて、どれをピックアップしたものか……と、ずいぶん長いこと考えていた。そうだ、これはメルカリマガジンのコラム。依頼を受けておきながら、私はまだ一度もメルカリを利用したことがない。ひとまず、見てみよう。
料理に関することだから、うつわを探してみようか。
ネットで「メルカリ 食器」で検索してみて、その膨大さに驚いた。すごいなあ……新品あり、使い込まれたものあり。写真に「未使用」と載せられたティーカップセットは、ひょっとしたら引き出物だろうか。有名なチェーン店の古いノベルティに、懐かしい気持ちになる。あえて箱に入った状態で写真をアップしている人も。中身が見えないと、かえってクリックして飛びたくなるね。うまいなあ。
さて、どれをピックアップしたものか……と、ずいぶん長いこと考えていた。そうだ、これはメルカリマガジンのコラム。依頼を受けておきながら、私はまだ一度もメルカリを利用したことがない。ひとまず、見てみよう。
料理に関することだから、うつわを探してみようか。
ネットで「メルカリ 食器」で検索してみて、その膨大さに驚いた。すごいなあ……新品あり、使い込まれたものあり。写真に「未使用」と載せられたティーカップセットは、ひょっとしたら引き出物だろうか。有名なチェーン店の古いノベルティに、懐かしい気持ちになる。あえて箱に入った状態で写真をアップしている人も。中身が見えないと、かえってクリックして飛びたくなるね。うまいなあ。
飽きないものだな……と流し見するうち、ひとつの写真に目が留まった。それはグラタン皿だった。クラシックなデザインで、小ぶりで、深さは浅め。
海馬の中から急にひとつの記憶がクローズアップされてくる。35年、いやひょっとしたら40年近く忘れていた「あの味」と共に。ああ、うちの母親が昔よく作っていたグラタンは、こんな皿に盛られていたな……。うん、そう、そっくりだ。いい匂いだったな、あれ。当時はスパイスなんて言葉、知らなかったけれど、香辛料というか、カレーの香りがするんだった。急にごく小さい頃の思い出がリアルによみがえって、なんだか切ないような気持ちになる。
それはチキンとブロッコリーが詰まった、カレー風味のグラタンだった。当時としてはずいぶんシャレたものだったんじゃないか? まだまだ昭和の御代、西暦でいえば1970年代も終わりの頃。母は一体どこで覚えてきたんだろう。
値段も手ごろだったので、注文してみた。注文から受け取り方法などは、何度もメルカリを利用しているツレに教えてもらいつつ。届いたグラタン皿は中古品とは思えないきれいさで、嬉しかった。実質の深さは2㎝ほど、このぐらいがグラタンは作りやすい。フランス風にバトー(舟)とでも呼びたくなるフォルムで、魚の尾のような先の形もかわいらしい。
あのグラタンを、作ってみよう。二十代の後半ぐらいだったか、一度母親に作り方を聞いたことがあった。
「簡単よ。鶏を塩コショウして、炒めて、小麦粉ふって、チキンスープでのばして、ゆでたブロッコリーと一緒にして、チーズのせてオーブンにかけるだけ」
なるほど。しかしこれではカレー風味がつかない。
「あ、そうか。鶏を炒めたら、最後にカレー粉ふるんじゃなかったかな? 大昔のことだもん、忘れちゃった。まだあんたが幼稚園でね」
私もずっと、忘れていた。そして今、無性に食べたくて仕方ない。記憶と母のコメントを頼りに、鶏とブロッコリーのカレー風味グラタンにトライしてみる。
それはチキンとブロッコリーが詰まった、カレー風味のグラタンだった。当時としてはずいぶんシャレたものだったんじゃないか? まだまだ昭和の御代、西暦でいえば1970年代も終わりの頃。母は一体どこで覚えてきたんだろう。
値段も手ごろだったので、注文してみた。注文から受け取り方法などは、何度もメルカリを利用しているツレに教えてもらいつつ。届いたグラタン皿は中古品とは思えないきれいさで、嬉しかった。実質の深さは2㎝ほど、このぐらいがグラタンは作りやすい。フランス風にバトー(舟)とでも呼びたくなるフォルムで、魚の尾のような先の形もかわいらしい。
あのグラタンを、作ってみよう。二十代の後半ぐらいだったか、一度母親に作り方を聞いたことがあった。
「簡単よ。鶏を塩コショウして、炒めて、小麦粉ふって、チキンスープでのばして、ゆでたブロッコリーと一緒にして、チーズのせてオーブンにかけるだけ」
なるほど。しかしこれではカレー風味がつかない。
「あ、そうか。鶏を炒めたら、最後にカレー粉ふるんじゃなかったかな? 大昔のことだもん、忘れちゃった。まだあんたが幼稚園でね」
私もずっと、忘れていた。そして今、無性に食べたくて仕方ない。記憶と母のコメントを頼りに、鶏とブロッコリーのカレー風味グラタンにトライしてみる。
「思い出のグラタン」のレシピ
<用意するもの>
鶏もも肉 130~150g
ブロッコリー 6~7房
玉ねぎ 150g
バター ひとかけ(8g程度)
小麦粉 小さじ3程度
鶏がらスープ 大さじ3~4程度
カレー粉 小さじ1ぐらい
塩コショウ(鶏肉下味用) 少々
<下ごしらえ>
鶏をひと口大に切って塩コショウしておく。私は「から揚げ用肉」など、最初からひと口大に切られてるものを買うことが多い。鶏を切り分ける手間がないだけで、ずいぶんと気がラクだ。
ブロッコリーを小房に切り分けて、加熱しておく
ちょっと水をふってレンジ対応容器に入れ、500Wに3~4分かける。もちろん、ゆでるのでも蒸すのでも、やりやすい方法でOK。しっかり柔らかいぐらいがおいしい。
<下ごしらえ>
ちょっと水をふってレンジ対応容器に入れ、500Wに3~4分かける。もちろん、ゆでるのでも蒸すのでも、やりやすい方法でOK。しっかり柔らかいぐらいがおいしい。
次に、バターをグラタン皿の内面にぬりつける。理由は「具材が皿にこびりつくのを防ぐため」と言われるけれど、全体のなじみと香りもよくなるように思う。
玉ねぎの皮をむいてスライスし、皿にぬったバターの残りでしんなりするまで炒める。全体が透き通ってきたらOK。炒めたらバットなど、別のところに移しておく。正直、玉ねぎが入っていたか記憶があやしいんだが、あまっていたので入れてしまおう。
塩コショウしておいた鶏を皮目から2分ほど中火で焼いて、返してまた2分ほど焼く。いい匂いだ。
さっきの玉ねぎをもどして、小麦粉を小さじ1程度全体にふりかける。
軽く全体を混ぜ合わせ、鶏がらスープを大さじ1ほど入れる。この「小麦粉ふって、鶏がらスープ入れて全体を炒めつつ混ぜ合わせる」を3回ほど繰り返して、グラタンのベースづくり。なんとなく、母はこうやってたような気がするんだ。
3回繰り返して、全体がどろっとする感じに。もっとさらさら軽いほうがよければ、牛乳でのばすのもアリだな。
さあ、カレー粉をふろう。話はそれるが、カレーパウダーは肉や魚(サバなど)の下味つけにも便利なので、持っているといろいろ役に立つ。豚汁にひとふりなんかしてもうまい。
カレー粉を小さじ1ぐらい全体にふって、よく混ぜる。ここで味見して、物足りなければ塩コショウ。あとでチーズかけるので、ちょっとあっさりぐらいでもいいかも。
グラタン皿にブロッコリーとチキンを交互に並べて、
とろとろになった玉ねぎをかけ、とろけるタイプのチーズをのせる。「とろ」がいっぱいだ。ちょっとブロッコリーがのぞくように配置すると、見た目もよくなる。
最後に、200度のオーブンに10分ぐらいかける。中は加熱ずみ、表面に軽く焦げめがつけばじゅうぶん。
最後に、200度のオーブンに10分ぐらいかける。中は加熱ずみ、表面に軽く焦げめがつけばじゅうぶん。
「人生で最初にハマった料理」の味
できあがり。
さあ、食べてみよう。うん、うん、うん……ブロッコリーがうまいんだ、これ。つぶつぶの房の間いっぱいにクリーム状になった玉ねぎとチーズが絡んで、かじると幸せな気持ちになる。噛んでいるうち、なんだか頭の中のファスナーが自動で下がってくるような、不思議な気持ちになった。頭の奥の奥から久しぶりに、何かを取り出したような感じ。
そう、たしかに私はこういうものを小さい頃、食べていた。好きで、作ってもらっていた。そのままドンピシャの味じゃないだろうけど、これに近いものを。ああ、これを「もっと食べたい」「また作って」と私は母にせがんでいたな。そうか、私が人生で最初にハマった料理なんだな。
ただ……もっと何というか、ジャンクな、ガツンとくる味わいだったような気もする。一発でクセになるような。もう何回か作ってみよう。40年前の記憶から、ひとつレパートリーが増えそうだ。
さあ、食べてみよう。うん、うん、うん……ブロッコリーがうまいんだ、これ。つぶつぶの房の間いっぱいにクリーム状になった玉ねぎとチーズが絡んで、かじると幸せな気持ちになる。噛んでいるうち、なんだか頭の中のファスナーが自動で下がってくるような、不思議な気持ちになった。頭の奥の奥から久しぶりに、何かを取り出したような感じ。
そう、たしかに私はこういうものを小さい頃、食べていた。好きで、作ってもらっていた。そのままドンピシャの味じゃないだろうけど、これに近いものを。ああ、これを「もっと食べたい」「また作って」と私は母にせがんでいたな。そうか、私が人生で最初にハマった料理なんだな。
ただ……もっと何というか、ジャンクな、ガツンとくる味わいだったような気もする。一発でクセになるような。もう何回か作ってみよう。40年前の記憶から、ひとつレパートリーが増えそうだ。
文・撮影:白央篤司(はくおう あつし)
「暮らしと食」がメインテーマのフードライター。CREA WEB、メトロミニッツ、ハフポストなどで連載中。主な著書に『にっぽんのおにぎり』(理論社)、『ジャパめし。』(集英社)『自炊力』(光文社)など。料理家としても活動し、企業へのレシピ提供も定期的に行っている。
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