趣味2020.09.18

「オタクが叶えた夢が、今の仕事の大部分」島﨑信長と潘めぐみが語る“好きと言い続ける”人生

好きなものと生きていく #30

「この年齢で、これが好きでいいのかな。恥ずかしくないかな」。誰かの視線を気にして、自分の趣味を隠してしまう。大人になるほど、好きなものへの躊躇いを感じたことはないだろうか。

9月18日から公開される『思い、思われ、ふり、ふられ』は、そんな気持ちを吹き飛ばすほど真っ直ぐで強い、高校生たちの秘められた「好き」が描かれるアニメーション映画だ。

主人公・由奈は少女マンガに夢中な高校生。周りの目を気にしてその趣味を「どこか恥ずかしい」と感じていたものの、進学先の高校で出会った朱里や理央たちと出会うことで、少しずつ変わっていく。

自分を形作る「好きなもの」。そして複雑に絡み合っていく「好きな人」。「好きという気持ち」が繊細に描かれる本作のメインキャラクターである、朱里と理央を演じた声優の潘めぐみさん、島﨑信長さんに「自分を形作った青春時代の“好き”」について話を聞いた。(撮影/黒羽政士、編集/メルカリマガジン編集部)

「俺はこれが好きだからこれでいい」趣味は共有しなくてもよかったから寂しくなかった高校時代

──2人は高校生のときどんなモノに夢中になっていましたか?

島﨑信長(以下、島﨑):僕が高校生の時にハマっていたのは、まさにアニメ、ゲーム、マンガでした。ちょうど、ゼロ年代中盤ぐらいかな。ラノベ全盛期だったので『涼宮ハルヒ』シリーズも夢中で読んでいて、作者さんを追いかけて読んでました(笑)。ゲームでもマンガでも、有名な作品にはジャンルを問わずだいたい触れていると思います。

──高校生ぐらいの時だと、スクールカーストみたいな感じで、グループごとで話題になることや雰囲気も違うと思うのですが、島﨑さんはどんな立ち位置だったのでしょう?

島﨑:男子校だったんですけど、立ち位置的にはリア充側もオタク側も行き来してるような感じでしたね。一緒にいる相手によってトークの話題は違いました。

やっぱり、リア充系の友だちはそういうのが好きじゃないから、音楽とかファッションの話をするし、オタク系の友だちとは、ライトノベルの貸し借りを頻繁にしていました。どちらも好きなのは事実だし、それぞれの友だちと共有できてよかった。
──すごく器用ですね! 思春期は、どんな場面であれ、好きなものを素直に表明できないと「本当の自分じゃない」みたいなもどかしさを感じてました。

島﨑:そういう気持ちもありますよね。でも、僕が高校生の時は、趣味を共有したい気持ちはあまりなかったんですよ。自分が作品と一対一でコミュニケーションを取っている感じで、1人で楽しんでいた。共感してくれる人が周りにいなくても、「俺はこれが好きだからいいや」というタイプです。

オタク友達もしっかりいたので、「◯◯先生の新作読んだ!?」みたいな会話もあり、不自由はなかったですね。世の中がどうとか、他人の目に自分がどう映るのか気にしていなかった。SNSがなかったからかもしれないけれど……自分の世界を自分の中で大切にしていました。

“少年”って書いてあるけど、私も読んでいいんだ!

──潘さんは「周りには理解してもらえないかも、でも好き」みたいなモノってありましたか?

潘めぐみ(以下、潘):小学生の時かな……大親友のお姉ちゃんが『週刊少年ジャンプ』を読んでいたのを見て、その時初めて「少年マンガ」というものを知ったんですよ。

「“少年”って書いてあるけど、お姉ちゃんが読んでるってことは私も読んでいいんだ! やった!」と思ったのを覚えています。実際に手にとってみたら、もう全然! 男女なんて関係なかった!

そんな風に、身近に「女の子だけど、少年マンガが好き」という存在が身近にいたので、子どもながらに「私も好きでいいんだ」と思えたんですよね。そのお姉ちゃんたちと一緒にアニメイトへ行くこともありました。ただ、私が子どもの頃、同性でファンを見つけられなかったのは特撮でしたね(笑)。

でも、今は、SNSで「好きなものを好き」と発信できる時代になったので、特撮女子も見つけられましたし、特撮のイベントに行くとカメコ女子がいるので「みんな好きなんだ!」と密かに仲間を見つけています。好きで繋がれるいい時代になったなって思います。

「好き」と言い続けると、好きなものが寄ってくる

島﨑:SNSは本当に使い方次第だよね。他人の目を気にしすぎることもあるけれど、いろんな人と繋がれて交流できるし、一緒に盛り上がれる。

基本的に「好き」を表に出していると、好きなものが寄ってくる。例えば、好きなアニメのキーホルダーをつけていれば、作品のファンの人が「あのキャラだよね」と話しかけてくれたりして、同じ趣味の人と繋がれる。好きなものは出していったほうが、楽しい人生だと僕は思います。オタクなことを公言していたら、同じくオタクであるKis-My-Ft2の宮田くんと対談させてもらうことになったんですよ。宮田くんとは、同い年なので通っている作品も一緒で、初対面とは思えないぐらい話が弾みましたね。完全にオタクが結んだ友情です。

もちろん「自分をよく見せたい」とか「かっこつけたい」と思って、無理をすることもあると思うんです。特に思春期だと。でも、そうやって自分の「好き」に蓋をしても心から楽しい気持ちにはなれない気がするんですよ。

公言する良さは、今の僕の仕事を見てもらえればかわる。好きなもの楽しいものに囲まれまくって生きてますよ!
潘:たしかに(笑)。イキイキしてるもん。

島﨑:一方で「好き」をあえて出さないのもいいと思うんですよね。「好き」と公言したら思いの外、早く仕事につながってしまうこともあるから、あえて自分の実力で仕事に結びつけたい場合もあるので。

──目標にする、的な。

島﨑:そうそう。僕は『Fate』シリーズが長いこと大好きなんですけれど、「好き」だと世の中に言わずに関わっていきたいと思っていたんですよね。実際、お仕事をさせてもらってからファンを公言するようになりました。声をかけていただいたとき、最高に嬉しかった。

潘:私も「好き」を公表する前にお仕事で関われたのが、アニメ『HUNTER×HUNTER』です。『HUNTER×HUNTER』は、お小遣いで初めて買ったコミックスだったから……。当時はキルアが大好きだったので、最初に買ったのは6巻。小学生のお小遣いでは、全巻買うなんて出来ないし、『ジャンプ』を毎週買うこともできないので。なんとか買える巻を飛び飛びで持ってましたね。家にある日焼けした『HUNTER×HUNTER』は、宝物です。
あと、私は小さい頃から『ウルトラマンキッズ』にハマっていたので『ウルトラマン』も大好き。プライベートで円谷プロダクションのイベントに行くぐらいですが、それもお仕事をさせてもらってから告白しました(笑)。『ウルトラマン』シリーズは、好きとカミングアウトしてからもたくさんご縁をいただけるので、ファン冥利に尽きますね……。

オタクが叶えた夢が、今の私の仕事の大部分。好きでい続けると、夢が叶う。

それに、自分が夢中になるものは、ちゃんと意味があって出会ってると思うんですよ。

私は、オタク趣味を歓迎してもらって、今の仕事に就くことができたので……「好きなモノを好きって言える人たちを大事にしよう」って心の底から思います。気がついたら優しい世界に自分がいたりする。

リアルな人間関係は、解せないところを愛したり許容したりする醍醐味がある

──2人が演じた理央と朱里も、由奈の少女マンガを借りて読んだりして趣味に寄り添っていますよね。

島﨑:そうですね。『ふりふら』は、どのキャラクターもリアリティある描き方で共感しやすいけれど、特に理央は演じていくほどシンクロできましたね。考えすぎるところと、好きという気持ちが高まったり、定まったりすると一直線に向かっていくところとか。
──由奈ちゃんは、高校生なのに少女マンガに熱中していることを自分で後ろめたさを感じたりもしているようですが、理央は全然気にしていないところも素敵でした。

島﨑:あはは。理央はなんのてらいもなく少女マンガを由奈ちゃんに借りてますけど、僕自信も少女マンガ読むので理央の気持ち分かるかな(笑)。

潘:私も、朱里ちゃんには共感しながら演じられましたね。「あ、これ好きなんだね! 一緒だ!」という感じで共通点があったり興味があったりすると、自分から人に向かっていけるところは、自分と似ているなと。

人間関係で何か気になることがあると、立ち止まっちゃうところもすごくわかりますね。傷つきたくないし、傷ついてほしくないって考え込んでしまう。特に、大切な人たちに対しては、そうなりがちかもしれない。

──『ふりふら』の主題ともいえますが、恋愛とか人間関係の「好き」はこんがらがりがちですもんね。自分だけで完結できないから。

潘:そうそう。趣味は裏切らないですからね!(笑)特に好きなキャラクターは、キャラクターなので、こう……いつも素敵。戦ったり、気遣いしたり、我慢したりせず、まっすぐ「好き」だと思える。人だと、いろんな人間関係もあるし、理想と違うところもあるから。

島﨑:解せないところを愛したり許容したりお互い支え合うのが恋愛の醍醐味ではあるんだろうね。

潘:ああ、確かに! 言ってくれなきゃわからないとか、解せないところとか、人との関係は乗り越えがいがある。

島﨑:「好き」っていうエネルギーは人に対してでも、趣味に対してでも良いエネルギー。それをポジティブに表現していくと、きっといい方向に人生が進むよね。

潘:恥じることない! 好きって思われた方も嬉しいから。

◆島﨑信長(しまざき・のぶなが)
12月6日生まれ、宮城県出身。青二プロダクション所属。主な出演作品は、「Free!」(七瀬遙)、「ダイヤのA」(降谷暁)、「ソードアート・オンライン アリシゼーション」(ユージオ)など。2013年、『第7回声優アワード』で、新人男優賞を受賞。

◆潘めぐみ(はん・めぐみ)
6月3日生まれ、東京都出身。アトミックモンキー所属。
主な出演作品は、「HUNTER×HUNTER」(ゴン=フリークス)、「リトルウィッチアカデミア」(アツコ・カガリ)、「ハピネスチャージプリキュア!」(白雪ひめ/キュアプリンセス)。『第11回声優アワード』で、助演女優賞を受賞。

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WRITTEN BY

嘉島唯

(かしま・ゆい) ニュースポータルの編集者、Buzzfeedの外部記者。cakesでエッセイを連載中。iPhoneとTwitterとNetflixが大好き。苦手なのは、人との会話と低気圧。

好きなものと生きていく

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