結婚しても「ストイックな防衛戦」は終わらない 山里亮太がいま欲しいもの 

好きなものと生きていく#02 山里亮太

「好きなものより、嫌いなものの方がすぐ思いつくんですよね」
のっけからそう笑うのは、芸人の山里亮太さん。いまテレビやラジオで、その声を聞かない日はない。「南海キャンディーズ」のツッコミとして、世の中への負の感情を必殺技に、お笑いというリングに上がり続けてきた。しかしこの6月にまさかの電撃結婚、初めて「幸せな山ちゃん」を披露した。仕事にプライベートにと、何もかも手に入れたかのように見える。かつて「嫉妬の化け物」とまで呼ばれた男は、いまどんな欲望を抱えているのか?(編集/メルカリマガジン編集部、撮影/須田卓馬)

洋服のコーディネートは春夏秋冬の4種類しかない

「山ちゃん、いつも同じような服着てるよね」

よく友人に言われるが、間違ってはいない。もっと言えば、「同じような」ではなく、ほぼ「同じ」服を着ていると言ったほうが正しい。

「もう本当に、コーディネートが春、夏、秋、冬の4パターンくらいしかないんですよ。今くらいの季節だと、毎日ジーパンとTシャツ。それも同じデザインのやつを何枚か買って、着回すんです。着替えてない人みたいなんだけど(笑)、決まってるやつを着るのが楽ちんなんですよね」

毎日身につけている「同じ」ものはまだある。あの赤い眼鏡だ。

「デビュー当時からつけていて、トレードマークになっているから変えられない。仕事用に同じものを5〜6本は持っていますね。でも東野幸治さんが『山里がこの赤メガネを黒くした瞬間に、何か次のステージを狙い始めてる証拠だからな』ってみんなに言い触らしてるんですよ! 東野さんの予想だと2020年の東京オリンピック前に『あいつのメガネ黒縁になるからな』って(笑)」

関西大学在学中、NSC(吉本総合芸能学院)大阪校に入学したのは20年前のこと。それ以来「24時間笑いだ!必死になれ!!」と、常に“不完全な自分”をガソリンに、尋常でない情熱をお笑いに注いできた。プライベート用のメガネは1本しか持っていない。

おもちゃより実験道具が嬉しかった少年時代

思えば子どものころから物欲のない人間だった。
当時大流行していたNゲージの鉄道模型は、親が買い与えてくれたスターターキットだけで終わった。みんなが必死で集めていたビックリマンのステッカーも、友だちが「食べきれないから!」とくれるチョコにしか興味がなかった。唯一テンションが上がったのは、サンタさんにもらったアルコールランプとビーカーだ。

「小学生の時、薬剤師になりたかったんですよ。薬局のパートで働いていた母親を喜ばせたかったんでしょうね。だからそのクリスマスプレゼントがめちゃくちゃ嬉しくて。いつも自分の家の前でビーカーとランプで実験ごっこをしていたから、団地のおばちゃんに『なんで山里さんちの子は、ずっと外でお湯を沸かしてるのかい?』って言われてましたね(笑)」

初めてもらったカメラで心霊写真が 

同じ時期、親戚の叔父さんに小さなアナログカメラをもらったこともある。大人になったみたいでワクワクして、自分で作ったガンプラを公園のベンチや噴水の脇に置いて撮影した。

「ドキドキしながら初めて現像に出してみたら、ガッツリ心霊写真が入ってて。光の中に女の人の顔みたいなのが写ってたんですよ。そしたら3つ上の兄ちゃんが『お前、もう呪われたよマジで』って言ってくるんです。怖くて泣きましたね。見かねた兄ちゃんが近所の神社に連れて行ってくれて『弟が呪われてっからよ、ちょっと除霊してやってくれよ』ってめちゃくちゃ高圧的に言うんですよ。兄ちゃん、ヤンキーだったんで。神主さんも面倒くさかったんでしょうね、その写真を僕らの前で、普通にライターでボォって燃やしたんです。そしたら兄ちゃんがキレちゃって」

地元千葉でもちょっとした有名人だった兄は、礼儀や儀式にはうるさいヤンキーだった。当時子ども部屋には、兄が好きだったおニャン子クラブのポスターが貼ってあったのだが、新田恵利に毎朝「おはようございます」と挨拶しないと怒られた。

「でも兄ちゃん俺のこと大好きだったんですよ。弟が本気でビビってるのを見て、『おいコラ、塩で揉むとかよ、もっと色々除霊の工程あったろ!?』ってすごい形相で。せっかくカメラにハマりそうだったのに、その日から写真撮らなくなりました(笑)」

不安と闘う「ノート魔」の歴史は100冊以上

そんな山里少年が、初めてハマったのがお笑いだった。高校時代クラスの友だちに「山ちゃん、時々おもしろいこと言うからお笑いやってみたら」と言われたのをきっかけに、芸人を志すことになる。その当時から続いているのが、著書『天才はあきらめた』でも中身を公開し話題となった驚異の「ノート魔」ぶりだ。

「浪人生の時から、覚えないといけないことや不安なことがあると、全部ノートに書いて気持ちを落ち着けてきたんです。それが癖になっちゃって。芸人になっても、毎晩何かしらノートに書いてますね」

夜眠りにつく前、まだ真っ白な新しいページを広げる。いつも持ち歩いて、少し角が折れてしまったキャンパスノート。その日の仕事での反省点、思い浮かんだライブ用のネタを書き綴る。今年に入ってもう何冊目だろうか。コレクションなんて何も持っていないけれど、このキャンパスノートだけはすでに100冊以上たまってしまった。

「僕、ボールペンで書くんですよ。筆圧とか訂正した履歴も残るから。その時の熱量や感情、思考の動きが見えるんですよね。たまにスマホでもメモを書き留めたりはするんですけど、ノートが一番わかりやすくて正確な資料なんです。まあ、字が汚いし恥ずかしいので、人に見せられるものじゃないんですけど」

39歳で初めて大人の時計を買った理由

そしてノート以外に、自分を奮い立たせてくれるものがもう一つある。今から3年前、39歳のときに買った腕時計だ。

「高級な時計とか車って、ちゃんとした大人が買うものじゃないですか。そういう成功者の証みたいなものは、自分とは無縁だと思ってきたんです。車の免許も持っていないですし。でもある時『ああ、仕事頑張ったなあ』と思って。ちょうどライブが成功したタイミングだったんですね。そのご褒美に、ちょっといい時計を買ったんです」

極楽とんぼの加藤浩次さんが「山ちゃん、国産の時計はいいよ」と勧めてくれたSEIKOの「グランドセイコー」だ。

「頑張ったからこの腕に時計があると思うと、またサボらず頑張れる。自分を褒めてあげたいと思った証拠だから。ちょっと手を抜きそうになった時に、『もっとやれるぞ』っていう気持ちを思い出せる気がしたんですよね」

結婚しても「嫉妬戦線」異状なし 

これまで、そんな自分をストイック過ぎるという人もいた。「結婚したらひとりでノートに向かう時間なんてないよ」と言われたこともある。

「結婚してもひとりでノートを書く時間、全然減らないですね。相手もめちゃくちゃストイックな方なんで、そういう時間に対してすごくリスペクトがあって。むしろ結婚して、よりストイックになることを肯定できるようになったというか。まあ、相手が肯定してくれるので……。こんなにすごい世界にいさせてもらってるのに、楽しいのはいいけど、楽だったらだめだなと」

結婚会見の時、相手が「山里さんの仕事に対する姿勢を尊敬しています」と言うのを聞いて、さらに背中を押された。だが、相手の仕事への向き合い方に感化されてるのは、自分の方だとも思う。

「最近『アンジュルムック』の編集をされてたんですけど、それをものすごい、信じられないくらいの熱量でやっているのを見てたんで。そういう格好良さを教えてくれる人ですね」

いま何より、一番自分を頑張らせてくれる存在だ。以前は正直、結婚したら自分がガソリンにしてきた「妬み嫉み」が浄化されてしまうんじゃないかいう怖さもあった。

「伊集院光さんがラジオで『山里くん、結婚しても黒いものは一切なくならないよ。大丈夫。それがむしろ大丈夫じゃねぇんだよ!』という祝福の言葉をくださったんです(笑)。でもほんと、全然消えないんですよね。これまでずっと妬嫉を原動力にしてきたから、「勝った」と思ったこともない。そうなったら、もう戦えない。だから変われないんだと思います」

勝者という自覚がないまま、防衛戦に臨むボクサーのような発言だ。とはいえ結婚して、もちろん変わったこともある。ささやかなことだが、最近は独身時代には知らなかったような日用品を知るのも楽しい。この前はめちゃくちゃ干しやすい物干しラックに感動したりした。指輪どころか今はお揃いのものを買う時間もないが、毎日使う歯ブラシは色違いの同じ型だ。

「もともと物は少ない方なんですけど、やっぱり二人暮らしになったぶん、いろいろ整理する機会は増えましたね。小説を読むので本は多いですし、頂いたりするDVDもありますし。もう着ない服とかは、いつかメルカリで売ってみたいなーと思ってますよ(笑)」

そして山里亮太は次に何を手に入れるのか

39歳の時に買った時計は、実はもう持っていない。

「父ちゃんにあげちゃいました。ちょうど去年、同じように自分にご褒美をあげてもいいかな、と思うことがあったんです。なので1本目を親父にプレゼントして。いま僕がしているのは、2本目のグランドセイコー。でも、もうこれで十分かなと思います」

そう話しながら、スーツの袖の上から押さえる手の隙間から、少しだけ時計のベルトが見える。山里亮太にとって、ノートも、時計も、大事な人も、自分を本当に奮い立たせてくれるものは、人に見せびらかすようなものでないのだ。では、もしもこの先、次のご褒美があるとしたら、今度は何を手に入れたいのだろう。

「なんだろうなあ。まあ、僕が黒縁の眼鏡をかけ始めたら『あ、こいつ次を狙ってるな』と思ってください」

そう言うとちょっと悪そうな顔で、にやりと笑った。

山里亮太(やまさと・りょうた)
芸人。1977年千葉県生まれ。漫才コンビ「南海キャンディーズ」のツッコミ担当。通称、山ちゃん。関西大学大学在学中に、吉本興業のタレント養成学校NSC22期生となる。2003年に「しずちゃん」こと山崎静代とコンビを結成。04年にABCお笑い新人グランプリ優秀新人賞、M-1グランプリ2004準優勝。南海キャンディーズ不仲の危機を乗り越え、M-1グランプリ2016、2017に再挑戦。2018年にはコンビとして初の単独ライブ「他力本願」を開催した。現在テレビ・ラジオに多くのレギュラーを持つ。著書に『ニュースがもっとよくわかる本』(池上彰との共著)、『天才はあきらめた』『あのコの夢を見たんです。』などがある。

山里亮太さんに長年使い続ける愛用品を聞く、「山里亮太の浮気しないアイテムBEST3」はこちら。

WRITTEN BY

宮川直実

(みやかわ・なおみ) 編集者。猫3匹と暮らす。好きなものは、コーヒー、プロレス、処女作と未完の大作。

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