ファッション2019.08.02

「違和感こそかわいい」 CHAIのマナ・カナをつくった“一点もの”という美学

好きなものと生きていく #05 CHAIマナ・カナ

「ほしいものを選ぶときは、いつも直感! ぜんぜん悩まない!」
口を揃えて答えるのは、双子のマナとカナ。世界の“かわいい”に革命を起こすバンドCHAIのボーカルを務める。今や全米・全英・ヨーロッパにツアーを展開し、一気にワールドクラスの知名度を獲得している。リズム隊のユナとユウキと共に奏でるキャッチーでリズミカルな曲に、ときには甘く、ときには弾けるような歌声をのせる。「コンプレックスはアートなり」とコンセプトを掲げ、コンプレックスを否定せずに個性として生かし、誰もがそのままで魅力的だと伝える。

目ちっちゃい 鼻低い くびれてない 足太い ナイスバディ!オーライ!(N.E.O.)

掲げたワードは「NEOかわいい」。新たな価値観を示しながら、美意識に革命を起こすマナとカナ、2人の“かわいい”のルーツは一体どこにあるのだろうか?(編集/メルカリマガジン編集部、撮影/尾藤能暢)

やっぱり双子は持ち物が似るけど、まったく違うところもある

クールな印象のカナ(左)とチャーミングな印象のマナ(右)

「2人の部屋は最近似ているの。植物があったり、絨毯の柄が似ていたりして」(マナ)

開口一番「双子あるある」を話すマナとカナ。似たようなものを選んでしまうことが多いという2人だが、選ぶ色ははっきりと異なる。マナは目が覚めるような赤やピンク、カナは落ち着いた緑や青を選ぶことが多い。

「部屋のテイストは似ているんだけどね、色が違う。たとえば私の部屋のカーテンはオレンジで、カナの部屋は緑。カナはカーテンを緑にしてから視力が上がったんだよ!」(マナ)

「そうそう。高校のときだけ勉強していたから視力落ちちゃって、カーテンを緑にしたら回復して……なんだか怪しい話になっちゃった」(カナ)

マナとカナは一卵性の双子で顔立ちこそよく似ているが、話していると雰囲気がかなり異なることがわかる。色の好みだけでなく、暖色を好むマナはよく笑いよく喋り、寒色を好むカナは落ち着いたクールな雰囲気を漂わせる。

「お互い服とか貸し借りしたり、合わせたりもよくする。むしろ、合わせてもないのにかぶっちゃうことも多い! パンツと髪のしばり方とゴムの色が一緒だったときは、外で偶然会ってびっくりしちゃった」(マナ)

マナは赤やピンクをただお気に入りの色としてだけでなく、自分を守ってくれるものとして捉えている。

「自分の中で軸みたいになっている色が赤とピンクなんだ。おまじないみたいな感じ。だから、常にその色のものを持っていたいの」(マナ)

バンドでもライブ前のおまじないがあるという。

「4人で手を合わせて、『スアレス選手!』って言うの」。2014年のサッカーワールドカップで「噛みつき」で話題になったウルグアイ代表のフォワード、スアレスだ。

若い女の子のバンドがなぜ“スアレス”でステージ前に験を担ぐのか。「とにかく勝ちたい。負けない強さがほしい。強い気持ちを信じるために声を合わせて言うの」(マナ)と明かす。

海外に出て初めて知った“違和感”のかわいさ

パワフルなパフォーマンスをしたステージから降りれば、そこにいるのは「古着好き」の女の子だ。そのルーツは中学生の頃までさかのぼる。

「小学生の頃までは、みんなが着ているのと同じものが好きだったの。流行っている服、流行っているブランドを当たり前に着ていた。でも中学生になって、『Zipper』って雑誌で古着のオンリーワンなアイテムを初めてみたときに、これが私の“かわいい”だって思ったの」(カナ)

カナはすぐ母親に、「古着屋さんってどこにあるの?」と聞き、自分の“かわいい”を叶えてくれる古着を買いに出かけた。おしゃれなんてまだわからないまま、とにかく個性的なものを買い集めた。自分がかわいいと思う、めちゃくちゃな色合いでまとまりのないファッション。初めての自分だけの“かわいい”にどんどん魅了されていった。

カナだけでなく、マナも古着に魅了されていた。今でも2人は古着を好み、CHAIのメンバーであるユナとユウキも一緒に買い物に行くことがあるという。

「古着は、シワシワだったり擦れたりしているところがかわいい! 買ったまま洗わず着ちゃうし、靴もそのまま履いちゃう。海外の古着は、古着屋さんよりも大量で安くて服がどーんって積まれているリサイクルショップのほうがかわいいの。前に行って良かったのは、名前忘れちゃったけどシアトルのお店。日本だと下北のKINJIとかWEGOとか、あとは三茶とかで買うこともあるけど、BOOKOFFとかも好き」(マナ)

だが、海外でライブをするようになって2人にとっての「かわいい」の価値観が変わったという。キーワードは “違和感”だ。

「たとえば、すっぴんにピンクの服を着て、汚い街をビーチサンダルで歩く。テキトーにしばってアホ毛が出ちゃった髪。そういう着飾っていないのに自然に出ちゃうようなかわいさがとっても好き!アジア系の人が白や黒をよく着るのは、肌の色的に着やすいからだとは思う。だからこそ、それ以外の色の服を着たときの違和感がかわいいんだって気づいた」(マナ)

海外で「アジア人がどう見えているのか」を目の当たりにした。そのときに感じたのが“違和感の中に生まれたかわいさ“だった。

「ある意味ミスマッチなほうが私にはかわいく感じるの。それからは、私の中の“かわいい”がちょっと変わった気がする」(マナ)

従来のかわいいを進化させた“NEOかわいい”を見つけた瞬間だった。

「変って言われるより、同じものを着るほうが嫌」

彼女たちの“かわいい”や音楽に対する、海外での反応は実際のところどうなのだろうか。

「日本は、わかるように説明して知ってもらうのが先。海外は、言葉よりも先に音楽が伝わっているなって感じがする。海外のステージでマナがMCするときに、『これがNEOかわいいだよ!』って単純な英語で伝えるだけでもわーってすぐ盛りあがるの。むしろMCでその説明をする前にもう音楽で伝わっている感じ。結局“NEOかわいい”が何なのかは、きっと後から記事とかで伝わるから、ライブのときに深く知ってもらわなくてもいいかなって思う」(カナ)

実際、CHAIは海外のメディアからも多数の取材を受けている。常に通訳が横につき、「NEOかわいい」をそのまま訳す。本当にそのままで伝わるのだろうか。

「説明としては、“Beautiful”だから、美しいってひとつじゃないですよって日本よりも簡潔に済む感じ。“KAWAII”に関しては全世界共通の理解があるし、それとの違いも説明しやすい。だから私たちの考えは、誤解なく伝えられているなって実感がある」(カナ)

量販店に並ぶピカピカのかわいさは、いらない。少しくらい形が変わっていても、少しくらい汚れていても、自分が愛せる「かわいい」を。CHAIは古着のような「一点物」のかわいいを求め続け、気張らず自然体のまま、軽々と世界へ打って出る。

CHAI(チャイ)
ミラクル双子のマナ・カナに、ユウキとユナの男前な最強のリズム隊で編成された4人組、『NEO – ニュー・エキサイト・オンナバンド』、それがCHAI。2017年1stアルバム「PINK」が各チャートを席捲、音楽業界を超え様々な著名人からも絶賛を受ける。2018年には日本テレビ系「バズリズム02」の「コレはバズるぞ2018」1 位、第10回CD ショップ大賞2018 入賞など、各所より高い評価を得る。海外の活動も活発で、2018年2月にアメリカの人気インディーレーベルBURGER RecordsよりUSデビュー、8月にイギリスの名門インディーレーベルHeavenly RecordingsよりUKデビューを果たし、4度のアメリカツアーと、10月には初の全英13都市のツアーを成功させる。2019年2月13日にはタイアップ曲など話題曲満載のセカンドアルバム「PUNK」をリリース。3月にUSツアー、5月にヨーロッパツアーを経て、6月に日本全国8都市を巡る『CHAI JAPAN TOUR 2019 PINKなPUNKがプンプンプントゥアー!』を実施し初のワールドツアーも大成功!彼女たちに触れた君の21世紀衝撃度No.1は間違いなく『NEOかわいい』バンドCHAIだよ!

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WRITTEN BY

鈴木梢

(すずき・こずえ) 1989年千葉県生まれ。PR会社や大手出版社、編集プロダクション勤務を経て2018年にライター/編集者として独立。主にエッセイやコラムの執筆、著名人のインタビューの企画/編集を行う。好きなものはハイボールと国内フェス巡りと「龍が如く」。

好きなものと生きていく

メルカリマガジンは、「好きなものと生きていく」をテーマにしたライフスタイルマガジンです。いろいろな方の愛用品や好きなものを通して、人生の楽しみ方や生き方の多様性を紹介できればと思います。