好きなものと生きていく #35
人付き合いが嫌いで、とにかくひとりでいたい――そんな気持ちで始めた「ソロキャンプ」動画がYouTubeで超話題となり、再ブレイクを果たした芸人のヒロシさん。レギュラー番組や取材が急増して忙しい日々を送っているが、合間を縫って山にこもり、「ソロ焚き火」で心を癒しているという。
欲しいものはほぼないというヒロシさんだが、「ヒロシです……」の自虐ネタで一世風靡した約15年前、いきなり大金が手に入り、金銭感覚が狂ってしまったこともあったそうだ。デビュー前のホスト時代に味わった貧乏生活や、ブレイク時の浪費を経て変わったという、ヒロシさんの物欲とコスト意識について聞いた。(編集/メルカリマガジン編集部、撮影/黒羽政士)
高級家具なんて、負債でしかない
本当に金銭感覚がおかしいというか、超極端なんですよ。一般的な平均年収をもらったことがないんです。炭鉱育ちで、実家もずっと貧乏だったのに、いきなりブレイクして収入が急上昇しちゃったしさ。
――ニュースで読みましたけど、ヒロシさんは月収4000万円の時代もあったんですよね。想像もつかない額です。
でしょう? でもデビュー前のホスト時代や、芸人としての駆け出しの頃は「どうやって衣食住を確保して生き抜こうか」って悩むくらいのお金しか持っていなかったから、モノ選びもクソもなかったんです。何かを買う時も、一番安いものを選ぶしかない。お惣菜コーナーでおかずを一個だけ買って食べるとか、人に奢ってもらいながら凌いでました。
群れるのが嫌いだし、先輩の食事会とかは行かなかったけど。お金借りたりはしてたね。ナンパした女の人に奢ってもらったこともたくさん。まあ、ヒモですよ。生きるために、やるしかなかったんだよね。でも、売れてなかった時期と今では、時代も環境も違いますからね。あの頃YouTubeがあったら、すぐやってますね。ひとりでできるからさ。
――大金が入ってきた時は、どんなものを買っていたんですか?
一通り揃えましたね。まずは家。それまで家賃2万円の4畳半のアパートだったんだけど、渋谷区2LDKに引っ越した。あとは車も買ったね。モテたかったから、高級車がいいと思ってジャガーに乗ってました。
インテリアも、デザインで選ぶんじゃなくて、「とにかく高いものを買ってやろう」という気持ちでね。本当に何にも考えてなかったし、ベッドも家具屋で「一番デカいのをくれ」って言って、キングサイズを買ったんです。
でもさ、最初は「いいものを買った」と思っていたけど、今となれば正直、負債でしかないんですよ。
――負債? 高級家具ですから、どちらかといえば資産なのでは?
大きなベッドが入る部屋にしか住めないから、必然的に家賃が高くなっちゃうんだよね。家具を捨てればいいんだけど、貧乏性だからもったいなくてそれも出来ない。「あの時、調子にのらなければ良かった……」と、後悔しかないです。
――なるほど。じゃあ、今は買い物もかなり慎重なんですか?
大金持ちってわけじゃないけど、お金があるからこそ「浪費をしたくない」と心がけています。高い買い物は、仕事に繋がる可能性があるアイテムだけ。カメラとか、YouTube用の機材ね。前は趣味や遊びのための浪費ばかりだったけど、もう無駄遣いはないかな。
最近買ったのは、キヤノンのデジタル一眼レフカメラ「EOS Kiss(イオスキス)」。もともと、まったく同じ機種を持っていたんだけど、キャンプ中に川に落としちゃって。気に入っていたし、買い直しました。
――比較的、お手頃なモデルですね。「機材には投資!」って、高いものを検討することはなかったんでしょうか。
高いカメラを買って、収入が10倍になるなら高額のにするけど、そうじゃないなら安いのでいい。昔の俺だったら、何十万もするカメラを買ったと思いますよ。でも、上位機種買っても、上手く扱えないしさ。コストパフォーマンスが合わないなら、無理に高い機材を買わなくても、いいんです。
独特のコスト意識としまむら理論
コストがまったく見合わないから。例えば、ブランド好きな人の多くって、ただ「高いものを身に纏ってる自分」が好きなんですよ。でも、「素敵」と他人から褒められる機会ってどれくらいありますか? 思っているより、他人は服なんて見てないですよ。俺だって、ブランドを着てモテまくるなら着るけど、モテないしさ。俺には無駄金だって思ったんだよね。
本当に、モノとして好きで着てるならいいと思うですよ。でもさ、仮にしまむらのワンピースより、シャネルのワンピースが200倍高かったとする。じゃあ、シャネルを着るならしまむらを着ているときより200倍褒められないと、回収できないってことですよ。俺的には。
――ヒロシさん独特のコスト意識、説得力ありますね。
でも、しまむらを着ていたって、褒められる人もいるでしょ? 結局、センスなんですよ。ブランド品との差分は、いくらでも埋められるわけ。
48年生きてきて、ずっとモテることしか考えてなかったんです。俺は黒ギャルが大好きだけど、ギャルと知り合えるタイプの人間じゃない。「じゃあ、ギャル男になろう!」と決意して、服装も変えた時期があって。雑誌を買って、ギャル男ファッションの勉強をしたんです。
――モテたいがために、ギャル男デビューしたんですね。
けど、あの頃ギャル男に人気だった変な羽根のネックレスとかでさえも、超高いんすよ。「うわっ、高ぇ!」と思って、デザインが似た安いヤツを探して揃えましたね。で、海とかで出来るだけ日焼けして、俺なりの、ギャル男風の格好になって。そしたらね、ギャルからモテたんですよ。本当に。
――「モテない」と連呼し自虐を続けているヒロシさんが「モテた」と断言するくらい、モテモテだったと。
当時のギャル男の間ではPENDLETON(ペンドルトン)が流行ってたけどさ、似たような安物でも結構イケちゃった。結局、人は雰囲気なんだと思ったね。パッと見でギャル男で、金持ってそうに見えればいいんですよ。
人には、一切期待しない――だから、ひとりで生きる
俺が特殊な人間みたいな空気だけど、そもそも、ずっと人と一緒にいたい人なんて、いる? ずっと気を張らなきゃいけないし、しんどくないですか? 誰にでも、ひとりの時間が必要ですよ。
――社会も、どんどん「おひとりさま」に寄り添ってくる流れになったのかな? と思いますが、将来について漠然とした不安を抱えることはありますか。
不安は、ありますよそりゃ。40歳くらいのとき、「お前、本当に結婚しないのか」って、親からも他人からもいろいろ言われたんです。結婚したくないからしないだけなんだけど、周囲に言われ続けると「あれ、結婚しなきゃいけないのかな?」って思う時期はあった。
今は仕事で、こうやって人と会話することもあるけど、完全にひとりになったときに悩むのかな? とかね。でも結局さ、結婚したからってなんの保証もないよ。離婚するかもしれないし。だったら、俺は最初からしないでずっとひとりでいたい、ってだけ。
――結婚って、契約でしかないですからね。
そもそも、俺は人には一切期待しないし、他人を信じない。昔は人を信じてたんですよ。でも騙されて、裏切られることが続いてね。「今度は信じてみよう」と思っても散々だったから、こんな人間になっちゃったんです。人は嘘つくし。俺もそう。クズなんですよ。だったら、最初から期待しないほうがいいじゃないですか? 人もモノも、将来どうなるかなんてわからない。良かれと思って手に入れたものが後から重荷になることもあるし、「じゃあ、俺はずっとひとりで生きよう」って考えるようになったわけですよ。
――でも、マネージャーさんなど、ビジネスパートナーとして信頼している人はいるのでは?
いやいや、いきなり会社の金を持ち逃げしていなくなるかもしれないよ? まあ、限りなく信頼はしてるけど、完全に信じることはできないですね。仕事も全部ひとりでやりたいです。
そうですね。でも、本当は嫌です。上場企業の社長みたいに他人に任せる才能がある人は凄いし、だからこそ成功するんだと思う。メルカリって今、社員何人いるの?
――グループ連結で1800人です。
うわあ、すごいですね。そんな人数が関わるの、無理だわ。絶対働きたくない。
――(笑)。
俺も、仕事できる人を見つける能力があればもっといろんなことができるんですけど、そもそもちゃんとした人って少ないんですよね。
会社組織で偉そうにしてる人だって、結局下の人が頑張ってるだけのケースも多いじゃん?これからは、もっと個人主義の世界になればいいと思うんです。YouTubeやSNSで個人が発信して、評価されて、面白い人同士が繋がって、ダメな人がいなくなる世界が理想ですね。
ヒロシ/1972年1月23日生まれ。熊本県出身。
ヒロシ・コーポレーション所属。
近書に初のキャンプ本『ヒロシのソロキャンプ』(学研プラス)が発売。
累計部数7万部を突破!
2020年8発には自身のオリジナルキャンプブランド『NO.164』を立ち上げた。自身が撮影編集を行うYouTube『ヒロシちゃんねる』は99万人の登録者数がいる(2020年10月21日現在)。レギュラーにはBS-TBS『ヒロシのぼっちキャンプSeason2』(毎週火/23:00)BS朝日『迷宮グルメ異郷の駅前食堂』(毎週金/21:00)。熊本朝日放送『ヒロシのひとりキャンプのすすめ』(第1・3土曜24:00)などがある。オンエア情報は公式HP http://hiroshi0214.com/にて掲載中!