アウトドアレジャーの王道「釣り」。コロナ禍に三密を回避しながら楽しめる趣味として、近年は若い世代や女性からの人気が高まっています。60、70代でも現役で嗜む人は多く、「一生モノの趣味」として今からでも手を出してみたいところ。
都内でアパレルブランドやサンドイッチ店を手掛けるクリエイター、山本海人さん(36)は30代になってから釣りにどっぷりはまってしまった一人です。2019年に東京都内と神奈川県・真鶴半島の二拠点生活を始め、大病を機にリハビリがてら海釣りを開始。今では大雨でない限り、朝6時から9時に海に出て釣り竿を振るうのが週末のルーティーンとなっています。
「ルアーはいつもメルカリで探しています。釣りの先輩たちが手放したモノのほうが使い勝手がいいので」と笑う山本さんの倉庫には、釣り道具がいっぱい。初心者にもオススメの愛用アイテムとともに、釣りのある生活の魅力を教えてもらいました。(取材・執筆:小野洋平/やじろべえ、撮影:小野奈那子、編集:メルカリマガジン編集部、ノオト)
この世の全ての魚を釣りたい
山本 真鶴での生活がきっかけですね。3年前に離婚したんですが、当時の東京の家には犬2匹とベッドくらいしか残っていなくて。そのまま1人で住むのはもったいないし、東京に居心地の悪さも感じていたので、親の別荘がある真鶴で暮らし始めました。
最初は仕事以外はやることがないし、友達もいなかったので、毎日ぼーっとしていたんです。でも、目の前には海が広がっていた。じゃあ、小5くらいに父親とやっていた釣りでも始めてみるかなって。
――リハビリにもなった、と。改めて、釣りの楽しさを思い出しましたか?
山本 昔に父親とやっていたのは渓流釣りでした。週末いつも朝4時に起こされては車で移動して、川に着いたら怒られながらエサや糸の付け方を教わるという、星飛雄馬・一徹親子みたいな釣りで全然楽しくなかったんです(笑)。大人になってからはほとんどやらず、釣り道具すら持ってませんでした。
クラブとか飲み会だったら「何の仕事しているんですか?」とか、多少なりとも個人的な話をしなくちゃいけないじゃないですか。でも釣りではお互いプライベートの話はせず、釣りの話だけで盛り上がれるのが心地いいんです。仲間と一緒でも、1人でも楽しめる。そういう意味で、釣りは新しい言語といえるかもしれないですね。
※サビキ釣り:かごに入れたコマセ(エサ)を海中に拡散させて魚を寄せ集め、それを「サビキ」と呼ばれる釣り針が枝分かれに付いた仕掛けで釣り上げる方法。針にエサを付ける必要がなく、仕掛けを足元に垂らすだけでいいので、初心者でも楽しみやすい。
――友達を見つけやすい趣味でもあるかもしれませんね。
山本 あとはやっぱり、魚を釣り上げた時の喜びですよね。大げさでなく、毎回宝くじが当たったくらい嬉しい。
すっごくわがままですけど、経営しているサンドイッチ屋のフランチャイズ展開も、気がついたら街のど真ん中よりも川や海が近いところに積極的に営業を掛けちゃっていたんですよ。北海道の旭川のお店に声を掛けたときも、この時期なら石狩川の上流で鮭が釣れるなと思って(笑)。
――公私混同がすさまじいことに。
山本 今ではこの世の全ての魚を釣り上げて、自分の魚図鑑をつくるのが夢の1つになっています。そのためにはどんな種類にも対応できる竿やルアーなどが必要で、釣りにハマればハマるほど道具がどんどん増えてしまうのも仕方ないですよね。
何でも釣れる1本 ヤマガブランクス「ブルーカレント85/TZ」
山本 僕が愛用しているのはヤマガブランクスの「ブルーカレント 85/TZ ナノ オールレンジ」です。この1本があれば、何でもできてしまいます。
山本 大物なら強度があった方がいいとか、岩場だったら長い方がルアーをより遠くに投げられるとか、ロッドの選び方もいろいろあるんですけど。
これは小物から大物まであらゆるターゲットを狙うことができます。不意な魚の食いつきにも負けずに対応してくれるし、ルアー釣りにもエサ釣りにも向いている。
山本 しかも長さが2570mmもありながら重さは84gと、めちゃくちゃ軽いんです。だからルアーを飛ばしていて腕が疲れない。海はもちろん、湖もこの1本で完璧に対応できると思いますよ。
山本 シュッとしていてデザインもいいですよね。ちなみに持ち手は自分が持ちやすいように改造しています。
――なるほど。ロッドは最初からハイクラスのものを買ったほうがいいんでしょうか?
山本 長く続ける気があるなら高くても良いものを買うべきかと。中途半端なロッドを買っても、どうせ途中でもっと良いやつが欲しくなるでしょうから。それに、良いロッドを買っておくと、釣れないときに自分のせいにできるんです。
――最初って、どうしても道具のせいにしちゃいがちですもんね。
山本 その点、このロッドは言い訳がききません。初めて買ったのは4年前ですが、今はもう3代目と、同じものを買い続けてしまうくらいお気に入りで。友達にも5~6本は購入させているんじゃないかな(笑)。
ロッドの良し悪しはその人の個性にもよるので、獲物をぐいぐい引っ張るタイプの人は、もうちょっと硬い方が良かったりします。まずはいろんなロッドを触ってみるのがいいかもしれません。
デザインと機能性を併せ持つリール シマノ「ヴァンキッシュC3000HG」
山本 自分はシマノの「ヴァンキッシュC3000HG」も4年くらい使っていて、どのロッドにも装備しています。ポイントは「軽さ」で、シマノ製品のなかで最も軽いんです。
山本 正直、3万円を超えてくるとそこまでの差はないと思っています。なので僕はデザインを重視しました。国産のリールって角張ったり装飾性が強かったりするものが多いんですけど、シマノは無駄が削ぎ落とされた感じが好きで。
――カッコイイ。ヤマガブランクスのロッドとも合っていますね。
ルアーは水の透明度で使い分け アイマ「カゲロウ」、ブルーブルー「シャルダス」
山本 最初は餌釣りもやっていたんですが、最終的にルアー釣りに行き着いたんですよね。釣る場所や釣りたい魚によってルアーを変えているので、40個くらいは持っています。色や形、潜る速度がそれぞれ違っていて。東京と真鶴でも異なるルアーを使っています。
――どのように使い分けるんでしょうか?
山本 東京湾の水って比較的濁っているんで、目立つキラキラしたものや音の鳴るルアーが適しています。対して真鶴は水が綺麗なので、より魚にリアルなデザインの方が釣れますね。
山本 真鶴ではkomomoシリーズのメタルジグ(金属製のルアー)をよく使っています。先端部が鉄でできていて、遠くまで投げることができるんです。加えてそこまで深く潜らないため、岩などに根掛かりもしないんです。
あとは、BlueBlue(ブルーブルー)の「Shalldus(シャルダス)」。これは真鶴で一番釣れたルアーですね。
山本 餌釣りは臭いから!(笑)。
――めちゃくちゃ生理的な話だった。
山本 あとは餌釣りってそのセットアップをそのまま渡せば自分じゃなくとも誰でも釣れるんで、個人的には面白みに欠ける気がして。ルアー釣りはちゃんと本物の魚のように見える動かし方をしないと針に掛かってくれないので、技術を磨いたり、ルアーを選んだりする楽しさがあるんです。
山本 実は、ルアーはメルカリで探すのがけっこうオススメでして。というのも、釣りを卒業した人が「引退セット」をよく販売しているんですよ。だから、勝手にルアーが厳選されているわけです。
山本 そうなんです。値段もお手頃で、新品だと1,400円ほどするルアーが55個で3,000円とかで売られています。僕も「引退セット」を見つけるとすぐに買ってしまいます。今までに3人のキャリアを引き継ぎましたよ。
――単にモノを買うだけでなく、持ち主が趣味に注いだ情熱を「引き継ぐ」っていいですね。
山本 釣り人から送られてくるアイテムは改造されていることも多いんです。ルアーにアクリルスプレーが塗られていたり、針が変えてあったり、やりたかったカスタムがすでに施されていることもあって楽しくて。新品みたいにキレイな状態にしてから届けてくれることもあります。消耗品なので、ルアーは集めておいて損はないですよ。
細いのに強度抜群 ギアラボの釣り糸「エグザ0.3」
山本 最初は安いモノでもいいと思いますよ。ただ、プロの友達から「糸が唯一、魚と竿を繋いでいるモノだから一番重要」と言われたことがあります。僕は散々調べあげた結果、Gear-Lab(ギアラボ)の「EXXA(エグザ)0.3」に行き着きました。
――数字だけ聞くとなんだかすごい。そもそも釣り糸って細い方がいいんですか?
山本 細い方が風や波の影響を受けにくいですし、キャスト(ロッドを振って仕掛けを放つ行為)した時に距離が出ます。同時に切れやすいデメリットもあるものなんですが、このギアラボの糸はその欠点もクリアしている一品なんです。
釣り人のエチケット フローティングベスト
山本 いや、初心者こそ着るべきだと思いますよ。特にウレタンとか浮く素材でできたフローティングベストはマストだと思います。
やはり真鶴でも釣り人の死亡事故は起こりますし、釣りのプロから一度「ベストを着ない人とは一緒に釣りをしたくない。バイクにヘルメットを被らないで乗るのと同じ」とまで厳しく言われたこともあります。自分の身を守るのはもちろん、釣り人として倫理的にも購入しておくべきです。
――マナーアイテムだったとは知りませんでした、気後れせず着るようにします。山本さんは、どんなフローティングベストを使っていますか?
魚を傷つけずに引き上げ 初心者必携のタモ
山本 そうですね。高い場所から釣った場合、魚を引き上げている最中に防波堤や岩場にぶつけて傷つける、なんてこともないですし、上げるのも楽なので持っておいて損はないです。
山本 持ち手はがまかつ、ネットはメジャークラフト、その他はサンライクと、いろんなメーカーのパーツを組み合わせて使っています。
――バラバラ……! そんなに互換性がきくものなんですね。
山本 そうなんです。各メーカーがパーツごとに別売りしているので、好みのタモを作り上げられますよ。
最近お気に入りのタモが折れてしまったので、このセットはベストというわけではなく、とりあえずのつなぎですね。魚を傷つけないよう、ネットはもっとゴムっぽい質感のほうが好みですし、網目の間隔ももっと広い方が糸が絡まなくて使いやすいです。
――ただ魚をすくい取るにも、使い勝手はまるで違うと。
山本 ロッドのようにタモを4、5本持っておいて使い分ける人もいますからね。
釣果だけが楽しさじゃない
山本 大人になればなるほど、何かをイチから習うのって難しくないですか? だからこそ、趣味なんて思い立った瞬間に始めるべきだと思いますよ。
山本 それもそうですが、早くから腕を磨いていれば年老いた時に「老練な釣り人」になれるじゃないですか。若い釣り人からも尊敬してもらえるかもしれない(笑)。まずは週に一回くらいでいいので、近くの水場で竿を振るだけでもやってみましょう。
――そのうち週イチじゃすまなくなりそう……。
山本 僕の場合もはや趣味を超えて日課になっているので、やらないとソワソワしちゃうんですよね。しない日は「身体が釣りを欲している感覚」があるというか、人生に欠かせないものになっている。もちろん釣れた方がうれしいけど、朝日を見てコーヒーを飲みながら釣り糸を垂らすだけで、もう十分気持ちいいんです。
釣りの楽しさって魚を釣り上げることだけじゃなくて、情景やプロセスといった全体的な要素も重要になってきます。だから毎日、最高の釣りを求めてアレコレ考えるんですよね。たぶん、一生飽きることはないんじゃないかな。
山本海人さん(クリエイター)
趣味:釣り。アパレルブランド「SON OF THE CHEESE」やサンドイッチ店「BUY ME STAND」、蕎麦とバーが融合した「Sober」などをディレクションするクリエイター。東京と真鶴の二拠点を軸に活動中。