みんなはいま、どんな時間を過ごしているのだろう。
こんなときだからこそ、普段は人に見せない「おうち時間」を、ちょっとのぞかせてもらえませんか――メルカリマガジンのそんなお願いに、さまざまな書き手の方が〈寄稿〉というかたちで参加してくださいます。
誰かの自分だけの密やかな時間が、ほかの誰かを安らげ応援することが、きっとある。「みんなのおうち時間」では、多様な家での過ごし方と、とっておきのお気に入りアイテムをご紹介していきます。
(文・写真/ツレヅレハナコ、編集/メルカリマガジン編集部)
自宅にいる時間が増えて早2週間以上。
もともと自宅で仕事をしていたので、会社勤めの人々に比べればさほど変わっていないような気はします。それでも来客が減り、友人とも呑みにいかない日々が続くと、「忙しい、忙しい」とバタバタしていた頃よりも自由な時間は断然に増えました。
そんなときに何をし始めるのかというと、私はズバリ読書と飲酒。これに尽きる!
読書と言っても、私が読むのは食に関する本だけ。子どもの頃から食に関する本が好きで、今や所有するのは500冊以上(書棚写真に写っている本は、ほぼすべて食がらみ)。
実用書として参考にするレシピ本から、ただ眺めているだけでうっとりよだれをたらす本、読めば読むほど「ふむふむ」と知識欲をかきたてられる食文化本……ひとくちに食の本と言っても千差万別なので欲求は果てしないのです。
そこで今回は、久しぶりに書棚から引っ張りだして読みなおした2冊をご紹介します。
まずは実用書の極みから。
『行列のできる定食屋 菱田屋の男メシ!』
駒場東大前駅にある100年続く定食屋「菱田屋」。いつも学生はもちろん、遠方から訪れる客が行列を作る人気店です。
がっつりボリューミーだけど食べ飽きないその秘密は、店主・菱田アキラさんの探求心。しょうが焼き、麻婆豆腐、メンチカツ……どこにでもある定番メニューばかりなのに、一口目で感動するほどどれもずば抜けてうまい!
その極意を惜しみなく、わかりやすく紹介してあるのが本書。たとえば「しょうが焼きは、いわば蒸しもの。半生で火を止め、ふたをして余熱で蒸らすと肉がしっとり!」。な、なるほどーーー。目からうろこ。同じ材料なのに、確実に仕上がりに差が出るポイントがつづられています。
発売当時は、私も片っ端からつくりました。そして、大いに肥えました……。だっておいしすぎるんだもん。ご縁があって、帯の文を書かせていただいた(「この白メシ泥棒~!」)のも良い思い出。
引きこもりで「コロナ太り」なんて言葉ができている昨今、開き直ってまた「菱田屋太り」でもしようかな(あかん)。
『最古の料理』ジャン・ポテロ
アッシリア文学の第一人者であるとともに料理愛好家でもある著書が、楔形文字で記された最古のレシピを解読して語るメソポタミア文化論。
……と言われても、なんじゃそりゃという感じだったのですが、読み始めたら止まらない。なぜかといえば、どれも意外なほどにめちゃおいしそうなのです。そして「レシピの書き方」という意味でも大変興味深い一冊。
「鹿肉の煮込み」「ビーツの粥状煮込み」「栽培種の蕪の煮込み」……全部煮込みじゃないかと思ったものの、なんといっても「最古」なので原始的な調理法のみなのは当然。羊肉や鹿肉に合わせるのは、コリアンダーやクミン。そんな時代からスパイスがあったんだなあ。そして、なんとも個人的に好みな組み合わせ。
レシピを見ていると「これには羊のもも肉が必要である。お前は水を用意する。お前は塩、コリアンダー、ポロネギを加える」と、まさかの命令口調! なんだか斬新……自分で作れる気はまったくしないんですけれどね。
最終的には西欧の食文化に欠かせないパンとワインにも考察が及び、読んでいるとこの時代の人々の豊かな食卓が目の前に広がるよう。羊をスパイスで煮こみ、「灰焼きの平パン」を食べ、赤ワインを作って飲んでいたんだなあ。それを想像してみるだけで、思わずのどがゴクリとなってしまうのです。
〔おまけのレシピ〕フレッシュミントのモヒート
私の読書は、主に台所にある丸椅子に座っておこないます。お供は、その日に飲みたいお酒。
ふだんはビールやワインが多いけれど、時間があるときは簡単なカクテルを作るのも楽しいですよ。
今回は、フレッシュなミントを使った「モヒート」のレシピをご紹介します。さわやかな香りのお酒片手に、のんびり読書は最高! ただし呑みすぎると、同じ本を何回読んでも新鮮な気持ちで読めてしまうのでご注意を…。
材料(1人分)
ミント 片手に乗るくらい
ラム酒 グラスの底から1~2㎝
砂糖 小さじ1/2~1
ロックアイス グラスたっぷり
炭酸水 適宜
グラスにミントを入れて、箸の裏などでガシガシつぶして香りを出す。
2
砂糖、ラム酒を加えて氷を入れ、炭酸水を注ぐ。マドラーでゆっくりとかくはんする。
〔ポイント〕
ラム酒は安いものでよいので、ミントはケチらず入れて箸の裏でしっかりつぶすこと。砂糖を必ず加えること。そして、冷蔵庫の氷ではなく市販のロックアイスをぜひ! 少しの出費で贅沢気分が味わえます。
食と酒と旅を愛するフリー編集者。著書に『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)、『ツレヅレハナコのじぶん弁当』『ツレヅレハナコのホムパにおいでよ!』(ともに小学館)、『ツレヅレハナコの薬味づくしおつまみ帖』(PHP研究所)『食いしん坊な台所』(河出文庫)ほか。
Instagram:@turehana1