60歳でメルカリにどハマリ 篠井英介さんの“頑張らない”お片づけ

好きなものと生きていく#04 篠井英介

「頑張らない、欲張らない。それが僕のメルカリの流儀ですね」そう語るのは、還暦でメルカリデビューした俳優の篠井英介さんだ。1月に出演した『アウト×デラックス』(フジテレビ系)で、ディープすぎる「メルカリ愛」を披露し大きな反響を呼んだ。あくまで楽しむ感覚でモノを売るという篠井さんに、肩の力の抜けた独自のお片付け術を伺った。(編集/メルカリマガジン編集部、撮影/熊田勇真)

いつどうなるか分からない人間は、身綺麗じゃないといけないなって

「わりと簡単だから、やってみたら?」

そろそろ身辺整理をしなきゃと思うの、と友人に話した時の何気ない一言だった。60歳になり、若い頃に買った陶器の置物や頂き物の洋服を、どうしたものかと思いあぐねていた時だ。捨てるには忍びないし、誰かにあげようにも相手が思い浮かばない。その夜、友人に勧められて、おそるおそる初めての「アプリ」をダウンロードしてみた。メルカリ、聞いたことのない名前だなと思った。

「還暦を迎えて、身の回りを綺麗にしておきたいと思ってお片づけすることにしたんですね。僕は独りものなので、看取ってくれる人もいないでしょ? 変な話、いつどういう風になるか分からない人間ってね、身綺麗じゃないといけないなって。実家の方に弟たちがいるんですけど、僕が死んだ時に持ち物がぐちゃぐちゃだったら可哀想だから」

篠井英介さん、60歳。1987年の劇団旗揚げから30年以上のキャリアを持ち、その個性的な存在感と幅広い役柄で知られるベテラン俳優だ。そんな篠井さんが今年の1月、『アウト×デラックス』(フジテレビ)に出演し、意外にもディープな「メルカリ愛」を語ったことから大きな反響を呼んだ。

勢いで始めたメルカリにびっくり

「最初はおっかなびっくりでしたよ。これまでAmazonでお買い物をすることはあっても、ネット上で自分のものを売るなんて思いもつきませんでしたから。でも実際にメルカリを覗いてみると、本当にいろんなものが売られているんだなあってびっくりして。それに、みなさん正直に『これは一度使いました』とか『新品です』とか、そういうことを書いてらっしゃるでしょ。あ、ちゃんとした交流があるんだ、面白いなーと思って」

そうやってしばらく眺めるだけだったが、仕事が休みだったある朝、ふと、やってみるか、という気持ちになった。初めて出品したのは、使わないまま棚に眠っていたブランドものの食器だ。

「とても高価なものをいただいたんですが、もったいなくて使わないわけですよ。でもいいものなので、捨てるわけにもいかない。どうしよう、と思った時にメルカリを思い出したんです。売れた時は、もうびっくりしましたねえ。買い手がついて、メールが来て、梱包して、郵便局に持って行って「メルカリなんですけど……」って言ったら、「はい!」ってバーコードをピッてやって、おしまい。拍子抜けしました(笑)。メルカリのすごいところは、お相手も自分も匿名のまま送れるんですね。よく分からないまま、えいや!って感じで始めたんですけど、使ってみてからびっくりしましたね」

見ず知らずの人と“心通じ合う”ロマン

俳優という職業柄、匿名配送ができるのも有難いという。だが、見知らぬ人とのやりとりの中で感じたのは、思いがけないロマンだった。
「匿名同士とはいうものの、コメントでのやり取りはできますよね。『これ欲しかったんです』とおっしゃっていただいたり、『このシリーズの別のものもお持ちじゃないですか?』なんていうお問い合わせもいただくんです。そのうちまったく見ず知らずの、どこに住んでいるのか、男の方か女の方か、お幾つの方かも分からないお相手と、会話を楽しんでいる自分に気づいたんですね。丁寧に交流できると、ちょっと大げさかもしれませんが“心が通う”瞬間があってとても心地いいんです」

「こんな綺麗な梱包は初めて」と言われたとき、褒められたみたいで嬉しかった

自分がもう必要としないものを、必要としてくれる人がいる。捨てなかったことにより、誰かが喜んでくれることが嬉しい。

「でも名前が分からない分、お互いに不安なので、やっぱり文章とかやりとりは丁寧にお行儀よくするっていうのが僕はポイントだと思っていて。一番最初に食器を出品した時、『こんな綺麗な梱包でいただいたの初めてでした、ありがとうございました』ってコメントを送ってきてくださったのね。おーやったあ!って気持ちになりましてね(笑)。なんか自分が褒められたみたいで嬉しかったんですよね。お互いを尊重しながら、いい気持ちで売買するっていうのが、僕にとってはメルカリの一番大事な楽しさのような気がします」

実家に何か送るときと同じように、メルカリでも必ず手紙をつける

そんな篠井さんが、メルカリをはじめた当初から必ずやっていることがあるという。

「必ず一筆書いて、お手紙は添えますね。僕は人に何かお送りする時に、手紙をつけるのって常識だと思っていたんです。ものだけを送るってしたことないんですね。実家の母に何か送るときも、一筆箋にちょっとメッセージ書いたりして送るので。やっぱりそういう小さなことでも、もらった人がちょっと嬉しい気持ちになるかな、と思うんですよね。大事にはしていたけれども、一度は自分の持ち物だったものが人のところに行くわけだから、せめて心を尽くしたい」

リサーチは一切しない、手間をかけないのも続けるコツ

相手にもそんな篠井さんの心意気が伝わるのか、「有難いことに、評価は今のところすべて『良い』なんですよ」と笑う。さらに、値付けに関しても独自のルールがあるという。

「よく驚かれるんですが、僕は販売価格を決める時、リサーチしないんですよね。普通は定価いくらとか、中古ではどのくらいとか、ちゃんと調べるみたいなんですけど。僕はもう感覚なので、『自分だったらこのくらいの値段でしっくりくるかな〜』って、ぱっと決めちゃう。もちろん大事にしてきた思い出の品物の場合は、叩き売りみたいなことはしたくないなっていうのはありますけどね。基本的には、お金儲けのためにやっているんじゃなくて、身辺をすっきりさせたいからやっているので。あまり金額にこだわりすぎず、手間をかけないのも続けるコツかもしれませんね」

頑張らない、欲張らないが僕の流儀

いまでは断捨離も進み、だいぶ部屋もすっきりしてきた。ただ、自宅の地下にあるトランクルームを含めると、もうすこし時間はかかりそうだ。

「まだまだメルカリに出すものはありますね。ただ、僕みたいな年代だと、あんまり熱中しすぎないことも大事だと思っているんです。ほどよく余暇に、楽しみとしてやるのがいい。あんまり頑張って欲張って、一気に5つも6つも出品してしまうと、もう頭がついていかないんですよ(笑)。そんなに上手に割り振りできないので、混乱するんですよね、僕らの歳は。いま心がけているのは、1個づつ出品して、売れたらまた次のものを出すということ。いっぺんにやらない方が、重荷にならないですよね。あくまでエンジョイするっていう感じを忘れないようにしています」

それでも見てくれた人の「お目めのマーク」がたくさん付いていると楽しい

出品するのは、たいてい仕事が休みの日。しかし決して義務にはせず、あくまでその日の気分で決める。

「リビングでぼーっとテレビを見ながら、あ、今日ちょっと時間あるなーとか思って。あとどこ整理したらいいんだっけ、トランクルームの中どうなってたかなあ、とか考えるんです。で、何か思い当たるものがあれば持ち出してきて、よしやるか、って。ちょっとこう、スイッチを入れて、机の上のものをよけてパンパンパンって写真を撮って。大きさが分かりづらいなと思ったら、メジャーを出してきて測ったり」

小一時間で出品したら、あとはあまり気にしすぎずに放っておくのも篠井流。

「なかなか売れないなって時でも、放っておきますね。まあでも、出品した日だけはちょっと気になるので、お昼にアップしたのを夕方になってどうなってるかな?って見たりはします(笑)。そりゃあ楽しいですから。見てくれた人の「お目めのマーク」が付いていると、わぁ、たくさんの方が見てらっしゃるんだなあって嬉しくなるんです」

同世代にこそメルカリを気ままに使ってみてほしい

メルカリというと、やはり若者が使っているというイメージがまだまだ強いという。しかし篠井さんは、自宅にいながら売買できるメルカリに「自分と同世代の人こそチャレンジしてみてほしい」と背中を押す。

「やっぱり、最初はおそるおそるですよね。可能であれば、1回目は使ったことがある方と一緒にやるといいですね。そういう人がいないのよっていう方は、しくじってもいいからやる(笑)。挑戦してみないよりは、一度やってみればいいんです。僕も含めて老人って「もう、どうしていいかわかんないから、やめた!」ってよくあるんですけど、別にそれでもいいと思います。また1週間後でも2週間後でも、もう1回トライしてみるかっていう気持ちになったら、やればいい。僕もお仕事をしているので、休みの日にお片づけの続きをやろうと思ってはいるんですけど、忙しいときは無理してやりません。今日は外で散歩したいからメルカリまた今度でいいや〜、って時もたくさんあります。でもある程度歳を重ねた方の使い方は、それでいいと思うんですね」

メルカリを通じて、ほどよい「適当さ」も、新しいものと付き合う秘訣と知った篠井さん。

「身辺整理でメルカリを楽しむコツは、頑張って早く処分しなきゃって思いすぎないこと。1つ出品して、よっぽど何ヶ月も半年も売れない時は、次のものを出してもいいんですけど、欲張らない。それが僕のメルカリの流儀ですね。お家で出品も発送もできるので、僕らの世代にこそおススメですね。もう僕と一緒にやりましょうみたいな感じです(笑)」

篠井英介(ささい・えいすけ)
俳優。1958年12月15日生まれ、石川県出身。1984年に友人と共に劇団「花組芝居」を旗揚げ。1990年に退団。以降、数々の舞台で現代劇の女方として活躍。主な代表作品に『欲望という名の電車』(主演:ブランチ役)や『天守物語』(主演:富姫役)など多数。中性的な役や悪役など、独特な個性で異彩を放ちドラマ、映画などでも活躍するほか、バラエティ番組にも多数出演している。近年の主な出演作品に<舞台>新派「夜の蝶」、<ドラマ>「昭和元禄落語心中」(NHK)、「トレース~科捜研の男」(CX)、「3年A組-今から皆さんは人質です」(NTV)、映画「マスカレードホテル」他多数。2014年に石川県観光大使を任命され、地元石川県の振興にも努めている。公式HP

WRITTEN BY

宮川直実

(みやかわ・なおみ) 編集者。猫3匹と暮らす。好きなものは、コーヒー、プロレス、処女作と未完の大作。

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