2009年に結成され、「永遠に中学生」をコンセプトに掲げているものの、メンバーは19歳から23歳と、すでにレディーへの道を歩んでいるアイドルグループが私立恵比寿中学、通称「エビ中」だ。デビュー当時はステージのつたなさから「King of 学芸会」を自称していたものの、現在では彼女たちの歌唱力は高く評価されている。今年は「東京オリンピックのスペシャル応援団員」に任命される活躍ぶりだ。
そんなエビ中たちに「好きなもの」を尋ねると、「私たち、めちゃくちゃバラバラだよね」と、顔を見合わせて笑う。真山りかさん、星名美怜さん、柏木ひなたさん、小林歌穂さん、中山莉子さんに好きなものとそのこだわりについて話を聞くと、それはそのまま、グループの成長と並行して個人の内面も充実させてきたアイドルたちの物語だった。(執筆/岡島紳士、編集/メルカリマガジン編集部、撮影/Yuichi Tagawa)
ちっちゃい時から洋服がとにかく好き
メンバーの中でも特にファッションが好きなのは、「エビ中の今どき革命ガール」がキャッチコピーの星名美怜さん(22)。そのコピーどおり、ファッションへのアンテナは常に張っている。
「ちっちゃい時から洋服がとにかく好き。お母さんが洋服好きで、子供服のいろんなブランドをとにかくいっぱい着せてもらってました。そのせいか、物心ついた頃から『これ着たくない』『これ着たい』とか、好き嫌いをすごいはっきり言うようになって(笑)」
今でも中学生の頃の服を捨てずに持っていて、たまに着ているそうだ。衣裳については基本的にはスタッフに任せているが、「『もうちょっとここを詰めたい』とか『ここの位置をあげたい』とか、意見を聞いてもらってたりします」と、こだわりを見せる。
ちなみにメンバーそれぞれの好きなファッションは……?
星名「タイトなシルエットとか、スタイルが良く見えるもの」
真山「下北系? 上も下もだぼっとした感じで、とにかく重ね着が多い感じ」
柏木「スポーティーで、スニーカーが好き」
小林「牛の顔のリュックとか、デザインがシュールなもの」
中山「大人っぽいものに憧れるけど、まだ10代ということで可愛らしいものも着ます」
と、バラバラ。しかし、一緒にいるとどこか共通した雰囲気を持っている、不思議なグループなのだ。
最初にお酒を飲んだのが球場なんですよ
柏木ひなたさん(20)が好きなものは野球で、ご贔屓の球団はヤクルトスワローズ。根っからの「つばめ女子」だ。父親が野球好きだったため、幼い頃からテレビ中継を観ていて、気づけば自分自身もハマっていたという。
「野球の魅力ですか? いろいろあります。例えば負けると悔しい思いはありますけど、その負けた中でもMVPの選手がいたりして、『この人すごい良かったな』とか思えるのがいいなって」
テレビで観るだけでなく、実際に球場まで観戦に赴くことも少なくないという。野球観戦には試合を観る以外にも、欠かせない魅力があるそうだ。
「球場の売店のご飯が美味しいんです。神宮球場だとネット裏の『欅』っていうお店があって、そこの牛丼がすごい美味しいんですよ! あと、ハタチになって最初にお酒を飲んだのが球場なんですよ。『やっぱりお酒を最初に飲むなら球場だな』って思って(笑)」
野球に関しては、グループのメンバーにちょっとした不満があるそうだ。
柏木「みんな、野球のルールを教えても、学ぼうとしてくれないんですよ」
小林「難しいから……」
星名「2016年に『セ・パ交流開幕戦』の始球式をグループでやらせていただいたんですけど、隣のひなたの解説を聞きながらだったから、分かりやすくて楽しかった」
柏木「みんなセ・リーグとかパ・リーグとかも何も分かってなかったんですよ。その後、メンバーに野球クイズを出して。例えば『1塁に走者がいて、打者がホームランを打ちました。何点入りましたか?』っていう質問をしたんです。『9点!』とか、すごい謎の答えが返って来て(笑)。満塁ホームランでも4点しか入らないのに!」
真山「でもおにぎり君だけ覚えたよ!」
柏木「おにぎり君? おかわり君だよ!(笑)」
野球好きを公言することにより、野球ファンがエビ中ファンになるという現象も起きている。星名さんが「ひなたの握手会のレーンだけやたら、野球のグッズを着た人が多いよね」と指摘すると、柏木さんはこう笑う。
「いろんな球団のユニフォームで来られるんですよ。私もエビ中のファンの方と話してるというより、単に野球の話をしに来たおじさまと話をしているみたいな感じになってます」
女の子のファンに「こうなりたい」と思ってほしい
最年少の中山莉子さん(19)が好きなものはファッション、そしてメイク。ファッションについては可愛い系、カジュアル系など、ジャンルにはこだわらないタイプとのこと。「美怜ちゃんとりかちゃん世代の、10代にはちょっとまだ早いかなくらいの、背伸びした大人っぽいものも好き」と言う。
「たくさんの方に見られるお仕事なので、いろんな洋服を着たいなって。女の子のファンに、『こうなりたい、こういうのを着たい』って思ってもらえるようになりたいなって思います。インスタをやっているんですけど、コメントを書き込んでもらえるのは嬉しいですね。それを読むと、『自分もどんどん進化していきたいな』って、励みになります。憧れているのは横田真悠ちゃん。モデルとしてだけでなく、ドラマとか演技のお仕事も幅広くやられていて好きです」
メイクに関しては、ネットで調べて自分なりに研究しているという。
「中学生ぐらいの時メイク道具をすごい買ってました、顔は一つしかないのに(笑)。だけど、今はお金はメイクだけじゃなくていろんな所にも使いたいなって思っているので、最近は見るだけです」
田村ゆかりさんにライブの楽しさを教わりました
真山りかさん(23)が好きなのは音楽、特にライブ。声優の田村ゆかりさんが好きな「王国民(ファンの総称)」だという。
「ゆかりさんのライブって、お客さんが一緒になってコールをしたりとか、手拍子したりとか、口上を入れたりとか、アイドルのライブ現場と似てるんです。それをきっかけに、いろんなジャンルのライブを見てみようと思って、最近はよく邦ロックとかバンドさんのライブに行かせてもらうことが多いです。それぞれ文化が違っていて、お客さんの応援の仕方や雰囲気が違うのが面白い。同じようなリズム感でも、ラウド系だどヘドバンを入れるのに、ポップス寄りのバンドだと手拍子だったりとか。ライブ会場には、そこにしかないものがあって楽しいですね」
ライブ鑑賞で得たことを、エビ中のライブにフィードバックすることもあるという。
「メンバーに提案することはあります。『タオルを回さない?』って言って回し始めたのが『MISSION SURVIVOR』という曲だったり。エビ中にはいろんなジャンルの曲があるので、勉強になることは多いです」
部屋の壁に『押す』っていうプレートを貼ってます
「私が好きなものは、シュールなものです」と語るのは小林歌穂さん(19)。いろいろなグッズを集めているという。
「二重螺旋のDNAの形のようなイヤリングとか、『押す』とか『引く』とか『土足厳禁』とか書いてある標識というか、業務用のプレートを集めてます。東急ハンズに売ってるんですよ。買ったら部屋に飾りたいなって思うんですけど、でもどこに飾ったらいいか分からないので、とりあえず何もない部屋の壁に『押す』っていうプレートだけ貼りました。押したくなる感じで貼りました」
それ以外にも、猫の顔の形のICカード入れや、牛の顔が大きくあしらわれたリュック、たぬき柄のポーチなど、かなりの動物グッズ好き。また、独自のユーモア感とゆるさが人気のイラストレーター・今井杏さんのファン。イラストは描くのも好きで、グループ内でもいつもその役割を担っているという。
中山「iPodケースも作ってくれたりしたね」
星名「一回手芸にハマってた時期があったんだよね。その時に、小さいポーチみたいなのをくれた」
小林「下手くそながら作ったものを(笑)」
柏木「一人一人にね」
真山「『そんなバナナ』って書いてあった(笑)」
好きなものが違うから、グループで知識が増えていく
ここまでメンバーの好きなものとそのこだわりを聞いてきたが、アイドルという職業上、本当に「好きなもの」をなかなか表に出せず、ストレスが溜まったりはしないだろうか。
真山「うーん……あくまで私の例ですけど、普段の自分とアイドルである自分をうまく差別化できるというか。だからこそ普段の趣味はもっと没頭できるし、アイドルとしてのお仕事はもっと頑張れる。他に好きなものがあるから、アイドルを長く続けることができているのかもしれないですね。もしかしたらアイドルじゃなくなったときに、その趣味をいかした仕事ができるのかもしれないので」
中山「それと、最近はインスタを個人でやらせてもらっているので、そこで好きなものを発信できるんです」
真山「インスタを始めた頃に、ファンの人に『無理しなくていいんだよ』って言われたんですよ。それまでアニメが好きっていうことしか出していなかったから。もともとメイクとかファッションとか、女の子らしいこともすごい好きなんですよね」
星名「インスタを始めてからは、個人の内側というか、たしかにそれまで出せていない部分が出せるようになりましたね。趣味があると、それを休憩みたいにできます」
柏木「私はインスタをやっていないので、ファンの方に謎の女みたいな扱いをされてます(笑)」
小林「でも、本当にこうやって取材で話してても、話題がバラバラだよね」
星名「好きなものが違うと、話題をどんどん変えていけたり、自分の知識が増えたりするのがいいですね」
「私たち、趣味がめちゃくちゃバラバラだよね」
— メルカリマガジン (@MercariMagazine) March 26, 2020
そう顔を見合わせて笑う、エビ中こと私立恵比寿中学@ebichu_staff。それぞれの好きなものについて話を聞くと、それはそのまま、グループの成長と並行して個人の内面も充実させてきた、アイドルたちの物語でした。https://t.co/A4aKCMRAnP pic.twitter.com/qQT19cOtco
私立恵比寿中学(しりつえびすちゅうがく)
2009年8月結成、現役中学生が1人もいない「永遠に中学生」6人組グループ。通称「エビ中」、自称「King of 学芸会」。2012年5月5日、「仮契約のシンデレラ」でメジャーデビュー以降、全シングルがオリコントップ10入り。翌年12月、初のアリーナ単独公演をさいたまスーパーアリーナで開催。当時の日本人アーティスト史上、デビュー最速記録を打ち立てる。アリーナクラスのコンサートから夏の単独野外フェス、バラエティー、映画、舞台、モデルなど縦横無尽に活躍中。「東京オリンピックのスペシャル応援団員」としても活動。