植物2020.05.08

気楽に始めるズボラな家庭菜園で、育てて楽しい野菜10選

自宅で過ごす時間に少し変化がほしい、そう思ったら野菜を育ててみよう。5月は家庭菜園のスタートにおすすめの季節。アウトドアや料理関係を中心にフリーライターをしている玉置標本さんに、簡単にはじめられる家庭菜園の楽しみ方を教えていただきました。
 
(執筆・撮影/玉置標本、編集/メルカリマガジン編集部)
趣味の一つとして、常になんらかの野菜を育てている。ちょっとオーバーに言えば、その成長は退屈しがちな日々に小さな変化を与え、鮮やかな彩りを添えてくれるオアシスのような存在だ。
 
私はライターという職業柄、家から一歩も出ない日も多いが、水やりや収穫といった野菜との付き合いは気分転換に最適。観葉植物や盆栽も魅力的なのだが、料理することが好きなので、育てた成果物を食べることができる野菜の栽培を優先してしまう。

いろいろ試してみたくて、どんどんとプランターが増えていった時期も

この趣味は畑や庭がなくても大丈夫。プランターや植木鉢さえ用意できれば、誰でもスタートすることができる。自分の家の広さや植物に掛けられる時間に合わせて、コンパクトにもダイナミックにも拡張できる趣味なのだ。
 
例えば盆栽で松を本気で育てようと思ったら、結果が出るまで何年、何十年と待つ気の長さが必要となるが(それもまた浪漫ですが)、ほとんどの野菜は種を撒いてから1~5か月程度で収穫ができるため、意外と栽培サイクルが早いので飽きることもない。また季節によって育てられる野菜は変わるので、年間を通じて楽しめるのも嬉しいポイント。
 
私は園芸や農業の専門家ではないので、育て方は適当だ。成長の様子が楽しめて、味が確認できればOK。次の三か条を胸に、気負わずズボラな栽培をしている。

第一条:とりあえず種を植えてみる

気になる種を買って、とにかく植えてみる。種蒔きの季節が大きくずれていなければ、きっと元気に芽を出してくれるはず。

第二条:少しでも収穫できれば成功

たくさん収穫しよう、形よく育てようと気負わずに、その味が確認できればOKくらいに考えたほうが気は楽だ。

第三条:「買った方が安い」って考えない

小規模に行う栽培は、種や土の購入費を考えたら、作物を買った方が安いことがほとんど。趣味と割り切って、採算は考えない。
 
基本的な栽培方法は専門書などを読んでいただくとして、ここでは育てて楽しく、食べておいしい野菜たちを、3つのパートに分けて全10種類紹介する。上記の三か条で適当に育てても、ちゃんと収穫ができた愛すべき丈夫な野菜たちだ。大丈夫、水さえ切らさなければどうにかなる!

必ず必要なもの

  • 植えたい野菜の種や苗
  • 植木鉢やプランター
  • 鉢底ネットや鉢底石
  • 野菜栽培用の土
  • あると便利なもの、気分が上がるもの

  • 家庭菜園の入門書
  • 安全性の高い殺虫剤、殺菌剤
  • かわいいジョウロ
  • 素敵なシャベル
  • まずは簡単なものから!すぐに育つ定番の葉物野菜

    プランターや植木鉢に鉢底ネット(底の穴をふさいで土の流出などを防ぐ格子状のネット)を敷いて、栽培用の土を入れて水をたっぷり含ませたら、すぐに収穫ができる葉物野菜を植えてみよう。トマトやナスなどは実がならないと食べられないが(だからこそ達成感があるのだが)、葉物野菜であれば成長を見守りつつ、間引きしながら食べ続けることが可能。育成の度合いによって変わってくる味の違いを楽しむこともできるのだ。
    1:ホウレンソウ
    葉物野菜にはさまざまな種類がある。コマツナでもリーフレタスでも好きなものを育てればいいのだが、初心者にお勧めしたいのはホウレンソウだ。なぜかというと、初めての家庭菜園であれば、栽培の開始を誰かに報告したり、収穫したことを連絡したり、問題が発生したら相談したくなるだろう。ということは、「ホウレンソウの報(告)連(絡)相(談)」ができるのだ!

    SNSなどでホウレンソウの「報・連・相」をしたくないですか?

    普通のホウレンソウのバターソテーも、自分で育てれば一味違うはず!

    ごめんなさい、ホウレンソウは忘れて、好きなものを育ててください。
    メルカリならお好みの種を少量ずつ組み合わせて買える商品もあるようだ。
    2:ザーサイ
    普通に買える野菜をわざわざ育ててもつまらないという人は、ザーサイなんていかがだろう。中国料理の前菜などで登場する加工されたザーサイは、茎にできるコブを漬けたもので、素人が作るのは難しい(私は失敗した)。だがまだ若いザーサイを葉物野菜として食べるのは簡単で、これがすごくおいしいのだ。若いザーサイは、育てた人だけが味わえる特権なのである。

    これは畑で育てたザーサイだが、プランターでもこれくらいには育つはず

    若いザーサイの炒め物。ちょっとほろ苦さがあって抜群にうまい

    3:サツマイモの葉
    野菜を育てるのがとにかく不安だという人は、サツマイモの切れ端を栽培することから始めてみよう。そこからイモを収穫するのは無理でも、葉っぱだけなら簡単に育つ。中国や台湾では人気の食材で、日本でも九州などでは食べる人も多い。ほんのちょっとの勇気によって、サツマイモの葉っぱの天婦羅や炒め物、蔓(つる)のキンピラなど、意外なおいしさと出逢うことができるのだ。

    サツマイモなら水栽培でも葉っぱを育てることができる。観賞用としてもかわいい

    プランターに植えれば、このようにモリモリと育ってくれる

    家にあると嬉しい!ちょっとずつ食べられる薬味&ハーブ

    料理に彩りや香りを与えてくれる薬味やハーブを、自宅で育てるとすごく便利だ。買っても量が多すぎて使い切れなかったりしがちな野菜こそ、少量ずつ収穫して使える家庭菜園のメリットは大きい。
    4:シソ
    家で刺身を食べる機会が多いなら、ぜひシソ(大葉)を一鉢用意しよう。自分で釣った魚の刺身と並べることができれば最高だが、もし魚が釣れなくて買ってくることになったとしても、丹精込めて育てた新鮮なシソと一緒に盛り付ければ、食卓の充実度は(気持ち的に)一気にアップ。摘みたてはやっぱり香りが違う。

    なにかと使う機会の多いシソなので、家にあるととっても便利

    5:バジル
    イタリア料理が好きなら、バジルは育てたい。用意した土に種を撒けば、新鮮なバジルが欲しいときに必要なだけ摘める夢の環境が手に入る。プランター菜園では定番中の定番といえる存在だけあって、成長がとても早く、種を撒いてから1か月もすれば間引きしたものが利用できる。そして夏の最盛期ともなれば、食べるのが追いつかないほど育ってくれるだろう。ソースなどに加工して、大量消費することも可能な頼もしい存在だ。

    ついつい種を撒きすぎてしまうので、どんどん消費していこう

    6:エゴマ
    焼き肉好きの方のプランターには、独特の香りが人気のエゴマが相応しい。シソに似た姿だけあって、育て方も同じで大丈夫。新鮮なエゴマでお好みの肉を焼いて巻いて食べれば、自宅焼き肉のグレードが一気にアップ。コチュジャンやニンニクを加えた醤油に漬けて、ご飯を包んで食べるのもヤバいうまさだ。

    独特のクセが焼き肉と最高に合うエゴマも育てたい

    7:パクチー(香菜)
    エスニック派にはパクチー(香菜)やミントが嬉しいだろう。フレッシュなハーブと魚醤(ナンプラーやニョクマム)を用意しておけば、料理のレパートリーは一気に広がる。お手軽にインスタントラーメンを作るにしても、麺を茹でている間に自分が育てた香草を摘んで加えるというイベントがプラスされることで、ちょっとした充実感が隠し味になってくれる。またパクチーに可憐な白い花が咲いて実がなれば、インド料理などでよく使うコリアンダーシードも収穫可能だ。

    好きな人には堪らない存在のパクチー

    プランターで咲かせたパクチーの花は純白だった

    育てて学ぼう!成長を楽しむ野菜

    個人的に一番魅力を感じるのがこの「成長を楽しむ野菜」だ。家庭菜園の喜びは、自分が蒔いた種の成長を学べること。食材としてはよく知っていても、それがどのように育つのか、どのように実をつけるのか、ちゃんと知らない野菜も多いはず。ちょっとした自由研究気分で、じっくりと観察してみよう。
    8:落花生
    ピーナッツの原料である落花生。殻ごと茹でてもおいしい人気の豆だが、この「落花生」という名前の由来をご存じだろうか。それが育てることで確認できるのである。すでに知識として知っている人も、実際にその様子を自分の目で見ることで、きっと感動が込み上げてくるはずだ。

    収穫した落花生の食べ方は、殻ごと塩分濃度3%くらいの塩水で30分ほど茹でるのがオススメ。先に殻から実を取り出して、フライパンで乾煎りするのも香ばしくておいしい。

    実のなり方が特徴的な落花生。夜になると葉っぱが閉じるのも見どころだ

    名前の由来は、地上で黄色く咲いた花の根元が下へ伸び、地中にサヤを作るから。花が落ちて実が生るから落花生

    9:豆苗
    食材として買ってきた豆苗を数本残しておき、プランターに植えてみてほしい。豆の苗と書く豆苗だが、果たしてなんの豆の苗なのかが、数か月後に判明するだろう。もちろんインターネットで検索すれば一瞬でわかることだが、ゆっくりと育てることで答えに辿り着く道筋こそが楽しいのだ。豆苗は蔓(つる)を伸ばして伸びるので、小学生のときに育てたアサガオを思い出して、支柱を用意してあげよう。
     
    何の苗なのかは内緒だが、まだ鞘が柔らかいうちは塩茹でやバター炒めで鞘ごと食べられる。そして中の豆が大きくなり鞘が硬くなったら、豆だけを取り出して焼売の上に飾ってみよう。あえて収穫しないで鞘がカラカラに乾くのを待ち、その豆を戻して「豆かん」を作るのもおもしろい。

    うまく育てば、見覚えのある実がなってくれる

    10:ゴマ
    ゴマの種ってなんだかわかるだろうか。そう、正解はゴマだ。その存在が身近過ぎて、どんな植物なのかがイメージできないゴマの種を撒いて(食用ではなく種用のゴマじゃないと発芽しないので注意)、ゴマにどんな花が咲くのか、どんな実になるのか、その目で確かめてみよう。本来は2メートルくらいに育つ植物なので畑に植えたいところだが、プランターでも少しなら収穫可能だ。
     
    収穫したゴマはそのまま食べてもおいしくない。フライパンで乾煎りしてこそ、あの香ばしさが生きてくる。一緒に育てた葉物野菜を胡麻和えにしたり、サッポロ一番塩らーめんを胡麻マシにして食べてみよう。

    家庭菜園は日常に取り入れられる非日常の空間

    私にとって家庭菜園は、日々の変化を楽しむ一期一会の物語。うっかり水やりを忘れて枯らしたり、謎の虫がやってきて狼狽したりした経験も何度かあるが、そういった失敗も含めて楽しんでいる。そして自分で育てた新鮮な野菜はおいしい。上記の10種にこだわらず、自分が育ててみたい種や苗を手に入れて、気軽に挑戦してみてほしい。
     
    ちなみに家庭菜園の観察は小中学生の夏休みの自由研究にも最適だが、夏休みになってから計画しても間に合わない野菜が多い。もし研究テーマとするのであれば、早いタイミングでしっかりと計画を立てておこう。
     
    さてこの記事を読んで家庭菜園に興味が出てきたけれど、まずは自分で栽培する前に誰かが育てた様子を確認したいという人には、「育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。 実はよく知らない植物を育てる・採る・食べる」という本を強くお勧めしたい。恥ずかしながら私が執筆した本だ。
     
    今回紹介したザーサイ、豆苗、ゴマ、サフランの栽培記録に加えて、コンニャクやカンピョウの手作り、さらにはクズの根から葛粉を精製したり、ドングリから冷麺を作ったりしている。技術的な参考には一切ならないが、植物を育てたり採ったりすることの驚きと喜びが伝われば幸いである。

    「育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。 実はよく知らない植物を育てる・採る・食べる」は、家の光協会から好評発売中!

    (執筆/撮影:玉置標本)
     

    玉置標本
    食材の採取・育成が趣味のフリーライター。週に一度はなにかを捕って食べる生活をしている。最近は家庭用製麺機を使った麺作りも。新潮社『捕まえて、食べる』、同人誌『捕まえて食べたい』『趣味の製麺』シリーズなどを執筆。
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    玉置標本

    (たまおき・ひょうほん)アウトドアや料理系の記事が多いフリーライター。好きなものは食材採取全般と家庭用製麺機。

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