「ハッシュタグが街を『普通』にした」 でんぱ組.incプロデューサーが語るファッションとインターネット

「90年代は、服で人の内面までカテゴライズしてたよね。今は、ネットの普及で人を見た目で判断するな! っていう風潮が強くなってきてる。それはそれで良いこともあるんだけど……」

でんぱ組.incのプロデューサー、もふくちゃん(福嶋麻衣子)は言う。

でんぱ組.incは、2019年から2020年にかけて、90年代をフィーチャーしたアートワークを展開し、その再現度の高さが話題になった。ハイビスカス柄のコートやレッグウォーマーなど、現在ではあまり目にしない奇抜なアイテムは、どこか新鮮に見える。

街を見渡せば、多くの人がユニクロの服を着て、機能性重視のデザインのスニーカーを履いている現在からすると、ちょっと不思議な時代だったかもしれない。

90年代に青春を送った彼女は「ネットの登場で価値観が大きく変わって、ファッションに対する考え方も変化した」と分析する。

確かに街には、かつてのような個性派ファッションをまとった若者は減った。アパレル企業が倒産するニュースも多い。ネットの登場で、ファッションはどう変わったのか?

もふくちゃんと、でんぱ組.incのディレクター・YGQさんに話を聞く。(編集/メルカリマガジン編集部、撮影/黒羽政士)

もふくちゃん(福嶋麻衣子)

1983年、東京都出身。音楽プロデューサー/クリエイティブディレクター。 東京藝術大学音楽学部卒業後、ライブ&バー「秋葉原ディアステージ」、アニソンDJバー「秋葉原MOGRA」の立ち上げに携わり、でんぱ組.incやわーすた、虹のコンキスタドールなどのアイドルや、PUFFYをはじめとして多くのアーティストのクリエイティブ及び楽曲プロデュースを手掛ける。青春時代は原宿で過ごした。

YGQ

1980年生まれ。クリエイティブカンパニーTOTONOY代表。音楽ディレクターとしてでんぱ組.incや様々なアーティストを手がける他、映像監督、フォトグラファーとしても活動中。サウナー文化人をゲストに迎えるサウナトークイベント「サウナイト」主宰。 90年代当時ファッションのお手本はいしだ壱成とコーネリアス。

渋谷・原宿の「普通化」とハッシュタグ文化

──90年代に原宿は個性派で、渋谷はギャル文化で。今は街ごとでファッションの分類ができなくなってきたような気がしています。

もふくちゃん:そうそう! ここ20年ぐらいで変わった気がしてる。90年代には渋谷と原宿のブランドなんて、絶対に相容れなかった。

YGQ:水と油みたいな。

もふくちゃん:……あの頃のブランド、めっちゃプライドあったから! ロリータも原宿駅の「あの橋」からいなくなっちゃった……。

YGQ:今は原宿も普通の人が多い気がする。
──なぜ、渋谷や原宿が「普通化」したんだと思いますか?

YGQ:時代だと思うなぁ。昔は「ギャルでアニメオタク」っていなかったじゃないですか? 今ってファッションだけじゃなくて、いろんな文化が交差してる。

もふくちゃん:私はそれって、ハッシュタグが生まれてからだと思ってる。

──ハッシュタグ?

もふくちゃん:そうそう。インスタの投稿ってハッシュタグをすごくたくさんつけるじゃないですか? それと同じように、自分の中に「#ヴィヴィ子」「#アニメオタク」「#メンヘラ」「#……」「#……」って、たくさんのハッシュタグをババババッとつけるのが当たり前になってる。「自分の中にいくつハッシュタグを持ってるか選手権」みたいな。そのハッシュタグの組み合わせが変でもみんなびっくりしない。

YGQ:やっぱり、ネットのあるなしが大きいと思うよね。90年代後半って、情報源が雑誌メインだった。

例えば僕が買っていたファッション誌って、服以外にも音楽にしろ映画にしろ、扱ってる情報が似てるんですよね。コーネリアスとか、オザケンとか。ファッションから入って、そこに紐づいてるカルチャーを知って「これがかっこいいんだぁ」となって……

もふくちゃん:似てくるよね。同じ系統の服を着てる人は、みんな同じ雑誌を読んでた。

YGQ:でも今って、ハッシュタグ文化と一緒で、ファッションはこういうのが好きだけど、音楽はこういうのが好きで、お笑いはこう、アニメはこう、みたいな、異なる情報を持って生きやすい世の中になった。
もふくちゃん:下妻物語」の衝撃は、今の子が見ても当時ほどの衝撃はわからないと思うんだよね。多分。

──「下妻物語」! 懐かしい。

もふくちゃん:「えーっ! ギャルとヤンキーが!? ロリータとヤンキー、一番かみ合わせが悪い種族じゃん!」みたいな。あれを見た時、みんな驚いたんですよ。でも多分、今の子が見ると、「当たり前じゃん」って思う気がする。

YGQ:当時はセンセーショナルだったけどね。

もふくちゃん:もちろん、良い面もすごくある。「ああいう服を着てるヤツはこういう感じ」っていう、偏見がなくなってきたってことだから。90年代って、偏見っていうか……。

YGQ:斜に構えて見てた。自分のジャンル外の存在を。

撮影:田口まき

もふくちゃん:そうそう。カテゴライズが激しかった。渋谷のギャルと原宿の女の子の張り合いとかね(笑)お互いのことを”下”に見てた。

この20年で、「人を見た目で判断するな」っていう風潮も加速している。「偏見がなくなった」って、良いことの方が多いけど、それは極論、「ファッションにアイデンティティを置かない」ってことだと思うんですよね。

クラブとか学校とかで、「あ、同じブランドの服着てる人だ、仲良くなりたい」っていうのがあったんですよ。昔は、SNS上の出会いがないから、リアルの場で出会うしかなくて、ファッションでの自己主張が仲間探しのひとつだった。

今はSNSがあるから、見た目なんかわからなくても、同じ趣味を持っている人と繋がれる。90年代当時に同じ趣味の人を探すには、マジで洋服を見るしかなかった。

YGQ:洋服が、名刺で武器みたいな感じだった。
もふくちゃん:そうそう。学校でも「あ、あの子HYSTERIC GLAMOURのショップ袋に体操服いれてる!」って感じで、レーダー張ってたもんね。

YGQ:男はBEAMSのオレンジで、女の子は黄色いヒスのやつ。

もふくちゃん:「ヒスのショップ袋持ってるなら、きっと私服はこうなんだ」みたいなのって、今はないよ。アイドルをプロデュースしてる手前、10代、20代の女の子の動向を見ることが多いけど、「量産型女子」であることへの抵抗は今昔に比べると少ないのかなと思いますね。
──今は、みんながユニクロ着てますよね。

もふくちゃん:ユニクロって90年代あったっけ?

YGQ:あったけど、いまほど洗練されてるイメージじゃなかった。

──「ユニバレ」っていう言葉があったような。

もふくちゃん:そうそう、ユニクロ着てるのがバレると、恥ずかしいっていう気持ちがあった。

──ユニクロはデザインもですけど、今は機能性推し。ヒートテック、エアリズムもそうだし、型くずれしにくいとか。90年代のファッションと対極っぽい。

もふくちゃん:一回着たら壊れるから。本当に!

YGQ:歩きづらいし、暑いし……。もふくちゃんが露店で買った針金の指輪なんて、機能性ゼロじゃん。

もふくちゃん:ゼロっていうか、マイナスだからね(笑)。「暑い」「重い」「寒い」のオンパレードだった。90年代めちゃくちゃ流行ったアームカバーとか、機能面で言ったら謎すぎる。

YGQ:男だとGeorge Coxのラバーソールとか。機能的じゃないけど、高いんですよ(笑)。5万円ぐらいする。でも「これを買ったら最強!」「オシャレマンと友だちになれる」みたいな。

YGQさんがメルカリで購入した戦利品。中学生の頃、バンドを始めた時に購入した雑誌。「メン募」のコーナーでバンドメンバーを集めていたらしい。

YGQ:モノに対する憧れも今の時代よりあった気がする。個人売買する雑誌があって、めちゃくちゃ手間ひまかけて欲しい服を買ってたぐらい。

──個人売買?

YGQ:「QUANTO」っていう個人売買の斡旋をする雑誌ですね。辞書みたいに厚くて、ファッションとか、家電とか、カテゴリー別に「これを売りたい」って掲載されてるんですよ。例えば、「GOODENOUGHのTシャツ、黒、Mサイズ、5000円で売ります」っていう文言の下に、売り主の住所と名前が書いてあって。買いたい人は、その住所宛に「これ買いたいんですけどまだありますか?」ってハガキを出して在庫確認する。ハガキ版メルカリみたいな。

──すごい時間かかりません?

YGQ:めちゃくちゃかかります。住所、氏名まで公開されてるから、恐ろしいほどの個人情報が漏洩してますけど(笑)、好きだったなぁ。

「自分も27歳で死ぬと思ってた」カート・コバーン病

──昔のファッション好きな人たちって、「食費を削って服を買う」イメージがありました。

もふくちゃん:それがかっこいいとされていた。でも2000年代以降は、外側にお金かけるより、内面を見ようってなってるよね。服だけじゃなくて、文化とか職業観も保守的になってる気がする。「アートで食っていけないから会社員になろう」みたいな。

──なぜ、そうなったんだと思いますか?

未来が不安っていうのがあると思うんですよね。「冒険するよりも貯金しよ」みたいな風潮が「ファッションなんかに金使ってられるか」っていうメンタリティになってる。刹那的で表層なものよりも、自分の将来に役立つ方にお金をかけたい的な。

──ビジネス書が売れてるのと同じですね。

もふくちゃん:そうですね。ビジネス書とか、自己啓発、「オンラインサロン入ろう」みたいな。自分の商品価値を高めるために中身を磨く。面接のための武器を揃える感じ。

YGQ:みんな着実。「自分の能力を磨こう」とか。

もふくちゃん:ダラッとした未来があることが逆に絶望というか。「90歳までこのまま生きるんか……」って、なんとなくどんより思ってる。
──2000万円貯めなきゃ、みたいな。

もふくちゃん:そう! そんなこと言われたら地獄じゃないですか。「国は何も保証しないんで、とりあえず2000万貯めてください。よーいスタート!」みたいな。そうすると「服買ってる場合じゃない!」「将来のために備えよう!」っていう考えに自然となるよね。

YGQ:失敗とか寄り道する余裕がないよね。

もふくちゃん:若い子と我々の感覚が違うのは当たり前だよね。人生の前提というか……「俺、27で死ぬんで」って思ってたもん。

YGQ:思ってた(笑)。ジミ・ヘンドリックスとかカート・コバーンとか、憧れの人は27歳で死ぬっていう流れがあって、自分も若くして死ぬと思ってた。

もふくちゃん:スターは27歳で死ぬし、1999年に地球は滅亡するから、未来なんてないって教わってたもんね。

YGQ:未来、考えてなかったもんな。
──若く死ぬのに憧れてる人ってあんまり最近聞かないです。

もふくちゃん:いないでしょ(笑)。ローリング・ストーンズだってまだ現役だもん。

アリ・ナシに過剰反応してしまう現代

──価値観が変化した世の中で、でんぱ組.incで90年代をフィーチャーするのはなぜですか?

もふくちゃん:でんぱ組.incのメンバーって、出自が違うし個性があって、バラバラなのが魅力だと思っていて。それが、「原宿のヴィヴィ子」とか「渋谷のギャル」みたいに、あの時カテゴライズされていた子たちに当てはまるなって思ったんです。

撮影:田口まき

自然と「(相沢)梨紗ちゃんはエンジェラー」とか「(古川)未鈴ちゃんはヴィヴィ子」みたいに、この子はこのカテゴリっていうイメージが、でんぱ組.incのメンバーはすぐに思い浮かぶ。それぞれが違う出自で、みんなが個性を大事にして生きていたあの時代と、でんぱ組.incの個性がつながると思った。

YGQ:改めて、90年代はみんな変な格好してたよね。

もふくちゃん:今の偏見がなくなりつつある風潮もいいと思うけど、もうちょっと変な格好してる人が街にいてもいいよね。なんか90年代って「男に媚びない!」みたいなのが雑誌特集になるくらいすごく強かった。渋谷も原宿も媚びに対しての反発がすごかった。

YGQ:それはあったね。

もふくちゃん:なんでだろう? 「男らしさ」「女らしさ」みたいな意識は薄れてきてるはずなのに、今の子たちのほうがモテを意識してる気がする。

YGQ:モテたかったら絶対あんな個性が炸裂した服着ないもんね。

──周りの目が気になってるのかもしれないですね。浮かないように、外さないようにみたいな。

YGQ:ネットがあるから、他人が自分についての評価をスタンプ押しちゃうような。テレビでもネットニュースでも「このファッションはおブスです〜」みたいな。

90年代は良い意味で視野が狭くて、自分の好きなカテゴリでテッペン取ることしか考えてなかったから、加減を知らなかった。

もふくちゃん:ネットがなかったのがデカかったんだよ。80年代とか90年代のコンテンツって、見れば見るほどほんとに人の目気にしてないっていうか、ちょっと脳天気だったなと思うもん。昔のテレビ番組とか今放送したら全部炎上するよね。

YGQ:時代によってモラルは変わるからね。今は今でちゃんとしてると思うし。

──でんぱ組.incのクリエイティブも懐古主義って感じではないですもんね。

もふくちゃん:あの当時を知ってる人からすると「懐かしー!」「切なー!」っていう反応をもらったけど、その文脈を知らない10代の子たちは単純に「かわいい!」って言ってくれたりもしたから。たまたま目についたものを偏見なく受け入れて、そこから冒険が始まるかもしれない。

──2020年に「MILKBOY」を着てるホストみたいに。

もふくちゃん:そうそう! ファッションっていうリアルな90年代をやったから、次は「インターネットの90年代しぐさ」をやりたいなぁ。私は、90年代後半からネットをやってるんですけど、香ばしい時期だったんですよね。恥ずかしー! っていうのがある。

YGQ:キリ番ゲット」とかね。

もふくちゃん:今、コロナの影響でライブも自粛しなくちゃいけない状況だから、ネットを介したコミュニケーションの意味が変わってきてると思うんだよね。それと、ネットの「90年代しぐさ」が合わさった時、絶対に面白い化学反応が起きる。テキストサイトとか、アニメーションgifがバチバチするよ、きっと。

※1 原宿駅の「あの橋」

五輪橋。1964年の東京オリンピックの際に作られた。90年代〜00年代にはロリータの人々が集まる場所だった。

※2 コーネリアス

アーティスト小山田圭吾のソロプロジェクト名。1997年の3rdアルバム「ファンタズマ」は渋谷、原宿の若者に広く聴かれた。ソロになる前は小沢健二と「フリッパーズ・ギター」として活動。

※3 オザケン

アーティスト小沢健二の愛称。1994年のシングル「今夜はブギー・バック」とアルバム「LIFE」がスマッシュヒットし、「渋谷系の王子様」と呼ばれた。

※4 下妻物語

2002年に上梓された嶽本野ばらによる小説。ヤンキーとロリータの友情物語。2004年に土屋アンナ(ヤンキー)と深田恭子(ロリータ)というキャストで映画化された。

※5 HYSTERIC GLAMOUR

デザイナーの北村信彦によるファッションブランド。1986年に原宿に1号店を開く。「ヒス系」という言葉も生まれるほどの人気を博した。

※6 BEAMS

1976年に原宿で創業した、日本のセレクトショップの草分け的存在。初期は原宿や渋谷を中心に店舗展開し、オリジナルブランドも運営するなど、現在も人気。

※7 George Coxのラバーソール

パンクファッションの王道アイテム。底が厚い。

※8 2000万円

老後に生活するために必要な金額。金融庁がまとめた報告書に、老後資金として2000万円が必要と記載されていたことをきっかけに、ニュースなどで話題になった。

※9 ジミ・ヘンドリックス

アメリカのギタリスト、シンガーソングライター。現在でもロック史上最高のギタリストとして評価されている。27歳で逝去。

※10 カート・コバーン

ロックバンド・ニルヴァーナのボーカリスト兼ギタリスト。27歳で逝去。

※11 ViVi子

Vivienne Westwoodで全身を固めた女の子。雑誌ではない。

※12 エンジェラー

ファッションブランド「卓矢エンジェル」を愛好する女の子。

※13 MILKBOY

1974年の設立以来、原宿ファッションを引率してきたブランド。2020年現在では、新宿歌舞伎町のホストに人気という。前編記事も参照。

※14 キリ番

ウェブサイト上にあるアクセスカウンタが、キリのいい閲覧者数になった時のこと。また、その数字の閲覧者数に自分がなることを「キリ番ゲット」と言う。

※15 テキストサイト

ウェブ黎明期に流行した、私的な話題や日記調の文章を中心にしたウェブサイト。当時の人気テキストサイト管理人が、IT企業の幹部になっているケースも。
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嘉島唯

(かしま・ゆい) ニュースポータルの編集者、Buzzfeedの外部記者。cakesでエッセイを連載中。iPhoneとTwitterとNetflixが大好き。苦手なのは、人との会話と低気圧。

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