好きなものと生きていく #38
坂道グループ唯一の中学生にして、櫻坂46の「Buddies」ではセンターを務める山﨑天。今、日本にいる15歳でもっとも激しい「リスタート」の日々を送る一人だろう。センターに選ばれたプレッシャーについては「あんまり…」と言う度胸の持ち主だが、一方で「自分の気持ちを相手に伝えることが本当に苦手」とも語る。しかし、さまざまな変化の時期を経て「グループとしても個人としてもすごく強くなった」と感じているという。「弱音を吐かないというか、吐き方を知らなくて」と、これまでの自分を客観的に振り返られるようになるまで、聡明な15歳の胸の内で何が渦巻いていたのだろうか。(執筆/宗像明将、撮影/伊藤圭、編集/メルカリマガジン編集部)
“味方”がいるから強くなれる
「やっぱり、どうしても周りの方がいないとまだまだ弱いです」
櫻坂46のデビューシングル『Nobody’s fault』のカップリング曲「Buddies」で、堂々とセンターを務める山﨑天。MVでも、空の下でのダイナミックなダンスと、いきいきとした表情が印象的だった。それだけに、生まれ変わったグループの中心に立ったことへの、その言葉は意外なものだった。
「すごく傷ついたり、心が弱ったりしたときに、周りの方に支えられて、私は強くなれたんじゃないかな、と思います。『Buddies』でも、自分は孤独だと弱いけれど、いまここに立てているのは仲間がいるからなんだって実感できました。『誰がその鐘を鳴らすのか?』という欅坂の曲の歌詞のなかに『味方がいる』っていう言葉があるんですけど、自分でも『心が弱ったときに味方がいると本当に心が強くなるんだな』って思いました」
2020年7月16日の無観客ライブ配信「KEYAKIZAKA46 Live Online, but with YOU!」で、山﨑天が所属していた欅坂46は櫻坂46へと生まれ変わることを発表した。そこには「弱さ」への接し方の変化もあると山﨑は語る。
「欅坂の曲は心が弱った部分を自分たちが表現して、聴いてくださった方が、自分なりに解釈したり、『自分ってこういうところがあるな』って受け取り方をするような楽曲だったと思うんですけど、櫻坂は寄り添うような、『自分たちもそういう気持ちがあるんだよ』っていう感じの楽曲で。『そこで次どうしていくか』というのが櫻坂の楽曲では強く描かれていて、『寄り添いながらみんなで進んでいこう』という思いがどの楽曲にも込められているんです。そこはグループとしても個人としても、すごく強くなったところなんじゃないかな、と思います」
弱音の吐き方を知らなかった
山﨑は、2018年、欅坂46に二期生として加入した。当時まだ13歳。大阪から上京して過ごす日々のなかで、周囲の中学生を見て「欅坂46ではない自分」を想像することがあったかと聞くと、「いやいや」と笑う。
「私はもともと苦手なことが多くて。だから自分がしっかりとできていないことを学校でやっている人を、ものすごく尊敬しています。中学1年生の妹がまさにそれで。勉強ができたり、運動ができたり、友達が多かったりとか、自分が全くできなかったことなので、妹をすごく尊敬していて。本当に素直に『すごいな』と思います。私に対して『中学生なのにすごいね』って言っていただくことも多いんですけど、自分はそういう部分が出来ていない分、こっちで頑張るしかないので」
中学生活では、周囲に心を開けない自分がいたという。
「中学校はけっこう難しいな、と思いました。新しく出会う子ばかりで、私はすごく人見知りなのでなかなか周りの子としゃべれなくて。周りの子もすごくいい子だったんですけど、自分があまり心を開けずにいたので」
欅坂46でも、大勢の中で緊張してしまう自分がいたと振り返る。そんな山﨑の内面を察してくれた一期生のメンバーがいた。
「渡邉理佐さんです。もともと『お姉ちゃん』と呼んでいて。自分は弱音を吐かないというか、吐き方を知らなくて、どう言えばいいのか分からなかったんですけど、それを自然と言えるようになったのは、理佐さんの存在が大きいのかな、って思います。しっかり私たちのことを見てくださって、すごく理解してくださっている方だな、と思います。欅坂からのメンバーはもちろん、(2020年に)入ってくれた新二期生の子たちの存在のおかげで心も成長できました。だから『このメンバーでよかったな』と思うことが多いです。自分の中でもすごく忙しい時期があったんですけど、そういうときに周りの方の大切さを改めて実感して、そのおかげで自分の気持ちを少しは前に出せるようになったりしました」
変化したのは山﨑だけではない。櫻坂46となり、グループの雰囲気も大きく変わったという。
「一期生さんがすごくやりやすい空気感や温かい雰囲気を作ってくださっていて、二期生も気にせずにどんどん自分を出せていけています。やっぱり一期生さんがいるからできることが多いです」
山﨑にとってすでに大きな存在だという新二期生。誰が一番面白いかと聞くと、「選べないですね」と笑い、次々と名を挙げた。
「大沼(晶保)ちゃんも、増本(綺良)ちゃんも面白いですし、バラエティでもすごく活躍しているし。遠藤光莉ちゃんもすごくしゃべります。あと大園玲ちゃんとかはとっても話し上手で、きょうだいの真ん中、次女らしいんですよね。それもちょっと意外に思うんですけど、言葉の選び方とかもすごく上手です。今回の表題曲で唯一の新二期生としての参加だったので、やっぱり不安も大きかったと思いますし、本人からもそういう部分は感じたので、みんなで声を掛け合ったりしましたね」
メンバー全員が笑顔、MVで見せた欅坂46から櫻坂46への変化
山﨑にとっては、欅坂46加入以降、初めて最初から制作に関わったシングルが『Nobody’s fault』だった。
「制作期間が本当にすごく楽しくて。『もう一回やりたい!』とか『ずっと制作期間でいいのに』みたいな話をしていました。二期生は初めて本格的に制作に取り組んだんですけど、一期生さんが制作にかける思いや情熱、姿勢を私たちは傍から見ていたので、そこで勉強する部分もたくさんありました。そういった部分はたくさん尊敬しているので、見習いつつ、でも『新しく生まれ変わるから、形にとらわれずになんでもやってもいい』と『Buddies』のときは思いました」
「Buddies」のMVでは、山﨑が笑顔で手招きをするシーンが印象的だ。見る者を新しい櫻坂46の世界へ導いていく。
「TAKAHIRO先生と『もっとこうしたほうがいいんじゃないか?』って相談しながら、みんなそれぞれ一番映えるような動きや、その子が得意な動きを振り付けに入れてもらいました。あと、2番のAメロで一人ひとりが一列に並んでカメラにアピールする部分があるんですけど、あそこは本当に自由で、自分が思う『Buddies』の表現でいいよ、ってことだったので、すべて自然に出た表情です」
自由な表情を見せた結果、新鮮な映像を生みだした。一列に並んだメンバー全員が笑顔なのだ。結果的に、欅坂46から櫻坂46への変化を強く印象づけるシーンにもなっている。そのシーンに触れると、山﨑のメンバーへの愛情が滲みだした。
「『みんなすごいいい表情だな。かわいいな』って素直に思いました。常に思いますね、みんなかわいいです。それで写真も撮っちゃうんですよ。どこをどう撮っても、いつ撮ってもかわいい。うふふ」
理想は作らない、自分の想像さえ超えていきたい
欅坂46から櫻坂46への改名発表では、苦しそうにうつむくメンバーもいるなか、山﨑は「私はけっこうズシッと構えていたと思います」と振り返る。では、「Buddies」のセンターに選ばれとき、プレッシャーはなかったのだろか。
「あんまり……。もちろんプレッシャーもすごくあったんですけど、今回のセンターは3人ですし、『みんなで作っていこう』という意識が最初からすごくあったので」
『Nobody’s fault』収録曲でセンターを務めるのは、同じ二期生の仲間である森田ひかると藤吉夏鈴。彼女たちとの関係性も変えていきたいと語る山崎の姿勢は前向きだ。
「自分の気持ちを相手に伝えることが本当に苦手なので、『話そう』ってなるとほぼ絶対話せなくなっちゃって。でも、話さなくてもお互いに感じ取る部分とかあったりするし、『お互いがお互いを支えあっていきたいな』という気持ちがすごくあるので。『自分は支えられているのかな?』とか『自分ばっかり支えられて申し訳ないな』という気持ちにどうしてもなっちゃうんですけど、あまりそういうことばかりを考えずに、もっともっと、ゆっくりでもいいので素直にコミュニケーションを取っていきたいです」
センターのプレッシャーこそ薄いものの、レッスン中にふと我に返ることはあるという。
「鏡を見ると自分が前に立っている、っていうので固まってしまうときはよくあるんです。でもそういう時みんなが隣にいてくれるので、少し重荷が解けたような感じがありました。一期生さんは一度デビューを乗り越えていらっしゃるから、その経験に私たちも支えられているし、安心感があって。二期生もあんまり背負わずに、みんなで分け合って活動できている部分はあるかなと思います」
約2年の日々を経て、新たに迎えたリスタート。今後どうなっていきたいか――というインタビューの締めにありがちな質問に、山﨑は澄みきった、まっすぐな目でこう答え、予定調和をあっさりと崩してみせた。
「理想は作らないようにしていて。もちろん作れないというのもあるんですけど、自分や周りの方の想像以上のものを常に作っていきたい気持ちがあります。『あまり決めすぎても良くないのかな?』と思うんです。ダンスとか、現場とかでの立ち居振る舞いとか、楽屋での過ごし方とか、先輩方から吸収できるところをしっかり吸収して、自分のなかで噛み砕いていきたいです。たくさん勉強して、自分なりに表現につなげていけたらいいのかなと思います」