漫画2020.03.06

嘉島唯

「オタクを卒業しても心に穴がぽっかりあくだけ」 お洒落ガール化を試みた内田理央の数年後

好きなものと生きていく#24

「数年前強がってオタク卒業するって言って、スーパーポジティブお洒落ガール目指してやってきたんだけど、お洒落なオタクが増えて、もうオタクという概念が消えかかってきてる素晴らしい世の中になってると気がついて、私ダッサって恥ずかしくなってる」

 2020年1月末、こんな言葉が突然Twitter上に現れた。投稿したのはMOREでモデルを務め、ドラマの出演にグラビアまで幅広く活動する内田理央だ。

「小学生の頃からオタク」と自称する彼女だが、数年前までオタクを卒業しようと躍起になっていたそうだ。

「私なんかが芸能界にいていいのか……劣等感がすごかったし、自分の好きなことを話すと止まらなくて、後で反省しちゃう。気持ち悪いって思われてたらどうしようって」

 彼女はなぜ、オタクを卒業しようとした自分を「私、ダサい」と一蹴できるようになったのか?
(編集/メルカリマガジン編集部、撮影/飯本貴子)

オタク封印。ぼっちでインスタ映えしそうな写真を撮っていた数年

出典: 内田理央 オフィシャル on Twitter

──今は「オタク」趣味を公言していますが、どうしてオタクを卒業しようと思ったのでしょうか?

漫画とアニメばかり見ていた生活を引きずってて、芸能界に入った当初はTwitterもオタク寄りの……漫画の話と暗めの発言が多かったんですね。当時の仕事は少年誌とかのグラビアが多かったから、フォロワーも自分と似た系統の人が多くて、それが普通だと思ってた。

でも、2013年くらいにお芝居のお仕事もやらせてもらえるようになってきて、仮面ライダーのヒロインが決まったんです! これが決まらなかったら芸能活動をやめようって思ってたぐらいだからすごく嬉しくて。

撮影に入る前に、監督から「ライダー塾」のような講義があったんですよ。

──ライダー塾!

そうそう。俳優の登竜門だし、番組を見るのは子どもたちだから。ライダー塾では「君たちはヒーローだから、私生活もちゃんとしなくてはいけない。例えば赤信号を渡っているところを子どもたちが見たらどう思う?」みたいな心得を伝授してもらいました。

ライダー塾を受けたら「(オタクの人たちは許してくれた)しんどいとかつらいとか、病みツイートをしている場合ではない!」 「明るくておしゃれな大人にならなくては!」と強く思ったんです。

ちょうどモデルの仕事もするようになった頃で「オタクってバレたら編集部の方に嫌われるかも」と勝手に思ってたりもして。
──モデル業界ってキラキラしてそうですし。

「私なんかがいていいのかな?」と思うことが多くて。誰も「オタクはダメ」なんて言ってないのに、オタクってだけでいじめられるんじゃないか、ダサいって思われるんじゃないかって思っちゃってた。

出典: 内田理央 オフィシャル on Twitter

だから3〜4年くらいかけて、フィギュアは全部実家に送って、おしゃれな家具屋でデザイナーズを買い揃えてました。漫画も一切買わずに部屋を改造して……。

──インスタ映えしそうな生活を。

わざわざおしゃれなカフェに行って、本当はソシャゲをやってるのに、本読んでる風に見せたり、友達といる風の写真を撮ってみたり。1人なのに(笑)。

普段はアニメのTシャツ着てるけど、ふわふわのかわいいルームウェアを着てInstagramにあげてみたり。

実際、コスメとかファッションの方がSNSの反応が良くて「アニメ好きって需要ないんだな」って思ったというか。「自分の好きなこと」と「自分に求められていること」は違うと理解していった感じ。

出典: 内田理央 オフィシャル on Twitter

「キングダム」に力をもらって肉食系女子を演じきる

──何がきっかけで、オタクを隠すのをやめようとしたんですか?

大きなきっかけはないんですけれど……ひとつ覚えているのは「キングダム」。当時、出演させてもらったドラマの役が肉食系女子で。今は芝居と自分を切り分けて考えられるようになって、むしろ「こんな風になっちゃうんだ〜!」と楽しめるんですけど、当時はまだ自分とかけ離れた存在になるのは精神的にきつい部分があって。

──見てる側は楽しいけれど、演じる方は葛藤がありそう。

肉食系って自分からどんどん攻め入るじゃないですか。私は基本的にヘタレなので「どうすればいいんだろう」と悩んじゃって。漫画を断ってから、悩んだときは友達とお酒を飲みに行ってごまかしたりしてたんですけど、どこか満たされなくて。家に帰ったら孤独だし。

──都会の大人女子っぽい自分の癒やし方では埋まらない。

そう。一人になった時にふと「キングダム」を読んで……あれ、戦争じゃないですか。

──中国の春秋戦国時代。

そうそう! もし私が「キングダム」の世界にいたら、すぐに殺されるモブキャラだって思ったんですよ。主人公の信みたいに「自分で道を切り開いていかなくちゃ!」って。信に勇気をもらって難役に挑めたんです。戦う人の姿に感化されて、肉食系を演じられた。

私は、人生で大変なこととか辛いことに直面したときは絶対に漫画を読んでいたなぁって思い出したというか、めちゃめちゃ心が震えたんです。「あ、これだ」って。いつも私の道を照らしてくれる。原体験を思い出した。

トイレでお弁当を食べた学生時代

──原体験?

そうです! 辛いときはいつも漫画に救ってもらってたんですよ。

小中高……学生時代は全部うまくいかなくて。転勤も多かったから、みんなに馴染むのが難しいというか。よくいじめのターゲットになっていた。

──学校だといじめの対象がコロコロ変わりますもんね。

そうそう。「はぶられる」役が回ってきがちだった。何も悪いことはしていなくても理不尽な理由でターゲットになる。中学、高校になっても私は漫画が好きだったから、オタクっぽい男の子と新刊の情報交換みたいなのをよくしてたんですよ。

──それで陰口を言われる、的な。

男子とばっか仲がいいって陰口を言われたりもしましたね。

出典: 内田理央 オフィシャル on Twitter

──学生時代はどんな漫画を励みにしていたんですか?

パッと思い浮かぶのは安野モヨコさんの「さくらん」。主人公のきよ葉が強くて衝撃を受けました。「さくらん」はきよ葉が花魁の世界でトップに立つためにのし上がっていくストーリーで、その途中で周りに妬まれたり、傷付けられたりする。

「人より多くもらうものは人より多く恨まれる」っていう台詞には、すごく納得しました。理不尽なことが起きると「きっと何かで多くをもらってるんだ」って思うようになって、ちょっと強くなれた気がした。

安野モヨコさんの作品に出てくるような芯のある強めな女の子に憧れますね。自分の意見をちゃんと言える方には今でも憧れてます。「NOといえる女」を目指したい。

高校時代のプリクラ(本人提供)

 ──それで高校生の時はギャル寄りな見た目に? 過去のプリクラが話題になってましたけれど……。

いや、ギャルに憧れてただけですね(笑)。中身はオタクだし友達も少ないし。藤井みほなさんの「GALS!」に憧れていたのもあったし、強がってたんです。

私の学生時代はオタクという言葉が嫌なイメージで浸透していている時期で、そのうえ体育会系の高校だったので、アニメが好きな人が少なかったから孤独で。
──2000年代まではオタクは陰気で……みたいな雰囲気ありましたもんね。「電車男」とか。

変わった子って思われるのも嫌だし、可哀想な子と思われるのも嫌で。仲間に入れてもらえないんじゃなくて群れるのが嫌いだと平静を装っていた感じ。お弁当を食べるのはずっと1人。トイレで食べてたこともありますよ。

──孤独な学生時代。

本当は友達とか親友っていう存在に憧れてたんです。「ONE PIECE」も大好きだったから、「仲間ができたら死んでも助けに行こう!」って。

でも、現実の世界だとプリクラで「親友」「仲間」って書いても、環境が変わると関係が途絶えちゃう。

──漫画の世界は素敵なのに現実の人間は軽薄……みたいな。

あはは! そうですね。虚無……人間不信でした(笑)。ネットから出られない時もありましたよ。

──ネット……?

アバターを作ってゲームをして交流する世界。現実の人間関係よりもネットのコミュニケーションの方がフラットだし、豊かだなぁって。

──そこから芸能界に入ったキャリアは飛躍があるように見えます。漫画家にはなろうと思わなかったんですか?

いやいや! 私なんぞが……。小学生のこの頃は漫画家になりたくて、「ちゃお」のハガキ職人をやってたし、漫画も描いてました。ホチキスで止めて一冊の本みたいにして……でも、スクリーントーンを貼るところでつまずいちゃって。

──スクリーントーンは漫画家志望の子どもたちの大きな壁ですよね。

そうそう。カッターで切り貼りしてるうちに肌がスクリーントーンまみれになるし、高い! 「1枚400円もするの?」みたいな。コピックマーカーもめっちゃ高くて挫折しました(笑)。

芸能界に入ったのは、スカウトしてもらって、その1週間後ぐらいに日テレジェニックの公開オーディションを受けることになったから……かな。最初はアルバイト感覚で、なんとか日テレジェニックに合格してグラビアのお仕事から芸能活動をはじめました。
──いきなりグラビアに挑戦できるメンタルってかなりタフな気がします。

あー……それが初めての仕事だったので「こういうもの」と受け入れてましたね。学生時代から「To LOVEる -とらぶる-」みたいなハーレムものをめちゃめちゃ読んでいたので、今までの蓄積を活かせた(笑)。

──蓄積?

「To LOVEる -とらぶる-」のヤミちゃんとか、ハーレムものに出てくる女の子が大好きで。だって、可愛くないですか? グラビアではポージングとか仕草とかを自分で実践できたんですよね。

──モデルのイメージと全然違いますね。

多分、今の「内田理央」のパブリックイメージは、漫画断ちをしている時にできあがっていったんだと思います。私、「ふわふわしていて天然」とか「モテそう」と言われることが多いんですけど、全然違くて……女の子要素は一切ないし、恋愛もあんまりしない。

仕事をしてわかった「にわか」のありがたさ

──ここ1〜2年で、仮面ライダー時代から数年かけて作ったパブリックイメージを壊してみた。

そう。すごく気が楽になった! というか、みんな気にしていないことがわかった(笑)。Instagramでおしゃれを気取っていたのは完全なリアルではないと言ったところで、「だよね」という感じ。毎日おしゃれなごはんを食べてるわけじゃなくて、納豆ご飯の日もある。みんなもInstagramをそう使ってるから理解してもらえたのかなぁって。

全部、自意識でしかなかった! 自意識が沸騰しちゃって卑屈になっていただけなんですよね。

出典: 内田理央だーりお on Instagram

──オタクを卒業しようとした過去があると、逆の劣等感は生まれませんか? 「にわかファン」にすぎない……というか。

ありますね。上には上がいるから、自分には愛が足りないと感じたりする。正直、好きなものを好きってあまり発言したくない(笑)。好きなジャンルがバレるのも抵抗がありました。

でも……これは自分が人前に出る仕事をしてわかったことなんですけれど、何気ない「好き」って一言にすっごく救われるんです。「ありがとうございます、嬉しい」って思う。

Instagramでもストリートファッションと合わせてアニメのグラフティTシャツを披露している

出典: 内田理央だーりお on Instagram

──自分が前に出るからこそわかる、軽い気持ちの「褒め」のありがたさ。

そうそう。私も好きなことは好きって言おうと思い始めました。にわかって萎縮しないで、軽い気持ちで「好き」って発信すると広がる。それが社会現象だし、オタク文化もそうだと思うんですよね。私が学生のときはオタクはマイノリティだったけど、みんなが「好き」って言うことで今みたいな素敵な世界になったのかなって。
──今放送中の「来世ではちゃんとします」をはじめ、漫画原作の実写化に出演することが多いと思うんですけれど、それってオタクを公言するようになったからですか……?

いや! 意図せず……です! 嬉しいですね。でも、漫画がめちゃくちゃ好きだからこそ、実写化作品は原作者さんとファンのことをすごく考えます。顔立ちも違うし、セリフも設定も変わってるかもしれない。とにかく愛だけは……愛だけは伝わると信じて、愛を持ってやることにしています。

──ドラマにモデル業にグラビアに。忙しい中でどうやって時間を捻出しているんでしょうか?

特に努力はしてないです! 毎日何かしら漫画を読んでるし、好きな漫画家さんのTwitterも全部見てます。紙もネットもなんでもチェックするのが中学の時から日課。呼吸する感じ。

やっぱり、オタクが経済回してるんで。私みたいに自意識パターンの人もいれば、大人になると仕事とか恋愛とかで忙しくなって離れちゃう人もいますけど、オタクをやめちゃったらダメですよ。

あの3〜4年、漫画を読んだままでよかったじゃんって今は思う。オタクをやめなくてもモデルもお芝居も絶対できた。

オタクをやめても心がぽっかり空くだけで何も埋まらない。身をもって実験した結果、わかったことです。
内田理央(うちだ・りお)
1991年生まれ、東京都出身。雑誌『MORE』専属モデル。2018年放送のドラマ『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)で主人公の幼馴染・ちず役で人気を博し、同作で第22回日刊スポーツ・ドラマグランプリ助演女優賞を受賞。その他、ドラマ『海月姫』(フジテレビ系)やドラマ『向かいのバズる家族』(日本テレビ系)などに出演し、現在放送中のドラマ『来世ではちゃんとします』(テレビ東京系)では主演を務める。3月6日に映画「仮面病棟」の公開を控え、5月15日からはNHK BS時代劇「明治開花 新十郎探偵帖」にてヒロイン役として、時代劇に初挑戦。
Twitter:lespros_rio
Instagram:@rio_uchida
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嘉島唯

(かしま・ゆい) ニュースポータルの編集者、Buzzfeedの外部記者。cakesでエッセイを連載中。iPhoneとTwitterとNetflixが大好き。苦手なのは、人との会話と低気圧。

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