コレクション2021.06.28

総数2万点、山下メロが熱狂する「平成レトロなファンシー絵みやげ」

思わず「これ懐かしい!」と声が出てしまう「ファンシー絵みやげ」を保護しているという山下メロさん。所持数は約2万点。山下メロさんが「ファンシー絵みやげ」と名付けた独自ジャンルのアイテムの特徴は、ファンシーショップで売られていたような商品に土地に由来するキャラクターのイラストをプリントした、というもの。バブル期の日本の消費現象「平成レトロ」を象徴するファンシー絵みやげについて、熱狂のルーツやその魅力について語っていただきました。
(取材・構成/山岸香織、編集/メルカリマガジン編集部)

「タキシードサム」を「バドワイザー」でごまかす

(提供:山下メロ)

いま振り返ってみて、最初の「コレクターっぽい習性」の記憶は、幼稚園のころ。帰り道に、道に落ちている何気ないものを拾って帰るのが楽しかったんですよね。ネジとか、全然かわいくないものでもなんか気になって拾って集めてました。

「ファンシー」好きの原点は、「サンリオ」です。7歳年上の姉がいて、部屋を見渡すとかわいいものがたくさんありました。当時はバレるとマズいので、わざわざ隣町の「ファンシーショップ」に足をはこんで、男の子が持っていても違和感がなさそうな「けろけろけろっぴ」や「みんなのたあ坊」のグッズを買っていましたね。男子がかわいいものを持つなんて、っていう風潮があったんですけどね。親にも「男子なのに、そんなの持ってていいの?」と心配されてました。
 
でも、中学生になって状況が変わったんです。私が当時住んでいた埼玉だと友だちがみんなヤンキーで、部屋に来る。子どもっぽいものを所持してるとなめられるので、その時持っていたファンシーなものを迷いもなく捨てました。ヤンキーの世界で生き抜くのに必死で、とにかく「子どもっぽいもの」を排除したのです。
 
ヤンキーの友だちはみんな「アメリカっぽい」雑貨を部屋に飾っていましたね。地方でもよく売られていましたし。国旗や、遮断器のミニチュア、ビリヤードの「エイトボール」の灰皿とか。とにかく、キャラクターものはダサい、という風潮がありました。友だちがよく読んでいた雑誌は『ティーンズロード』だったと思います。私は部屋に「タキシードサム」の時計をかけていたんですけど、それが目立たないように壁に「バドワイザー」のタペストリーをかけてごまかしていました(笑)
大人になって「東京で育った人は子どものころに買ったアイテムを未だに持っている」って聞いたことがあるんですけど、子どもっぽいものを持ち続けていられるなんて、いまでも信じられないです…!

テクノ・ポップとファンシー

ヤンキーカルチャーにも触れつつ、中学ではバンドをはじめ、音楽が大好きになりました。高校卒業するくらいの頃は、テクノポップをよく聴いていましたね。2000年代当時、CDや漫画の好きなジャンルを集めていて、中古CDは数千枚単位で買っていました。なかでもYMOが80年代にアイドルの曲を多数書いていたので、その時代のアイドルの曲を聴くようになり、そこから「おニャン子クラブ」のメンバーなどアイドルの服装や持ち物に興味を持つようになったんですね。「セーラーズ」などのファッション、部屋に置かれたファンシーグッズ、そして売られていたタレントグッズなどをみてみると、とても魅力的で集めるようになったんです。
 
それからフリーマーケットにも通うようになっていたんですけど、2010年ごろ、完全に忘れていたファンシーグッズに出会ってしまいました。
 
「……これあったあった! 懐かしい!」
 
ってなったんです。それがこれです。

「OTOKOWA JIKKOU ARUNOMI ZEYO」「ONNAWA HITASURA MATSUNOYO」「ローマ字日本語」もファンシー絵みやげの特徴(提供:山下メロ)

いわゆるお土産の、キーホルダーです。10円だったんですけど、なんか感動して。「こんな色使いとかあったな…」って。何年も通っていたのに、それまで自分の目に入っていなかったのか、売られていなかったのか……。
 
そのころ原宿カワイイカルチャーが盛り上がっていたんですよね。きゃりーぱみゅぱみゅさんの人気や、『魔法の天使クリィミーマミ』を使った商品の話題化など、 1980年代がリバイバルするような空気があったんです。だからこういうキーホルダーも人気が出るんじゃないか、と買って帰りました。
 
でも、さすがに誰かが話題にしてるだろうな、とインターネットで検索しようとしたんですけど……検索窓に何て打ち込んだらいいかわからない。これの名前は一体なんなのか。必死で「かわいい おみやげ」とか「サンリオっぽい おみやげ」「まんがっぽい」とかで探す。でも、それらしい情報が出てこない。あんなに当時たくさん売られていたものが、インターネットに記録されず、残らないってことがあるだろうか? って思ったんですよね。
 
そこでめちゃくちゃ怖くなった。あんなに売られていたものがネットにも記憶にも残らず消えていくなんておかしい、まずいだろって。だから集めはじめました。これが今の活動のきっかけとなる出来事です。そして、あのジャンルの「名前がなくて検索できない状況」を解消するために「ファンシー絵みやげ」と名前を作りました。

文化を守れるのであれば、会社を辞めるくらい大したことじゃない

和歌山県・串本、本州最南端のみやげ店(提供:山下メロ)

観光地へ足をはこんで「ファンシー絵みやげ」を探していても、ほとんど見つかりません。そして、土産店の方の高齢化も進んでいて、店が減少していくスピードが速いことに気づきました。最初は会社員をしながら「ライフワークとして週末ごとに各地に行くか」って思っていたんですけど、そんなペースでやっていたら店の閉店スピードに追いつけない。これはマズい、と会社を辞め、ファンシー絵みやげを「保護」する活動を本格化しました。

個人の力だけで「文化をひとつ守れる可能性」を考えたら、会社を辞めることや、たくさんお金をかけることは大したことじゃない。むしろ個人の資産額くらいで達成できるなら安いもんだと思ったんですよ。「うまくいくかどうか」なんて全くわからなかったですけどね。

豪雪でもファンシー絵みやげを探す(提供:山下メロ)

当初は「続けていれば集め終わるだろう」と考えていましたが、集めていくとそれは違いました。数や種類が多すぎて、全然終わりが見えません。
 
でも、ファンシー絵みやげには、当時のバブルのころの空気感がそのまま閉じ込められていて、民俗学的な資料としてとても貴重です。これは本当に残さないとマズいと思いました。

石川県、能登金剛(提供:山下メロ)

高知県で、閉店した土産店の在庫を調査している(提供:山下メロ)

ファンシー絵みやげと「時代」

(提供:山下メロ)

独自の調査の結果、最初に誕生したファンシー絵みやげは1979年に誕生したキタキツネのキャラクター「North Fox in HOKKAIDO」(通称「ナキギツネ」)です。

(提供:山下メロ)

そして1980年代になり、日本はバブル景気も手伝って「国内旅行ブーム」に。毎年のように日本中の観光地がそれぞれ新作を作っていました。集めきれないわけです。どれだけ作ってるんだ……って(笑)
 
そのころは「出せば売れた」そうで、商品の内容にかかわらず売れるので、あまり洗練せずに売り出されるものもたくさんありました。たとえば、誤字脱字したまま売られたり、学生のおふざけっぽい空気感がそのまま出ていたりするものなど…。この「空気感」こそが、一般の全国流通商品にはない民俗学的価値を生んでいます。
 
そして、ファンシー絵みやげには製造年はおろか、会社名すら入っていないことが少なくありません。そのため、商品が作られた年代を推定することが非常に難しいところが問題です。

キーホルダーだけではなく、のれん、衣料品、バッグなど「ファンシー絵みやげ」の商品ラインアップは多様(提供:山下メロ)

ただ、商品に描かれているイラストから時代背景がわかることがあります。たとえば「新選組がF1レースの車に乗ってる」みたいな時代設定が無茶苦茶な商品もあるんですけど、「これは当時のF1ブーム以降に製造されたものであろう」と推測できます。
 
もっとも新しく生産されたファンシー絵みやげの1つが、白虎隊のファンシー絵みやげのれんです。これはJリーグのパロディーになっているので、一番早くてJリーグがはじまった1993年ということが分かります。

(提供:山下メロ)

最低でも1979年から1993年までの間に毎年、新作のファンシー絵みやげを全国で製造されていたら、そりゃ集めきれないですよね……!

ファンシー絵みやげに書かれたコピーの妙

集めているファンシー絵みやげのなかで、これが一番、みたいなものは決められないですね。
 
ただ、面白いな〜と思うものを挙げるとすると……。和歌山県の高野山で見つけたものなのですが。

前頭 歩行者妨害(提供:山下メロ)

小結 信号無視(提供:山下メロ)

全国流通じゃないからこそ、自由な言葉の面白さがありますよね。こうしたものはほとんど地域のメーカーさんが製造しています。

あとは個人的に好きなシリーズなんですけど…

どうか神様 スピードを出しすぎても お巡りさんにはつかまりませんように。(提供:山下メロ)

交通安全のお守りなら、事故がないようにお祈りすればいいのに、お巡りさんにつかまらないようにしたいんだ……つかまらないなら事故ってもいいのか? っていう。
 
あと、「お願い系」コピーのシリーズだと、これもいい。

恋人志願 どうか神様 彼だけには 私が美人に見えます様に(提供:山下メロ)

「私を美人にしてください」とか「彼と相思相愛になる」とかじゃない、ちょっとした奥ゆかしさが見え隠れするのがなんともいえないですよね。

ファンシー絵みやげだけではなく、ポケベルや携帯電話などの電子機器も「新たに体験できない」ので保護しています。いま90年代のリバイバルの波が来ていますが、それでも忘れ去られて日の目を見ない存在・文化を守らなくては……と思っています。

山下メロ

ファンシー絵みやげ研究家・平成文化研究家。「平成レトロ」を提唱し、バブル~平成初期の庶民風俗の分析・保存を行っている。なかでも1980年代~1990年代に日本中の観光地で売られていた子ども向け雑貨みやげを「ファンシー絵みやげ」と名付けて記録。日本中の観光地で保護活動を行っており、調査した土産店は6,000店を超え、保護した「ファンシー絵みやげ」は21,000種におよぶ。著書に『ファンシー絵みやげ大百科 忘れられたバブル時代の観光地みやげ』(イースト・プレス刊)がある。

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WRITTEN BY

山岸香織

(やまぎし・かおり)webコンテンツプランナー/エディター。好きなものは大河ドラマ、人情味あふれる街、器。好きな言葉は「捲土重来」。

好きなものと生きていく

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