旅行2021.01.29

「推しの場所」を持つ楽しみ。佐渡リピーターが語る名産品の魅力

旅をして日本各地の文化を楽しむ機会が減った今、名産品を通して旅気分を味わうことができないだろうか。そんな思いから、日本のローカル各地に足を運び取材をするフリーライターで『捕まえて、食べる』の著者、玉置標本さんに佐渡島の名産品や土地の魅力について書き下ろしてもらいました。
(執筆・写真/玉置標本、写真/宮沢豪、編集/メルカリマガジン編集部)

佐渡島が好きだ

私は埼玉県東部の住宅街に住んでいるフリーライターだが、これまでに一番繰り返し行った旅行先は圧倒的に佐渡島だ。もうすでに20回以上は行っているだろうか。佐渡島、ほんと大好き。
 
そもそも佐渡島とは縁もゆかりもなく、どこにある島なのかもよくわかっていなかった。それが2011年の夏、軽い気持ちで友人たちと佐渡島を初訪問して以来、毎年2~4回は海を越えて遊びに行く程のリピーターになってしまった。カーフェリーに乗り込んで島へ渡るという冒険感、多様な表情を見せる大自然、日本一の金山を有した歴史に裏打ちされた固有の文化、どれも最高。
 
この記事でも実際に佐渡へと渡り、一週間くらいじっくりと滞在して、日本海の寒さに負けない暑苦しいレポートをお届けしたいところだが、コロナ禍のタイミングで私がすべきことは違うはず。そこで過去の渡航を振り返る形で、できる限り佐渡の魅力を紹介したいと思う。
 
さて何を伝えようか。佐渡を誰かに勧めるとき、思い入れが強すぎてどこを切り取って紹介するべきかいつも迷うのだが、今回は伝わりやすそうなところで、私が実際に食べたことのある「名物・名産品」に絞った形で語らせていただきたい。

佐渡に渡るカーフェリーは、国道350号線という扱いになっている

佐渡といえば海産物

まずはやっぱり海産物だろうか。島だから当たり前だが、全方向を海に囲まれた土地なので、鮮度抜群の魚介類が手に入る。冬であれば身に脂を蓄えた寒ブリ、淡水と海水が混じる栄養豊富な汽水湖の加茂湖で育てられたカキ、ボタンエビやベニズワイガニなどの甲殻類は欠かせない。そして春が近づけばナガモというネバネバが魅力の海藻も出回りだす。

前に取材でアマエビ漁の船に乗せてもらったことがある。エビを獲るカゴの網目を大きくして、一定サイズ以上しか獲れないようにすることで資源量と商品価値を維持した大型のアマエビは、まさに食べられる宝石だ。

地元の人たちが日常的に食べる、地域に根付いた海産物なら(現地だとブリやエビも安いので日常食の範疇だが)、地元スーパーで必ず売られているトビウオのすり身は味噌汁や鍋に欠かせない定番品だし、アゴと呼ばれるトビウオの焼き干しは蕎麦の出汁にも使われる愛すべき存在である。

佐渡で漁師をやっている友人が食べさせてくれた寒ブリ

運が良ければ規格外に育ったボタンエビと出逢えることもある

ナガモというネバネバの海藻がうまいんですよ

すごくよい出汁がでるトビウオのすり身

佐渡南部の羽茂地方で食べた、冷たい手打ち蕎麦にアゴ出汁のつゆを掛けたスタイルが最高

農産物だってなんでもうまい

農産物で特に素晴らしいと思うのは米の品質。米どころというイメージはないかもしれないが、佐渡は意外と広く(東京23区の約1.3倍)、田んぼもたくさんある。おいしい米が育つ一つの因子となっているのがトキの存在。日本では一度絶滅したトキが佐渡島に放鳥されて、現在はかなりの数が自然繁殖しているのだが、それを支えているのが餌場となる水田であり、「朱鷺(トキ)と暮らす郷」を掲げて化学肥料や農薬を減らした米作りをしている農家さんがたくさんいるのだ。もちろん佐渡に負けないこだわりでつくられた米は日本各地にあるのだが、田んぼで餌をついばむトキをこの目で見ているので、私としては佐渡の米を応援してしまう。

佐渡に移住して米農家をやっている友人

トキはかなり増えているので、見かける機会は結構あるよ

特に名産品という訳ではないけれど、島内で生産されたナスやネギといった野菜も普通以上に美味しく感じる。春になれば山菜が芽吹き、秋になればキノコも生える。さらにカキ、リンゴ、ミカン、ブドウなどが実るフルーツの島であり、黒イチヂクの「おぎビオレー」、洋梨の「ル・レクチェ」、いちごの「越後姫」といった珍しい品種も栽培されている。この環境が佐渡では当たり前であり、なんというか食に関する基本レベルがとても高いのかもしれない。

黒いイチジクの存在を佐渡で初めて知った

個人的には佐渡乳業の牛乳も推したい。佐渡産生乳100%を低い温度で殺菌したもので、トキをモチーフにした赤いパックが目印だ。一度やってみたいのが、名産の「おけさ柿」で作る干し柿を買い、佐渡乳業のバターを挟むという贅沢だったりする。

佐渡乳業が提携する牧場の乳牛

「ミルク前線、前から飲み頃」は、手前に並んだ賞味期限が近いものから買ってくださいという意味だと最近知った

行き帰りのフェリーや温泉上がりに飲む生乳50%以上のコーヒー牛乳は格別の味

佐渡は日本酒天国でもある

日本酒が好きな人にとっても佐渡は天国のような島で、個性豊かな酒蔵が島内に揃っている。代表銘柄とその酒蔵を挙げれば、「北雪」の北雪酒造、「真野鶴」の尾畑酒造、「真稜」の逸見酒造、「天領盃」の天領盃酒造、「金鶴」の加藤酒造店。

佐渡在住の酒飲みに好きな蔵や銘柄を聞けば、みんな嬉しそうに贔屓の酒を語ってくれる。ある人の意見では、土産物店に陳列された箱入りの高級酒だけでなく、地元のスーパーに一升瓶で並ぶ日常使いの酒も試してほしいそうだ。そこにこそ酒蔵の個性、佐渡人の好みが出るのだとか。

酒好きなら酒蔵を巡るという目的だけでも、佐渡に行く価値はあると思う

スーパーに並ぶ日本酒は土産物店とちょっと違うようだ

酒のつまみも佐渡産で揃えたい

日本酒のつまみになる加工品も無限にある。珍味「フグの卵巣の糠漬け」(猛毒が含まれたフグの卵巣を糠漬けにして毒を抜いたもの)は石川県が有名だが、佐渡島では塩と酒粕に漬けたものが作られている。酒でも白米でもどんとこいだ。イカの産地でもあるから塩辛や沖漬けも鉄板の味。ちょっと変わったところでは、いか徳利やのしいかを試した経験も思い出深い。

イカって本当にうまいですよね

肉系がよければ「へんじんもっこ(頑固者という意味)」という食肉加工工房が作る「たまとろサラミ」という乳酸発酵させた生のサラミやソーセージも人気が高い。

中央がへんじんもっこのたまとろサラミ。まるでネギトロのように柔らかい

甘いものだってもちろんある

デザートだったら沢根(さわね)だんごの食べ方が独特でおもしろい。米粉で作った薄い餅であんこを包んだもので、これを楊枝で刺して氷水に潜らせて食べると、ツルンとした食感が楽しめるのだ。夏の暑い日、ひと泳ぎした後にでも食べたら最高の気分だろう。

栃餅(とちもち)は全国にある食べ物だが、佐渡で食べたものは栃の実の割合がとても多く、風味が強くて抜群の味だった。予想をした味を大きく超えてきたときに生まれる感動が、佐渡を旅していると多い気がする。

氷水をくぐらせて食べる沢根だんご

この写真だと全然おいしそうにみえないが、栃餅がとてもうまかったのだ

そういう意味ではタガヤス堂という小さなドーナツ店もお勧めだ。「こんなところに!」と驚くような山奥にあり、その雰囲気にマッチしたシンプルなドーナツを揚げている。佐渡でわざわざドーナツなんてと思うかもしれないが、食べればきっと笑顔になれると思う。

素朴なおいしさがうれしいタガヤス堂のドーナツ

ちょっと変わったところでは、乾燥わかめの粉末が餡に練り込まれたわかめもなかも印象深い

みんなが好きな場所を聞かせてほしい

こうして名物・名産品を思いつくままに紹介させてもらったが、いつか佐渡に行ってみようかなという気になっただろうか。もちろん佐渡の魅力は食べ物だけではないし、車で走っているだけ、適当に散歩しているだけ、海を眺めているだけでも楽しいところと言い切れる。

島の東側なら海から昇る朝焼けが、西側では海に沈む夕焼けが見られる

だがそれは、私が佐渡に何度も行ったことで、おいしいものを食べたり、美しい景色を見たり、立派な魚を釣ったり、友人が増えたりして思い入れが強くなった結果の「えこひいき」である。

ここで伝えたかったのは佐渡の魅力であると同時に、応援したい「推し」の場所を持つことの楽しさ。みんなに佐渡を押し付けたいのではなく、お気に入りの場所を教え合うことで共有したいのだ。もっと人の好きな場所や趣味の話を聞かせてほしい、その裏返しなのである。

コロナ禍が落ち着いたタイミングで、今度は佐渡の温泉に浸かりながらキャンプ場を巡る旅でもしようかなと、婦人倶楽部(佐渡に住む婦人達による音楽ユニット)の曲を聴きつつ妄想を広げている。
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玉置標本

(たまおき・ひょうほん)アウトドアや料理系の記事が多いフリーライター。好きなものは食材採取全般と家庭用製麺機。

好きなものと生きていく

メルカリマガジンは、「好きなものと生きていく」をテーマにしたライフスタイルマガジンです。いろいろな方の愛用品や好きなものを通して、人生の楽しみ方や生き方の多様性を紹介できればと思います。