旅行2021.04.07

蒲郡という町の磁場と、愛しき「変なモノ」たち

旅をして日本各地の文化を楽しむ機会が減った今、名産品を通して旅気分を味わうことができないだろうか。そんな思いから、日本のローカル各地の魅力と名産品を語ってもらう「推しの名産品」シリーズ。第2回は愛知県蒲郡市出身で蒲郡市観光大使でもある漫画家、大橋裕之さんに蒲郡の魅力について書き下ろしてもらいました。
(執筆・イラスト/大橋裕之、編集/メルカリマガジン編集部)

蒲郡の変なところを紹介したい

私は愛知県蒲郡市で生まれ育ちました。ですが、いまだにこの町の特徴を明確に捉えきれておらず、蒲郡がどんな街かと聞かれても、いまだに的を射た回答を持ち合わせていません。
 
蒲郡を単純に説明してみますと、電車(東海道本線)なら名古屋から最短36分で訪れることができる、山と海と温泉がある長閑な街です。ハウスみかんの栽培が盛んです。
 
しかし、この情報だけで蒲郡の魅力が伝わるとは思えません。自分がどこかの街に興味を持つとしたら、その街が醸し出すちょっと変な部分に対してだったりするので、今回は蒲郡のちょっと変な部分をご紹介してみたいと思います。

日本一短い地下街

まずは蒲郡駅の北口地下に広がる蒲郡北駅前地下街。
 
「地下に広がる」と書いたのですが、正直、広がってはいません。端から端まで片道25歩で終わる「日本一短い地下街」と云われています。僕はこの地下街を蒲郡の心臓部だと勝手に認識しています。
 
幼い頃は、この地下街から醸し出される怪しい雰囲気を恐れて極力近づかないようにしていたのですが、大人になってからその魅力にハマりました。特にカウンターのみの焼き鳥店「ちどり」には帰省する度に通っています。安くて美味くて店内の雰囲気含めて最高です。50年以上、この地下街で愛されているお店です。
観光で来た方は少々入りづらいかもしれませんが、世の中が落ち着いたらぜひ勇気を持って暖簾をくぐってみてください。もしお店に入る勇気がなくても、この地下街を素通りするだけでも昭和の時代にタイムスリップした感覚に陥ることができると思います。ぜひお立ち寄りください。

他にも、地下街に繋がる怪しいダンジョンのような雰囲気の「蒲郡中日ビル地下エリア」にも、庶民的な風情の居酒屋さんがあり、オススメです。でも、取り壊されるという噂があるので、その前にぜひ潜入してみてください。

竹島水族館のカピバラショー

続いてご紹介するのは竹島水族館。最新鋭の設備がある先進的な水族館とは言えませんが、こじんまりとした昔ながらのかわいい水族館です。

深海生物の展示も多く、タカアシガニやオオグソクムシに直接触れたり、なぜか「何もしないカピバラのショー」も行われてます。カピバラはリアクションが薄いのですが、飼育員さんとのやりとりがかわいくて最高です。
水槽コーナーにある、飼育員さんによる手書き解説プレートもゆるい文章で人気です。
パッケージのインパクトがえげつなくてお土産にもってこいの「超グソクムシ煎餅」は必ず購入していただきたいです。オオグソクムシの粉末が入っていて一瞬だけ躊躇しますが、普通に美味しい煎餅です。

蒲郡人の心のふるさと「竹島ファンタジー館」

最後にご紹介するのは竹島ファンタジー館。世界110ヵ所から集められた大小5,500万個の貝で創られた摩訶不思議なテーマパークです。

大量の貝殻で作られた謎の女や、竜宮城などなど、いい意味で頭がおかしくなります。蒲郡人は、幼少期にここを訪れることによって脳内に何かを刷り込まれていたのかもしれません。ぜひ画像検索してみてください。

お土産コーナーでは、貝殻で作られたグッズはもちろん、90年代初頭に何故か蒲郡で製作された坂上忍主演の謎のVシネマ『天界戦士ファンタジー伝説<レムリアの陰謀>』のデッドストックVHSが、今ならまだ手に入るかもしれません。

おそらく坂上忍さんの記憶からも消えているのではないかと思われるファンタジー映像満載のビデオです。
長渕剛主演の映画『ウォータームーン』のように、私は今いったい何を観ているのだろうと思わせてくれる稀有な映像体験があなたを待ち受けています。スプラッターシーンありの壮絶なクライマックスも見どころです(ビデオのパッケージ裏に写真入りで「クライマックス」と書いてあるので、決してネタバレではありません)。一見の価値ありです。二見の価値はないかもしれません。

こんな文化遺産が我が故郷に存在していたとは、数年前まで私も知りませんでした。そんなところも蒲郡の誇らしい部分です。私だけが思っている可能性もありますが。

「変な魅力」でいっぱいの蒲郡

他にも、島全体が国の天然記念物に指定されており、パワースポットとも噂される竹島。島に架かる竹島橋は「縁結びの橋」と言われているにもかかわらず、島に祀られている弁天様が嫉妬するので島に訪れたカップルは別れるというジンクスがある、矛盾をはらんだかわいい島です。

(写真提供:大橋裕之)

さらに国道を走っていると突如山頂に現れる高さ東洋一の弘法大師像「子安弘法大師像」も必見です。この大師像は子供を抱いているのに顔が怖すぎて、異様な存在感を放っています。

(写真提供:大橋裕之)

また「延命山大聖寺 大秘殿」の、仏像や男性器、女性器のオブジェが所狭しと展示されていた洞窟めぐりは全人類に体験してほしかったのですが、残念ながら2014年に惜しまれつつも閉館してしまいました。洞窟めぐりはYouTubeでもご覧いただけます。
そして蒲郡の伝説的珍ショップ「ショーワ百貨センター」にもぜひ迷い込んでいただきたかったです。
私はここで古いぬいぐるみや古いロボットのおもちゃ、ボタンを押すと宇多田ヒカルのヒット曲が流れるギターなどを購入しました。

店内にはまだまだお宝が眠っていると思うのですが、しばらく休業状態なので再開されることを心から願っています。ぜひお店の外観だけでも見てみてください。

掘れば掘るほど見つかる蒲郡の魅力

蒲郡の変な部分ばかり紹介してきましが、複合リゾート施設ラグーナテンボスやボートレース蒲郡など、海あり山あり温泉ありのご飯も美味しい観光地です。安心して出かけられる状況になり、旅行先を探したくなったらぜひ蒲郡も候補に入れてみてください。

ついでに、全国ご当地うどんサミットで3冠を達成した「ガマゴリうどん」(アサリをふんだんに使ったうどん)もぜひお召し上がりください。

大橋裕之(おおはし・ひろゆき)

漫画家。1980年生まれ。愛知県蒲郡市出身。2005年『謎漫画作品集』などの自費出版漫画で本格的な活動を開始。既刊に『ニューオリンピック』『音楽 完全版』『シティライツ 完全版(上・下)』『遠浅の部屋』『ザ・サッカー』『ゾッキ 大橋裕之 幻の初期作品集(A・B)』(以上、カンゼン)、『太郎は水になりたかった』(リイド社)、『大橋裕之の1P』(スペースシャワーネットワーク)などがある。

また本人の漫画を原作とし、蒲郡でロケを行った映画『ゾッキ』が4月2日から全国公開中&シリーズの第3弾の単行本『ゾッキC 大橋裕之作品集』も好評発売中。

(おまけ)
「監督に竹中直人さん、齊藤工さん、山田孝之さん。出演者もとても豪華な顔ぶれなのですが、私が描いた漫画が原作なのでちょっと変な映画です。観終わるとちょっと温かい気持ちになって、でもやっぱり変だなと思える不思議な映画だと思います」(大橋・談)

・映画『ゾッキ』公式サイト
・『ゾッキC 大橋裕之作品集』(カンゼン・刊)
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メルカリマガジン編集部

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