メルカリで海外のお土産を買い集めてシルクロードを渡る

異国の文化を肌身で感じられる海外旅行ができなくなり、どこか物足りなさを感じつつ暮らしている人も少なくないはず。

せめて「モノ」でそれを感じられたら…。

そんな思いから、有給を駆使しながら70ヶ国近くを旅してきた、会社員兼旅ライターの岡田悠さんにメルカリを使った「擬似旅行」を実行していただきました。
(文・写真/岡田悠、企画バーグハンバーグバーグ、編集/メルカリマガジン編集部)

はじめに

海外に行きたい。行けない。僕は旅行がとても好きで、会社員兼旅ライターとして活動している。これまで有給をとっては全て海外旅行に費やしてきたのだが、いまの世の中ではそうもいかない。どうしよう。

せめてもとGoogleマップを眺めたり、旅行記を読んだりして旅心を慰める。だけどもっとその土地を肌で感じたい。触れて、嗅いで、異国情緒を吸い込みたい。

そう考えて思い立ったのが、モノを買う、という行為だった。人が移動できなければ、モノに移動してもらえば良い。形ある海外のモノを愛でることで、少しでも旅の欲求が満たされるのではないか。
とはいえ海外からモノを輸入するのはハードルが高い。何より面倒くさい。旅心がどうとか言っておきながら、結局面倒なことはやりたくない。だからメルカリに頼ることにした。メルカリには大量の海外からのお土産が出品されているのだ。「地域名 + 土産」で検索すると、世界中のさまざまな土産物を見つけられる。

例えば「ハワイ 土産」だと、ヤシの木をモチーフにしたグッズやコーヒー。
スペインであれば、サグラダファミリアのマグネットや飾り皿。
各国の特色が出ていて風情がある。むしろこれまでの旅行では我慢していたが、この機会に海外のお土産を買い集めよう。

さて、どこの地域にするか。ヨーロッパも良いし、南米も良い。アフリカなんかも変わったものが売ってそうで、魅力的だ。でもどうせなら、いま一番行きたい場所にしよう。シルクロードだ。

シルクロードとは紀元前より、東洋と西洋を繋いだ歴史的な交易路である。その名の由来となった絹だけでなく、仏教や火薬、紙などもシルクロードによって伝播したと言われている。
パズルのように複雑で絡み合った歴史。砂漠と古代都市、興亡する幾多の民族。一度その扉を開けば、溢れんばかりの旅情が激流となって吹き出してくる。世界中にさまざまな名所があれど、シルクロードほど僕の心をとらえて離さない場所はない。

シルクロードが通るいくつかの国には行ったことはあるが、一度でいいから東西を横断してみたかった。東から西へとお土産を買っていくことで、その願いを叶えることにしよう。

長い歴史を持つシルクロードには決まったルートはなく、その組み合わせは無限大だ。
一般的には西からのスタート地点は中国の西安、ゴール地点はアンティオキア(現トルコのアンタキヤ)とされることが多い。それは踏襲することとし、あとは僕の行きたい場所を組み合わせる。僕だけの最強のシルクロードを作るのだ。
できた。
西安から中国を西に渡り、中央アジアへ。そこから各国を転々として、中東へ進む、計8ヵ所を巡る旅。完全に僕好みのルートである。興奮してきた。

8の地名を打ち込み、検索する。メルカリ世界は広大だ。マイナーな場所でも、お土産がちゃんと売られている。その中からシルクロードを感じられるもの、あと普通に欲しいものを吟味していく。
ただし条件として、買っていいお土産は1地域につき1つだけ。これがなかなか決められない。旅行に行った際、現地の土産屋で店内をうろつく時に似ている。やたらと高い値段を吹っかけてきたり、しつこく買わせようとする店員がいないのが楽だけど、それは少し寂しくもある。

そうして選び抜いたお土産たちを紹介しながら、シルクルードを渡っていこう。

1. 西安

シルクロードの出発地点は、中国の西安。かつて古都、長安のあった場所である。唐の時代には世界最大の都として大いに栄えた。
僕も一瞬だけこの街に立ち寄ったことがある。とはいっても滞在時間はわずか半日ほどで、満足に観光することもできなかった。だから語れることが「空港のトイレが綺麗だった」くらいしかないのだが、もう一度訪れたいと思っている場所の一つだ。

そんな西安での定番の土産といえば、これだ。
兵馬俑のフィギュア。「西安 土産」で検索すると兵馬俑グッズがたくさん出てくる。こちらの商品は1350円で購入した。
「俑(よう)」とは死者と一緒に埋葬した人形のことで、兵馬俑とは文字通り兵士や馬の人形を意味している。長安には漫画『キングダム』でも有名な秦の始皇帝の墓があり、その周辺には8,000体の兵馬俑が埋められていた。そしてそのすべてが東を向いているという。

普段の旅行ではその重さから置物を買うことは少ない。だがこれぞ典型的なお土産という感じがするので、最初のアイテムとして選んだ。
ちょうどスペースが空いていたので、あの時の空港を思い出してトイレに飾った。もちろん東を向いている。

2. 敦煌

シルクロードといえば、この場所を外すわけにはいかない。砂漠のオアシス都市、敦煌である。僕は行ったことはない。旅行好きを自称しておいて、さっきから全然行っていなくて申し訳ない。しかしだからこそ、憧れの場所として選定した。だって「敦煌」である。名前が格好良すぎる。
例えば敦煌の人気スポット、「敦煌古城」。荒涼としたゴビ砂漠のど真ん中に、突如として立派な城と湖が現れる、まさに空想世界のオアシスだ。もはや映画か? 映画だ。残念ながら敦煌古城は、日中合作映画『敦煌』の撮影用に建設された巨大セットなのである。だがそうだとしても、憧れのシルクロードを体現していることに変わりはない。

そんな敦煌の土産だが、こういうものが売っていた。本のしおりである。300円で売っていた。
巧みな細工で切り抜かれたしおりには、赤字で「敦煌飛天」と書かれている。飛天とは仏の周囲を舞い、称える天人のことである。一説には飛天は西からシルクロード経由で伝わったとも言われ、敦煌の寺院においてもその姿が描かれている。
ちょうど読んでいる本に合うので、挟んでおこう。

3.新疆(しんきょう)ウイグル

新疆ウイグルには、何年か前に訪れたことがある。超多民族社会のウイグルでは、歩いていると本当に多様な人種が道を行き交っていた。また「完全監視社会」とも揶揄される監視カメラと機関銃だらけの光景は街に独特の緊張感をもたらしていたが、一方で料理はおしなべて美味しく、生活は快適だった。

しかし最も記憶に残っているのは、「時刻」だ。中国では基本的に時差が存在せず、北京時間が統一的に採用されている。だが新疆ウイグルでは「新疆時刻」という2時間遅い独自の標準時が使用されているのだ。そこに罠があった。
帰りの空港へ到着すると、カウンターで「飛行機はもう飛び立った」と告げられたのである。なんと空港などの公的機関では、統一的な北京時間が採用されていた。つまりウイグルでは、公的機関とその他の場所とで、時刻が異なっていたのだ。余裕を持って空港に着いたと思ったら、すっかり乗り遅れていたというわけである。
その時は仕方なく滞在期間を伸ばし、西安経由の便で何とか帰国することができた。先述の西安半日滞在にはそういう事情があったのだ。お陰で綺麗なトイレを堪能できた。

そんな新疆ウイグルからのお土産は、こちらだ。
かなり怖いお面。海外に行くと露店などで手彫りのお面が売られていることも多いが、買うのにはそれなりの勇気が必要だ。ただ今回ばかりはあまりの迫力に思わず即購入してしまった。3800円。
頭頂部のドクロ。大きな鷲鼻に、ぎょろりと飛び出した眼。横から見るとそれらがリアルな凹凸で表現されていて余計に怖い。あと歯になにかの血痕みたいなものがついているのが一番怖い。これはいい魔除けになりそうだ。目に入るたびに「時間に気をつけろ」と叱られているような気がする。二度と飛行機に乗り遅れないように、玄関にでも飾っておこう。

4.アフガニスタン

ここからどこに向かうか、随分迷った。素直に西に進めばカザフスタンだし、キルギスタンやタジキスタンを経由するルートもありうる。果たしてどのスタンにすべきか。いや、ここは空想の旅という利点を活かして、最も困難な道を選択すべきであろう。つまり、アフガニスタンを通過するルートである。

アフガニスタンには多くの貴重な遺跡があり、かつてはバックパッカーでも気軽に訪れることができた。だが現在ではテロや内戦が多発し、外務省からは常に退避勧告が出されている。観光客が足を踏み入れるには、世界でもっとも危険な国の1つと言える。
そんな国の土産が、果たしてメルカリで売られているのか。そもそも観光客がいなければ、土産物自体が存在しないのではないか。だがメルカリ世界は広くて、そして深い。数は少ないが、確かにアフガニスタンから持ち帰ったと記載されている土産物が販売されていた。そのほとんどが、かつて旅人が自由に往来できた時代のもののようだ。

僕が購入したのはこちらの帽子だ。900円。
中央アジアでは、こういう柄の刺繍によく出会う。黒を基調とした色合いと、渦を舞いた模様が実にエキゾチックだ。これがあのアフガニスタンで作られたのかと思うと、その背景にある物語に想像が膨らむ。

5.ウズベキスタン

アフガニスタンから北西に進むと、中央アジア随一の大国がそびえている。ウズベキスタンだ。シルクロードで最も栄えたと言われる青の都、サマルカンドのある国である。

“サマルカンド”という言葉の響きに魅了される人も、多いのではないだろうか。心の底に焼きついた町の名の記憶が、知らずに呼び覚まされるのだろう。

『地球の歩き方 中央アジア サマルカンドとシルクロードの国々 2013~2014』より

その名の素晴らしさには、地球の歩き方がこうも詩的になってしまうほどだ。サマルカンドは古来よりシルクロードの中継地として発展してきた。アレクサンダー大王からチンギスハン、ティムールに至るまで、数々の歴史上の支配者たちが欲した街でもある。

僕は何年か前にサマルカンドを訪れたが、呼び名に恥じぬ鮮やかな青の建物たちは、どこまで歩いても飽きることがなかった。その青さも、地球の歩き方でまた詩的に表現されている。

ぬけるような青空に、さらに深い色合いの青のドームが映える。天と地が、青の青さを競い合う。

『地球の歩き方 中央アジア サマルカンドとシルクロードの国々 2013~2014』より

詩的すぎる。天と地が、青の青さを競い合う。だからこの街のお土産は、この青いストールである。530円だった。
鮮やかなサマルカンドブルーが施されている、なんとも涼しげな一品だ。この青を見るためだけでも、あの国をもう一度訪れる価値があると思う。

6.トルクメニスタン

「中央アジアの北朝鮮」とも呼ばれる独裁国家。それがトルクメニスタンだ。厳格な秘密主義で知られており、世界で最も閉ざされた国の1つとして、その情報はなかなか外に出てこない。政府は一切の統計データを公開していないので、人口も不明、GDPも不明(推計値は存在する)、中央アジア一謎に包まれた地域である。
僕も渡航を試みたことがあるのだが、半年間待ってもビザがおりなかったため、断念した。しかし時には数週間で支給される例もあったり、突発的に政府公認の観光ツアーが開催されたりするなど、その門戸は気まぐれなようである。燃え盛る巨大クレーター「地獄門」を筆頭とする神秘的なスポットを多く有する国なので、いつか再チャレンジしたいと考えている。

そんなミステリアスな国のお土産が売られていたとしたら、ぜひ手に入れたい。自分では行ける機会が限られているからこそ、他人の手を借りてトルクメニスタンに触れたい。そんな思いで検索を続けたところ、見つけた。

現地のDVD。それも内容はコメディだという。確かに左上にトルクメニスタンの国旗が描かれている。720円で売っていた。
果たして独裁国家のコメディとはどんな内容だろう。そもそもコメディの制作が許されているのか。検閲された笑いというのは笑えるのか。中にはDVDが2枚入っていて、早速1枚目を鑑賞してみる。

その内容は至ってシンプルで、トルクメン語を知らなくてもなんとなく理解できるものだった。簡単に言うと、3人の中年男性が繰り広げるドタバタ劇だ。ひょうきんな仕草には思わず笑ってしまうものもあった。
しかしどこか違和感を覚える。そうだ、背景にまるで生活感がない。整然と片付けられた家に、誰も歩いていない広い道路。あまりにすべてが秩序だっていることが、かえって不自然さを際立たせている。ラストシーンでは池に落ちて大騒ぎする男性たちと、静まりかえった辺りの様子が、この国の不気味なコントラストを表しているようだった。1時間でお腹いっぱいになったので、2枚目のDVDは後にとっておこう。

7.イラン

中央アジアを発って、中東へと入る。旅もいよいよ終盤である。中東の入り口はイランだ。トルクメニスタンほどではないものの、この国も閉じられた場所であることに変わりはない。欧米や近隣の国々とも敵対し、ほぼ孤立状態にあるこの大国の一挙手一投足が国際社会に注目されている。特に昨今アメリカからは激しい経済制裁を受け続け、暴発の危険性が指摘されている。
僕がイランを訪れたのは、2018年末のことだった。ちょうど経済制裁が加熱していた頃である。海外の予約サイトは一切使えず、VISAなどのクレジットカードも使用できない。また一度その地に降り立つと簡単にアメリカに行きづらくなるなど、いくつかのハードルを越えなければならなかった。
しかしイランには、それを補ってもあまりある魅力がある。まず人々が異常に優しい。観光客が少ないせいか、これまで訪れた国の中でも、その暖かさはトップクラスだったように思う。そして世界の半分と謳われたエスファハーンや、ペルシャ帝国時代の繁栄を物語るペルセポリスなど遺産の数々。ササン朝ペルシャ時代には、シルクロードを経由して日本との繋がりもあったとも言われている。

そんなイランからのお土産が、これだ。ペルシャ数字の腕時計である。3800円で購入。
イランでは我々が普段使用するローマ数字ではなく、このペルシャ数字が使われている。言語がわからなくても旅はなんとかなるが、数字が読めないのは相当に困難である。あらゆる値段がわからないし、乗り物にも乗れない。おかげでペルシャ数字だけはすっかり覚えた。「۵ (5)」が可愛くて好きだ。
だからこの腕時計は、なんだか自分だけが読めるみたいで嬉しい。今回買ったお土産の中でも、特にお気に入りの一品である。日常生活でも使っていこう。

8.トルコ

シルクロードの旅の最終地点。アジアとヨーロッパにまたがる国、トルコである。
イスタンブールやカッパドキアといった定番の観光スポットだけではなく、ケバブや伸びるアイスなど、食文化においても日本人に馴染みのある場所だ。僕は学生時代にバックパッカーとしてこの国を訪れたが、異国感と親近感の絶妙な狭間で過ごす日々は、非常に刺激的だった。

イスタンブールの街を歩いていると、頻繁に日本語で話しかけられる。それも海外でありがちな「スキヤキ!」「アキハバラ!」とかではなくて、「今日は寒いですね」みたいに、めちゃくちゃ流暢な日本語を話すのである。「日本語で接触してくる現地人には気を付けろ」というのが海外旅行の鉄則であるが、そのあまりの流暢さにこちらも思わず警戒を解いてしまう。
特にイスタンブールで知り合ったサムと名乗る青年は、僕が当時住んでいた街で暮らしたことがあると主張してきた。「駅の北口にある富士そばが好き」などと言うものだからすっかり打ち解けてしまって、一緒にさまざまな場所へ遊びに出かけた。とりわけシーシャ(水タバコ)屋のレパートリーが豊富で、僕はそこで煙の味を覚えた。そうしてサムとは友情の日々を過ごした挙句、最終日に大量の土産物を買わされそうになったのも今では淡い思い出である。

そんなわけで、最後の場所ではこちらの土産を選んだ。シーシャのマウスピースである。1600円で購入した。
そして吐き出す。
過去の記憶と妄想世界のシルクロードが交差して、煙の向こうへと消えていく。
果たしてサムは元気だろうか。あのとき貧乏で買ってあげられなかったお土産を、僕は今こんなにも抱えている。
鼻を抜ける煙を楽しみながら、僕は2枚目のトルクメニスタンのDVDを再生した。1枚目とは打って変わって、こちらは劇場での公演を収録したもののようだ。

そこでは吉本新喜劇みたいな舞台喜劇から、漫才のようなコンビの喋り芸まで、10種類を越える形式のコメディが披露されていた。舞台中央に大統領の巨大な写真が飾られていたり、演者が皆同じ制服を着ていたりするところは日本と少し違う。
だけど観客が腹を抱えて、時には涙を流しながら大笑いする様子は、僕が好きなお笑いを観ているときとなにひとつ変わらない。考えてみれば当たり前だけど、この国にもこうやって笑う人々の普通の生活があるのだ。もし1枚目のDVDで終わっていたら、トルクメニスタンに「不気味な国」以上のイメージを持つことはできなかっただろう。
モノを介して膨らむ想像があり、伝わる世界の姿がある。2枚目のDVDを再生することで、新たな側面に気づくこともある。そうやって少しずつ、まだ見ぬ国の輪郭をなぞっていく。これもまた一つの旅の形かもしれない。

いつか世の中が落ち着いたら、今度こそシルクロードへと向かおう。アフガニスタンの帽子をかぶって、サマルカンドのストールを巻いて。ペルシャ数字の腕時計を見ながら、トルコのマウスピースを口にくわえて。そうして今度は、自分で買ったお土産を誰かにプレゼントしたいと思う。
74 件

WRITTEN BY

バーグハンバーグバーグ

ふざけたWEBコンテンツを制作・運営、映像制作、執筆業務をしています。好きな将軍は三国志の馬超。嫌いなものは争い。

RELATED TAGS

好きなものと生きていく

メルカリマガジンは、「好きなものと生きていく」をテーマにしたライフスタイルマガジンです。さまざまな方の好きなものや愛用品を通して、自由な人生の楽しみ方や多様性を紹介していきます。