2023.01.26

【初心者必見】「ワイングラスって必要なの?」ワインエキスパートに聞いてみた

味わいの説明を読んだり、ソムリエさんにおすすめしてもらって買ったワインを、いざ家で飲んでみると「あれ?思った味と違う」と思ったことはありませんか?もしかするとそれはグラスのせいかもしれません。「ワイングラスってなんであの形なの?」「ワイングラスの脚って意味あるの?」「まずはどのグラスを買えば良いの?」などワイン初心者が思うさまざまな疑問について、「趣味はガラス食器収集」と公言し、ワインエキスパートの資格を持つライターJUNERAYさんに伺います。聞き役は、お酒は詳しくないけどだいたい全部好きというデイリーポータルZの安藤さんです。

(執筆/安藤昌教、撮影/JUNERAY、編集/デイリーポータルZ編集部、メルカリマガジン編集部)
以前(メルカリマガジンの記事「【シンプルで使いやすい】初心者向け「ガラス食器」のはまり方講座」)、ガラス食器の魅力についてお話を聞いたライターのJUNERAYさんに、今回はワイングラスについてさらに詳しく聞きました。JUNERAYさんはワインエキスパートという資格を持つ、プロのワイン好きです。

安藤

JUNERAYさん、今回もよろしくお願いします。

JUNERAY

よろしくお願いします!

安藤

今回はJUNERAYさんの好きなガラス食器の中でも、さらにこだわりをお持ちであろうワイングラスについて話を聞かせてください。

JUNERAY

おお!緊張しますが、がんばります。

ワイングラスの形の謎

安藤

まず、ワイングラスってどうしてあの形なんですか。

JUNERAYさん所有のグラス(ご本人撮影)

JUNERAY

いきなり難しい質問ですね。まず「どうして脚(ステム)がついているのか」というところから行きましょうか。

安藤

お願いします!あの脚って必要あるんですか?洗う時に折ってしまいそうで怖いじゃないですか。

JUNERAY

わかります。ワインバーで働いていたとき、新人さんが高いグラスを洗うのを後ろでハラハラしながら見ていたのを思いだします。

安藤

絶対高いってわかってるグラスは扱いたくないでしょうね。

JUNERAY

そうなんです。高くなればなるほど脚がほっそくなるというワナもあります。

安藤

高いほど壊れやすいのやめて!

JUNERAY

あはは。グラスに脚がある理由なんですが、ワインをはじめとする醸造酒って、温度変化で味や香りがすごく変わってしまうんです。日本酒で想像すると分かりやすいかも。冷酒と熱燗だと、味も香りも別物になるじゃないですか。

安藤

そうですね、確かに。ワインも同じように温度に敏感であると。

JUNERAY

ワインはとっても敏感なんです!

安藤

いま脚の用途がわかりましたよ。そういうことか!

JUNERAY

そうなんです、手の温度がワインに伝わっちゃうと味や香りに影響してしまう。だから体温を伝えずにグラスを持つための場所として、あの脚があるんです。最近だと脚のついていないグラスも売られていますが、やっぱり手の温度がほんのり伝わっちゃう気がしますね。

安藤

保温を目的にするならサーモスみたいなやつではダメなんですか。僕は恐れずに素人質問をどんどんぶつけますよ。

JUNERAY

サーモスというと金属が二重になっている、あれですか。

安藤

そうそう。サーモスはコーヒーを飲むのにすごく便利なので、わが家では常に手の届くところに置いてあります。保温が目的ならあれに勝るものはないと思うんですが。

JUNERAY

なるほど。金属だとワインの風味が変わってしまうことがあるのでやってみないとわからない部分があるんですが、ガラス製のものもありますよ!断熱のやつが。

JUNERAY

KINTOのKRONOSシリーズにはワイングラスもあります。これだと耐熱構造だから脚がなくても大丈夫ですね。

安藤

これは僕らがイメージするワイングラスとは形がぜんぜん違いますね。特にマナーとかルールで脚がなきゃだめって決まってるわけではないんですか。

JUNERAY

クラシックなフレンチの店だと今でも脚付きが主流だと思いますが、最近はそんなに厳しくないと思いますよ。脚がすごく短いタイプとか、脚なしのタイプでワインが出てくるお店もありますから。

安藤

脚は必須ではないんですね。ちょっと安心しました。

このあとすぐに安藤が買ったKINTO。このまま電子レンジにもかけられるので最高に便利です。

JUNERAY

個人的には、家庭で使う分には脚が短い、もしくはないものがおすすめかなと思います。理由は主に3つありまして…(プレゼン感出てきた)

安藤

ちゃんとしてる!教えてください、その3つの理由を。

JUNERAY

まずテーブルに置いたときのバランスです。お店だと家よりも天井が高いじゃないですか。それで美しく見えるのですが、自宅で使うと「空間に対してグラスがでかすぎる」という印象になりがちです。

安藤

いきなり納得感がすごい。確かに家の夕食に脚の長いグラスが出てきたらちょっとびっくりしますね。

JUNERAY

やっぱり全体のバランスが大事なんです。2つ目はさっきも話していた洗いやすさですね。脚が長いグラスって、ほんっっっとに洗いづらいし、乾かしづらいんです。レストランやバーの調理場ならまだしも、家庭のキッチンでは扱いたくないですよね。

安藤

ぜったい洗う人のことを考えてないだろう、って思っていました。ひねると脚が取れそうで怖いし。

JUNERAY

細いものだと実際に力をかけると折れちゃうかもしれません。あと、ワイングラスって落とすよりも圧倒的に倒して割ることが多いんです。だから家で使うなら重心が高くない、短い脚のものがおすすめなんです。

安藤

3つ目の理由はなんでしょう。

JUNERAY

これは主にSNSユーザー向けかもしれないですけど、脚が長いと写真に撮りづらいんですよね。料理と高さが合わないので。

安藤

なるほどー。料理込みだとワイングラスを中心に真横から撮るわけにもいかないですからね。

JUNERAY

そうなんです。ワイングラスだけが写真からはみ出したりします。以上の理由から家で使うならちょっと低めのグラスをおすすめしたいですね。

最初に買うならテイスティンググラスを

安藤

もし家にワイングラスがなくて、最初に1つだけ買うとしたらなにを買うのがいいでしょう。

JUNERAY

私なら「テイスティンググラス」がいいんじゃないかなと思います。

安藤

これはテイスティング用のグラスですか?それを日常使いしちゃってもいいもの?

JUNERAY

もちろん大丈夫です。ワインのテイスティングっていろいろと細かい基準がありまして、これを満たしたグラスがテイスティンググラスなんです。日本ソムリエ協会の資格試験でもこのグラスで出題されますし、SAKE DIPLOMAという日本酒の資格試験もこれでした。

安藤

日本酒でもこれなんだ!これは普通のワイングラスとはどう違うんでしょう?

JUNERAY

テイスティンググラスは味わいや香りを感じ取るためのグラスなんです。ワインも人の鼻もとても繊細なものだから、グラスの形によって味や香りの感じ方が変わってしまうんですね。ワインってたまに「レモンやライムのような香り」みたいな説明があったりするんですが、家にあるワイングラスに注いでも(ん?なんか説明と違うぞ…?)と思ったりします。そういうときにテイスティンググラスに注いでかぎなおしてみると「これだ!」ってなります。

安藤

そんなに!!!グラスによってそんなに変わっちゃうものなんですね。サーモスでいいやんか、とか言ってたさっきの発言は撤回させてください。

JUNERAY

ワインはグラスですごく変わるんです!リーデルという有名なグラスメーカーさんなんかだと、ワインの種類ごとに適切な形のグラスを作り分けていたりします。

リーデルのワイングラス <ヴィノム> ヴィオニエ/シャルドネ

安藤

ワインの赤と白でもグラスの形って変わるんですか。

JUNERAY

もちろん赤と白とで作り分けているメーカーさんもありますが、ビギナーの方がそうやって種類によっていくつも揃えるのは現実的じゃないから、とりあえずテイスティンググラスでいいのかなと。

安藤

すごくいいこと聞きました。まずテイスティンググラスを買ってみます。市販されているテイスティンググラスでおすすめのものとかありますか。

JUNERAY

私は木村硝子店のグラスが好きですね。

JUNERAY

木村硝子店のいいところは数百円から数千円のものまで幅広くあるので、好きなものを選んでもらえるところですね。わたしも最初は値段がちょうどいいから、くらいの理由で買った気がします。安いグラスだと脚がぼてっとしたフォルムだったり、飲み口が厚くて口当たりが悪かったりすることがあるので。1000円くらいのだと気軽に買えて、品質もまずまず良いかなと思いますよ。

安藤

そのくらいから買えるとハードル低いですね。ワイングラスとかワインとかってどうしても敷居が高い気がしてしまって。

JUNERAY

なんでもかんでも高ければいいというわけではないです。いまうちにあるテイスティンググラスなんですが。

JUNERAYさん所有のテイスティンググラス(ご本人撮影)

安藤

おー、きれい。ちょっと小ぶりですかね。

JUNERAY

そうですね、ちょっと小ぶりなので扱いやすいのと、飲みすぎ防止になるのではという利点があります。形状も、いちおう多くの方が香りを感じ取りやすい形状ということになっていますね。

JUNERAY

木村硝子店といえば、ここ数年すっごい人気のワイングラスがありまして。

JUNERAY

これです。しばらく欠品していたくらい人気です。

安藤

きれいな形ですね。かわいらしい。でも言ってしまえばよく見る形のワイングラスだと思うんですが、これが人気なのはどういう理由なんですか?

JUNERAY

この値段のわりにガラスがすごく薄いのと、口がここまですぼまっているデザインって他になかなかないんです。ワインって香りの成分が揮発することで香るんですね。液体のワインの表面に「香りのついた空気」が乗っている状態なわけですが、この香りのついた空気を普通のコップとかマグカップに入れちゃうとどうなるか。

安藤

あ!逃げてしまう!

JUNERAY

そうなんです!口が広いと香りが逃げちゃいます。あと壁面がまっすぐでストンとしてる形でも遮るものがないのでやはり香りが逃げてしまいますよね。ワイングラスがチューリップ型なのはそういう理由からです。脚も形も、いちおう理由があるんです。

安藤

ワインという飲み物の特性に合った形、それがワイングラスだったんだ。このチューリップ型にもいろいろあるんでしょうか。

JUNERAY

そうですね。よく知られているものだと、いわゆるボルドー型、ブルゴーニュ型と呼ばれるグラスがありまして。ボルドー型というのはお碗状のもの、ブルゴーニュ型はまんまるで口がすぼまった形をしています。

安藤

ボルドーとかブルゴーニュってワインの名前ですよね。これがそれぞれのワインに特化した形なんですか。

JUNERAY

ボルドーもブルゴーニュも土地の名前なんですが、それぞれの地域で使っているぶどうの品種があって、この形のグラスがその地域で作られたワインをおいしく味わうために最適化された形ということになっています。一般的にボルドーワインは濃い色合いで重厚、ブルゴーニュワインは淡い色合いでソフトな味わいと言われます。

安藤

シャンパンとかスパークリングワインでは、また別のグラスを使うんですか。

JUNERAY

シャンパン用のグラスはですね、これまたいろいろな意見がありますが、個人的には普通のワイングラスでも全く問題ないのではと思っています。

安藤

そうなんだ!縦長のやつじゃないとダメなのかと思ってました。

JUNERAY

縦長のグラスだとなにがいいかというと、泡立ちがきれいに見えるんですね。やはりシャンパングラスは見た目重視ですから、メーカーさんによってはグラスの底にわざと小さな傷をつけていて、泡立ちがきれいに見えるようにしていたりもします。なので乾杯用とかにほしい方はもちろん買っておいて損はないんですが、普通に飲むだけならワイングラスとかテイスティンググラスなんかで代用しても問題ないですよ。

安藤

初心者は本気でテイスティンググラスがおすすめなのがわかりました。上級者のJUNERAYさんくらいになると、いま気に入っているグラスってあったりしますか?

JUNERAY

HARIOの耐熱フレーバーグラスが最近のお気に入りです。

JUNERAYさん所有のHARIOの耐熱フレーバーグラス(ご本人撮影)

安藤

これは口のところが最後きゅっと広がっていて可愛いな。

JUNERAY

私の鼻にはこのグラスが合っているみたいで、いちばん香りがわかりやすいと思うんですよね。このきゅっと広がっているのが香りの拡散に効果を発揮しているのかも。

安藤

自分に合ったワイングラスを探すのはおもしろそうですね。見つけた時には本当にお気に入りになりそう。

JUNERAY

そうなんです!結局お気に入りのグラスでいろんなお酒を飲んじゃってますね。HARIOのは丈夫なのでウイスキーの水割りなんかもこれで飲んだりしてます。

安藤

それを聞いて安心しました。僕も家にあるロックグラスみたいなのでなんでもかんでも飲んでいたので。

JUNERAY

気軽なお店だとそういうグラスでワインが出てくることもありますよ。グラスについては絶対にこれじゃなきゃだめ!ということはないので、そんなに構えることないと思います。

安藤昌教(あんどうまさのり)

デイリーポータルZ編集部勤務。ものをむかずに食べる「むかない安藤」としても活躍中。好きなものはカメラと恐竜。あとサメが出てくる映画。

JUNERAY(じゅーんれい)

日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、クラフトビアアソシエーション認定ビアテイスターのライター。元家具屋で花屋でバーテンダー。好きなものは酒と花。

JUNERAYさんの他の記事

106 件

WRITTEN BY

デイリーポータルZ

毎日更新のおもしろサイト。20年やってます。

RELATED TAGS

好きなものと生きていく

メルカリマガジンは、「好きなものと生きていく」をテーマにしたライフスタイルマガジンです。いろいろな方の愛用品や好きなものを通して、人生の楽しみ方や生き方の多様性を紹介できればと思います。