家具や食器、テキスタイルなど、北欧には年月を経ても色褪せず、暮らしに馴染むデザイナーズプロダクトやヴィンテージアイテムがたくさん。今回は森さんに数多くの「北欧の名品」の中から、一生モノのベーシックな北欧アイテムをご紹介いただきました。
(文/森百合子、写真/森正岳、編集/メルカリマガジン編集部)
部屋の心地よさを格段に良くする ルイス・ポールセンのペンダント照明
北欧のインテリアに憧れて部屋づくりのコツを知るにつれ、つくづく感じるのが灯りの重要さです。素敵な家具や生活道具を揃えても、それを照らす光が美しく心地よくなければ意味がない。逆にいえば、灯りがよければ部屋の居心地は格段によくなる。これは北欧の部屋づくりから学んだ一番大切なことだと思っています。
20年前、結婚する時に思い切って買ったのがデンマークのルイス・ポールセン社のペンダント照明です。名作照明のなかでもとくに知られるPHシリーズで、PHとはデザイナーであるポール・ヘニングセンの頭文字。オリジナルは1926年に完成し、3枚のシェードが印象的なデザインです。わが家では乳白ガラスのPH3-2と呼ばれるタイプを使っていて(PHの後ろに続く数字はシェードの大きさを示しています)、テーブルをやさしく照らし、ガラスシェードを通して外側に漏れる灯りがまた温かい感じがして良いのです。
北欧を旅しているとPHシリーズは本当によく見かけます。家庭の食卓をはじめレストラン、ショップ、美術館、公共施設などあらゆる場所で利用され、2灯、3灯を並べて使っていることも。冬の北欧は日照時間が短く、暗い時間が長いのですが、美しい灯りがともる町を歩くのはなかなか良いものです。
メルカリで購入を検討されている場合には、正規品であるか、また購入経路を確認すると良いと思います。というのは「ジェネリック製品」や「リプロダクト」などの呼称でコピー品が多く出回っているからです。法的に問題ないとして販売するメーカーが後をたたないのですが、じつは著作権に関して勝手な解釈が多く、かなりグレーな存在です。 問題点について詳しく書くには文字数が足らないのですが、ひとつ確実に言えることはデザインとは見た目だけを指すのではなく、素材選びや製作工程も含めたものであることです。とくに名作といわれる照明や家具は製品を作る職人やメーカーとデザイナーとが信頼関係を築いた上で生まれています。見た目だけを真似しても(実際には真似もできていない物もありますが)それは違う製品なのです。 ちなみにルイス・ポールセン社のベストセラーであるPH5シリーズの形状は立体商標として登録されているので、模倣品は商標権侵害にあたります。
出品されているPHシリーズをざっと見てみたところ、正規品であること、どこで購入したかを明記されている方は多いですね。一方で、ジェネリックやリプロダクトであることを明記しているケースもあります。気をつけたいのは正規品であるかのように表現を濁しているもの。良心的な出品者さんは、コメント欄を見ても購入経路など丁寧にやり取りされているようです。実際の蚤の市でも出店者さんとのやり取りはかかせないものなので、ぜひ確認をしてみてください。
大きめの柄を大胆に使いたい マリメッコのテキスタイル
初めて北欧へ行った時から変わらず、見るたびに心躍ってしまうのがマリメッコのテキスタイル。最初はバッグや小物類など買いやすい製品を手にとっていましたが、次第に現地の人々のようにマリメッコらしい大胆な柄の布をインテリアに取り入れたいと思い描くようになりました。私にとっての特別な一枚は『ヴィヒキルース』と呼ばれるバラの柄。マリメッコのスターデザイナーだったマイヤ・イソラの代表作のひとつで、テキスタイルをはじめ食器やキッチンアイテムにもなっています。
わが家では壁収納のアクセントとして、こんな風に使っています。色と柄が映えるように両脇は真っ白の棚にして、天井から吊るしています。布の向こう側には本や資料を収納してあって、目隠しがわりにもなっています。 テキスタイルは北欧のデザインを取り入れるのに手軽に試しやすいアイテムだと思います。カーテンやテーブルクロスなど大きな面で使えば部屋の印象ががらりと変わりますよ。
北欧デザインのアイコン的存在 アルヴァ・アアルトの花器
私が「北欧」という存在を意識したのは、もう20年以上も前に日本で開催されていたアルヴァ・アアルトの展覧会でのことでした。アアルトはフィンランドが生んだ偉大な建築家で、モダンでシンプルな北欧デザインの源ともいえる存在です。アアルトの建築を写真や模型で再現した展覧会の最後に、目に飛び込んできたのが通称アアルト・ベースと呼ばれるアアルトがデザインした花器でした。ガラスがひらひらと波打つ、湖を思わせるユニークな形状は、モダンながら有機的なデザインを突き詰めたアアルトのエッセンスを凝縮しているように思えました。
アアルト・ベースはバリエーションが豊富で、オリジナルに近い型のほか背の高いタイプもあり、色もさまざまに揃っています。迷いに迷って、最初の出会いからじつに16年経ってついに手に入れたのは201mm型の淡いピンク色。フィンランディアと名付けられた型で、2014年の限定カラーでした(201mmは現在は廃盤)。フィンランドの家庭ではサイズ違いをいくつも並べて楽しんでいたりして、そんなスタイルもいつか真似してみたいですね。そしてこれ、花が生けやすいんです。ワイルドフラワー系でもバラの花束でも合いますし、2~3本を挿すだけでもサマになるんですよ。
ワードローブにもタイムレスな一着 エミーデザインのカーディガン
先日、服の整理をしていて、ワードローブにも北欧モノが増えてきたなと再認識しました。家でも旅先でも日常的に愛用しているのがスウェーデンのブランド、エミーデザイン(emmy design)のカーディガン。1920年代~50年代のレトロなスタイルを愛するブランドで、ショート丈の"アイススケーター"カーディガンはロングセラーアイテムの一つ。上質なメリノウールを使い、寒いスウェーデンの冬にも耐える暖かさで、家で洗濯しても大丈夫なのが嬉しいところ。シナモン色のカーディガンはもう5年近く愛用していますが毛玉もできません。
エミーデザインは、クラシックなスタイルの普遍的な美しさを伝えるとともに長く着られる服を作り、大量生産と大量消費に歯止めをかけることを目指しています。日本でも最近スローファッションやエシカル消費の概念が浸透してきていますが、エミーもスローファッションを志すブランド。またサイズ展開が充実していて(ニット製品は5サイズ、ドレスは10サイズ展開!)、自社サイトやインスタグラムに登場するモデルはさまざまな体型や年齢の女性たち。あらゆる年齢と体型の人々に着て欲しいというメッセージが伝わってきます。
北欧にはエコフレンドリーな素材を使った服をはじめ、廃材をアップサイクルして作ったアクセサリーやバッグ、無駄のない生産を続けるためにオーダーを受けてから仕立てるブランドなど、環境を守るためにさまざまなアプローチをしている作り手がいます。世の中を少しでもよくしようとメッセージをもった物づくりをしているブランドも多く、ワードローブにもそうした製品を増やしていきたいなと思っているところです。
朝の時間が楽しくなる 60年代~70年代のヴィンテージ食器たち
わが家にはスウェーデン、デンマーク、フィンランド、ノルウェーと北欧それぞれの国からやってきた器がありますが、毎日のように使う食卓のベーシックといえるのはコーヒーカップと朝食のプレート。
このコーヒーカップはどちらもノルウェーのスタヴァンゲルフリント(Stavangerflint)という今はなきメーカーで作られたもの。 ネイビーのカップに白いソーサーはブリュネット(Brunette)という60年代に大ヒットしたシリーズで、もともとこういう色合わせなのです。茶系のカップはオーガスト(August)というシリーズで根菜や果実などが描かれています。北欧では8月といえばもう秋の始まりで、収穫の季節なんですよね。
朝食用にしている黄色い小花柄のプレートはスウェーデンのウプサラ・エケビー(Upsala Ekeby)社によるヴィヴィアン(Vivian)シリーズ。ケーキ皿のサイズですが、トーストや惣菜パンなどで手軽に済ませる朝はこのサイズが活躍しています。ウプサラ・エケビーも既になくなってしまった会社で日本ではあまり知名度が高くありませんが、本国ではここ数年、人気が再燃中。 ちょっと角のある形が気に入って、柄違いも集めています。青い花柄はフィンランドのアラビア(Arabia)社製。朝を意味する「アアム」と名付けられたシリーズで、休日はパンケーキや卵料理を作ってこのプレートでゆっくり食事をしています。
どの器も1960年代~70年代に作られていたもので、この時代のデザインには日常を美しく、楽しいものにしようとするエネルギーがあふれているなあと感じます。北欧では蚤の市やセカンドハンド店が充実しているので、こうしたヴィンテージ品と気軽に出会えるのが魅力ですね。とりあえずの食器を揃えたり、好みが変わってきたら売ってまた別の人に使ってもらって……と循環させる仕組みがあるので、さまざまなデザインに気軽にトライできるんですよね。今回ご紹介している器もすべて蚤の市やセカンドハンド店で見つけました。
ヴィンテージの器を選ぶ時には、ぜひ裏側にあるバックスタンプをチェックしてみてください。ブランドロゴ、生産国のほかに物によってはシリーズやデザイナー名も書いてあるので、自分好みのデザインやブランドを深く知りたい時の手がかりにもなります。アラビアやロイヤルコペンハーゲンのように時代によってロゴが変化している会社もあり、およそいつの時代に作られた製品か、見当をつけることもできます。
ヴィンテージとひと口に言っても状態はさまざま。ほぼ使用感のない美品もあれば、使い込んで柄がかすれていることも。ペイントのムラや釉薬にできる貫入などは味わいのうちとも言えます。私は日常的に使いたいので、完璧で高い製品よりはちょっと難ありでも使いやすい価格帯のものを選ぶことが多いです。
北欧を旅するライター。著書に『3日でまわる北欧』シリーズ(トゥーヴァージンズ)、『いろはに北欧 わたしに”ちょうどいい”旅の作り方』(学研プラス)、『北欧レトロをめぐる21のストーリー』(主婦の友社)など。ビンテージ食器とテキスタイルの店 Sticka を運営し、北欧の生活雑貨を楽しむノウハウも伝えている。新刊『日本の住まいで楽しむ 北欧インテリアのベーシック』(パイ インターナショナル)では自宅のリノベーションを通じて北欧インテリアの取り入れ方を紹介。NHK『世界はほしいモノにあふれてる』、『趣味どきっ!』、『北欧アンティーク鑑定旅』などメディア出演多数。松屋銀座のサイトで『森さんちに、おじゃましました』を連載中。北欧BOOK https://hokuobook.com/ 主宰。
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