消費はプロセス重視。軽井沢暮らしを機にメルカリでアウディを購入した起業家に聞く、モノ選びの基準

「リモートワークをきっかけに軽井沢に拠点を移し、中古のアウディA4をメルカリで購入した人がいるらしい」。そんな噂がメルカリマガジン編集部に届いた。

購入したのは、山本憲資(やまもと・けんすけ)さん。テレビCMでも話題になっており、月額250円から利用できる収納サービス「サマリーポケット」を運営する株式会社サマリーのFounder & CEOだ。

山本さんがプライベートで度々訪れていた軽井沢に築約50年の小屋を購入したのは、2019年末ごろのこと。しかしリノベーションの準備をしている最中に、新型コロナウイルスの感染が拡大。リモートワーク主体の働き方が増えつつあることをきっかけに、軽井沢をメインの拠点にする決断をし、あわせて現地での移動手段となる車をメルカリで購入したという。

メルカリマガジンでは、山本さんにメルカリでのアウディの購入、「小屋」でともに暮らすモノを通した消費に対する価値観についてインタビュー。見えてきたのは、年間100を超える国内外の展覧会に出向くほどのアートフリークな一面、そこで出会った作品を通して形成された「好き」の基準だった。
(撮影/佐坂和也、編集/メルカリマガジン編集部)

「できるだけ予算を抑え”ゲタ車”を見つけたかった」山本さんがメルカリで出会ったアウディ

Sumally Founder & CEO、山本憲資(やまもと・けんすけ)さん

ーForbes JAPANへ寄稿されている連載「スマートリモートライフのススメ」で、「賢い選択の積み重ねでコストパフォーマンスを最大化していく」暮らしについて書かれていましたね。メルカリでのアウディ購入もその観点からでしょうか?

実は今回、車を買うこと自体が初めての経験でした。

最初は車はなしでも何とかなるかなと思っていたんです。でも工事が完成する頃に何泊かしてみた結果、車がないとゴミ捨てすらままならない状況で、やっぱり必要だな、と。ただすでに小屋のリフォーム代にほとんどの予算を費やしていた状態で、何とかコストを抑えてこちらに置きっぱなしにできる車を手にする方法はないものか、と。それでメルカリで探してみることを思いつきました。

知人にも相談に乗ってもらって学んだのは、多くの車は「15年落ち」になると、ほとんど査定がつかなくなること。もちろん部品の状態が悪いなどのリスクもあるんですけどね。なので、修復歴がなく、記録簿が残っていることを条件に、軽井沢の冬は降雪もあるので四駆がいいな、と。あとワゴンタイプの方が何かと便利だろうな、など頭に思い浮かべながら、メルカリで中古車を探しました。いろいろ見ていたら、走行距離が7万キロのディーラー車(※)で、僕好みの濃紺、オールシーズンのスタッドレスタイヤをはいていて…さらに価格が20万円、というこのアウディに出会ったんですよね。

(※)ディーラー車:メーカー直営店や正規代理店で輸入・販売されている車。並行輸入車に比べて、日本に合わせた装備が実装されているなどのメリットがある。

山本さんがメルカリで購入した2004年式のアウディ A4 Avant Quattro。名義変更も自身で行い、長野ナンバーを手に入れた

ー好条件だったんですね。

しかも、出品者はやりとりがとても丁寧な良い方で。車は整備工場で見せてもらい、おかげでくわしく状態を知ることができましたね。ただ、出品者の人柄がわかるまでは、取引メッセージで車体受け渡しのための個人情報(※)をやりとりするのは少し不安でしたが、スムーズに購入できました。

※車体の取引についての詳細はメルカリ自動車取引ガイドに掲載されています。

ブランドやステータスではなく“プロセスの中で好きになったモノ”を愛する

ー車をメルカリで購入したということは、普段からオンラインでよく買い物をしているのでしょうか?

amazonはよく使っていますが、特にebayは多く利用しているかな。ebayで購入したアイテムをこの小屋にもいくつか置いています。メルカリでどうしても欲しかったヴィンテージのバンドTシャツと出会い、購入したことがあります。

ebayで購入した、庭の木の根元に埋め込まれているマクドナルドのヴィンテージのハンバーガーのオブジェ

逆さになった「OrderHere」。キッチンに飾られたダイナーで使われていた古い看板もebayで購入

プラダ青山店の設計などで知られるH&deMのデザインの照明は友人から譲り受けたものなのだそう

ー買い物をするときのセレクトの基準は、どこにあるのでしょうか?

自分にとって価値があるモノであれば、新品・中古を問わず欲しいと思います。「有名ブランド、有名アーティストのモノだから」「ステータスとして欲しい」といった買い物はあまりしないですね。特に嗜好品においては、僕が何かを買うとき、そのモノがどういう思いやプロセスで作られているのか、という部分が自身のアイデンティティと強いシンクロニシティがあることが重要です。自分のアイデンティティそのものが、アートやファッションなど、興味関心のある分野を追い続ける中で培われた部分も多分にあるので、鶏と卵のような関係だともいえますが、そのインプットのプロセスを経ることではじめてシンクロニシティが起こり、その過程で物欲が湧きますね。作り手のストーリーや制作背景に共感したり、愛着のあるものはそういうモノがほとんどです。

衝動買いはあまりなく、直感で「いい!」と思ってそこから詳細を調べたりもありますが、そのモノにまつわる情報をしっかりインプットしたうえで購入するかどうかを決めています。ある意味、お金は、稼ぐより賢く使うほうが難しいとも言えると思っています。気持ちの面でピントが合っているモノに絞ろうとすればするほど、そう感じます。長く使えそうなものは、多少高価でもえいやっと購入を決めることもままありますね。

例えば、このデメイエレのフライパンは建築家であるジョン・ポーソンがデザインしたもの。日本では販売されていないのですが、ミニマルで洗練されたフォルムに彼の美学が表れていると惹かれ、購入しました。

自分で料理もするのでキッチンアイテムにわこだわりがあって、ほかにもお気に入りがあります。このクリストフルのソルトとペッパーのミルもそのひとつ。これは東京・三田にあるフレンチレストラン「コート・ドール」で食事しているときに出会ったもの。廃盤になっていたのですが、プロ仕様の美しさにも惹かれ、中古品を探しました。本当に気に入ってて普段から愛用しています。

写真左からジョン・ポーソンがデザインを手掛けたデメイエレのフライパンと鍋、そして、フレンチレストラン「コート・ドール」で出会ったクリストフルのソルトとペッパーのミル

ーとても素敵ですね! ほかにもお気に入りのアイテムを教えてください。

まだあったかな…。あ、最近手に入れたモノだと、ソニーの「Just Ear」というイヤホンもよく使っています。耳穴の型をとり、オーダーメイドで制作されたものです。少し回し耳にはめ込むと、しっかりフィットする感じがとてもいい気持ちいいですね。

山本さんの耳穴の型からオーダーメイドしてつくった、ソニーのJust Ear。Zoom会議をしたり、クラシックの音楽を聴いたりしているという

小屋のリノベーションにともなって購入したモノでいうと、スキャンサームの薪ストーブ。「薪ストーブ界のスマホ」とも言われていて、少量の薪で、あっという間に部屋が温まる構造になっているんです。

スキャンサームの薪ストーブ。薪を置くラックをアリババ経由で中国にオーダーしているところだそう

インプットを続け、解像度が高い買い物をする

ーお話を伺っていると、山本さんは買い物のスタイルが能動的ですね。ウィンドウショッピングはしなさそう印象があります。

僕は、モノより「体験」にお金をかけたいタイプ。アートが好きで国内外の展覧会へもよく出かけています。やっぱり、現地へ行って作品を見たり触れたりすることは、写真で見るよりも圧倒的に情報量が多い。アートだけではないですが、幅広いジャンルにおいて深いインプットを続けているおかげで、自分の目と脳の解像度が上がり、その時々に一番最適な判断ができている気がします。「これは買わないほうがよかったな」と後悔することはあんまりないですね。

ー「膨大な情報をインプットする」プロセスのなかで培われたセンサーが、山本さんの“好き”を形づくっているんですね。

そうかもしれません。アートの魅力のひとつは、アーティストが命を賭して作品をつくっているところでしょう。そんな前のめりの姿勢の背景や思考を知るのは興味深いし、作品を買うことは体の一部をもらうような行為だとも思うところがあります。実際に購入するとなると手の届く範囲のものにはなりますが、彼らのインスピレーションが詰まったプロダクトや作品が自分の近くにあることは、幸せに感じますね。

すぐそこのサイドボードの上には、アメリカの陶芸家であるローズ・キャバットのフィーリーという花器があります。恐ろしいほど美しい青りんごみたいでしょう? この色味に魅了されて随分昔に購入したものです。今年は外出自粛期間もあったりして、これまでのように気軽に展覧会へ行ってリアルな体験をする機会が減り、少し寂しい気持ちはありますね…。

ローズ・キャバットのフィーリー。この青が、同じ棚に並べられたほかのアート作品をより引き立てる

家の柱に掛けてある、一輪挿しをモチーフにしたユニークなロエベのネックレスも気に入ってます。「デザイナーのジョナサン・アンダーソンの自由な発想には、自由で臨むしか向き合えないな(笑)」と思って、アクセサリーとしてではなく元々のモチーフである一輪挿しとして使っています。

ロエベの一輪挿しをモチーフにしたネックレス。室内の中心にある柱に一輪挿しとして本来の役割を果たしている

バスライトの上には、イギリスの現代美術家であるジュリアン・オピーのマルチプル

リアル×デジタルな世の中で追い求める、シームレスな所有のカタチ

ーメルカリは、不要になったモノを「捨てる」以外の消費を目指したサービスでもあります。山本さんもソーシャルメディアの「Sumally」や「サマリーポケット」のような、個人所有物のあり方をアップデートするサービスを展開していますよね。ご自身にとって、昨今でのモノの消費はどのように変化していると感じていますか?

僕がサマリーでやっていきたいことは「所有を進化させること」です。手元に置いておくことが前提になっていた所有という行為を、リストさえあれば、物理的スペースに関わらず、さもそれらを手元にもっているのと同じように管理できる、という状況はひとつ理想ですよね。ドラえもんの四次元ポケットはそれに近いですし、デジタルの世界ではDropbox(※)が同じようなことを成し得ています。ドラゴンクエストなどのRPGの世界ではそのDXがとても進んでいて、売りたいモノはいつでも売れるし、武器屋で半額で買い取ってもらえるという価値も明示されているので、ある意味資産としてモノを所有することのハードルが圧倒的に低い。メルカリが目指している方向と重なるところもあるのでは、と思いますが、リアルな世界でも所有という行為をそういうシームレスな感覚で体験できるものに進化させていきたいです。
 
(※)オンラインストレージサービス。オンラインとローカルのデータを共有できる
 
まだまだ先は読めませんが、これから先の30年でリアルなモノがデジタルデータのように扱われるようになっていくのではと考えています。その流れに乗っていきたいし興味があります。

山本憲資(やまもと・けんすけ)
Sumally Founder&CEO

1981年生まれ、神戸出身。広告代理店、雑誌編集者を経て、Sumallyを設立。スマホ収納サービス『サマリーポケット』も好評。音楽、食、舞台、アートなどへの興味が強く、週末には何かしらのインプットを求めて昨今は国内を飛び回る日々。ビジネスにおいても最も重要なものは解像度であり、高解像度なインプットこそ、高解像度なアウトプットを生むということを信じて人生を過ごしている。

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メルカリマガジン編集部

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