ノスタルジー2019.06.30

篠井英介さんがメルカリに出品できなかった、ロマンチックな3つの思い出

還暦でハマった深すぎるメルカリ愛を語ってくださった、俳優の篠井英介さん。
身辺整理を始めて、メルカリで様々なものを出品してきた篠井さんですが、その過程で「これは死ぬまで持っていよう」と決めたものもあるといいます。今回は篠井さんが“メルカリで出品できなかったもの”を紹介していただきながら、50歳で訪れた物欲の変化や、いま大切にしたいものを伺いました。(編集/メルカリマガジン編集部、撮影/熊田勇真)

身辺整理で手放せなかった3つのもの

篠井さん

僕にももちろん、メルカリさんに出品できないものはありますよ(笑)。

若いころにお金を貯めて買ったものや、旅行先で買ったものだったり。ここでは言えない自分のプライベートな思い出の品みたいなものも、ないことはないですね。ふふ。そういうものは簡単に捨てられもしなければ、メルカリさんにも出せないですよね。だけどやっぱり、「一生持っていたい」というものは、みなさん何かしらおありになると思うんです。

役者を目指していた二十歳のころ購入した、陶器のお人形

篠井さん

これは40年くらい前、当時僕がPARCOでアルバイトをしていたときに、初めてバイト代で買ったものです。二十歳くらいで、ちょうど役者を目指しながらも、まだ何も始まっていなかった時代。若い頃、陶器でできたお人形が好きだったんですね。このお人形をPARCOで見た時、一目惚れしたんです。子供だったから、ちょっとロマンチックなものが好きだったりして。なんていうか僕、昔は夢見がちな青年だったんです(笑)。

あの頃は、今思えばちょうど一番夢を追いかけていた時だったんですね。役者さんになるんだ、俳優さんになるんだ、って毎日思いながら、劇団とバイトを掛け持ちして。青春の入り口みたいな時代に買った品物なので、これは捨てられもしなければ、誰かの手にも渡したくないなって。40年前からずっと目に見えるところに飾ってあったので、いまこれがお部屋からなくなってしまうのは、非常に寂しい。だからこれは、死ぬまで持っていようって決めてあるもののひとつです。

旅行先でロマンチックな佇まいに惹かれた木製の馬

篠井さん

こちらは20年くらい前、タイに行った時に買ったんです。王子様が乗っているお馬さんみたいで素敵だなあと思って。何度も言っちゃいますけど、ロマンチックな性格なんですよ(笑)。こういう置物を集めていた頃があったんですけれど、やっぱりかさばるので、今回の断捨離でほとんどメルカリで売りました。いくつかの置物がセットになっていたので、そのシリーズごと出品したりして。

でもこのお馬さんは、タイで買ったから、壊れないように持って帰るのがとっても面倒くさかったわけね。僕がこの品をメルカリで売るなら、500円とかで出すと思うんです。きっとお金にしたらそのくらいの価値なんです。でもこの置物は、さっきの王子様のお人形とずっと一緒に飾ってあったんですね。並べて見ると、これから王子様がこのお馬さんに乗りそうでしょ? せっかくなら二人一緒に残してあげたいなあと思って、いまもお部屋に飾っていますね。

夢見がちな青年時代を思い出すトレーナー

篠井さん

こちらは陶器のお人形と同じ時期にパルコで買った、トレーナーです。これもやっぱり、騎士なのか皇子なのか……いずれにせよまた王子様系なんですけど(笑)。当時の僕にとっては高いものだったんですが、すごく気に入って、お給料が入ったら買うぞっていうようなものでしたね。いまの僕にはサイズが小さくてもう着られないんです。でもずっと大事にしまってありますね。

昨日久しぶりに引っ張り出して、さすがに色とかプリントが剥げてるかなあと思ったんですけど、意外と大丈夫でしょ。僕、お洋服はバンバン処分するんですけど、これだけはやっぱり手放せなかった。普段は押入れの引き出しの奥の方に、ぎゅうぎゅうに詰め込んであるんです。でも春物と冬物を入れ替えする時に、このトレーナーは毎回「あ、あるある」と思って、もう着ないけど、捨てないんですよ。そういうものは、それでいいと思うんですよね。

人には捨てなくていいかけがえのない思い出がある

篠井さん

わりと思い切りがいい方なので、若い時の写真なんかも、断捨離の時にだいぶ処分したんですね。「この時期の写真だったら2枚くらい残ってれればいいや」と思ってどんどん捨てちゃった。だけどやっぱり人には、かけがえのない思い出みたいなものがあって、それまで売ることも、捨てることもないっていうのが僕の持論です。大事なものは、大事なものとしてとっておけばいい。

ものすごく考えて、消去していくと、今日僕が「メルカリで売れないもの」としてお見せできるようなものは、この3つくらいしかありませんでした。人にとって本当に手放せないものなんて、実はそんなものなのかもしれませんね。なんか乙女みたいな趣味だし、恥ずかしいなと思ったんですけど(笑)、僕にとっては紛れもなく大切なものでしたから。

俳優にとって必要なのは、最後は自分の心と体だけ

篠井さん

僕は50歳くらいになってから、ぱったり物欲がなくなって、そもそもモノを、形あるものを買うっていうことをしなくなったんですね。じゃあ趣味は何って言われると、美味しいものを食べるとか、旅行に行くとか、形ないものにお金を使うってことの方がストレス解消になることが分かったんですね。若い頃はあれも欲しい、これも欲しいっていうのがありました。でも50歳を過ぎてからは、モノがどんどん増えていくのが重荷になって、必要最低限しか買わなくなりましたね。見えないものにお金を使う方が、なんか気持ちがいいぞっていうのが、僕の性格になっちゃったので。いまはほぼ消耗品しか買いませんね。

そもそも俳優にとって必要なものって、最終的に自分の体だけだと僕は思うんです。強いて言えば、明晰な頭脳と健康が何よりの財産。怪我しちゃったらお仕事できませんし、風邪ひいて声が出なくても仕事できません。自分自身が商品なんです。体と心さえあれば、俳優にとってどうしても必要なものなんてまったくないんです。

この3つを捨てられないのは、若い時に一生懸命にお金を貯めて、飾って、うちに帰ってきてから眺めたりしてるときの自分が、僕の原点だからだと思います。今でもこの置物やトレーナーを見ると、綺麗でロマンチックで華やかな、そういうものが大好きで、ミュージカルに憧れて役者になりたいと思ったあの頃の自分を思い出すんです。そういう夢見る気持ちが、今の自分に結びついてるんだと思います。

篠井英介(ささい・えいすけ)
俳優。1958年12月15日生まれ、石川県出身。1984年に友人と共に劇団「花組芝居」を旗揚げ。1990年に退団。以降、数々の舞台で現代劇の女方として活躍。主な代表作品に『欲望という名の電車』(主演:ブランチ役)や『天守物語』(主演:富姫役)など多数。中性的な役や悪役など、独特な個性で異彩を放ちドラマ、映画などでも活躍するほか、バラエティ番組にも多数出演している。近年の主な出演作品に<舞台>新派「夜の蝶」、<ドラマ>「昭和元禄落語心中」(NHK)、「トレース~科捜研の男」(CX)、「3年A組-今から皆さんは人質です」(NTV)、映画「マスカレードホテル」他多数。2014年に石川県観光大使を任命され、地元石川県の振興にも努めている。公式HP

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WRITTEN BY

宮川直実

(みやかわ・なおみ) 編集者。好きなものは、猫、コーヒー、プロレス、海外文学、お買い物。

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