6回目となる今回のゲストは、ファッションブランドの広告やカタログ、企業ロゴ、CDジャケットなどを手掛けるイラストレーターのジェリー鵜飼さん。
そんなジェリーさんにお気に入りのアウトドアギアを持参いただき、アウトドアにハマった経緯やアイテム選びの楽しみ方について話を伺いました。
(撮影/山田裕之、取材・執筆/伊福渉、編集/古賀結花、メルカリマガジン編集部)
日本最強のパワースポット「山」。
ジェリー 大学生の時に仲のいい友達たちと山に行くのが流行っていました。当時パワースポットみたいのものが広まっていて、ぼくも有名な方のインドに行く本を読んで影響を受けました。美大生だったので、アーティストはそういうところにいなきゃいけないものだと勘違いしてたんです(笑)。
日本のパワースポットって山ばっかりで、都内から行きやすい丹沢などに行くようになったのが最初です。
そのうち、90年代の中頃にレイブが流行り出しました。仲のいいバンドが出演していたりして、安っぽいテントを担いで山奥まで参戦してました。
だから高山を登ったり、縦走したりっていう登山の王道はよく知らず、山の名前も最初はわからなかったですね。周りに詳しい友達もいなかったので。
アウトドアに本格的にハマったのは本当に遅くて、40歳手前あたりです。レイブでのテント泊は本当お粗末な感じで、ホームセンターで売っている銀マットと、どのメーカーかすらわからない寝袋なんて使ってました。
ジェリー そういうわけでもないですね。日本って、北海道から九州まで本当に山がたくさんあって、好きな山も色々あるけど、なかなか行けてないですね。本格的な登山に行くのは月に一回ぐらいかな。
ただ友達とは週に一回、高尾山にジョギングに行っているので、そういう意味だと毎週になるのかな。あと八ヶ岳にアトリエもあるので、常に接していますね。そんなふうに山が生活にある状態が幸せです。
―ジェリーさんが考えるいい山の定義ってなんなんでしょう?
ジェリー もうね、山は全部いいんですよ(笑)。でも理想をいえば植樹林じゃなくて天然がいいとは思います。個人的には標高が500mしかない、通りに面してる里山とかもいいですね。畑の脇にその山の入口があって、小さな看板だけがポツンとあると100点です。登山口にいるだけでワクワクします。
人間が考えてつくったものじゃない、というところに面白みがありますね。たとえば街は、照明だったり噴水だったりお金をかけてワクワクを仕掛けています。山はそういった人の意識が介在していなくて、人間から見ると勝手にできあがったものです。そこに思いを巡らせると心が踊ります。
ジェリー 実は疲れるのが山のいいところです。頑張って登った先にある心地良い疲れはみんな平等で、お金では買えない価値です。
それに大変なのは最初だけで、歩いているうちに段々体が慣れていくものなんですよ。
取捨選択がウルトラライトの肝。
ジェリー 2009年頃に友達がやってた雑誌の連載企画をお手伝いすることになって、一緒に山や川、海に行くようなりました。最初のうちはアウトドア用品を持っていなくて、これじゃダメだ、となって調べはじめました。するとちょうどアメリカでウルトラハイクが流行りはじめていることがわかって、これは思想的に自分に合ってるんじゃないかと。
ただ装備の軽さを追求するのではなくて、すべてのアイテムが本当に必要なものかどうか、経験して吟味して減らすのが自分のスタイルにすごくしっくりきました。俺にはもうこれだ!と。
山に行くのも楽しいけど、同じくらいウルトラライトのカルチャーが面白くてハマりました。
ジェリー 今はそれほど入れ替えはないです。最初に購入したアイテムからずっと吟味はしてますし、昔のものだって結構名作揃いなんです。もちろんどんどんアイテムは軽く、良くなってきてはいるのですが、初期の装備には思い入れもありますしね。新しいものは性能自体は素晴らしいけど、色やデザインが気に入らないってことも結構多いです。
やっぱり軽さだけを考えたら、新しいものが良いんですけどね。でも壊れてる前に買い替えるのも違うなと。ただ、最近どのメーカーのアイテムも進化がめちゃくちゃすごくて、いいなー欲しいなーとは思ってます(笑)。
地図こそが最も軽くもっとも面白いアウトドアアイテム。
ジェリー 実は地図を見るのが昔から好きで、見てるだけで夢が広がりますね。いつも登っている山でも、地図を広げながら“こういうコースを辿れば、こっちの山とつながってるんだ…”と気づいたり。家で地図を眺めるだけでも楽しいです。
―ルートの答え合わせのような感じですか?
ジェリー そうですね、自分が過去に何度も歩いた道も見ますよ。その上で、通ったことのない道を探して今度は通ってみよう、とか。迷路で遊んでるみたいな感覚です。
地図は本当に面白くて、1日中見ていられます。標高の高い有名な山じゃなくても、地図があれば小学生が遠足のコースを決めるみたいに楽しめます。
ジュリー いやー作れないですね。すっごく大変ですよ! 地図みたいな絵だったら何度も描いたことはあるけど、本物の地図は難しいです。人に見せるとなると正確なものじゃないといけないので…僕の地図のせいで遭難されても困りますし(笑)
―なるほど、ではおすすめの地図はありますか?
ジェリー 登山用のものが大好きですね。ちょっとオタクになると等高線だけをみて、地形がわかるようになります。平面の地図で山の斜面の感じまで想像できるようになるとより楽しいですね。
ジェリーさんこだわりのキャンプギア7選
サロモンのスノークロス
冬の登山靴は履いた瞬間、重くてすぐに脱ぎたくなることも多い中で、これは軽くてグリップも効くので重宝しています。実際、雪山のキャンプでも大活躍しました。ただ軽いというのは重いものよりも薄く作られているということでもあるので、厳しい寒さには耐えられません。山や季節はうまく見極めてくださいね。
グランテトラの水筒
フランス製の50年前くらいの古い水筒です。頑丈で70年代に日本で登山する人はみんな使っていました。ちょっと表面が凹んだりするのも、山にたくさんいった証って感じで素敵だなと思いオークションで買いました。見た目も気に入ってます。そうそう壊れないものなので、自分の子供や孫が使うかもしれませんね。
ウエスト コムのSwitch AP Hoody
縫製工場の人たちがつくったファクトリーブランド、〈ウエスト コム〉のジャケットです。洋服を作るのはここが一番上手だと思っています。ダイニーマコンポジットという服に使うのが難しい素材を3レイヤーにして、着心地良く仕上げてるんです。個人的には、雪山で使うものなのに白ってところも面白いポイントかなと思ってます。いまアウトドアのラインは休止しているので、より希少になっているかもしれません。
MSRのウインドプロ
残念ながらこれは全然ウルトラライトじゃなくて、重いし嵩張ります(笑)。ですが、氷点下や−20℃でもお湯が沸かせるので冬の時期は特に欠かせないアイテムです。気温が低すぎてなかなか点火しないときに、ひっくりかえすことでガスが出やすくなる裏技が使えるのも、分離型ストーブならではです。
ハイパーライト マウンテンギアの3400 ポーター
大人気の〈ハイパーライト〉です。最近のおしゃれなハイカーがこぞって使ってますよね。よくあるウェビングテープとかポケットみたいな、オプションが外に何もついていないのが好きで、ポイと置いてあったらしわくちゃくのゴミ袋にしか見えない感じも気に入ってます(笑)。コンパートメントが一つだけしかないというのも、シンプルでストレスフリーです。
ハイテールデザインのロールトップスタッフサック
いわいるスタッフサックといわれているもので、防水なので、電子機器など濡らしたくないものを入れておけます。テントから出る際、いちいち靴の脱ぎ履きをしたくないときに、ダウンソックスの上からカバーがわりに足に被せれば、そのまま外を歩き回れますよ(笑)。色々なメーカーとコラボしていて、この柄の片方はぼくがデザインしています。元々印刷屋さんがやっているメーカさんなので、色もきれいに仕上がっています。
バリスティクスのキャンピングピロー
普段は枕なんて持っていかないのですが、雪山のキャンプとなると話は別です。寒いので、基本的にテントのなかで長時間横になって過ごすことになります、小さなテントであまり身動きも取れない中だといい枕が欲しくなります。洗濯もできるので、清潔に使えます。
ジェリー鵜飼
アートディレクター、イラストレーターとしてアウトドア領域を軸に幅広く活動中。数々のCDジャケットやファッションブランド、アウトドアブランドのロゴ、広告、カタログ類を手掛ける。ウルトラヘビーのメンバーとして、アート活動も意欲的に行っている。@jerry_ukai 【https://www.instagram.com/jerry_ukai/】