東京五輪2020年で新種目として採用され、日本人選手のメダルラッシュも記憶に新しいスケートボード。ボウルで展開される華麗な技に圧倒される一方で、選手たちのファッションもそれぞれ個性があってかわいい、かっこいい……! 30代の筆者のみならず、多くの人々がスケーターへの憧れを抑えきれずにいることでしょう。
しかし選手でさえも大技に失敗して転ぶ姿は痛そう。さりげない動作一つとっても難しそうだし、30代からの「趣味」としてスケボーってどうなのでしょうか?
そんな疑問や不安に答えてくれるのが、37歳からスケボーに乗り始め、現在スケートボード漫画『スケッチー』を連載しているマキヒロチさんです。作品ではアラサー女子がスケボーに目覚める姿を三者三様に描き、Twitterでも「やりたかったら40でも50でも遅くないし、好きなことのために最低限でシンプルな暮らしをするのも一つの生き方」と呼び掛けています。マキさんがスケボーに惹かれた原体験とともに、私物の中から初心者におすすめのアイテムを教えてもらいました。
(取材・執筆/井口エリ、撮影/小野奈那子、編集/メルカリマガジン編集部、ノオト)
撮影協力:RAIZIN SKY GARDEN by H.L.N.A
Beastie Boys、KIDS…スケボーへの憧れは中学生から
マキ 中学生の時好きだったBeastie Boys(※1)がスケーターカルチャーと近しい感じで、その時からスケボーへの憧れがありました。当時スケボーを始めた同級生もたくさんいたのですが、男の子ばかりで。女の子はいなかったんです。
――当時、女の子が始めるには敷居が高かったんですね。
マキ また、その時スケートシューズのAIRWALK(※2)を買ったんですが、学校に履いていったら1日目で盗まれました。これはやらないほうがいいのかなと諦めてしまったんです。
でも、どうやってスケボーを始めていいかわからなかったんです。それからもう少し時が経って、スクールがあることを知りました。
――スケボーのスクール……! 私も『スケッチー』で憧子たちが通うのを見て、スケボーにもちゃんと教室があるんだなと初めて知りました。
マキ スクールがあるんだったら始めてみようかな、と思い今に至ります。中学時代に比べ、女の子もスケボーを始めやすくなったというのもきっかけの一つですね。
今いるお台場のスケートパーク「RAIZIN SKY GARDEN by H.L.N.A」は子供たちが中心ですが、大人向けのスクールもやっていて、そこでは10代後半から40代、50代くらいの方もいらっしゃいます。マスターしたいレベルにもよると思うのですが、「楽しく乗りたい」ぐらいなら年齢は気にせず楽しめます。
少ないサイズ展開と英国発のデザイン Isle Skateboardsのデッキ
マキ 「ISLE SKATEBOARDS(アイルスケートボード)」(※5)、アイルってブランドのデッキ(スケートボードの板の部分)です。これは初めて買ったデッキですね。
マキ 付いた状態を「コンプリート」と言うんですけど、お店のセール品とかまとめ売りされているモノが多いんです。初心者とかキッズの子とか、続くかわからないなって不安な人にはいいかもしれないですね。でも、好きなパーツを選ぶのもスケーターの楽しみですよ。
――カスタマイズというと、ステッカーもたくさん貼っていますね。
マキ 私は世界のスケートパークに行くのが好きなので、現地でもらったステッカーを貼っていくと「デッキと一緒に旅したなー」って思い出になるんです。この「LABOR」はニューヨークに行ったとき、というように。
マキ アイルはイギリス発のブランドなんですけど、グラフィックが好きで。ヨーロッパのブランドはアート色が強くて、アメリカのブランドはロゴが大きく入るようなデザインが多いイメージです。あとは人気のスケーターさんのロゴが入っているようなものもあります。
――人気スケーターモデル的な。アイテムで推しに染まるような楽しみ方もできるんですね。
マキ だいたい選手の方はグラフィックの部分にサポートしてくれているブランドのステッカーを貼っているので、それを見れば選手がどこのアイテムを使っているかがわかるんです。
――推し選手のスタイルも再現できる……! アイテム1つとってもハマったらずるずる行きそうな、沼の予感をひしひし感じます。
留め具1つでかわいく差し色 AVENIRのビス
マキ デッキって前と後ろがあるんです。利き足の先になる部分がノーズ(前)なんですけど、初心者のうちはどっちがノーズかわからなくなります。なので、ノーズの方のビスの色を変えてわかりやすくしたりするんです。
マキ 特にこのビスはカラーリングがパステル調で、『スケッチー』の表紙の色ともリンクするなーって思って買いました。女子にもおすすめです。
ステッカーはスケーターの名刺代わりになる
マキ 私も最初ステッカー文化に憧れて。自分のデッキ買ったら絶対貼ろうと思っていました。ステッカーはショップで何か買ったらもらえるんですが、気づいたらこんなにたくさんたまってましたね。あとはお世話になっているスケーターさんとかブランドさんからもらうことも多いです。
――他のスケーターのステッカー、やっぱり気になりますか?
マキ ステッカーを見て、この人はセンスがいいなと思ったり。「最近みんなこのステッカー貼ってるけどなんだろ?」というところからスケーター界隈のトレンドを知ることもあります。初めて会った人とも、「○○さんと知り合いなんですか」とか「ここのブランド好きなんですか」とか会話のきっかけになります。名刺代わりのアイテムですね。
マキ 例えばこれは「APB Skateshop」(※7)っていうハワイのすごく有名なスケートショップのステッカーで。特にアメリカのスケーターでしたら「あそこ行ったんだ」と大体わかると思います。自分が通っているスクールの先生とも「APB行ったんだー!」「やるじゃん!」みたいに盛り上がりました。
――コミニュケーションツールなんですね。ステッカーを通じて友達ができるかも……!
世界観やスタイルを映像で楽しむ「スケートビデオ」
『joy and sorrow』の監督・村井祐里さんのInstagram
マキ スケーターの世界観やスタイルを、作品としてインプットしたいときに見ますね。このビデオは日本各国のいろんなスケーターを現地で録っているので、こっちの地方はこういうファッションのスケーターがいるんだとか、滑る場所も含めて参考になります。
技とか、特定のスケーターを見たいときはInstagramを見るんですが、スケートビデオには知らなかったスケーターにいっぱい出会える楽しみがあります。
マキ そうですね。フジロックでいう「ROOKIE A GO-GO」みたいな感じです。これからますます活躍していくような、ストリートにいる魅力的なスケーターに出会えたりします。
ちっちゃいけれど本格派 「指スケ」
――手のひらサイズのスケボーかわいいです! こんなグッズもあるんですね。
マキ ある程度スケボーに慣れてきたときとか、雨の日で外で滑れないとき、イメージトレーニングするのに使われたりします。実は指スケ専門の大会があるなど裾野も広く、ビデオ作品もたくさんあります。スケートで挫折から仲間に支えられて立ち直るまでを、ストーリー仕立てで指スケで録っていたりとか。指スケのうまい人が。
――指スケのうまい人っていうジャンルが世の中にあるんですね……。
――インテリアとしてもかわいいです。スケボー、指スケから入るのもアリかも。
「やれば絶対できるようになる」 スケボーで見つかる自分のスタイル
マキ 私はもちろん、断言しますが絶対にみんなこけます。40代くらいの友達、何人か骨折してます。ケガをしないためにも、初心者の方はプロテクターやヘルメットをぜひ着けてください。
――それでもみなさん止めないんですよね。
マキ そうですね。みんな早く滑りたいからはやく治したい! みたいな。
――沼! それぐらいハマってしまう、スケボーの魅力ってなんですか?
マキ スケーティングもトリックも、「やれば絶対できるようになる」というのが楽しいです。できない技ももちろんあるけど、別の技を試してみようと模索していると自分のスケボースタイルが見えてきたりする。それも新鮮に感じました。あまり日常生活にないじゃないですか、“自分のスタイル”なんて。
マキ 私はまずデッキだけ買いました。服装はスケートブランドはそんなに着ないので、ユニクロとかノースフェイスとか普段着の延長みたいな感じで滑ってます。最初はプロテクターやヘルメットをレンタルで着けていましたが、スケボーはそんなにアイテムも必要ないので、究極ボードさえあれば滑れます。
でも、アイテムに凝ろうと思ったら無限に凝れるのもスケボーの楽しいところです。デッキのグラフィックを選ぶとき、ブランドのヒストリーや思いを見て自分がどれに共感するかとかプロセスも面白くて。アイテム選び1つとっても「自分のスタイル」につながっていく。スケボーのそういう部分が私は好きです。
マキヒロチ(まきひろち)
現在、講談社の漫画誌『月刊ヤングマガジン』でスケートボード漫画『スケッチー』を連載中(既刊4巻)。連載開始にあたり自身も30代からスケボーを乗り始め、趣味として楽しむ様子をTwitterに投稿している。他『それでも吉祥寺だけが住みたい街ですか?』を連載中(講談社/コミックDAYS)、過去作に『いつかティファニーで朝食を』(新潮社/月刊コミックバンチ)など。