趣味2021.09.10

スケボーは「自分のスタイル」を探す旅 『スケッチー』作者マキヒロチさんの、推しスケボーアイテム5選

東京五輪2020年で新種目として採用され、日本人選手のメダルラッシュも記憶に新しいスケートボード。ボウルで展開される華麗な技に圧倒される一方で、選手たちのファッションもそれぞれ個性があってかわいい、かっこいい……! 30代の筆者のみならず、多くの人々がスケーターへの憧れを抑えきれずにいることでしょう。

しかし選手でさえも大技に失敗して転ぶ姿は痛そう。さりげない動作一つとっても難しそうだし、30代からの「趣味」としてスケボーってどうなのでしょうか?

そんな疑問や不安に答えてくれるのが、37歳からスケボーに乗り始め、現在スケートボード漫画『スケッチー』を連載しているマキヒロチさんです。作品ではアラサー女子がスケボーに目覚める姿を三者三様に描き、Twitterでも「やりたかったら40でも50でも遅くないし、好きなことのために最低限でシンプルな暮らしをするのも一つの生き方」と呼び掛けています。マキさんがスケボーに惹かれた原体験とともに、私物の中から初心者におすすめのアイテムを教えてもらいました。

(取材・執筆/井口エリ、撮影/小野奈那子、編集/メルカリマガジン編集部、ノオト)
撮影協力:RAIZIN SKY GARDEN by H.L.N.A

『教えて✗✗先輩!大人の趣味リサーチ』は、好きなことを思い切り楽しんでいる「趣味の先輩」から、その魅力やハマるポイント、はじめるのにおススメのアイテムを教えてもらう連載です。

Beastie Boys、KIDS…スケボーへの憧れは中学生から

マキヒロチさん

――マキさんがそもそもスケボーに目覚めたきっかけは何だったのでしょうか。

マキ 中学生の時好きだったBeastie Boys(※1)がスケーターカルチャーと近しい感じで、その時からスケボーへの憧れがありました。当時スケボーを始めた同級生もたくさんいたのですが、男の子ばかりで。女の子はいなかったんです。

――当時、女の子が始めるには敷居が高かったんですね。

マキ また、その時スケートシューズのAIRWALK(※2)を買ったんですが、学校に履いていったら1日目で盗まれました。これはやらないほうがいいのかなと諦めてしまったんです。
マキ それでもスケボーへの憧れはその後の人生においていろんな場面でありまして。大人になってからは10代のスケーターを起用した映画の『KIDS』(※3)やストリート・カルチャー・ドキュメンタリーの『BEAUTIFUL LOOSERS』(※4)に触れ、アートやカルチャーとリンクしているスケボーに惹かれては、やってみたい気持ちがむくむくと膨らんでいました。

でも、どうやってスケボーを始めていいかわからなかったんです。それからもう少し時が経って、スクールがあることを知りました。

――スケボーのスクール……! 私も『スケッチー』で憧子たちが通うのを見て、スケボーにもちゃんと教室があるんだなと初めて知りました。

マキ スクールがあるんだったら始めてみようかな、と思い今に至ります。中学時代に比べ、女の子もスケボーを始めやすくなったというのもきっかけの一つですね。

今いるお台場のスケートパーク「RAIZIN SKY GARDEN by H.L.N.A」は子供たちが中心ですが、大人向けのスクールもやっていて、そこでは10代後半から40代、50代くらいの方もいらっしゃいます。マスターしたいレベルにもよると思うのですが、「楽しく乗りたい」ぐらいなら年齢は気にせず楽しめます。

少ないサイズ展開と英国発のデザイン Isle Skateboardsのデッキ

――マキさん愛用のスケボーアイテムを教えてください。

マキ 「ISLE SKATEBOARDS(アイルスケートボード)」(※5)、アイルってブランドのデッキ(スケートボードの板の部分)です。これは初めて買ったデッキですね。
マキ ムラサキスポーツの店員さんにどのくらいのサイズがいいか相談したところ、体格的に大きいデッキだと回しにくいから7.75インチはどうですかと言われまして。このサイズって小さいので作っているメーカーはあんまりなく、少ない選択肢の中、裏面のピンクのグラフィックがかわいいなと選んだのがこのデッキです。男の子っぽいデザインは自分らしくないなぁと思ったので。
――ウィールは付いた状態で買うものなんですか?

マキ 付いた状態を「コンプリート」と言うんですけど、お店のセール品とかまとめ売りされているモノが多いんです。初心者とかキッズの子とか、続くかわからないなって不安な人にはいいかもしれないですね。でも、好きなパーツを選ぶのもスケーターの楽しみですよ。

――カスタマイズというと、ステッカーもたくさん貼っていますね。

マキ 私は世界のスケートパークに行くのが好きなので、現地でもらったステッカーを貼っていくと「デッキと一緒に旅したなー」って思い出になるんです。この「LABOR」はニューヨークに行ったとき、というように。
マキ こちらもアイルのデッキです。デッキは地方に行ったときにもよく買っていて、もう10枚以上持っています。
――アートのようなデザインがかっこいい……。

マキ アイルはイギリス発のブランドなんですけど、グラフィックが好きで。ヨーロッパのブランドはアート色が強くて、アメリカのブランドはロゴが大きく入るようなデザインが多いイメージです。あとは人気のスケーターさんのロゴが入っているようなものもあります。

――人気スケーターモデル的な。アイテムで推しに染まるような楽しみ方もできるんですね。

マキ だいたい選手の方はグラフィックの部分にサポートしてくれているブランドのステッカーを貼っているので、それを見れば選手がどこのアイテムを使っているかがわかるんです。

――推し選手のスタイルも再現できる……! アイテム1つとってもハマったらずるずる行きそうな、沼の予感をひしひし感じます。

留め具1つでかわいく差し色 AVENIRのビス

マキ これは「AVENIR(アベニール)」(※6)のビスです。ビスは、スケボーのトラック(デッキをウィールに取り付ける金属パーツ)を固定するネジの部分ですね。
――こんなにかわいい色があるんですね!

マキ デッキって前と後ろがあるんです。利き足の先になる部分がノーズ(前)なんですけど、初心者のうちはどっちがノーズかわからなくなります。なので、ノーズの方のビスの色を変えてわかりやすくしたりするんです。

『スケッチー』2巻#4より

――そういえば『スケッチー』の2巻でも、主人公たちが始めて買うときに色を変えていましたね。

マキ 特にこのビスはカラーリングがパステル調で、『スケッチー』の表紙の色ともリンクするなーって思って買いました。女子にもおすすめです。
マキ AVENIRは最近できたビスメーカーなんですが、スケボーって選手によってはサポートのブランドが1つではなく、ウェア、デッキ、トラック、ウィールなどすべてが違ったりするんです。気になった選手が、ビスは何を使っているんだろう、自分も同じのにしてみよう……みたいにめちゃくちゃ凝れるんですね。

ステッカーはスケーターの名刺代わりになる

――出ましたステッカー! ザ・スケーター文化!ってイメージで憧れあります。

マキ 私も最初ステッカー文化に憧れて。自分のデッキ買ったら絶対貼ろうと思っていました。ステッカーはショップで何か買ったらもらえるんですが、気づいたらこんなにたくさんたまってましたね。あとはお世話になっているスケーターさんとかブランドさんからもらうことも多いです。

――他のスケーターのステッカー、やっぱり気になりますか?

マキ ステッカーを見て、この人はセンスがいいなと思ったり。「最近みんなこのステッカー貼ってるけどなんだろ?」というところからスケーター界隈のトレンドを知ることもあります。初めて会った人とも、「○○さんと知り合いなんですか」とか「ここのブランド好きなんですか」とか会話のきっかけになります。名刺代わりのアイテムですね。
――最初に買ったデッキにもいっぱい貼ってありました。

マキ 例えばこれは「APB Skateshop」(※7)っていうハワイのすごく有名なスケートショップのステッカーで。特にアメリカのスケーターでしたら「あそこ行ったんだ」と大体わかると思います。自分が通っているスクールの先生とも「APB行ったんだー!」「やるじゃん!」みたいに盛り上がりました。

――コミニュケーションツールなんですね。ステッカーを通じて友達ができるかも……! 

APB Skateshopのステッカー(マキさん撮影)

世界観やスタイルを映像で楽しむ「スケートビデオ」

マキ 日本人の「フィルマー」(自らもスケボーに乗って、スケーターを撮影する人)の女の子が、日本で初のガールズスケーターだけのビデオを作りました。それがこちらの『joy and sorrow(ジョイアンドソロウ)』シリーズ(※8)です。
マキ これは日本の見せ方が楽しくてすごく大好きなビデオなんです。外国の方が見ても楽しめると思います。yuriyuri(村井祐里さん)(※9)という子が録ったもので、五輪でも活躍した西村碧莉ちゃん(※10)とか有名なスケーターも出ています。女の子には「こういうのをやってみたい」と目標になるんじゃないかと。

『joy and sorrow』の監督・村井祐里さんのInstagram

――マキさんは、どんなときにスケートビデオを見ているんですか?

マキ スケーターの世界観やスタイルを、作品としてインプットしたいときに見ますね。このビデオは日本各国のいろんなスケーターを現地で録っているので、こっちの地方はこういうファッションのスケーターがいるんだとか、滑る場所も含めて参考になります。

技とか、特定のスケーターを見たいときはInstagramを見るんですが、スケートビデオには知らなかったスケーターにいっぱい出会える楽しみがあります。

スケッチー』では、日本人初の女子フィルマーが女子スケーターの姿を追い続ける物語も進んでいく(3巻#14より)

――例えとして合ってるかわからないんですけど、スケートビデオは夏フェスで初見のアーティストを発掘するみたいな感じがします。

マキ そうですね。フジロックでいう「ROOKIE A GO-GO」みたいな感じです。これからますます活躍していくような、ストリートにいる魅力的なスケーターに出会えたりします。

ちっちゃいけれど本格派 「指スケ」

マキ こちらは「指スケ」(フィンガーボード)です。漫画に出そうと思ったタイミングに合わせて購入しました。これは自分で付属のデッキテープをカッティングして貼り付けるタイプで、あんまりきれいにカッティングできませんでしたが。

――手のひらサイズのスケボーかわいいです! こんなグッズもあるんですね。

マキ ある程度スケボーに慣れてきたときとか、雨の日で外で滑れないとき、イメージトレーニングするのに使われたりします。実は指スケ専門の大会があるなど裾野も広く、ビデオ作品もたくさんあります。スケートで挫折から仲間に支えられて立ち直るまでを、ストーリー仕立てで指スケで録っていたりとか。指スケのうまい人が。

――指スケのうまい人っていうジャンルが世の中にあるんですね……。

『スケッチー』3巻#12より、指スケを披露するシーン

マキ スケボーが好きになってきた方はこういうのもいいと思います。あとはやってみたいけど、コケるのが怖いから指でやってみよう、というのもアリかな。

――インテリアとしてもかわいいです。スケボー、指スケから入るのもアリかも。

「やれば絶対できるようになる」 スケボーで見つかる自分のスタイル

――大人になるとこけるの怖いなーって思っちゃうんですけど。やっぱりマキさんもこけますか?

マキ 私はもちろん、断言しますが絶対にみんなこけます。40代くらいの友達、何人か骨折してます。ケガをしないためにも、初心者の方はプロテクターやヘルメットをぜひ着けてください。

――それでもみなさん止めないんですよね。

マキ
 そうですね。みんな早く滑りたいからはやく治したい! みたいな。

――沼! それぐらいハマってしまう、スケボーの魅力ってなんですか?

マキ
 スケーティングもトリックも、「やれば絶対できるようになる」というのが楽しいです。できない技ももちろんあるけど、別の技を試してみようと模索していると自分のスケボースタイルが見えてきたりする。それも新鮮に感じました。あまり日常生活にないじゃないですか、“自分のスタイル”なんて。
――スケボーを始めるとき、きっちりアイテムは揃えましたか。

マキ 私はまずデッキだけ買いました。服装はスケートブランドはそんなに着ないので、ユニクロとかノースフェイスとか普段着の延長みたいな感じで滑ってます。最初はプロテクターやヘルメットをレンタルで着けていましたが、スケボーはそんなにアイテムも必要ないので、究極ボードさえあれば滑れます。

でも、アイテムに凝ろうと思ったら無限に凝れるのもスケボーの楽しいところです。デッキのグラフィックを選ぶとき、ブランドのヒストリーや思いを見て自分がどれに共感するかとかプロセスも面白くて。アイテム選び1つとっても「自分のスタイル」につながっていく。スケボーのそういう部分が私は好きです。

『スケッチー』4巻#20より

マキヒロチ(まきひろち)
現在、講談社の漫画誌『月刊ヤングマガジン』でスケートボード漫画『スケッチー』を連載中(既刊4巻)。連載開始にあたり自身も30代からスケボーを乗り始め、趣味として楽しむ様子をTwitterに投稿している。他『それでも吉祥寺だけが住みたい街ですか?』を連載中(講談社/コミックDAYS)、過去作に『いつかティファニーで朝食を』(新潮社/月刊コミックバンチ)など。

※1 Beastie Boys(ビースティ ボーイズ) 1978年結成の米ニューヨーク発ヒップホップ・グループ。デビューアルバム「Licensed to Ill」(1986年)はビルボード200チャートでラップレコードとして初めて首位を獲得。ラップロックの雛形を作るなど数多くの功績を残し、2012年にはロックの殿堂入りを果たした。設立したばかりのストリートカルチャー・ブランド「XLARGE(エクストララージ)」の服をPVやCDジャケット等で着用し、90年代ストリートカルチャーのファッションアイコンとしてもシーンをリードした。

※2 AIRWALK(エアウォーク) 1986年に米カリフォルニアでスケートボードとBMXのニーズに応えるフットウェアとして設立したブランド。その革新的なデザインと優れた耐久性、機能性によりわずか1年で全米にブームを巻き起こし、スケーターカルチャーの先駆けとなった。

※3 KIDS(キッズ) 1996年に公開された、90年代ニューヨークのストリートに存在した若者の実情をドキュメンタリータッチで描いた青春ドラマ映画。ティーンエイジャーの「リアル」な姿を撮り続けてきた写真家ラリー・クラークの映画監督デビュー作であり、インディペンデントフィルムシーンに一大ムーブメントを巻き起こした。

※4 BEAUTIFUL LOOSERS(ビューティフル ルーザーズ) 2008年に公開された、ストリートカルチャー・ドキュメンタリー映画。90年代米国におけるスケートボードやパンク、サーフィン、パンク、ヒップホップといったストリートカルチャーのムーブメント真っ只中にいた若者たちの軌跡をたどる。90年代のグラフィティカルチャーやインディーズアートシーンを牽引したアーロン・ローズが監督を務め、マイク・ミルズ、トーマス・キャンベル、マーク・ゴンザレスなどシーンを代表するアーティストたちが出演。

※5 ISLE SKATEBOARDS(アイル スケートボード) 2012年に英国で設立したスケートボード・ブランド。15年続いてきた英発のブランド「Blueprint」から突然離れた、ライダー兼ディレクターのポール・シャイアーが立ち上げた。モダンアートのようなデザインは、ロンドンにあるスタジオでアナログで製作されている。

※6 AVENIR(アベニール) スケートボードのハードウェアメーカー。売上の20%をスケートカルチャーの非営利組織に還元し、スケーターが世界に前向きな変化をもたらすことを目的としている。アフガニスタン、カンボジア、南アフリカといった地域にスケートボード教育を推進する非営利団体「Skateistan」、ガールズスケーターを支援する非営利団体「Exposure」、若者向けに無料かつ公共のスケートパークの開発を支援する非営利組織団体「The Skatepark Project」と提携。

※7 APB Skateshop(APBスケートショップ) 2002年にオープンした、米ハワイのスケートボードのセレクトショップ。

※8 joy and sorrow(ジョイ アンド ソロウ) 日本スケート史で初となる、ガールズスケーターオンリーの映像作品シリーズ。日本各地で撮影され、総勢60名以上のガールスケーターが登場する。

※9 村井祐里(むらい ゆり) 日本の女性フィルマーの第一人者として知られるスケーター、1986年生まれ。2013年よりビデオカメラを片手に全国をまわり、ガールズスケーターのみで構成されたフルレングスDVD『joy and sorrow』を制作。2015年には『joy and sorrow 2』を発表。

※10 西村碧莉(にしむら あおり) 日本のプロスケートボーダー、2001年生まれ。2017年に日本選手権優勝など国内の数々のコンテストで実績を残し、2017年に世界的なエクストリームスポーツの競技大会「X Games」優勝、2018年に2位、2019年に世界選手権金メダルと、日本の女性スケーターとして歴史を作り上げた。

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