家庭用製麺機の魅力を語りたい
はじめまして、フリーライターをしている玉置標本と申します。
私の趣味は、昭和の時代に活躍した家庭用製麺機の活用、そして消えつつある家庭内製麺文化の探求です。……なに言ってんだっていう感じですよね。
私の趣味は、昭和の時代に活躍した家庭用製麺機の活用、そして消えつつある家庭内製麺文化の探求です。……なに言ってんだっていう感じですよね。
「家庭用製麺機ってなに?」と思う方がほとんどだと思いますが、戦後から平成のはじめくらいにかけて、各家庭でお母さんやお祖母さんが手打ちしていたうどん、あるいはそばを作るための調理器具として、鋳物製の手回し式製麺機が一部地域で流行していたのです。
いや、本当なんですよ。
いや、本当なんですよ。
まだお米が高級品だった時代、比較的安価だった小麦粉を自家消費する農家は多く、群馬県では「おっきりこみ」や「煮ぼうと」、山梨県では「ほうとう」と呼ばれる小麦粉で作った麺料理を日常食として食べていました。そういった麺食文化があった地域に、家事を楽にするツールとして家庭用製麺機がハマったのです。
最盛期は埼玉県川口市や戸田市といった「鋳物の街」を中心に、多数のメーカーが家庭用製麺機を製造していましたが、食糧事情や物流状況が良くなっていくと、次第にわざわざ家で麺を打つ家は減り、その生産は(ほぼ)途絶えました。
最盛期は埼玉県川口市や戸田市といった「鋳物の街」を中心に、多数のメーカーが家庭用製麺機を製造していましたが、食糧事情や物流状況が良くなっていくと、次第にわざわざ家で麺を打つ家は減り、その生産は(ほぼ)途絶えました。
私は家庭用製麺機のない家で育ったため、その存在を知ったのは2011年と最近の話。ある友人がラーメンを作る道具として、飲み会に持ってきたのです。
圧倒的に武骨な存在感、磨き抜かれたシンプルな機能性、ハンドルを回したときの気持ち良さ、できあがったラーメンの味、そのどれもが最高で、すぐに自分用の一台を購入しました。
それ以来、不思議なことに様々な製麺機が、次々と我が家に集まってくるようになりました。製麺機は製麺機を呼ぶようです。……はい、製麺機からは来ませんよね。正直に言います。私が買い集めただけです。だってかっこいいんだもの。
圧倒的に武骨な存在感、磨き抜かれたシンプルな機能性、ハンドルを回したときの気持ち良さ、できあがったラーメンの味、そのどれもが最高で、すぐに自分用の一台を購入しました。
それ以来、不思議なことに様々な製麺機が、次々と我が家に集まってくるようになりました。製麺機は製麺機を呼ぶようです。……はい、製麺機からは来ませんよね。正直に言います。私が買い集めただけです。だってかっこいいんだもの。
機能としては「生地を伸ばす」と「生地を切る」の二つだけなので、どのメーカーの製麺機も基本的な構造は同じです。使いやすさや丈夫さなどの差はあっても、できあがる麺は基本的に一緒です。実用品なのでデザインに凝る必要も、本来ならまったくありません。
それでも昭和の鋳物メーカーたちが美意識を競い合っている様子、これらの製麺機から伝わってきませんか。
それでも昭和の鋳物メーカーたちが美意識を競い合っている様子、これらの製麺機から伝わってきませんか。
まさかの「家庭用製麺機ミュージアム」開園
こうして「昭和の遺産ともいえる家庭用製麺機を今のうちにまとめて保護しなければ製麺文化が消えてしまう」という理由をつけて、一台、また一台と、それなりにかさばる製麺機を集めていったのです。調理用としては一台あればいいんですけど。
メーカーやモデルが違う製麺機はもちろんのこと、同じ種類でも微妙に年代が違うとか、貼られているシールが異なるとか、ハンドルの素材が変わっているとか、買うべき理由はいくらでもありました。
メーカーやモデルが違う製麺機はもちろんのこと、同じ種類でも微妙に年代が違うとか、貼られているシールが異なるとか、ハンドルの素材が変わっているとか、買うべき理由はいくらでもありました。
その結果、とうとう家に入りきらなくなったので、現在は某所に倉庫を借りて保管しています。自分だけの「家庭用製麺機ミュージアム」が開園。入場券は販売しておりません。
最近は自作ラーメンマニアを中心に家庭用製麺機の人気が高まり、相場がかなり高くなったため、購入ペースは抑えられています。ちなみに業務用製麺機にはまだ手を出していないのでセーフです。
製麺機の布教活動をすればするほど、自分が欲しい製麺機がメルカリに出ても、ちょっと高くて買えなかったり、気がつけば先に買われていたりという切なさを、いつか歌にした方がいいでしょうか。欲しいタイプがまだいくつかあるというのに。でもいいんです、誰かが大切に使ってくれるなら。
製麺機の布教活動をすればするほど、自分が欲しい製麺機がメルカリに出ても、ちょっと高くて買えなかったり、気がつけば先に買われていたりという切なさを、いつか歌にした方がいいでしょうか。欲しいタイプがまだいくつかあるというのに。でもいいんです、誰かが大切に使ってくれるなら。
もしこれから製麺をはじめたいという人に家庭用製麺機をお勧めするとしたら、数あるブランドの中で一番メジャーだった小野式製麺機が無難でしょうか。麺を切る刃の幅やボディのサイズにバリエーションがあり、2001年ごろまで生産をしていたため状態が良いものも多数現存しています。ヘリカルギアによる独特の回し心地を実現した田中式製麺機もいいですね。
最近は状態のあまり良くない製麺機を入手して、それをレストアして楽しむマニアも多数現れました。メルカリに出品されている何割かは、そういった方々による整備品のようです。
最近は状態のあまり良くない製麺機を入手して、それをレストアして楽しむマニアも多数現れました。メルカリに出品されている何割かは、そういった方々による整備品のようです。
製麺機で作る自家製麺は美味しい、だから買っても大丈夫
私がこのタイプの製麺機を愛用している理由は、存在自体のカッコよさや歴史背景の哀愁だけでなく、もちろん麺を作るための実用品として今も便利だからです。
スーパーで売られている普通の小麦粉を使って自家製の中華麺やうどんを作っても、かなり美味いんですよ。材料もシンプルで、中華麺であれば強力粉とかんすい(なければ重曹でも可)と塩と水だけ。うどんであれば中力粉と水と塩だけです。さらに小麦粉の種類や水分の量、寝かせる時間などをコントロールすることで、市販されていない特別な麺が生み出せます。
例えば水分が少なくて硬い生地で作る、低加水の中華麺。いわゆる二郎系。これは相当の力を加えないと作れないので、手打ちやパスタマシンだと難しいタイプです。これが作りたくて丈夫な家庭用製麺機を買う人も多いようです。
スーパーで売られている普通の小麦粉を使って自家製の中華麺やうどんを作っても、かなり美味いんですよ。材料もシンプルで、中華麺であれば強力粉とかんすい(なければ重曹でも可)と塩と水だけ。うどんであれば中力粉と水と塩だけです。さらに小麦粉の種類や水分の量、寝かせる時間などをコントロールすることで、市販されていない特別な麺が生み出せます。
例えば水分が少なくて硬い生地で作る、低加水の中華麺。いわゆる二郎系。これは相当の力を加えないと作れないので、手打ちやパスタマシンだと難しいタイプです。これが作りたくて丈夫な家庭用製麺機を買う人も多いようです。
普段なにげなく食べている焼きそばも、粉から専用の麺を作って、それを蒸して茹でて炒めて作ると、まるで別物の食べ物になります。ゴワゴワした食感がたまりません。
暑い季節には茹でた麺をキリっと冷やして、ざるうどんやざる中華で食べると最高です。麺のおいしさがストレートにわかります。
ちなみに蕎麦はちょっと難しいので、製麺初心者にはお勧めしません。
ちなみに蕎麦はちょっと難しいので、製麺初心者にはお勧めしません。
そして私が一番多く作っているのは、その日にある材料を使った、適当な日替わりラーメンです。例えば買い物にいって安い肉類があればそれを使うし、あるいは釣りに行って新鮮な魚が手に入ったら魚介ラーメンを楽しみます。ラーメンを作るというと大変なイメージがあるかもしれませんが、難易度はカレーや鍋を作るのとさほど変わりません。
ちなみに麺を作るという目的だけであれば、切り刃の種類も豊富、軽くて場所も取らない、価格も比較的安い、パスタマシンが断然お勧めです。私もTPOに合わせて使っています。
すごく硬い生地で「ラーメン二郎」っぽい麺を作るとかには向いていませんが、普通のラーメンやうどんだったらパスタマシンでまったく問題なし。
パスタマシンと家庭用製麺機の違いは、洋服と和服の差に似ているかもしれません。どっちが良い悪いということはありません。
すごく硬い生地で「ラーメン二郎」っぽい麺を作るとかには向いていませんが、普通のラーメンやうどんだったらパスタマシンでまったく問題なし。
パスタマシンと家庭用製麺機の違いは、洋服と和服の差に似ているかもしれません。どっちが良い悪いということはありません。
さらに最近では、安い押出式の製麺機で、韓国の冷麺や台湾の米苔目(ミータイムー)を作ったりもしています。さらに電動式の家電型製麺機もいくつか倉庫に眠っていたりして。
みんなちがって、みんないい。
みんなちがって、みんないい。
製麺機は麺以外の料理も作れる、だから買っても大丈夫
この記事を読んでいる方から「でも麺はそんなに食べないし」という声が聞こえてきそうですが、なんと製麺機は麺以外の料理にも意外と使えます。これがまた楽しいんだ。
一例として、こんな料理はどうでしょう。まず小麦粉を水で捏ねて、それを製麺機で生地にします。
一例として、こんな料理はどうでしょう。まず小麦粉を水で捏ねて、それを製麺機で生地にします。
それを適当な棒に巻きつけて、鬼すだれというギザギザしたすだれで包みます。
これをしっかりと蒸せば、関東のおでんには必須アイテムである「ちくわぶ」の完成です。鍋に入れてから三日経っても煮崩れない、すごく丈夫なちくわぶだって簡単に作れます。
わざわざ作らなくてもいい料理こそ、あえて作りたくなるじゃないですか。ホワイトデーにどうですか、手作りちくわぶ。
わざわざ作らなくてもいい料理こそ、あえて作りたくなるじゃないですか。ホワイトデーにどうですか、手作りちくわぶ。
このときは「自分好みのちくわぶを作ろう!」と張り切ったのですが、そもそも自分好みのちくわぶがまったくイメージできないという発見がありました。
すみません、ちょっとマニアックすぎますね。もう少し一般的な使い方としては、ギョウザやワンタン、シュウマイなんかの皮が簡単に作れます。ギョウザの皮って普通は丸いですが、別に四角でも困りません。ラーメンと一緒に作りましょう。
ピザの生地を伸ばすのにも大変便利です。製麺機なら、手作業だとなかなか作るのが難しい、薄いクリスピータイプの生地も可能。細長いピザはオーブンのスペースを無駄なく使えます。
そして私が一番好きな使い方は、なんといっても「製麺会」です。製麺会とは、製麺をする宴会のこと。タコ焼きやお好み焼きパーティーのラーメン版だと思ってください。
中華麺用の生地を用意したら、参加者に製麺機の使い方をレクチャーし(すごく簡単)、あとは各自が食べる麺を製麺します。麺にするときの厚さや捏ね具合、麺の縮れ具合を変えることで、同じ生地でも個性的な麺が生み出せます。少人数なら粉から挑戦してもらうことだって可能です。
中華麺用の生地を用意したら、参加者に製麺機の使い方をレクチャーし(すごく簡単)、あとは各自が食べる麺を製麺します。麺にするときの厚さや捏ね具合、麺の縮れ具合を変えることで、同じ生地でも個性的な麺が生み出せます。少人数なら粉から挑戦してもらうことだって可能です。
スープ、調味料、具は基本的なものを用意しておき、そこに参加者が持ち寄ったものを加えれば、その組み合わせは無限大。二杯でも三杯でも作りましょう。
製麺機を回して自分で作った麺と、好みのスープと具でラーメンを食べる会。おいしくて楽しいに決まっているじゃないですか。斬新な組み合わせを試す人も多く、こちらとしても発見が多いです。
製麺機を回して自分で作った麺と、好みのスープと具でラーメンを食べる会。おいしくて楽しいに決まっているじゃないですか。斬新な組み合わせを試す人も多く、こちらとしても発見が多いです。
製麺機は電気を使わない道具なので、なんとアウトドアでも大活躍します。麺類はお湯を沸かして茹でれば食べられるので、お米を炊くよりも簡単です。
目の前に広がる海で獲った魚を捌いて、味噌や野菜と一緒に叩き、それを冷やしたうどんに掛ければ、最高の「なめろううどん」ができあがります。ただし、製麺機が海水や潮風で錆びないようにご注意ください。
文化コミュニケーションだって製麺機にお任せあれ。海外から日本へ来ている人との食事会で、現地の料理を一緒に麺料理にアレンジしてみませんか。
はるばるウクライナから日本へ来ている留学生にボルシチを教わり、牛乳を練り込んだミルクうどんと合わせてみました。こういった出逢いの料理を大事にしたいものですね。
ということで、家庭用製麺機の魅力は伝わったでしょうか。まったく興味がないという人が大多数で当然のジャンルではありますが、十人に一人くらい、興味を持ってもらえれば幸いです。
(執筆/撮影:玉置標本)
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