リュウジおにいさんの料理人生「最高のスパイスはストーリー」

誰でも簡単にすぐ作れて確実に美味しいレシピを、140文字以内にまとめて日々ツイッターで発信している、リュウジ@料理のおにいさん。そんな彼のレシピは“バズレシピ”として知られ、今やフォロワー数は100万人に届く勢い。ツイッターから現れた次世代の料理研究家として注目されている。

しかし、まだ彼の素顔はあまり知られていない。一体どんな人物なのだろうか? ご自宅を直撃してみると、まだ眠そうな目をしたリュウジさんが迎え入れてくれた。
(執筆/荒川のじみ、編集/メルカリマガジン編集部、撮影/高橋奈水子)

料理人になれなかった、元ひきこもり

時刻はお昼過ぎの13時。案内されたリビングダイニングはまだカーテンが閉まっていた。急いで着替えて迎えてくれたのだろうか、よく見ると着ているTシャツが裏返しになっている。

「あ…本当だ、裏返しですね(笑)。僕、ズボラ人間だし、料理以外なんにもできないんで…」

「太陽が嫌い」と言いながらカーテンを開けた、夜型なリュウジさん。ここに引っ越してきたのはわずか1週間前だという。この物件にした決め手は、「すぐ近くに24時間営業のスーパーがあるから」。そんな彼に、まずは料理をするようになったきっかけを聞いてみた。

「僕は高校生の頃、引きこもりだったので家にずっといたんですが、ある時、母が体調を崩して、それがきっかけ自分で料理するようになったんです。最初に作った料理は、“ディスコのきゅうり”でした」

昔、お母さんが通っていたディスコのお通しで出てきたという、母直伝のレシピだ。

「それ以来、僕はずっと独学で料理をやっています。一時期イタリアンレストランに勤めたことはあったんですけど、あまりにブラックすぎて3カ月で辞めました」

辞める際に店側からかなり引き止められたが、この労働環境のままでは料理が嫌いになってしまう。それが何より辛かったと語るリュウジさん。

「それからは別の仕事をしていたんですが、備忘録としてアメーバブログにレシピを投稿し続けていました。あわよくば誰かに見てもらえたらいいなくらいの気持ちで。でも、今考えると面倒くさいレシピばっかり上げてましたね。イカスミペーストやアンチョビを使ったりだとか…。当時の読者は10人くらいしかいなかったと思います」

しかしそんな状況は、ツイッターに拠点を移したことで大きく変わる。バズレシピの誕生である。

「“大根の唐揚げ”のレシピを投稿したらバズったんです。これは僕が老人ホームの事務員として働いていた頃、ホームの利用者から『飯がまずい』という声があったので、月に2回、僕が料理するイベントをやることになって振る舞っていたものなんです」

大根の唐揚げ

出典: 【Twitter】リュウジ@料理のおにいさんバズレシピ

白だしと塩で煮てから冷ました大根を、片栗粉をまぶして揚げるだけ。もともと自宅の目の前の居酒屋で出していたものを、ご本人いわく「パクって」できたものらしい。

「自分なりに再現してみたら、まったく同じ味のものができたんです。僕は独自に開発したレシピっていうのはそんなにないんですよ。再現するのが得意なんです」

大根の唐揚げ以降は、料理研究家としてたびたびバズレシピを連発するようになり、今や100万人近くのフォロワーを抱えるまでになった。その転機は、“ある気づき”にあったという。それは一体何なのか?

料理が趣味な人をターゲットにしない

「僕は料理すること自体が好きだから料理をしていますけど、そういう考えで料理をやってる人って世の中の10人に1人もいないと思うんです」

リュウジさんは「僕の中で統計が取れている」と言って、そう語る。

「料理を趣味にしていない9割の人のうち、4割はそもそも料理をしない人です。そして5割は何か目的があって、必要に駆られて料理をする人たちです。ダイエットとか、家族のためとか、節約のためとか。僕がターゲットにしているのは、その5割の人たちなんです」

なるほど、いかに美味しそうなレシピであっても、それが手のかかる本格派であれば、わずか1割未満の人たちにしか届かない。

「料理好きな人って、煮込むのに10時間かかるような料理でも、趣味だから楽しいんですよね。で、土日にしかやらない。でも必要に駆られて料理をする人は、毎日料理をしなくちゃいけないから、そんなレシピでは意味がありません。僕はどちらの気持ちもわかります」

そこでリュウジさんは、誰でも簡単にすぐ作れて確実に美味しいレシピを紹介していくことにしたというわけだ。

「シェフは美味しいものを作ればいいけど、料理研究家は美味しいものをみんなに作らせないといけない。僕は後者です」

実際にバズったレシピに“じゃがアリゴ”というものがある。リツイート数は約16万、いいね数は約50万にも及ぶ。

じゃがアリゴ

出典: 【Twitter】リュウジ@料理のおにいさんバズレシピ


「フランスの伸びるチーズマッシュポテト『アリゴ』を、コンビニで買えるスナック菓子の『じゃがりこ』と『さけるチーズ』で作るというレシピなんですが、これに至っては、必要に駆られて料理をする5割ばかりか、普段料理をしない4割の人たちにも届いたから、これだけバズったのだろうと思います」

料理研究家として、どれだけ広く、多くの人に作ってもらえる形に落とし込むか。それを常に考えている彼は、次のように断言する。

人間はストーリーを食べている

「料理は伝え方で大きく変わります。というのも、人間の味覚って曖昧だから。人間は料理の味そのものよりも、ストーリーを食べているんです。例えば『〇〇産の戻りガツオです』と伝えるだけで、味は変わりますよね。それって“戻ってきた”という情報を食べているってことなんです。要は伝え方なんです」

実際に、リュウジさんが“文章だけでバズらせた”と考えているレシピがこれだ。

最高に美味しい唐揚げ

出典: 【Twitter】リュウジ@料理のおにいさんバズレシピ

「“鶏の唐揚げ”なんですが、作り方も本当に普通の唐揚げなんです。でもこれが30万近くのいいねをもらえた。その秘密は“料理研究家はこれのせいで居酒屋で唐揚げ食べなくなった”というストーリーがあったからなんだと思います。それがただの唐揚げを美味しくする、最高のスパイスになるんです」

「1万円出したから美味しい」「100円なのに美味しい」といった価格、「富士山の頂上で食べるカップラーメンは美味しい」といった場所など、人間は情報を食べていると力説する。

「あとは、”かかった時間で食べる”。でもこれは相手を選ばないと逆効果です。例えば、旦那さんに『この料理、こんなに美味しいのに5分でできたの』と言うと、『俺の飯に5分しかかけてないのか…』と思われてしまうかもしれません(笑)。立場によってその情報の価値は変わりますからね」

一方で人間は、そんな“情報”に振り回されてしまうこともある。例えば、“味の素”を巡る議論だ。

味の素を巡る議論

出典: 【Twitter】リュウジ@料理のおにいさんバズレシピ

「僕はよく味の素をレシピに使っているんですが、このツイートをしたときは炎上しました。コンビニ飯にはほぼ100%入ってるし、日頃からみんな世話になってるのに、なぜ原材料を否定しているんだい?って。それはみんな知らないからです。無知だからです」

1999年に出た『買ってはいけない』という本によって、世間に味の素の悪いイメージが定着したが、当時はマスメディアしかなかったため、それが払拭できないまま今に至っているとリュウジさんは見ている。

「もはやこの話題を知らない若い層が増えつつありますが、上の世代には『味の素なんて舌がバカになる』と言う人もまだまだたくさんいます。そんなこと言ったら、僕の料理を美味しいって言ってくれてる人たちは全員舌バカですよ。舌バカな人間が100万人近くもいることになる」

彼は「これだけ数がいたら、一体どっちが舌バカと言えるんでしょうか?」と問いかける。

「結局、『この食材が悪い』って信じてたほうが楽なんですよ。誰かに委ねて自分で考えなくていいから楽なんです。一方で、料理家は味の素を使うと批判されるのでメリットがない。僕は批判されてもいいから、やっぱりおかしいことにはおかしいと言いたいです」

「僕にはまったく武器がなかった」

140文字という制約の中で、レシピばかりか、料理に対する自分の姿勢を臆することなくツイッターで発信しているリュウジさん。マスメディアの力に頼らなくても個人で発信できる時代になったからこそ、ここまで来れたと感じている。

「今まではメディアが自分の代わりにプレゼンしてくれたけど、今は自分でプレゼンができる時代なんです。僕は管理栄養士でもなんでもないし、料理人でもない。ただ料理が好きで料理を作っているだけ。なのについ先日は『雪見だいふく』からお声がけいただき、新しい食べ方を募集するプロモーションでコラボさせてもらいました。大企業から個人へオファーが来るだなんて、以前は絶対にありえなかった」

彼はこう続ける。「自由になったけど、厳しい時代にもなってきた」と。

「今と5年前とでは全然違うように、今と5年後もきっと全然違うでしょう。その変化に対応できない企業は、どんどん潰れると思います。誰かの力を借りることで成り立っているところは、結構やばくなるんじゃないですかね…」

より一層、中間業者の排除が進むと見ているようだ。

「僕も芸能事務所からかなり誘われましたけど、個人でできるからいいですと全部断りました」

そもそもリュウジさんがツイッターで活躍するきっかけとなったのは、とあるメディアからの傲慢な注文だったのだそうだ。

「フォロワーがまだ1万人くらいだった頃に、ある出版社から『料理本を出さないか?』と声をかけられたんです。僕は料理本を出すのが夢だったのですごく嬉しかったんですが、ただし出版する条件として『フォロワー数を10万人まで増やしてくれ』って言われて、じゃあなんで声かけてきたんだ?って頭にきたんです(笑)。それでどんなツイートがバズるのか徹底的に研究したんです」

悔しさをバネにしたというのももちろんあるが、そもそも彼は自らを「僕にはまったく武器がない」と捉えていた。だからこそ研究に専念したのだという。

「僕、高校出てないので中卒なんですよ。だから人間って、肩書きで人を見るというのはすごく感じていました。やっぱり中卒だと見方が変わるし、もし僕が東大卒だったら、僕自身、東大卒という肩書きをめちゃめちゃ推すと思います」

だから「僕も何か武器を作らないといけなかった」と振り返る。

「今はフォロワーの皆さんが僕の武器だと思っています。そして料理をプレゼンできる力。僕は料理よりツイッターのほうが上手いんです(笑)」

そう言って冗談ぽく笑うリュウジさん。そしてこう続ける。

「僕が料理するのは、ただただ料理が好きだからです。料理を通して世の中を助けたいと思っていますけど、根本的には”好奇心”が原動力。自分の好奇心を満たすため。つまり僕のエゴです。でも、好奇心から生まれた料理が誰かの役に立つなら、みんなにとっても、僕にとっても、すごく良いことですよね」

リュウジさん愛用の調理器具はこちら

リュウジ
ツイッターのフォロワー約100万人の人気料理研究家。多くのバズレシピを生み出し、著書『バズレシピ』は第5回、第6回レシピ本大賞連続入選。無類の酒好きで知られ、部屋には多種多様なアルコール類がズラリと並び、自身のYouTubeチャンネルでは作った料理をツマミに酒を飲む姿も確認できる。また、水を使わずに作れる”無水料理”をよく紹介することから「リュウジさんの家ではたびたび水道が止められてしまっているのでは?」と心配する声が挙がるほど、フォロワーから愛されている。
リュウジ@料理のおにいさんバズレシピ

41 件

WRITTEN BY

メルカリマガジン編集部

誰かの「好き」が、ほかの誰かの「好き」を応援するようなメディアになりたいです。

RELATED TAGS

好きなものと生きていく

メルカリマガジンは、「好きなものと生きていく」をテーマにしたライフスタイルマガジンです。さまざまな方の好きなものや愛用品を通して、自由な人生の楽しみ方や多様性を紹介していきます。