カメラ2023.01.25

きまぐれに市井の家族を撮り続ける 写真家・玉村敬太の「人を撮る」カメラアイテム

動物写真家、天体写真家、建築写真家……様々な写真のプロフェッショナルから、そのジャンルにおけるおすすめのカメラアイテムや愛用品を紹介してもらう本連載。

今回のゲストは「人を撮る」フォトグラファー、玉村敬太さんです。タレントや俳優、ミュージシャンや社長などあらゆる著名人を撮る傍ら、休日にはInstagramの呼びかけで集まった市井の人々を撮る「きまぐれ写真館」を不定期で開催しています。

カメラ越しに人と対話し続ける玉村さんの、写真活動における喜びとは何なのか。愛用品とともに話を伺いました。

(撮影/坂口愛弥、取材・執筆/黒木貴啓[ノオト]、編集/メルカリマガジン、ノオト)

原点は小学時代の「写ルンです」

ーーあらためて、普段どんな写真を撮られているか教えてください。

仕事ではポートレート(肖像写真)を撮ることが多いです。ブツ撮りと呼ばれる商品の撮影や、観光地のPRなんかで地方に行くこともありますが、雑誌やWeb媒体、広告写真などで俳優さんやタレントさんをよく撮影しています。

玉村さんが撮影したあいみょんさん

出典: https://www.instagram.com/p/CFdN2j0DKMa/

8月に浅野忠信さん、中田クルミさんが結婚を発表した際の写真も、玉村さんが撮影した

出典: https://www.instagram.com/p/ChlnWCYvyEt/

ーー昔ながらの写真館のようなテイストが素敵だと思いました。こうした「肖像写真」のようなスタイルになったのはなぜでしょうか?

特に意識して寄せていったことはなくて、自分が気持ちいいと思う写真を撮り続けていった結果、こうなっていました。もともと現実を生々しく切り取るような解像度の高い写真よりも、色の表現域や明暗差がありすぎない、マットな質感の、絵画のような写真のほうが自分の体に馴染んだんです。
僕は1988年生まれなんですが、小学生の頃ってまだデジカメもあまり流通していなくて。遠足とかは「写ルンです」みたいな使い捨てカメラで撮影していました。写真に対する最初の記憶が、そういうちょっとチープでアナログなフィルム写真だったんです。

フォトグラファーとして独立したのは2017年ですが、それまでは写真家の鈴木陽介に師事していました。日芸の写真学科に在学中、師匠探しをしていたときに出会ったのが鈴木陽介でした。師匠の写真はまさに絵画的と言われていて、そんな師匠のもとでライティングや撮影に関する基本、どうやって生きていくかを学びました。

ーー撮るときに心がけているのはどんなことでしょうか。

師匠からは常々、「写真を撮るっていうのは、相手のいいところを見つけることだ」と教わりました。それに対して「自分が撮った写真に対しては否定的に見なさい」とも。撮影から帰ってきたら、自分が現場で感じた相手の美しさや雰囲気や良さがちゃんと写っているか、否定的に見なさい、ということです。
写真が絵と違うのは、「私は鼻が低いけど、高く見られたいんだよね」と言われてもできないところ。レタッチ(写真編集)もありますけど、僕たちにできるのってありのままの姿を撮影して、「あなたのその、少し緊張しながらはにかんだりするところ、すごく素敵だと思いました」と、写真を通して伝えることだと思うんです。

被写体が誰であってもいい。その人のことを肯定する、と言うとおこがましいですけど、伝わったら嬉しいんです。「あなたのままで、こんなに素敵ですよ」って。

「きまぐれ写真館」で実感する、写真の初期衝動

ーーInstagramでも一般の方々に撮影希望者を呼びかけて、同じように撮られてますよね。

はい。「きまぐれ写真館」といって、ちゃんとやり始めたのは1年前くらいからなんですけど。Instagramの専用アカウントで不定期に「いつどこで写真館を開催するのでDMください」と募集をかけて。たまたま日付が合ったみなさんに来ていただいて、本格的なスタジオと機材で撮影する活動をしています。

「きまぐれ写真館」(@p.s.punctum)のアカウントで公開されている、家族写真の数々

出典: https://www.instagram.com/p.s.punctum/

写真館にまだ名前もなかった当初は、友達とか、友達の友達くらいとか、もともと関係がある人が集まったらまとまって撮るような活動だったんです。「きまぐれ写真館」の名を冠してからはそこから少し社会性をもたせるというか、共通の知り合いがいなくても飛び込んでもらえるような仕組みになったら嬉しいなと思いました。

ーーそもそも友達をそんな風に撮っていたのはなぜだったんでしょう?

5年くらい前にフォトグラファーとして独立したのですが、フリーランスの生活に慣れるまでは、仕事がない日には社会から断絶されているような気持ちになっていました。そうなるとネガティブになってくるので誰でもいいから撮らせてもらってリアクションをもらっていたんです。

写真を撮って、喜んでもらう。そういった写真を撮る意味を実感したかったのがスタートでした。
ーー普段の仕事と違うことで自分の感覚を見つめ直そうとする気持ちはすごくわかります。「きまぐれ写真館」で何か実感していることはありますか?

まず、撮ったみなさんに喜んでもらえているのがすごく嬉しいです。スタジオのしっかりしたセットで撮ると、今まで日常だった大切な人との関係や、その人たちの表情が、客観的に写真に定着されるのではないかと。ドラマチックにしたいわけではないので割とフラットなライティングになっているのですが、「こんなきれいに撮ってもらってうれしい」とか「大切な人とこうやって素敵に撮ってもらってうれしい」といった言葉をいただけるのがとても嬉しいんです。僕からしたら「最初からみなさんこれくらい素敵でしたよ」と思うんですけれど。そこに気づいてもらえるよう撮っていきたいと思っています。

自分の写真が特別にうまいとか、センスがあるとかは思ったことがないのですが、自分の力が正しく高い純度で人に届いている感覚があって、それがやりがいになっています。

あときまぐれ写真館では、選んでもらった写真を額に入れて後日郵送するサービスをやっているんです。
ーーそれはどうしてですか?

僕が小学生の頃、撮った写真を友達にプレゼントしたときが一番嬉しかったんです。当時はデジカメが普及していませんでしたから、データをあげる概念がなかったんですね。プリントされた写真をモノとしてあげていました。

遠足とかでちょっと多めに撮って、友達に分けてあげたりしては「すごい! 俺こんな笑ってる」とか「いい写真ありがとう」といった反応をもらって喜んでいました。きまぐれ写真館でも写真をモノとして送ることで、僕の写真に対する初期衝動を感じているところはあるかもしれません。

あと、どんなにちっちゃくてもプリントした写真は、捨てない限りそこにあり続けるんですよね。
家に飾られなくても、タンスや押し入れに入っているだけでもいいと思っています。引っ越しのタイミングで引き出しから別れた彼女との写真が出てきたりだとか。プリント、額装しておくと、そういうことが起こりえると思うんです。

捨てるにしても、切ない思いをしてもらったりとか。写真というモノを通して、そういう心のゆらぎを届けたいんです。

小学生の頃に「写ルンです」でこの人が嬉しいと思ってくれるような写真を多めに撮って、後でプレゼントする。これが自分のなかの写真の始まりで、いまだにそれが続いています。

玉村敬太の「人を撮る」アイテム9選

■iPhone

ーー1つ目が、まさかのiPhone。

僕が写真をほめられるとき、それがiPhoneで撮ったものだったってことが結構あるんです。「インスタのストーリーズにあげている写真いいですよね、何で撮ってるんですか?」「iPhoneですよ」って。
例えばいまインタビューで僕たちを撮影しているような一眼レフだと、向けられたら威圧感がありますよね? この威圧感を無くす、相手の緊張をほぐすっていうのがプロのカメラマンの仕事だと思うんですよ。

「いいね〜」とか言いながらごついカメラのレンズを向けられたら、やっぱりちょっとだけ怖いじゃないですか。相手が構えない、自然体でいる写真を狙うなら、iPhoneはいいですよ。

■富士フィルム instax mini 8(チェキ)

チェキの何がいいかって言ったら、必ず「モノ」になるところ。iPhoneはデータですけど、チェキはその場で撮った写真が出てきて、モノとしてあげられるんですよね。写真の下にある余白に日付とかちょこっと書いたりして。

あと撮ったそのモノは必ず世界に一枚しかないというところ。ネガフィルムは撮っても焼き増しはできますが、チェキは撮ったその一枚がオリジナルで世界にひとつだけです。
ーーチェキは何台持っています?

1台。これはだいぶ前に、特にこの機器がいいとかこだわらずメルカリで買いました。仕事でも使っています。

■NIKON F3

どこの写真学校でもフィルム写真の入門に使う、NIKON FM2というカメラがあるんですけど。それの上位版のような、プロが使うような耐久性のあるカメラがこのF3です。

ーーなぜFM2が入門にいいんでしょう。

作りがニュートラルで、写真の勉強に一番いいんです。フルマニュアルだから絞りとかシャッタースピードとかを全部自分で決めて撮影しなきゃいけません。

組み合わせを間違えれば写らないし、操作に手間取っていると瞬間を逃します。写真が写って当たり前の今の時代にはちゃんと写っていたときの感動が得られにくいと思うのですが、カメラの仕組みとともに、写真の重みを理解するのにとてもいいんですよね。

ーーそのF3はいつ買ったんですか?

1年前ぐらいだったはず。いま仕事で使っているデジタル一眼も簡単に撮れるし、ちゃんと写っているかどうかその場で確認できるから便利なんですが……原点回帰してみたくなったというか。誰のために撮っているのかわからなくなったとき、考える時間をくれるのが自分にとってはフィルムで撮る写真なんです。
撮って、キリキリと親指でフィルムを巻いて、を繰り返して。フィルムチェンジのときにはちょっと待ってもらって。周りのことを断絶する時間ができる。

あと、単に撮る枚数が限られているのもいいです。デジタル一眼とかだと100枚、200枚撮れてしまうのが、これだと36枚で終わってしまう。1枚に対する集中力が違います。

いい時間が流れますよ。デジタルで撮ったらその場でクライアントさんと確認する時間とかいろいろ入ってきますけど、フィルムだと何を撮っているのか僕にしか見えない。被写体と僕の1対1になるんです。それがすごくいいんです。

■CONTAX T2

フルオートのコンパクトフィルムカメラで、普段家族を撮っているのはこれです。リビングにぽんと1台置いてあって、妻も自由にこれで撮っています。

何がいいって、押せば撮れるところ。フィルムカメラだけど絞りもシャッタースピードも考える必要なく、誰でも撮れる。iPhoneと一緒ですもんね。でもちゃんとモノとして残るところがいいですね。
あとレンズが、カール・ツァイス(Carl Zeiss)っていうドイツの高級ブランドで、写りがいいんです。ファッション雑誌の現場とか、プロのカメラマンも結構使ってますね。

■ヨセミテストラップ

カメラに付けて首から下げられるようにするストラップですね。登山用のロープがそのままストラップとして使われているんです。

ストラップって物によっては細すぎて痛かったり、ねじれが気になったりするんですけど、これは着け心地がいいですね。あと登山から来ているものなので強度もあって安心です。

■写真フレーム

ーー額、たくさん持っているんですね。

「きまぐれ写真館」のときはいつも、ずらっといろんな額を並べておいて、撮影した写真に合わせて気に入ったものを選んでもらうんです。アンティークショップで見つけたあまり見ないような雰囲気のある額とか、額屋さんで額の端材を集めてできた1点物とか、お客さんにお譲りするためにいっぱい集めていて、家にもまだまだ数え切れないくらいあります。

ーー小さい額もいいですね。

日本の家は狭いですから、小さい額が喜ばれることも多いです。きまぐれ写真館の方針としては、小さかったとしても写真はモノとしてあることが大切で、そこに存在することで初めて生まれる感動ってあると思うんです。

実家やおばあちゃんちに額に入った写真がありましたが、いま僕が渡すこの額がそれになる可能性があると思うと、とても責任ある仕事だし、僕がやりたいことだと思います。

■ソフビフィギュア、ベビーラッパ

ーーこういうものも使うんですか?

きまぐれ写真館とかだと、撮影のときに手に持ってもらったりするんです。子どもたちのテンションがあがったり、リラックスできたり。いいきっかけになるんですよね。

ーー撮られるのが苦手な人も、これがあれば手持ち無沙汰にならない。

そうですね。カメラを向けられると緊張する人も多いですが、これをきっかけに新しいやり取りが生まれたりするんですよね。「その象に手を置いてみてください」とか。そうやっているうちにほどけてきて、フィギュアを手放してもらってあらためて撮ったりもします。あと、単純に写り込んでもかわいいですよね。

こんなのもありますよ。
ーー赤ちゃん用のラッパ?

お子さんよりも、意外と親御さんたちの方が面白がってくれます。

あと、逆に撮る人が緊張することもあると思うんです。自分も含めて場の空気をほぐしたいとき、おもちゃとかラッパに頼ってみてもいいかもしれません。こっちがリラックスしていないと始まらないですからね。

■CANON EOS 5D Mark IV

最後は、僕がいま仕事で使っているデジタル一眼レフカメラです。

これだとお値段が張るので、試してみたいときには15年前ぐらいに出た、2つ前の世代のMark IIがちょうどいいんじゃないでしょうか。装着できるレンズは全部一緒ですし、いま僕がそれで仕事しろって言われても問題なく使えます。

ーー5Dシリーズの気に入っているところは?

5Dシリーズは、そもそもプロ機というよりはハイアマチュア機なんです。EOS-1Dシリーズというフラグシップ機もありますが、1台70〜80万円ぐらいはします。スポーツの試合で一瞬も逃せない、みたいな現場にはいいと思いますが、自分にはオーバースペックなんです。その分、5Dは画素数も機動力もバランスが良くて扱いやすいんですよね。

あとは一眼レフを選んでいるということですね。今はミラーレスと言って、ファインダーをのぞくとデジタル映像が映し出されるカメラが現場で主流になってきています。機体もシャッター音も小さくて済むから、ミラーレスがいいっていう人も多いんですけど、自分には馴染まないんですよ。

ファインダーから見える映像と現実で、0.0何秒かわからないけどタイムラグがありますし、微妙にニュアンスも違うんですよね。現実の光が、レンズやカメラ内の鏡を通して、そのまま目に入ってくる一眼レフのほうが捉えやすいというのが、今の実感です。
ーーちゃんと自分に合ったカメラを選んでいる、ということですね。

そうそう。服を選ぶみたいに、カメラを選ぶときも、こういう機材を持っている自分ってかっこいいんじゃないかとか、そういう感覚が全く無いですね。必要なものが必要なだけそばにあればいいです。

僕の場合は、いつも自分がリラックスできるようなものを選んでいますね。人間関係もそう。誰々と一緒にいる自分かっこいいな、とかじゃなくて、一緒にいて落ち着く人と過ごしています。

撮影でも生活においても、そんな風に自分らしくいることの先に、撮られる人もリラックスできる環境や関係性が生まれるのかもしれません。

撮る側も撮られる側も、お互いに無理していない、リラックスした関係で僕は撮りたいです。

被写体とは本当に対等で、1対1なんだと思っています。被写体がどんな人でも関係なく、ちゃんとその人と話をしたいと思っています。そうして2人だけの時間が流れているときに、相手のありのままの素敵なところが見つかると感じています。

そのために、撮るときでも生きていく上でもリラックスできるような選択を、機材も含めてし続けるんだろうなと思います。

玉村敬太
フォトグラファー。1988年、東京都世田谷生まれ。2007年に東京電機大学工学部機械工学科入学後、2011年日本大学芸術学部写真学科編入(三好耕三ゼミ)、2014年に卒業。2013年から鈴木陽介写真事務所 Erzに所属し、2017年退社。同年に玉村敬太写真事務所を設立する。

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