ド素人が作ったアートでも値が付くの? 専門家に聞いてみた


こんにちは、バーグハンバーグバーグです。
突然ですが、皆さんこちらの絵画をご存知でしょうか?

これはレオナルド・ダ・ヴィンチ作の「サルバトール・ムンディ」
ダ・ヴィンチが描いたイエス・キリストの肖像画で、世界でもっとも高い価値で取引されるアート作品でもあり、そのお値段はなんと508億円(だいたい)。



508億…………

いや描けないんですけど!

描けないというのは分かっていつつも、「アートって夢あるな~」というのは思うわけです。

自分が描いた絵や、作ったアート作品が508億円で売れたら、「そんな高く買ってくれるならもっと描きますワイ!」と、めちゃくちゃやる気出るだろうなと。
 
「ダ・ヴィンチの絵はもう新作が出なくて、希少性が高いから508億なんだろ」というツッコミはさておき、508億の消費税分の価値ぐらいに到達できないものか……レオナルドも僕らも飯食って寝る同じ人間なのだから……

というわけで今回はそんな分不相応な夢に向かって、何も分かっていない素人たちが「アート作り」に挑戦してみたいと思います。
 
とりあえずアートを作るところまで進めば、通りすがりのお金持ちが「めちゃええやん」と買ってくれる可能性もゼロじゃないから。
挑戦するのは、普段ゆるいお笑い系Webメディア・オモコロで記事などを発表しているこちらの面々。
 
いずれも特にアートの勉強をしていたわけではありませんが、名前だけは芸術家っぽかったり、見た目がヤバかったりはします。期待してもいいかな?

そして素人だけでは、作ったアート作品にどういう価値が生まれそうなのか判断できないので、今回は専門家の先生をお呼びしました!

三杉レンジ

多摩美術大学絵画科油画専攻卒業、Bゼミスクール修了。
グラフィックデザイナー、広告ディレクターなどを経た後、中学高校の美術教師として15年間勤務。
2009年より西洋美術史を軸とした世界標準の美術教育の場を目指して 絵画教室ルカノーズ 設立。
都内各所で「美術史7万年を1日で学ぶ講座」など講義多数。また著名人への絵画指導、テレビ・ドラマ等の絵画制作多数。

↑三杉レンジさんの作品。「Air Line Series」
<こどものおもちゃ>を絵画材料にするシリーズ。こども用の3Dペンで描く3D絵画。

美術教師としての豊富なキャリアを持ち、ご自身でもアート作品を制作する三杉先生ならば、オモコロの中に眠るビッグサクセスの可能性に気づいてくれるはず……。
 
さっそく作った作品を見てもらいたいと思います!

1人目 : マンスーンの作品

一人目は工作系ライターとして、「タモリ倶楽部」にも出演した経験のあるマンスーン。
 
やはり機械工作を利用したアート作品なのでしょうか?

テーマは「不要になったものから感じる生命」です。

これは……「ゴミ」? ですかね?

まだここからなんです。スイッチON!

動いた!

この前、風の強い日にゴミ捨て場にあったゴミが、突風にあおられて吹き飛んでいるのを見かけたんですけど…

それが僕にはまるでゴミに命があって、ゴミ捨て場から脱走しているように見えたんですね。なので、世の中から見過ごされがちなゴミにも意志があるかもしれない……というような気持ちで作品を造りました。

なるほど……

ゴミ袋の中には、メルカリであえて「不要品」「ジャンク」などの言葉を検索して出てきた商品を買って入れています。

要らないものをわざわざ買ったんだ。

………

なるほど、メルカリを使うというのは現代的なテーマがあって面白いですね。

素敵な作品なんですけど、「ゴミ袋を使ったアート作品」というのは結構「あるある」ではあります。

アートあるある!

早く言いたい!

オリジナルデザインのゴミ袋を積み上げてゴミ捨て場をアーティスティックに見せるとか、空気を入れて膨らませた巨大なゴミ袋を渋谷PARCOの前に展示するといった作品が実際にありますし、「現代アート」というジャンルの中で「ゴミ」というのは描かれがち、かつ重要なテーマなんですよ。

ウッ……よくあるパターンだったんですね……

なので、この作品の核となるのはどちらかというと「メルカリで不要品を買った」という部分なのかなと。これはゴミ袋の中身は見せないんですか?

あえて見せずに言葉だけで表現した方が、見ている人に色々な想像が働いて、いいかなと思ったんですが……

「ゴミ袋」というモチーフから一歩先に行くためには、中身を見せて「メルカリでこんなのが売ってるんだ」という面白さを受け手に想像させるのも良かったかなと思います。

おっしゃる通り。

「ゴミ」をモチーフにするなら、ネタ的にはもう一捻り欲しいですね。でもゴミ袋が自然に動くという見せ方は、メッセージ性を感じさせて面白いと思います。

ちなみにこういう……インスタレーションって言うんですか? 絵画やオブジェでない美術作品でも、買われることってあるんでしょうか?

ありますよ。一般的な美術作品に比べれば、機会は少ないかもしれませんが。

これを家に飾るだけでも大変ですもんね。

海外でよくあるのは、こういうアート作品の「権利」だけを売るという場合ですね。

なるほど、こういう趣旨のアートをどこで飾ってもいいというような…

へえー、アート作品のアイデアだけ買われることもあるんですね! アイデア一発で億万長者もあり得る!?

主に日本よりアートの市場が広い海外の場合ですけどね。

日本のアート市場は、規模が小さいということでしょうか?

海外の規模を100としたら、日本は0.5とか、そのぐらいでしょうか。

すくなっ。

先進国の中ではアートへの関心は低めと言われていますね。高額の作品は、日本のギャラリーではまず売れませんし。

やはり勝負するなら海外か……よし……

「そこまでいくのが大変」という話なのに、なぜやる気になってるんだ。

2人目 : 原宿の作品

2人目はオモコロ編集長の原宿。記事の中では、形容しがたい意味不明なものを作ってくることが多いです。
 
今回も難解なものを作ってきたのでしょうか?

今回僕は、「人間は何を元に情報を信じているのか?」というテーマで作品を作りました。こちらです。

………「味脳軸牧場」……?

「味脳軸牧場牛乳(あじのうじくぼくじょうぎゅうにゅう)」です。

そんな牛乳はない。

そう! こんな牛乳は無いんです。無いんですけど、じゃあそれって「おいしい牛乳」とか「よつ葉牛乳」と何が違うの?  と。僕たちは発信者の何を信頼して、情報を受け取っているのだろうか?  という疑問を作品で提起しました。

おお、なるほど……

結構いいですね。

いいの!?

やったー!

レンジ先生! 騙されないで!

いや、こういう日常的に流通しているものにアートを見出すスタイルはアリですよね。架空の国の切手を作ったドナルド・エヴァンスという作家がいるんですが、それに近いものを感じさせます。

パックがちょっと小さいのも何か意味があるんでしょうか?

これは……現在の科学技術の限界でして……

キンコーズで大きな紙に印刷するのが時間的に間に合わなくて、このサイズでしか出力できなかったみたいです。

撮影日の直前にアートを作るな。

実際には、1リットルサイズの牛乳パックだと思ってください。心の目で見て…

小さいのも、なんかそういう演出かと思っちゃいました。

あと僕、もしこれを売るときには思い切って「1億円」という値付けをしてみようと思ってます。

誰にも売りたくないということ?

いや、「ヴェブレン効果」です。アートのような顕示的消費においては、価格が高いものの方が安いものより価値があるように人間は錯覚すると、行動心理学の本に書いてあったんです。

それをめちゃくちゃそのままやろうとしてるな。

でも超弩級のお金持ちなら、1200円払うよりも1億円払う方が「やり甲斐あるな~」と感じる気がするんですよね。どうですか?

……まぁ、そういう効果が全くないとは言い切れないですね。例えばピエロ・マンゾーニという作家が、自分の〇〇〇を缶詰に入れたものを売った時は一個数千万の値が付いたりだとか。

〇〇〇に数千万出したの!? やっぱりお金を持ちすぎると人間おかしくなっちゃうのかな……

※中身を知りたい方は「ピエロ・マンゾーニ 缶詰」で検索してみてください。

ただブランドというか、それまでに築いた信頼がないと、いきなりその値段で売ることは難しいでしょうね。

そもそもアートの値段っていうのは、どういう仕組みで決まるんですか?

まず「プライマリー・マーケット」というもので、作家とギャラリストの間で、その作品をいくらで市場に出すかというのを決めます。次にプライマリーで買った人がその作品を売るのが「セカンダリー・マーケット」というもので、そこで欲しい! と手を上げる人が多ければ、アートの価値も高くなっていく……ざっくり言うとそういう感じですね。

「味脳軸牧場」をプライマリーで1億で買ったとしても、セカンダリーでその価格以上で買う人が現れなければただの大損…?

そういうことになりますね。日本のアートマーケットの問題としてよく言われるのは、このセカンダリーの市場がなかなか盛り上がっていかないねと。アートを買う人が増えて、作品を売りに出しても安定した資産価値がつくような状況になると、もっとアーティストの暮らしも安定するのですが。

最初から1億で値付けして、売れたら勝ち逃げっていうわけじゃないのか…

そうやって作品を売る時には、まず最初に値付けしてくれるギャラリストの目に止まる必要がありますよね?

そうですね、だから個展とかを開いた時にギャラリストが足を運んでくれたら、3分ぐらいで自分のアートのコンセプトをバーッとプレゼンして心を掴めるかとか、アーティストにはそういう能力も重要になってきます。

えーっ! 結局コミュ力、プレゼン力じゃないですか! 根暗でも作品で語れば成功できるのがアートだと思ったのに!

この人、アートの世界を自分に都合よく考えすぎてるな。

今は、様々な作品が世に溢れてますからね。お金にしようと思ったら、アーティストは自分で自分を売り込まないといけないから大変ですよ。

でも自らプレゼンしなくても、見た目で世界観を十全にアピールできるようなアーティストになればいいんじゃないですか? 次の作品のような……

3人目 : 雨穴の作品

こわっ

「雨穴(うけつ)」と申します。僭越ながら、この箱に空いた「のぞき穴」から中をご覧ください。

意外と物腰は丁寧だ。

これ針とか液体がビュッて出たりしないですよね? 大丈夫かな……

♪~(どこからともなく切ない音楽)

悲しげな曲…?

一体なにが始まるんだ。

レンジ先生、何か見えますか!?

今のところ何も見えませんが……

スッ………

あっ見えた! これは…………

かわいいウサギ………です……

ウサギ?

以上となります。

終わり?

…………………………

先生が悩んでしまった。

これは一体…………

まず、「怖い人に良く分からない黒い箱の中を覗かせられる」という恐怖を感じたと思うんですが……

自分が怖いという自覚があるんだ。

「実際覗いたら、ウサギで良かったな」と。そういう心の動きを感じて欲しい作品です。

なんなんだ。

なるほど……

確かに覗き穴でギャップを感じさせるアートというのはあって、マルセル・デュシャンの「遺作」という作品が代表的なんですが。

デュシャンってあの、便器をアートと言い張った人?

はい、現代アートの父とも言われますね。「遺作」は覗き穴から向こう側を見ると、全裸の女性が横たわっててギョッとするような作品なんですが、それを彷彿とさせました。

急に覗き穴を見てそんなの出てきたら、びっくりしちゃうな。

それに比べるとこっちはホッコリで、もしかしたらウサギが何か怖い目に合うのかなと展開を待ってしまったんですが、雨穴さんのは見た目に反して安心させるという作品でしたね。

逆デュシャン。

なのでもう少し落差を大きくするという意味で、箱の見た目のおどろおどろしさを過剰にしてもいいのかな……。今だと少し工作チックな感じが漂うので。

勉強になります。

素直だな。

本人のこのたたずまいは、アーティストとしてどうなんでしょう?

うーん、着ぐるみでパフォーマンスするアーティストというのもいたりしますし、いいと思いますよ。ただし、例えばニック・ケイブの「サウンドスーツ」とかに比べると、今の段階では少しインパクトとしては薄いのかな……。

まさか怪人の見た目にダメ出しされるとは。

ウサギのイラストはすごい上手ですね。

ありがとうございます。

足の骨格をもっと感じさせると、もっといいかもしれません。

ふむふむ。

絵画教室になっちゃったな。

4人目・恐山の作品

最後の挑戦者はダ・ヴィンチ・恐山です。
 
作家としての顔もあり、芸術的素養はこの中ではある方か!?

実は私の作品、すでにレンジ先生は目撃しているんです。このギャラリーに入ってくる時に……

どういうことですか?

入り口の脇に何の気なしに置いてあった「荷物かけ」。実はそれこそが私の作品でした。

推理小説で、すでにトリックは提示されていたというパターン!

確かによく見たら、張り紙がついてますね!

平沼紘平ってだれ?

こちらの荷物かけにかかっている品物は、実は全てメルカリで買った品々です。つまり誰かが持っていた中古品ということですが。

メルカリで物を買う時に面白いなと思うのは、個人取引なので品物が個人の家にあった紙袋とかに包まれて送られてくるんですよね。「あ、この人の家にはこんな袋があったのか」とか、個人の生活の一端が垣間見えるのが興味深いなと思っていて。

なるほど。

そんな個人の生活の断片を集積することで、「平沼紘平」という存在しない人格を浮かび上がらせようという、そういう試みの作品になっています。例えばこうして平沼紘平の持ち物を漁ると……

お、「銃・病原菌・鉄」だ。

名著。

はい。こちらの本もメルカリで買った古本なんですが、

平沼紘平、ずいぶん最初の方で読むの止めてしおり挟んでるな~とか。

難しかったんですかね。

その割にしっかりと上昇志向を感じさせる本も読んでたりして、この辺りから少しずつ存在しない人間の輪郭が匂ってきませんか?

分かる。平沼紘平、予備校の後ろの席でマウントレーニアのカフェラテを飲んでる気がする。

平沼紘平、食費をケチって菓子パンを食べてるのに何故かパズドラには課金しちゃうタイプな気がする。

平沼紘平、こういうジャグリングの練習を少ししてみるけど、そこまでは上手くならない。

平沼紘平、旅行のお土産でご当地味の「ばかうけ」をくれる。

平沼紘平、免許を持ってて実家の車を自由に出せるので、仲間内で結構重宝がられるタイプ。

お祭りのVHS?

こういう謎のアイテムも入ってるんですけど、「何かの事情でこれが必要だったのかな?」と、気がつけば存在しない個人の事情に思いを馳せたりしちゃいませんか?

卒業論文のテーマだったのかも。

昔、この神社の近くに住んでたのかもな。

ひとつひとつはバラバラの品物でも、集積してみると誰かのアイデンティティが見えてくるような……そんな体験を味わっていただければと思います。

言われてみると、この人の背丈や何となくの顔形も想像できるような気がしてきますね。面白いな。

アートとして、すごくいいところを突いているような気がします。こういうものをもっとたくさん集めて、何人もの存在しない人格を作り上げるとか、そういう企画展があったら面白そうですね。

高評価だ!

「平沼紘平 22歳」まで提示するのは、若干説明的すぎると感じる人もいるかもしれないな…とか、もう少し見せ方を考えたいですが、可能性を感じる作品ですね。

少し思っていたのは、平沼紘平という人格が固定である必要はないかなと思っていて、可能であれば展示中にどんどん内容物が入れ替わっていったりしたら面白いのかなと。

荷物を漁った人が、一個持ち帰って一個新しいものを入れていくとか?

はい。展示の前半と後半で、平沼紘平という人格が全く変わっちゃうとか……。

やはり物というのはひとつひとつ物語を持っているから、そこに集まってくるだけで何か考えさせられるものがありますよね。

展示を終えて

いやー、色々面白いお話が聞けてタメになりました。

皆さん、非常に発想が面白いですね。ぜひ作品をじっくり作り上げて、グループ展示など開いてみてください。

そこに有名ギャラリーのオーナーがたまたま来たりすれば…?

もし来た時にはそこで熱いプレゼンを繰り広げれば、世界のアート展にも進出できるかもしれません。

アートもやっぱりネタ見せから始まるのか……何事も待ちの姿勢ではダメということですね。

先生、本日はありがとうございました!

三杉レンジ先生にしっかりと講評いただけたことで、アートへの興味がさらに増した一日となった気がします。
 
みんなもふと立ち寄ったギャラリーでビビッとくる作品を見かけたら、身銭を切って買ってみよう!
(日本のアート市場が広がるカモ!?)

(企画/執筆/撮影:株式会社バーグハンバーグバーグ)

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バーグハンバーグバーグ

ふざけたWEBコンテンツを制作・運営、映像制作、執筆業務をしています。好きな将軍は三国志の馬超。嫌いなものは争い。

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