インドの屋台は毎日事件!人気YouTuber「今日ヤバイ奴に会った」ができるまで

「僕は絡むのが大好きなんですよ。他の屋台動画は基本的に料理しか映してないものが多いんですが、僕は屋台のおじさんの表情を撮ったりだとか、人を撮るようにしています」

そう語るのは、現在インドのムンバイに住みながらYouTubeチャンネル「今日ヤバイ奴に会った」でインドの屋台動画を公開している坪和寛久さん。屋台のおじさんの華麗な手さばき。坪和さんとの間で交わされる軽妙な掛け合い。インドの魅力を伝えるこのチャンネルは、今や登録者数が50万人を超えるほどの人気ぶりなのだが、なぜ坪和さんはインドに住みながらYouTuberをやっているのか? 人気動画チャンネルの裏側を聞いた。
(編集/メルカリマガジン編集部、撮影/飯田協平)

テロップから垣間見えるインドへの愛

インドのたまご300個スクランブルエッグの作り方 / 300 eggs Bhurji (今日ヤバイ奴に会った)

出典: YouTube

300個もの卵を割ってダイナミックにスクランブルエッグを作ったり、料理人の身長を上回る高さの炎を上げてバターチキンを作ったりと、とにかく見どころしかないインドの屋台動画。

「インドの屋台のおじさんたちは、プロですよね。僕、タイやマレーシアやスリランカ、ケニアにも行って、いろんな国で屋台動画を撮りましたけど、あれだけ料理に対して、いろんな技術や工夫があるのはやっぱりインドだけです。なんかこだわりがあります。そして、『え、ここでそれが来る!?』みたいな意外性もあって面白いんですよね」

いつもだいたいお玉で鍋を「ガン」と叩いて料理スタート。坪和さんがつけた「マサラふぁー」「コンッ」「ペッ」「赤うにー(編注:赤い液体調味料を”うにー”と入れるさま)」という独特の擬音テロップに合わせ、流れるような手さばきで、前の料理の残りカスを落としたり、謎の調味料を投入したりする。

「まあ一言で言ってしまえば“雑”なんですけど(笑)、僕はちょっとでもポジティブな言葉に言い換えてテロップにするようにしています。例えば、前の料理のカスのことを『思い出』、ハエを『黒い妖精』、何にでも使ってる汚いふきんを『万能ふきん』だとか…。インドって本当にネガティブに見ようとしたら、いくらでもそうできてしまうんですけど、僕はやっぱりインドにお世話になってるし、すごい好きな国なので」

すべては考え方ひとつ。そうすると見え方が変わる。実際に坪和さんの元にはこんな声が多数寄せられているという。

「僕の動画で、潔癖性が改善されたっていう声が多いんですよ。汚い…あ、いや『思い出』がいっぱいあるようなところで料理を作ってる動画を見ているうちに、だんだん平気になってきたみたいなんです。ただ映像を流すのではなく、そこに面白く見れるようなテロップをつけるのが大事なんでしょうね」

そんな坪和さんと、屋台のおじさんとの間で、テロップを介して繰り広げられる軽妙な掛け合い芸。中でも一番の傑作はこの動画と言えるだろう。インスタントラーメンを調理してくれる屋台に、「サッポロ一番塩らーめん」を持ち込んでみたときの動画なのだが、調理開始早々、おじさんはそれを粉々に砕いてしまう。

インドのサッポロ一番塩らーめんの作り方 / Sapporo Ichiban Sio Ramen (今日ヤバイ奴に会った)

出典: YouTube

「あ、この動画伸びるなって思いながら撮ってました(笑)。あの時、たまたま『サッポロ一番』を持っていて、それをなんとなく、『Maggi』っていうあっちのインスタントラーメンを料理してくれる屋台に持っていたら、カレー風味の雑炊みたいな、見たことないけど想像以上に美味しい料理になったんです」

インドは、いつもだいたい予想を大きく裏切ってくる。

「インド自体が毎日面白いんですよね。コンテンツとしてすごく強い。最強です。飽きないです。それに撮影を申し込んで断られることもほとんどないです。むしろ『あっちも撮ったんだろ? じゃあ、今日は俺のところ撮っていけよ』って言われるんですよ(笑)」

ある日突然、グーグルからの振り込みが

坪和さんがインドに渡ったのは、今から6年前の2013年。当時29歳で、それまでは電子書籍やネット書店を手がける東京の会社で働いていた。

「海外は、卒業旅行でグアムくらいしか行ったことなかったんですけど、人づてでたまたま『ムンバイの不動産会社で働かないか?』という話をいただいて、インド行きを即決しました。もうすぐ30代というタイミングで、ずっと日本にいるよりポテンシャルがすごい国に行ってみて、成長を感じてみたいって思ってたんです」

会社の先輩に挨拶をし、「あちらでブログを書きます」と言うと、普段記事やコピーを担当しているその先輩は「タイトルをつけてあげる」と言ってくれた。

「それが『今日ヤバイ奴に会った』だったんです。インドに行ったら毎日ヤバイことがあるだろうからって。それでインドに行って早速、文字と写真だけのブログを始めたんですけど、最初の頃の読者は、基本的に母親と甥っ子だけで、“生きてますよ通信”みたいな感じでした」

故郷で心配している母親と甥っ子に、インド生活の楽しさを伝えるにはどうしたらいいのか? そう考えた坪和さんのブログの文体は、徐々に変化を見せていった。

「どんな人でも読んでわかるような言葉や表現を追い求めていったら、自然と『シャッ』とか『パッ』とか、擬音語が多くなりました(笑)。それが今の動画テロップにつながってるのかもしれませんね」

そしてYouTubeを始めたのは、インド生活がもうすぐ2年になろうとしていた、2014年の暮れのこと。

「会社の近くのサンドイッチ屋さんで毎日ランチを食べてたんですけど、小気味よく作っていくというか、日本人の感覚からしたら余計な動きも多くて、それがすごく楽しくて撮ってみようとなったのがきっかけです」

インドのサンドイッチの作り方 (今日ヤバイ奴に会った)

出典: YouTube

カメラはiPhone、編集はiPad。編集アプリは400円くらいで買った「FilmStory」の有料版。テロップのフォントもアプリにあったものを使い、文字の大きさもデフォルトのまま。音楽はYouTubeが提供している、無料で使えるフリー音源から探してきた。

「それまでの動画制作経験は、結婚式のビデオくらいでほとんどないに等しい状態だったので、見よう見まねでしたね。YouTubeに上げて最初の1〜2年は、再生回数も500回くらいでほとんど見られていませんでした」

ところがそんなある日、異変が発生する。

「通帳見たら、いきなり1〜2万円くらい振り込まれてたんですよ。で、調べてみたらグーグルからの振り込みで、チャンネルをチェックしてみたらサンドイッチ動画が一気に10万回も再生されている。なるほど、これはその収益なんだな、YouTubeからお金って本当にもらえるんだなって、そこで初めて気づいたんです」

日本で流行るには食と動物。この2つは絶対的

なぜ自分のサンドイッチ動画がいきなり再生回数を伸ばしたのか? いろいろ調べてみたという坪和さん。そして得られた結論がこれだ。

「まあ、これは確かな話ではなく、僕が個人的に調べた範囲に過ぎないんですけど、ある日の晩に日本の深夜番組でサンドイッチ特集をやってたんですよ。インドとか関係なく。おそらくそれを観た人たちが、サンドイッチの作り方をYouTubeとかグーグルで検索して、僕の動画がたまたま見つかったんじゃないかなと…」

そしてサンドイッチ動画を観た人たちは、関連動画として上がってくる他の坪和さんの動画にも流入したようだ。

「1個観たら、その関連で『こんなのもあるんだ、インドってなんだろう?』みたいな感じで、いろんな動画を見てもらえたんだと思います。チャンネル登録者数も、その日だけで500人くらい増えました。僕は最初の頃、床屋とか満員電車とか、いろんなインドの動画を上げていたんですけど、中でも一番伸びがよかったのは屋台動画だったので、それに絞ることにしました」

やはり日本はテレビの威力が絶大だ。坪和さんは遥か離れたインドの雑踏の中で、日本のテレビ番組表とにらめっこをしたこともあったという。

「今はもう全然やってないですけど、当時はバラエティ番組でハンバーガー特集があるときに、インドのハンバーガー動画を上げてみたりしました(笑)。最初のうちは手探りでいろいろ試行錯誤しましたね」

YouTubeの急上昇ランキングに長く掲載されると、チャンネル登録しなくても関連動画に出てくるようになるらしい。「こうやれば、ああなるってのは今ではなんとなくわかってきた」と坪和さんは語る。

「やっぱりYouTubeがテレビと違うのは、視聴者からコメントがいっぱい来ることなんですよね。それを参考に、どんどん動画を変えていけるのが面白いです。例えば、すべての動画の音楽を『Venice Beach』に一本化したのも、動画の最後にインドの野良犬や野良猫を出すようになったのも、コメントを反映した結果です。そして日本のYouTubeで流行るには、やっぱり食と動物。この2つは絶対ですね」

YouTube動画は、視聴者と一緒に作る半分ライブのようなコンテンツなのだ。

「現時点で動画の数は、もう500本近くあります。今ではムンバイ中の屋台の人たちと本当に顔見知りになってきて、道を歩いてたらいろんな人たちから声をかけられるようになりました。最近はよく『YouTubeやってるのか?』と聞かれて、チャンネル登録してくれるんですよ。だから僕のチャンネル登録者の中には出演者もいます(笑)」

坪和さんは今働いている会社「ALAMIKO SOLUTIONS」で、YouTubeを本格的な事業にしていこうと考えている(写真左は社長)。

「インドでは歌やダンスとか、料理動画が人気みたいです。うちの社長も日本語と料理が得意なので、日本語で紹介しながら料理するクッキングチャンネルをやっているんですよ。やっぱりインドは人口のボリュームがすごいですからね、バズったらヤバイです。モディ首相のツイッターとかフォロワー1億もいるんですよ」

人口13億を抱える、巨大なインド亜大陸。思い切ってそこに渡った坪和さんの目には、今、無限の地平が広がっている。

「もう屋台動画は、コンテンツとしてなくならないですよね。しかもどれも個性的で一生できそうな気がします。むしろ、やめどきがわからない。どういう状態でこの動画チャンネル終わるんだろう?ってたまに思います(笑)」

そう笑って答える坪和さん。そして最後にこう言った。

「YouTubeやったほうがいいですよ! いろんな人たちとつながっていくのは、やっぱり楽しいです」

坪和さんの愛用品はこちら

坪和寛久(つぼわ・ひろひさ)
1984年生まれ、茨城県北茨城市出身。人気YouTubeチャンネル「今日ヤバイ奴に会った」の中の人。東京の電子書籍系の会社に勤務していた2013年、縁あってインドの不動産会社に転職。以降、ムンバイに在住。2014年の暮れから街で見つけた面白い屋台の動画をYouTubeにあげるようになり、2017年に入ってチャンネル登録者数が急上昇。今では50万人を超える。屋台動画の他に、毎週土曜20:30から同チャンネルでインドの街歩きをするライブ配信をしたり、日本へ帰国の際はファンミーティングも開催。さらに現在勤務しているインドの会社ではYouTube部門を立ち上げ、インド向けの動画開発や、インド人YouTuberの育成にも取り組んでいる。

24 件

WRITTEN BY

木下拓海

(きのした・たくみ) わけがわからないうちにたどり着いた職業が、編集・ライター。守備範囲は子育てから防衛技術まで。好きなものはハリネズミ。お腹を撫でられて伸びきっている姿を見ると悶え死にそうになる。

RELATED TAGS

好きなものと生きていく

メルカリマガジンは、「好きなものと生きていく」をテーマにしたライフスタイルマガジンです。さまざまな方の好きなものや愛用品を通して、自由な人生の楽しみ方や多様性を紹介していきます。