子育て2020.09.15

こどもを夢中にさせる遊びの発明家・佐藤ねじのアイデアプロダクトとルール作りの法則

「こどものおうち遊び」といえば、多くの人はおとなが買い与えたおもちゃで遊んでいる風景を思い浮かべるかもしれません。でも、おもちゃに飽きたら終わり、ではない遊びもできたら、おとなもこどもも、もっと毎日が楽しくなるのではないでしょうか。

そのための発想のひとつが、「ルールを変えてこどもと遊びを作る」です。おとなとこどもとおもちゃの関係性をポジティブに変える「ルールを作る遊び」の発明家、アートディレクターの佐藤ねじさんにお話を伺いました。

(撮影/井川拓也、編集/メルカリマガジン編集部)

自宅で遊べるアイデアプロダクト

佐藤ねじ
プランナー/アートディレクター。株式会社ブルーパドル代表。『不思議な宿』『小1起業家』『CODE COFFEE』『変なWEBメディア』『5歳児が値段を決める美術館』『Kocri』など、様々なコンテンツを量産中

佐藤ねじさんは「空間体験・商品企画・WEB・PR・こども・グラフィック」の領域でコンテンツを生み出す企業、ブルーパドルを創業。これまでに手掛けた仕事のほかに、「変なプロダクト」というサイトには、彼らの「こんなものがあったら面白いかも」が詰まったプロダクトが並んでいます。

「泣いてる赤ちゃんが、偉人漫画の1コマのようになるモビール」。壮大なシーンのように思えてくる(ちなみにこれは合成画像)

すべり台の「滑る部分」を、おとなが装着して完成する「親子すべり台」。どこでも遊べて、高さの調整もかんたん

「落ちている木の枝は、公園専用のペンである」と見立て、木の枝を文房具のようにパッケージングした「PARK PEN」。2mmから15mmの太さごとに枝を分類している

お金のトリビアを交えた読み札をヒントに、1円から1000円までのお金が入ったぽち袋を選ぶ「お年玉かるた」。楽しみながらお金の知識もついてくる

身の回りのモノ・コトにアイデアをかけ合わせ、新しいモノを作る。この発想は、家族で遊びを作るだけではなく、仕事のアタマにも活かせそうです。

佐藤ねじさんは、どのような視点で、毎日から発見を得ているのでしょうか。

前提は「こどものエネルギーをいかに減らすか」

佐藤ねじ(以下同):「こども」領域のアイデアやプロトタイプは、家でこどもと遊ぶときのプロセスから生まれています。それらを考えるとき、ぼくが大事にしている大きなテーマは「こどものエネルギーをいかに効率的に減らすか」なんです。この課題を置くと、解決できることがいろいろ見えてきます。

これは今みたいに外出を控えるようになったからではなくて、梅雨の時期なんかで外で遊べないと、こどもはエネルギーが余るじゃないですか。もし、こどもに合わせておとなも動こうとすると、エネルギーの量が違うから絶対負けます(笑)。

そういう考えから探っていったひとつが、人間を遊具にするアイデア。「親子すべり台」って、自分がそれほど動かずとも、こどもはたくさん遊んでくれる方法でもあるわけです。

アイデアは「要素分解」からはじまる

こどもの遊びに限らず、課題を考えるときには要素に分解してみるのが、アイデアを出しやすくするコツです。

まずは、課題となるモノやコトを分解し、要素を定義します。そこに、届けたいターゲットとなる対象から導ける要素や、クライアントからお題として与えられていることなどを掛け合わせていくんです。

たとえば、ぼくがつくった「時計帽子」というプロダクトがあります。帽子内に仕込んだ時計と刺繍がつながっていて、時刻ごとにビジュアルが変わり、見た人に時間も知らせられるんです。

帽子を要素で見てみると、「かぶるもの」とか、「中央にビジュアルがある」とか、そういうふうに分けられる。これらの要素が動くようになったら、どうなるだろう。アプリのような機能を付随させたら、どこが使えるだろう……といったふうに掛け合わせます。

もし、テーブルが課題なら「モノを置ける」や「作業ができる」、あとは「肘から先を置くことが多い」あたりも要素としていえますね。もっと言えば、おもしろくする要素に分解さえできれば、それはもう半分はアイデアみたいなものです。

おもちゃは「改造する」と、もっと遊べる!

おもちゃについてのこどもと親の関係も、要素分解で考えると、大きく4つのパターンに分けられそうです。「買って与える」「作って与える」「改造する」「一緒に作る」です。

この4つだと、「改造する」は取り組みやすいでしょう。改造しやすいおもちゃとしては、ボードゲームやカードゲームがいいですね。

たとえば、「バカ将棋」。こどもが作った「ルール追加カード」を引いていくゲームを考案しました。「歩が全部飛車になる」とか、ひどいルールばかりなんですが、すごく盛り上がる。自分で考えたルールということもあって、こどもは進んでやりたがります。

ただ、こどもは複雑なルールを決めがちだったり、ゲームバランスが一気に崩れたりするので、そこはぼくがディレクションをします。「もっと簡単な仕組みに」という理由でボツにしたり、「奇抜と面白いは別物だぞ」なんて伝えたりしながら、こどもは何かを学んでいるようです。

もちろん、これはあくまで「うちの場合」であって、家族ごとに合うやり方、盛り上がるパターンを取り入れるといいと思います。こどもが好きなパターンって、それぞれあるじゃないですか。「とにかく勝敗がバッチリ決まるバトル系がいい」とか。そこは遊ぶ人の“ノリ”を意識して、好きな味付けに変えていきましょう。

こんなふうに、既存の遊びを改造するのは、ぼくもよく考えます。与えられたルールの中だけで遊んでいると、どうしても飽きが来る。けれど、自分でルールも作り始めると、遊び方の幅も広くなるじゃないですか。ITっぽく言うと「ハック」に近いですね。

とりあえず作ってみて、アイデアの鮮度を保つ

こどもは、親なら自然に観察してしまうと思いますが、ぼくも気づいたことはメモするようにしています。「もっとこうすればいいのに」と気づいたことは、とりあえず形にしてみたり、まだテクノロジーがなくて実現できなそうなら、「技術との出会い待ち」としてストックしたり。

ぼくが以前に作って、日本や海外でも話題になったものに「等身大パネルマザー」があります。うちのこどもが1歳のとき、お母さんがトイレに行ったりしていなくなると、すぐ泣いちゃう状態だったんです。それで、こどもはまだモノを見る目が曖昧だろうから、等身大のお母さん的なものが視界に入っていれば、代わりになるんじゃないか?と。
最初はホログラムを考えていたんですが、すぐに使える技術ではなかった。そんなとき、たまたま等身大パネルを作れる会社の人とつながりがあったので、話してみたらすぐ試作してくれたんです。効果は…20分くらいまでなら気づかれませんでした(笑)。

この「とりあえず作ってみる」というのも大事なことで、思いつきって、放っておくとアイデアが腐ってしまうんです。炊きたてのごはんと同じで、すぐには食べないとしても、ひとまずはサランラップに包んで冷凍庫へ入れるように、ちょっとは形にしておく。

うちは奥さんがおもちゃ作家なのもあって、工作する材料が家に多かったりもします。奥さんやこどもとの「こんなのがあったらいいよね」という雑談が、そのままブレストのように働いて、アイデアにつながったら奥さんが試作してみたり。こどもと一緒に手を動かすこともあります。

プロトタイプを簡単に作れる状態を用意しておくのも、アイデアを鮮度良く形にするためにはよく働きますね。そうやって具体化の打席を増やしていくことも、発想力につながると思います。

状況のルールを変えて「遊び化」してみる

もうひとつ発想の例として、以前に発表した「0歳ボドゲ」という、赤ちゃんの15秒後の行動が書かれたカードを選んで遊ぶゲームがあります。カードには点数が書かれていて、アクションを起こす可能性が低そうなものほど高く設定しました。

0歳児って、寝るか、泣くか、起きているかみたいな日々なんですけど、やっぱり誰かが面倒を見ていないといけないから、家族でゆっくりと遊んではいられないものです。

そこで、「0歳児が泣いて困るからゲームができない」ではなく、「0歳児がいなければできないゲーム」を作れたらと考えたんです。これなら、みんなが参加できますよね。
遊びの基本は「何かしらのルールがあって、その中でいかに動くか」だといえます。そう考えると、日常のあらゆることも「遊び化」できそうです。先ほどの「等身大パネルマザー」ならば、「こどもはお母さんが見えたら泣き止む」をルールとして捉えれば、その一部を改造して、「お母さんを違うものに替えても通じるか」という発想になる。

そんなふうに、現状のルールをちょっとポジティブに変えてみる思考法は、実験であり、遊びになり、ぼくもよくやっていますね。ぼくはポジティブ思考って悪くないと感じていて。つまらないものにも意味を見出すフェチみたいな性格はあるんですけども、その方が楽しいですよね。

世の中がどんな状況になっても「いかにポジティブに持っていけるのか」という思考は、遊びにも仕事にも役立つんじゃないかなと思います。
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WRITTEN BY

長谷川賢人

(はせがわ・けんと)1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 フリーランスのライター/エディター。好きなものは小説。メルカリでは吉行淳之介の本、カメラ用品、音響機材をよく買います!

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