アパレル2019.08.26

これぞ「ヤバT」? いまお洒落な人が着ているのは、ダサかっこいいTシャツだ

いま、ファッショニスタの間で “ヤバいTシャツ”が流行しているのをご存知ですか?
ここでいう“ヤバいTシャツ”とは、90年代〜00年代の国内アーティストグッズや、企業のロゴT、番組やゲームの景品など、一歩間違えばダサいのに、なぜか一周回ってカッコいいTシャツのこと。今回、そんな “ヤバいTシャツ”を愛し、お洒落に着こなす3人にお集まりいただき「夏の終わりのヤバTトーク」を開催しました。

参加してくれたのは国内外で活動するバンドTempalayのドラマー・藤本夏樹さんと水墨画アーティスト・CHiNPANさん夫妻、渋谷のヴィンテージショップ「BOY」のオーナー・奥冨直人さん。普段からメルカリで“ヤバいTシャツ”をディグるという藤本夫妻と、学生時代からその魅力にハマりショップでも展開する奥冨さんの、これぞという「ヤバい」数枚もご紹介。今こそ着たいヤバTの魅力を紐解きます! (執筆/千本あお、編集/メルカリマガジン編集部、撮影/Genki Ito)

藤本夏樹(ふじもと・なつき)

Tempalayのドラマー。John Natsukiとしてソロ活動も並行して行っている。Tempalayとしては2016年1月に1stアルバム「from JAPAN」、2017年2月にEP「5曲」、2017年8月に2ndアルバム「from JAPAN 2」をリリース。2018年9月には新体制初のミニアルバム「なんて素晴らしき世界」を発表した。2019年6月には最新アルバム「21世紀より愛をこめて」をリリース。2019年10月にはドミコ、MONO NO AWAREとのスリーマンライブ「中国巡演増加演出」を東名阪で開催する。

CHiNPAN(ちんぱん)

水墨画アーティスト。2008年に「アジア創造美術展」で入選し、それをきっかけに水墨画家としてのキャリアをスタート。2017年には初の個展「BLACK WORKS」を開催した。監修を手がけるVRグラビア動画「EXHI“BIJO”N -エキシ美女ン-」第6弾が現在DMM.comで発売中。

奥冨直人(おくとみ・なおと)

「FASHION & MUSIC」をコンセプトに掲げる渋谷のヴィンテージショップ・BOYのオーナー。自らセレクトしたアーティストの音楽タイトルも店頭で取り扱う。DJ、スタイリスト、ライターとしても活動中。

ダサければダサいほどシビれるという感覚になった

メルカリマガジン編集部

皆さんは今日も“ヤバいTシャツ”をファッションに取り入れられていますが、なぜこのようなTシャツを集めるようになったんでしょう?

藤本

もともと収集癖があるんですよね。高校の頃から好きなアーティストのグッズを買うことが多くて、こういうTシャツを着るのはその延長です。好きなアニメのグッズを買うのと同じ感覚みたいな。

CHiNPAN

私がこういうTシャツを買うようになったのはたぶんアイドルにハマったせい。アイドルグッズは一般的にダサいものとして認識されてるじゃん。ハロプロのライブで衝撃を受けてアイドルにハマって、そのあとももクロに夢中になっていく中で、アイドルグッズはダサければダサいほどシビれるという感覚になったんだよね。

藤本

アイドルグッズって好きなものを好きだと主張するためのものだもんね。俺が欲しいと思うTシャツもそういうものが多いかも。

奥冨

俺が俗に言う“ヤバいTシャツ”や“ヤバいグッズ”にハマった理由は結構明確。小中学生の頃ものすごいテレビっ子で、日本の芸能というものにめちゃくちゃ興味があって。中学の頃にファッションにも興味を持ち始めて、地元埼玉の近所の古着屋に通うようになったんだよね。その古着屋のロックTシャツのコーナーが自分のルーツで、自分の店もその影響をすごく受けてる。近所の古着屋にはロックTシャツのラックが2本あって、デフ・レパードとかアイアン・メイデンみたいなわかりやすいロックTと並んで、なぜかモーニング娘。とかチャゲアスのTシャツがあったんだよね。

CHiNPAN

何そのラック(笑)。ヤバいね。

奥冨

そう。普通は輸入物だけが並ぶようなラックに国内のアーティストのTシャツも普通にかかっていて。そこにあったHOUND DOGのTシャツを買ったのが中3くらいかな。古着と芸能という自分の好きなものが合わさったところに、Tシャツがあった。

日本人のファッションに柔軟性をもたせたのはファストファッションの功績だと思う

メルカリマガジン編集部

「BOY」は大阪のアメリカ村にある「古着屋十四才」と共同でポップアップショップ「転校生」を不定期で開催していますね。

奥冨

「十四才」との出会いは衝撃的でしたね。こうした類いのTシャツって古着屋に“紛れ込む”ものだったんですよ。古着の買い付けで巡りあってもピックアップしてそれだけを打ち出している店はなかなかない。「十四才」に初めて行ったときは自分が好きなものを肯定された気持ちになって、3畳くらいしかない店内に2時間以上いましたね。店主と話すこともほぼなく、ずっとTシャツを見ていました。最初に買ったのはペ・ヨンジュンのTシャツだった。東京に帰ってから「何か一緒にやりたいです」とアプローチして、転校生を開催するようになりました。2016年に転校生は始まったんですけど、あれから3年が経ってそういうTシャツに対する知識がついてきて、「このロゴのTシャツは20枚ぐらい見たな」とか「このL'Arc~en~Cielもけっこう見た」とか。国内アーティストのいつ頃のTシャツがよく二次流通されてる、みたいなところがわかるようになってきました。

藤本

このYOSHIKIのTシャツも見たことありますか? 昔、竹下通りにこういうTシャツを売ってるお店がたくさんあったんですけど、今はあんまりなくなっちゃったんですよね。

奥冨

それはないな。なかなかそこまで激しいプリントのTシャツは見たことがない。

CHiNPAN 

昔はこういうTシャツを着るのは勇気がいる行為だったよね。

藤本

確かに。高校生のときに原宿のLEMONed SHOPで買ったhideのTシャツも、買ったはいいものの着て出かけることはなかったもん。そういう服をここ3、4年で掘り出してよく着ているけど。

奥冨

たぶんここ数年でアーティストグッズやキャラクターグッズをファッションに取り入れる人が増えたのは、ファストファッションブランドの影響が大きいと思うんだよね。

CHiNPAN 

ファストファッションブランドはいろんなコラボアイテムを発売してるよね。

奥冨

そうそう。例えばさ、小学生が背負うランドセルも昔は黒と赤がメインだったじゃない。それが今はいろんな色があって、そこから好きな色を選んで使ってるでしょ。これは選択や受け入れが広がった証拠だと思うんだよね。それはストリートのファッションとも共通していて、いわゆる“ヤバいTシャツ”を着るのって、そのもののファンか普通のファッションでは物足りなくなったような人たちだけだったのに、今はいろんなブランドが昔のアニメとコラボしたTシャツを出したり、ユニクロのUTが企業ロゴを使ったTシャツを出したりしたことで、一般的になった。ファストファッションブランドの功績は、柔軟性や水準を変えた点だと思う。

CHiNPAN 

もともとはファン向けのアイテムだったものが、みんなのファッションに溶け込んだよね。

奥冨

うん。グッズ的な感覚だったものがファッションに取り入れられる可能性を得たんだよね。もともとこういう服が好きだった俺からすると、2000年代以降のこの流れはすごくうれしいことだよ。

ゼルダの伝説にALBA ROSA… 当時憧れていたものを身につける喜び

藤本

俺がファンアイテムに惹かれる理由って、ノスタルジーを求めているのかなと思う。当時すごく好きだったゲームとかアニメとかのグッズを見つけるとすごくうれしくなるし、それを着ていると、同世代なら気付いてくれてけっこう話題になるんだよね。

BOYで買った海外版「Pokémon」のゲンガーTシャツです。前後でシルエットクイズみたいになっていたり、ポケモン図鑑のナンバーも振ってあって気に入っています。(藤本夏樹)

CHiNPAN 

そういうのはあるよね。

奥冨

うん。昔からあるロックTシャツの文化とも同じだと思う。その延長線上にこういうTシャツはきっとある。

藤本

あと昔はネットもないからそういうグッズを見つけることができなかったし、見つけられたとしても買えるお金がなかった。当時憧れていたものを身につけられる喜びってあるよね。

着ていると同年代の人からよく声をかけらる。リンクのグラフィックTはよく見るけど、剣と盾だけというストイックなデザインのこのTシャツは見つけたときはテンションがアガりました。(藤本夏樹)

CHiNPAN 

私はALBA ROSAの服を当時買えなかったから、今メルカリで探して買ったりするよ。ALBA ROSAってギャルの象徴みたいなブランドだけど、たぶん当時着ていたギャルたちからしたらすごく高かったはず。だからか状態がいいものが多くて、私が6000円くらいで買った升目柄のコートもめちゃくちゃきれいだったんだよね。

奥冨

俺もアルバのアイテムをメルカリで買ったことがあるよ。ああいう90年代のニュアンスを今のファッションに取り入れたくて。立場的にメルカリで服を買うのは気が引けて、普段は雑貨とかを買うことが多いんだけど、アルバみたいな日本のブランドは海外からはまず入ってこないし、なかなか手に入らないからメルカリで検索して買ったのね。そしたらすごく丁寧に梱包されていたうえに、メッセージカードも付いていてうれしかった。

CHiNPAN

メッセージカードは全部に付いているわけじゃないからね。でもアルバの服を出品している人はメッセージをくれる確率が高いかも。

奥冨

元ギャルは優しいと(笑)。

CHiNPAN

うん。ギャルって根本的に性格がいい人が多いと思うし、思い入れのある服を手放すことになるわけだから、大事に着てほしいという気持ちがあるんだろうね。

奥冨

だろうね。元ギャルたちにとっては今必要ないアイテムになっても、俺らはそういうものを今着たいわけじゃん。時代を問わずに今自分が探しているものを検索できるのはいいよね。それがメルカリの一番頼れるところだと思う。

CHiNPAN

そうだね。あとPIKOの服もメルカリで私はよく買うんだけど、1、2年前にはTシャツを300円とかで買えたのに最近高騰していて……。今年jouetieがPIKOとコラボしたからか、たぶんまたPIKOに人気が集まっていてメルカリでも安く買えなくなっちゃったの。

奥冨

ヴィンテージの価値は流行に左右されるからね。

CHiNPAN

株みたいで面白いよね。

メルカリでの“ヤバいTシャツ”の探し方

いろんなアーティストのフォトTを集めていた時期に、メルカリで見つけた「L'Arc〜en〜Ciel」のTシャツ。公式なのに小さい文字が潰れてまったく読めないところがお気に入り。(CHiNPAN)

メルカリマガジン編集部

CHiNPANさんと藤本さんはメルカリフリークだという話ですが、どういったワードで検索して欲しいアイテムにたどり着くんでしょうか?

CHiNPAN

私は芸能人の名前で探していますね。最近はずっと反町隆史、広末涼子、モーニング娘。で検索し続けています。あとドラマ「ビーチボーイズ」のグッズが欲しくて、ずっと探しているんですけどなかなか見つからなくて…今日着ている氷川きよしのTシャツなんかは探せばすぐ出てくるんですよ。たぶんいっぱい数も作られているし、客層的に買ったはいいものの着にくいんでしょうね(笑)。新品未使用で袋に入ったままのものが多いです。浜崎あゆみのTシャツをずっと探していて最近やっと手に入れたんですけど、これは「浜崎あゆみ」というワードで毎日検索していました。

奥冨

AyuのジャケTはかなりレアなんじゃない? ツアーグッズとかは検索すれば山ほど出てくるけど。

CHiNPAN

そうそう。「A BEST」の特別仕様に付属していたTシャツなんだけど、まるごと買うと高いし、欲しいのはTシャツだけだったからずっと探していたんだよね。だから見つけたときはアガった。

浜崎あゆみのベストアルバム「A BEST」に付いていたTシャツで、メルカリで「浜崎あゆみ」で検索し続けて見つけた1枚。ずっと欲しかったけどなかなか見つからなくて出品されてすぐに買いました。(CHiNPAN)

藤本

俺はhideとかX JAPANとか、好きなアニメ「アドベンチャー・タイム」のグッズをよく探しています。「ART OF LIFE」のジャケット柄のTシャツは、今やっているツアーTシャツとかもセットになって3枚で4500円という破格で出品されていて。

その人にとっては新しいTシャツを売るついでにおまけとして付けたのかもしれないけど、俺はむしろ「ART OF LIFE」のTシャツに4500円払うのに…と思いながら買いました。(藤本夏樹) 

CHiNPAN

なっちゃん、サイズで検索して見つけたTシャツもあったよね。

藤本

ピチTがマイブームだったときね。「Tシャツ 150cm」で探すんだけど、今日持ってきたhideのTシャツはそうやって見つけた。そういう探し方もできるのがメルカリのいいところかも。

メルカリでピチTを探しているときに、150cmで検索して見つけたhideのTシャツ。2013年発売なのでわりと最近のものだけど、色あせ具合が古着っぽくていいんです。(藤本夏樹)

ヤバいものがオフィシャルで出てるっていうところがいい

奥冨

ちょっと番外編的な話になっちゃうんだけど、2000年前後はいろんな企業がノベルティというか、販売促進の目的でグッズをたくさん作っていて、それが今になって発掘されることが多いんだよね。雑誌の企画で応募者全員サービスがあったり、芸能以外のジャンルで見つかる事も多い。あとはアイドルショップの影響も大きくて、袋に入ったままのものとか、タグにシールが貼られたままのものとかがすごく出てくる事がある。要はデッドストックだよね。その時代では全員に行き渡らなかったものが、時間が経って今更なる価値を生んでいるという。「古着屋十四才」にはそういうものがたくさんあるんだよね。

藤本

さっきTOMMYさんがBOYで見せてくれたDr.GripのTシャツとかそれだよね。学生時代にあのTシャツもらえるって言われてもうれしくなかったけど、今だったら着たいもん。

文房具ブランドが服を作るという発想がヤバい(笑)。2000年前後は未来感を売りにしている商品が多かったけど、Dr.Gripもフォントがまさにそれ。(奥冨直人)

CHiNPAN

そうだよね。当時あのTシャツがあっても全然欲しくない(笑)。

奥冨

クラスで自慢できないよね(笑)。そういうのって全部時代のめぐり合わせで、ファッションだけじゃないんだよ。20年前は全然聴いていなかった曲をたまたま聴いたら今の気分にフィットしたり、昔からあるタピオカミルクティーが2019年に爆発的なブームになったり。特にファッションはそういうことがすごくあると思う。この「danny first」のT シャツなんて90年代にはどの家庭にもあったんじゃないか?と思うぐらい流通されていたけど、今見るとノスタルジーも相まってまた違った感覚ですよね。

このキャラクター、アラサー以上の人はみんな見たことがあると思うんですけど、今はなかなか見かけないですよね。USのものが各家庭にあんなに広まるはずはないし、日本でも作られていたんじゃないかな。まさに90年代の産物。(奥冨直人)

藤本

あとスタッフ用のコーチジャケットとかTシャツもたまに出回ってるのを見る。Xのコーチジャケット、欲しいけどめちゃくちゃ高いんだよね。

奥冨

スタッフ用のアイテムはレアなんだよね。今もSPEEDのコーチジャケットを持ってるんだけどそれもスタッフ用だったなあ(笑)。あと番組のグッズも多くて、「HEY!HEY!HEY!」のジャケットはBOYに置いたことがあるよ。「Mステ」も「うたばん」もグッズを見たことがないんだけど、「HEY!HEY!HEY!」はけっこうな種類を見たことがある。こういう企業や番組ロゴのグッズは種類も豊富だから、面白いんだよね。その時代に作ろうと思った人がいた、という背景を考えるだけで楽しい。日本の古着を楽しむ醍醐味のひとつかもしれないね。

藤本

TOMMYさんが着てる「NHKのど自慢」のTシャツもヤバいね(笑)。

CHiNPAN

これはどこで買ったの?

奥冨

普通にNHKで売ってるんだよね。「NHKのど自慢」のグッズはTシャツ以外にもヤバいのがいろいろあって、周りの一部では話題になってる。これがオフィシャルで出てるっていうところがいいんだよね(笑)。

「なんだこれ!?」なオフィシャルグッズの背景を調べるのは面白い

藤本

オフィシャルで出てるものを買うって、ちょっとした記念にもなるよね。旅先でお土産を買うみたいな感覚というか。身に付けているものに、カッコいいから、かわいいからみたいな、見た目以外の意味があるっていいことだなと思う。

CHiNPAN

私はわりとそういう理由で自分の服を選んでいる気がするな。

藤本

ね。もちろんちゃんとした服を着ないといけない場所では着るけど、普段は着ていてテンションがあがって、友達と話題になるような服を選んでる。

奥冨

そうやって選んでもらえた服たちは幸せだよね。オフィシャルグッズも奥が深くて、例えば2020年のオリンピックのグッズを見ていても100万超えの小判とか出てるの。アパレルだけじゃないグッズの展開や意味を考えるのも面白いんだよね。長渕剛さんのグッズ展開を見ると特にシビれるラインナップで。そこにもアーティスト側が音楽以外にどういうものを発信してきたかという気持ちも込められているのかな。

CHiNPAN

Tempalayにものちのち発掘されたときに「なんだこれ!?」って思われるようなグッズを作っていってほしい(笑)。

藤本

後世に残るやつね。俺もアルバム出したらワインを作ろうかな。YOSHIKIさんリスペクトで。

終わりに

それぞれの「ヤバさ」が炸裂しながらも、ノスタルジックなワードが行き交い、大盛りあがりだった「ヤバT」トーク。Tシャツという最も身近なアイテムで「意味」を身につけることができるなんて、ファッションって自由で楽しいなあ...と改めて感じた座談会でした。

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メルカリマガジン編集部

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