お片づけ2021.03.30

「片付けを甘くみてはいけない」。脳科学者に聞く挫折しない片付けのコツ

新生活がはじまる季節に心機一転、自宅の環境をアップデートしたいと思っても「部屋が散らかっていて片付けがとにかくめんどくさい」と感じる方もいることでしょう。「まずリビングを片付けてから散らかった本棚を片付けて…」など、段取りだけでもめんどうです。では、できるだけ頭を使わずラクをして片付けができるようにならないか…? 

脳科学の観点から専門家にライター・よざひかるさんが解決法を伺います。
(執筆・写真・イラスト/よざひかる、編集/メルカリマガジン編集部)

片付けに挫折し続けて早30年

片付けが苦手です。先月整理したはずの引き出しがいま…
この状態です。
そういえば生まれてからずっと「片付け」とうまく付き合えたことがありません。これはもう、自分の脳の仕様が片付けに向いてないのでは…? とすら思えてきました。

片付けが苦手だと感じる根本的な原因を知りたい! ということで、脳内科医であり『片づけ脳―部屋も頭もスッキリする!』(自由国民社)の著者でもある加藤俊徳先生にお話をお聞きしました。

人はなぜ片付けられないのか

よざ

片付けが本当にめんどくさくて、毎回適当に片付けたり、そもそもやる気がでなかったりですぐ家が散らかります…。

加藤先生

ちなみにいつ片付けしてますか?

よざ

いつ??  仕事終わりとか、散らかった部屋を見てイライラした時にわーーっと…

加藤先生

そうだと思いました。実は、片付けできない人って、「片付け」を甘くみているんです。適当に時間を見つけて、なんとなくやるものだと思ってないですか?  私もそうでした。

よざ

やばい。片付けとの向き合い方を考えたことがなかったです。

加藤先生

「片付け」って実は脳をすーーごく使う大変な作業なんです。フレッシュな脳みそで対応すべきで、まずその前提を知ることが大事です。

よざ

ちなみに片付けの脳の負荷を、別のものに例えたらどうなりますか?

加藤先生

かんたんにいうと、暗算しながら階段の昇降運動するみたいな感じです。

よざ

最悪じゃないですか。絶対やりたくない。

加藤先生

しかも、暗算だと問題は誰かによって用意されていますよね。でも「片付け」はどういう状態にもっていきたいかと未来を考えながら、問題も自分で設定しなくちゃいけません。
 
だから正確には、暗算解きながら、運動もして、自分の将来も考えてるみたいな。そういう脳の使い方をするんですね。いろんな部分を同時に動かす。

よざ

そんなに難しいなら、片付けって挫折して当たり前じゃないですか??  やる気もでないわけだ。

加藤先生

そうです! だから片付けができない人は、取り組む姿勢を変えればいいだけなんです。
 
仕事終わりで疲れた頭で…とか、一気に全部の場所を掃除しようとする…とか。そりゃできないんですよ。脳をめちゃくちゃ使う作業ですから。

よざ

そもそもの認識がちがったんですね…。

加藤先生

私もこれを理解するのにすごく時間がかかりました。
昔は研究で忙しくて、夏に家に帰ると、下着20枚にカビが生えて腐って…どうしてこうなってしまうのかわからなくて……

よざ

…これを読んでる誰よりも先生が重症かもしれないです。

加藤先生

疲れてたし、睡眠時間も足りてないし、そもそも脳の状態が最悪だったんですね。

じゃあどうしたら片付けられる?

よざ

そこからどうやって片付けられる人になったんですか?

加藤先生

ポイントは2つ。まずは「時間を決める」ことです。大変な仕事や会議って、時間を決めてとりかかりますよね?

片付けも大変なら、脳が元気なときに時間をとらなきゃと考えました。

よざ

たしかに! 重ための仕事だと考えたらいいんだ。

加藤先生

でもすごく重たい仕事って毎日やりたくないでしょう。だから毎朝、出かける前の5分だけ片付けをしようと決めました。短い時間でさっとやる。

加藤先生

時間を決めたあと、これは2つ目のコツなんですが、「掃除する場所を一点に絞る」こと。これがとても大切です。

よざ

「家全体を一気に片付ける!」って張り切っちゃうのはよくないということですか?

加藤先生

たとえば、休みの日で、脳が元気な時に全部片付ける!! とかはありだと思います。
 
それでも、片付けは脳の運動を指揮する部分を使い、計算する部分を使い…という「脳のマルチタスク」になるので、ずっと集中し続けるのは大変です。中途半端な片付けになることも多いと思います。
 
こまめに片付けを習慣化すれば、一気に片付ける必要もなくなりますよね。

よざ

おっしゃるとおりです…。

加藤先生

短い時間で「今日は本棚のこの一列だけ片付けよう!」と決めて毎日やるほうが脳には優しいんです。

さっきのたとえでいうと、暗算を一気に解くのではなく、まずは足し算からやろう、みたいな具合です。

モノの上手な手放し方

加藤先生

ところで、よざさんはモノが多い家に住んでいるんじゃないですか?

よざ

どうしてわかるんですか…。

加藤先生

片付けが苦手な人は、モノを手放すのも苦手な人が多いんです。片付け以上に「手放す」という判断には脳を使いますね。

よざ

上手にモノとお別れできるようになりたい…。考え方のコツってあるのでしょうか?

加藤先生

まず、片付けに取り組む前に「手放す判断軸を決める」ことが大事です。
服なら、2年着てないものは処分する。本なら、1冊買ったら1冊処分するとか。
 
それを決めずにはじめると愛着が勝ってしまい、何を基準に決めたらいいかわからず、脳が混乱して「まだ処分しなくていいか…」という結論に至ってしまいます。

脳の影響から考えるあたらしい「手放す軸」

よざ

わかりすぎます。でも「2年着てない服は捨てる」とか決めても悩んじゃいそう…

加藤先生

そういう場合は、「身の回りのモノは常に脳に影響を与えている」と考えてみてください。

よざ

というと?

加藤先生

自宅から場所を変えてカフェで仕事をするとはかどることはありませんか?  あれは、自分の知っているモノが少ないから、新しい刺激をうけて、脳が活性化しているんです。
 
元恋人からもらった何かが捨てられないとか、学生時代からある筆箱が捨てられないとか……なんでもいいんですけど、所有しているモノは、脳がどこか覚えていて、容量をつかっているし、常に影響をうけています。

よざ

ハッ…私、もう半年ぐらい使ってない「コロコロ」が目の前にずっとあるんですけど、こいつのせいで日々小顔のことを無駄に考えてる気がしてきました。

加藤先生

そうそう。まさにそれなんですよ。脳は敏感で、目に見えたり、所有してるものから影響を受けてしまう。
 
ということは、今後影響を受けたくないものは手放して、影響を受けたいものは残せば良いんです。

よざ

脳に影響をあたえるモノを、自分でコントロールするわけですね!? すごい。

加藤先生

そう! 手放すことは悪いことではなく、新しい変化を迎えるスペースをつくることでもあります。
 
小顔ローラー使ってないな、と思って手放した瞬間、ローラーを使うよりもっといい方法があるのではないか?」とか考えますよね。

よざ

確かに「小顔体操でもいいのか?」「そもそも小顔ってそんなに大事か?」っていまはじめて考えました。

加藤先生

片付けることは、いつもの視点や行動を疑って、見直す行為でもあるんです。そうして不要なものを手放してできた新しいスペースに、新たに影響を受けたいものをもってくるとかね。

小さなことですが、すごく脳にとってもいいことです。

よざ

めちゃくちゃ片付けを楽しめる気がしてきました。脳に悪さするやつは全て手放したい。

加藤先生

あと今日はじめて、小顔ローラーが半年も使ってないって気づいたでしょう? ずっと目の前にあったのに。

よざ

ほんとだ! 怖い! ずっとあったのに!

加藤先生

片付けの難しいところはそこで、まず視覚系の脳みそを使って「片付けが必要な状態にあるか」認識することが大変なんですね。いままで普通だとおもっていた状況を疑うっていう。
 
気づくこと自体むずかしいので、まずは狭いスペースに一点集中してやったほうが良いというのはそのためです。

加藤先生

ぜひこまめに、短い時間から習慣化にチャレンジしてみてください。

よざ

片付けできそうな気がしてきたし、運気とか信じてないんですけど、なんか運気あがりそうって思いました…。

加藤先生

運気、っていうのは自分の視点を変えることだと思うので、片付けはその一助になると思いますよ(笑)。

よざ

めちゃくちゃかっこいい...脳すごい…ありがとうございました。

★まとめ★

めちゃ目から鱗でした。先生本当にありがとう…
(おまけ)

よざ

そういえば、SNSで「部屋が散らかっている人はクリエイティブな人が多い」っていう投稿を見たんですけど。

加藤先生

ああ……個人的には、あれは結果だと思っていますね。クリエイティブに過ごしていて、過集中しているから気が回らなくなって部屋が散らかっちゃった、っていう。逆は真ではないと思います。

よざ

い…家を散らかせばクリエイティブになれるのかと思ってしまいました。

加藤先生

あとずっと散らかっているというよりは、汚い時期と片付けてきれいな時期があるってことじゃないかな。忙しい時って部屋、散らかりますよね。

…片付け、がんばってくださいね。

よざ

逃げずにがんばります…。

「へぇえええ」と「すごい」ばっかり言う取材になりました。(終)
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メルカリマガジン編集部

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