ホーム2020.04.08

私の名品 #01 金継ぎ・漆職人 河井菜摘

あの人が選ぶ「私の名品」は?

人が選んで使うものは、その人を物語ります。ほかの誰かが決めた基準ではなく、「私」が好きなものを身の回りに置く楽しさ、贅沢があります。何気ないものでも、できれば自分が「名品」と感動したものたちと、毎日を一緒に過ごせたら素敵ですよね。このシリーズではさまざまな方に、ちょっと心を動かされ、生活の中で定番となった3つのものご紹介いただきます。(執筆・写真/河井菜摘、編集/メルカリマガジン編集部)

私の仕事は金継ぎや漆の修復業で、個人の方や古美術商の方から陶磁器や重箱や茶道具などを預かって修理する仕事だ。
要はまあ職人仕事なのだけど、「買い物マガジン」というインスタグラムアカウントで自分のオススメの品を紹介したり、鳥取の山の家に住みながら京都と東京を往復する三拠点生活をしていることから、暮らしや仕事やライフハックなどをSNSで発信することが日課になり、いまでは暮らしや発信自体が仕事につながっている。
職種的には超アナログな手仕事の職人だけどソーシャルネットワークなしでは生きられない。

今回スタートした「私の名品」という連載は、買ってよかったと感じる自分なりの3つの名品を紹介するものらしい。ジャンルはなんでもオッケー、私は「仕事」「暮らし」「ガジェット」とひとつずつで選んでみた。

ANGLEPOISEのスプリング式アームランプ

まずは仕事でもう、これがなくては…!と思ってるのがイギリスのANGLEPOISE(アングルポイズ)のデスクライト。
仕事柄、細い線を筆で引いたり、微妙な漆の塗り厚の差や金粉を蒔いたときのキメを見たり、細かい作業がめちゃくちゃに多い。というか細かい作業しかない。なので、手元を明るくしてくれるデスクライトがなくてはとにかく作業ができない。
うつわの大きさや、内側を作業するか外側を作業するかで明るく照らしたい部分が常に変わるので、デスクライトには可動性が必須。

このライトの素晴らしいところは、アームもシェードもどう動かしても、動かしたポジションで自然とキープしてくれること。いちいちネジを緩めたり閉めたりすることなく、軽い力で動かせて、どんなポジションであろうとも動かした位置で止まってくれます。
どういう仕組みなのか本当に不思議なのですが、計算され尽くしたと思しき3本スプリングのおかげみたい。台座がしっかり重いのも、いろんな角度にしてもふらつかないポイントなんだと思う。

鳥取市にあるantiques+Green(※現在不定休なので、行くときは要問い合わせ)というお店に行った時に出会いました。ちょうどデスクライト欲しいなあと思っていたところ、お店のオーナーさんからこのアングルポイズのライトの機能や、この年代のデザインの話などを聞いて「これは」と思い購入。 本当に買ってよかった...な逸品です。 私が使っているのは1227というモデルで、年代によってシェードなどのデザインが変わりますが確か1940~50年代のものかと。 現行品はネットでも買えるし、マーガレットハウエルの店頭なんかにもtype75の復刻品が置いています。シェードの形など今回紹介した写真のものと細かなデザインは変わりますが。

このデザインを手がけたケネス・グランジは学生時代スプリングを製作する工場で働いていたことがあるらしい。まさにインダストリアルデザインの骨頂な逸品。照らすという本来の機能を尊重し追及された、働くライトです。
50年ほど前に遠くイギリスで作られて、私の手元に来るまでにいろんな家や仕事場で使われてきたんだろうなあ、と思うと古びた感じも勲章のようにすら思える。これからも私の仕事場で相棒として働いてもらう予定。

Pyrexのメジャーカップ

次は暮らし。これは私が大学生で一人暮らしをした時からずーっと使い続けている逸品。
使っている人も多いはず、なPyrex(パイレックス)のメジャーカップです。
毎日使うから仕舞うタイミングがない…ので常に洗いかごに出しっ放し。

まずこれのいいところはハンドルがあるところ。ハンドルのおかげで洗いかごからひょいっと取れるし卵液とくときも安定して混ぜられる。
ガラスって割っちゃいそうで不安かもだけど、これは厚みがあって丈夫でほどよい重みの安定感があって、ガラスの素材だからこそ得られる安心感が実はあるのでめちゃくちゃいいよ。金属のボウルと違ってかちゃかちゃ言わないところも自然と毎日手が伸びるポイントかもしれない。

電子レンジにかけられるから調味料をこの中で量り入れて(メジャーカップだけどメジャーとしての機能はあんまりなので別の大さじやカップで量ること多し)、そのままチンして溶かして、鍋なんかに注ぐまでの一連の動作がスムーズにできちゃいます。
デザインも飽きがこなくて好き。私が使っているものと現行品は、文字などのデザインが違うのだけど、現行品のロゴもめちゃかわです。

そしてちょっとこそっと教えたいポイント。
こういう昔からあるデザイン、プロダクトの面白いところは「同じシリーズの色違い」っていうのがあるんですよね。
Pyrexといえば赤!なのだけどメルカリで「パイレックス メジャーカップ」で探してると、時々オールドパイレックスの緑とか青を見かけることがあります。まだ売ってるのに出合えてないのだけど黒もあるはずなんだよね。

Pyrexのメジャーカップ私も使ってるよ、という人はきっと色違いってだけでグッとくるかと。
普段見慣れたものの色が変わるだけでほんとときめいてしまうもので。これはただの自慢ですが上の写真の通り、青と緑も持ってます。
この色違いはメルカリで見つけたこともあり、今回お話しいただいた時にこのアイテムは入れねばと思ったのでした。
メルカリは古いもの、今は生産されていないものを探す時に私はよく使っています。

iWALKのモバイルバッテリー

そして最後は「ガジェット」の中での一番のお気に入り。
オススメしたいのはiWALKのモバイルバッテリー。とにかく移動が多い生活だったので、1gでも荷物を減らしたい、ということで探し出したリップクリームやライターサイズのこちら。

これのいいところはまず75gと超軽量なところ。買い物マガジンでもオススメしたことがあるのですが、超軽量化して山登りするUL(ウルトラライト)な友人からも「山登りの時にもいい」と太鼓判をいただいた。
iPhone1回フル充電できます。正直モバイルバッテリーって1回フル充電できれば十分なんですよね。
バッテリーが大きいと持ち歩くのにハードルが高くなるけど、このサイズならほんと気軽にカバンに入れられる。

あとケーブルがいらなくてそのまま挿すだけなのが本当に優秀。
モバイルバッテリー用のケーブルを持ち歩くのも繋げるのも面倒だから、カバーキャップ外すだけで使えるのは相当楽チンです。(しかもカバーキャップ分離せず本体に繋がってるとこも賢い)

実は家の中でもよく使っていて、充電無くなりそうだけど今ここでスマホをさわり続けたい...みたいなとき重宝してます。

そしてモバイルバッテリーを充電するためのケーブルも不要なところが素晴らしい。ライトニングケーブル対応だからバッテリーさしたままiPhoneとバッテリー同時に充電できます。これは旅行先や出張先で相当重宝する。

と...このモバイルバッテリーは、実は他のものを選びなおそうか迷いました。
この写真を撮影したのは3/24、このテキストを書いているのは4/6。みるみるうちに新型コロナウイルスの影響で世界の状況は変わり、どこかに自由気ままに出かけたりすることが今はできない状況となってしまいました。
ただ、だからといって選びなおしてしまうと、このモバイルバッテリーを持ってあちこち出かけられる未来を否定するような気がして。
普段の生活を取り戻すためにも、今はただとにかくみんなが家にいよう。それが最もパワフルでポジティブな解決策。

これからどんな時代が来ようとも、自分の芯はぶれないよう曲げないよう。
誰かが選んで使っているものはその人を構成してその人を物語る。
この「わたしの名品」という連載の、次、そのまた次の誰かが挙げるものに心動かされるのを楽しみにしています。
楽しみな予定を誰かと作ることは難しい今だけど、小さな光を見つけていきましょうね。

河井菜摘(かわい・なつみ)
1984年大阪生まれ。京都市立芸術大学、大学院にて漆工を学ぶ。
2015年に独立し漆と金継ぎがメインの修復家として活動。陶磁器、漆器、竹製品、木製品など日常使いのうつわから古美術品まで1000点以上の修復を行う。
同じく2015年にInstagramをきっかけに購入した鳥取の山の家で過ごしながら、京都・東京・鳥取の3拠点生活を送る。Instagram「買い物(かいもん)マガジン」主宰。
twitter:@nano_723
instagram:@nano.o.o
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メルカリマガジン編集部

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