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トルコの小さな村で習った「ラム肉といんげん豆の煮こみ」──メルカリ食堂 ツレヅレハナコ

心に残る料理やレシピ、キッチンアイテムを紹介いただく企画「メルカリ食堂」。第2回は「食と酒と旅を愛する」編集者、『女ひとりの夜つまみ』の著者ツレヅレハナコさんにトルコ料理と旅の記憶について書き下ろしていただきました。
(執筆・撮影/ツレヅレハナコ、編集/メルカリマガジン編集部)

トルコ料理が食べたくて、ホームステイで料理を習う

私が今まで一番多く訪れている国はトルコ。
20代の頃から、幾度となく通っています。
なぜそこまで行くのかと言えば、なんといっても食べもののため!
私はトルコ料理が大好きなのです。
日本で手軽に食べられるトルコ料理と言えば、やっぱりドネルケバブでしょうか。
クミンなどスパイスたっぷりの羊肉や鶏肉を何重にも棒に焼きつけ、ぐるぐる回しながら火であぶり、ピタパンにはさんで食べるファストフード。
現地でも、基本的にはお店で買って食べるものです。

もちろんそれもおいしいのですが、なんといっても最高なのは家庭料理。
「手間ひまをかけることが、もてなしの現れ」と考えるトルコのアンネ(=お母さん)たちの料理は本当にすばらしくて、「このために飛行機のチケットを買いたい!」と思えるほど。

私も当初は、イスタンブールやカッパドキアなどの観光地をめぐる普通の旅をしていました。
ところが日本で発売されたトルコ料理の本を読み、自分で料理をつくるうちに「現地で本物を習ってみたいなあ」と思うように。
さらに何度目かのトルコ行きの頃には、「言葉が話せたら、もっとおいしいものが食べられるのでは」とトルコ語を習い始めてしまいました。
そして、それが運命の出会い!
レシピ本に載っていた「トルコの料理名人主婦」というレポートページを先生に見せて、「このお母さんの料理がおいしそうなんですよ」と話すと、「あれ?この人、知り合いだ」って、ウソでしょ!!

ホームステイ先の台所風景

さっそく話を取り次いでもらい、その家にホームステイをさせていただくことに。
わーん、なんでも言ってみるものだ!
本当に現地まで押しかけ、毎日料理を教えてもらう日々が始まりました。

トルコで食べたものたち

トルコのお母さんは、一日のほとんどを台所で時間を過ごします。
料理の下ごしらえをしたり、何かを煮こんだり、保存食を作ったり、パンやお菓子を焼いたり……。
特に、おじゃました家のお母さんは、村でも有名な料理上手。
真っ赤なトマトをペーストにしたトルコ料理には欠かせない調味料「サルチャ」や、乾燥スープの素「タルハナ」など、最近は市販品も多くなってきたものもすべて手作りするのです。
その様子を毎日見せてもらう幸せといったら!
私は、夢中で料理を習いまくりました。
 
また、「トルコ人の日常」を体験できたのも楽しい思い出。
朝起きたら、まずはお母さんと近所のパン屋さんに焼きたてのパンを買いに行きます。
(さすが食料自給率100%超え。小麦がおいしいので、とにかくやたらにうまい!)
朝食は5~6種類のフレッシュなチーズ、オリーブ、季節の果物、キュウリやトマトなどの生野菜、ごまペースト、ペクメズ(ぶどうのシロップ)、はちみつなどがズラリと並びます。
時間があるときは、トマト入り半熟スクランブルエッグのような「メネメン」も作ってくれたなあ。
山盛りのパンに、欠かせないのはチャイ(紅茶)。
タンニンが強めのチャイですが、トルコ人はこれを一日中飲むのです。
専用の「チャイダンルック」という2段ポットがあり、上には濃い紅茶、下には熱湯。
それをコンロにかけておき、飲みたいときに上の紅茶を下のお湯で割る仕組み。
「よくできてるなあ……」と、私も市場で買い求めて日本に持って帰りました。
お昼は各自で、お母さんが作り置きしたレンズ豆などのさまざまなスープや、肉や米をぶどうの葉で巻いて煮た「サルマ」やピーマンなどに詰めた「ドルマ」を好きなだけ。
肉や野菜の煮込み料理とバターピラフ「ピラウ」も定番ランチでした。

ピーマンに肉や米を詰めたドルマ

トルコ人にとって米は野菜なので、私がピラフだけ食べてパンを食べないと「ハナコは、なんで主食を食べないの?」と言われたのも良い思い出……。

夜は、夕方から手の込んだ料理を習って食べることも多かった。
揚げたなすにひき肉などを詰めて更に煮る「イマム・パユルドゥ(坊さんが気絶したという不思議な料理名)」。

イマム・パユルドゥ

小指の先ほどの小さな羊肉の水餃子「マントゥ」は生地から作ります。
塩味のヨーグルトをかけていただくのです。これが、めちゃめちゃおいしい~。
リクエストして作ってもらいましたが、4時間くらいかかったような記憶が。
聞くと、作るときは「今日はマントゥよ」と近所のお母さんたちを誘い、
みんなで誰かの家に集まって作ったりもするそう。
数百枚の皮で具を包みながら、近況や家族の話をしたり……。
だから、マントゥの日は周囲の家の夕食もみんなマントゥ。
なるほど、よくできてるなあ。

忘れられない特別な一皿

そんな日々を過ごす中で、思い出深いのが「クルバン・バイラム(犠牲祭)」の日。
羊や牛を屠って神様に捧げるイスラム教徒にとって大切なお祭りです。
私はこれに参加するのが長年の夢だったので、前日は興奮して眠れなかったほど。
当日は、アッラーへのお祈りと共に専門の人が羊を屠り、貧しい人々にも肉を分け与えます。

その肉を使って作ってくれたのが、「ラム肉といんげん豆の煮こみ」。
羊肉を多く食べる食文化でレシピも多数ありますが、この日の料理はあまりにもおいしかった!
犠牲祭の肉ということもあり、アンネが丁寧にお祈りしてから作ってくれたのも印象に残っています。

バターでにんにくと玉ねぎ、トマトペーストを炒めてから羊肉を加えて炒め、水とクミンを入れて煮込むだけのシンプルな料理。バターピラフと共に食べると最高!
日本でも作りやすいよう少しアレンジして、私の定番レシピとなりました。
とてもおいしいけれど、やはりあの日のアンネが作ってくれたものにはかなわない。
それは私のトルコへの思いがたっぷり詰まった、特別な一皿だったからだと思うのです。

思い出のレシピ

「ラム肉といんげん豆の煮こみ」

材料(4人分)
ラム薄切り肉 300g
いんげん豆(水煮) 1カップ
玉ねぎ(みじん切り) 1個
にんにく(みじん切り) 1かけ
トマトペースト 大さじ3
バター 20g
塩 小さじ1
クミン 大さじ1
ドライミント(あれば) 大さじ1
水 500ml
1:鍋にバターとにんにくを入れて弱火にかけ、香りが出たら玉ねぎを加えて5分ほど炒める。
2:トマトペーストを加えて1分ほど炒めたらラム肉を加え、色が変わるまで炒める。水、塩、クミンを加えて10分ほど煮る。
3:いんげん豆を加えて3分ほど煮たら、ミントを加えて火を止める。バターライスにかけていただく。

バターライス

材料(4人分)
米 2合
シェヒリエ(米型のパスタ。イタリアのリゾーニで代用可) 大さじ2
水 360ml
バター 20g
塩 少々
1:鍋にバターとシェヒリエを入れて火にかけ、色づくまで炒める。米を洗わないまま加えて、透き通るまで炒める。
2:水、塩を加えてふたをし、中火にかける。沸騰したら弱火にして5~7分炊く。中心のお米を味見して炊けていたら、火を止めて3分ほど蒸らして混ぜる。

ツレヅレハナコ

食と酒と旅を愛するフリー編集者。著書に『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)、『ツレヅレハナコのじぶん弁当』『ツレヅレハナコのホムパにおいでよ!』(ともに小学館)、『ツレヅレハナコの薬味づくしおつまみ帖』(PHP研究所)『食いしん坊な台所』(河出文庫)ほか。

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メルカリマガジン編集部

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