メルカリ2026.07.27

ぬいぐるみを集め、光を灯す。アーティスト・キムソンへが照らす、シャンデリアという愛のかたち。

ぬいぐるみを組み上げたシャンデリア作品で知られるアーティスト、キムソンヘさん。2025年にキャリア20周年を迎え、2026年7月30日からはスパイラルガーデンにて最新展『愛と接続』を開催します。
今回メルカリでは、キムさんに特別作品の制作を依頼しました。素材となったのは、主に「メルカリ」を通じて集められたぬいぐるみたちです。持ち主の手を離れ、一度は役目を終えたように見えた存在を、ふたたび光のもとへと集め、シャンデリアとして別のかたちで照らし出す。その行為には、彼女自身のどのようなバックボーンや思いが込められているのでしょうか。制作の背景から、ぬいぐるみという素材に向き合い続ける理由まで、話を聞きました。(インタビュー・執筆/長畑宏明、写真/岩澤高雄、編集/メルカリマガジン編集部)

作品の素材は「メルカリ」で収集する

──キムさんの作品は、さまざまなぬいぐるみを一塊にし、電飾を組み込んでシャンデリアに見立てています。

キム:シャンデリアって、みんなが集まる場所に飾られている印象があるじゃないですか。だから、一度みんなから見放されて不要になった人形たちも、シャンデリアになれば、また見てもらえる存在になる。そういう発想で、シャンデリアという形にしました。

──キムさんの実家にもシャンデリアがあったんですか?

キム:そういうわけではないんですが、むかし個人的にお手伝いしていた方が、ファッションショーの演出や内装のお仕事をされていて、その中に石を砕いてシャンデリアにした作品があったんですよね。あと、その方が手がけた渋谷のとあるショップで、巨大なサーキットみたいなものを目を光らせた大勢のバービーが持ち上げている、という内装があったんです。その世界観に異様に惹かれて、ぬいぐるみにライトを仕込む作業などを手伝っているうちに、「自分も何か作ってみたい」と思うようになりました。

──もう使われなくなったぬいぐるみや人形を集める方法として、最初から「メルカリ」を使っていたんですか。

キム:私がこの活動を始めた当時は、まだ「メルカリ」がなかったので、代々木公園や大井競馬場のフリーマーケットに行ったり、リサイクルショップで集めたりしていました。一部のフリマはだんだん玄人っぽい人がガチで高価なモノを出品する場になってきて、私が作品で使いたいジャンクな掘り出し物が少なくなってしまったんですが(笑)。

──今回の作品に使われたものも、基本は「メルカリ」で購入されたんですか?

キム:そうです。「メルカリ」の買い物は楽しい。時々、手紙やおまけを商品と一緒に入れてくれる人がいて、すごくほっこりします。そのおまけを作品に使うこともあるんです。作品を見た人から「小さい時にこれ持っていました」と言われることもあります。そういう会話が生まれるのも良いですよね。

──具体的なアイテムや色で検索することが多いですか?

キム:はい。でも最近は、勝手に見繕ってくれるゾーン(「まだ見ぬお気に入りを見つけよう」)が好きです。おすすめ機能がどんどん進化していて、すごいですよね。深層心理まで把握されているようで、ちょっとやばいアプリだなと思います(笑)。

──値段や状態など、個人的なルールはありますか。実は、どの作品にも、ひとつだけすごく高価なものが混ざり込んでいる、とか?

キム:もちろん、ヴィンテージだと値段も張ったりしますけど、飛び抜けて高いものをひとつだけ差し込む、というのは今までないかも。そもそも、私が探しているものは、他に欲しい人がいないからか、どれも高くないんですよね(笑)。いまはよく時計を「メルカリ」で買っているんですけど、それも安いものばかりで。

──逆に、どうしても作品に取り入れたいけど、高価で購入を迷っているものはありますか?

キム:アンティーク シャンデリアの土台。この前「メルカリ」で良いのがあったんですが、10万円ぐらいの値がついていました。一度8万円で値下げ交渉したんですけど、却下されちゃって(笑)、「お気に入り」に入れたまま迷っています。値下げ交渉の機能がついてから、とりあえずトライするようにはしているんですよね。

無名の人形に惹かれる理由

──フリーマーケットは、必ず目当てのものが見つかるわけではなく、その場にあるラインナップから選ぶしかないですよね。最初は、どうやって「これはあり」「これはなし」を決めていたんですか。

キム:特に何かを目当てにして行くことはないので、その場でパッと目についたもの。直感というか、「これは買おう」みたいな。その中でも、もうどこの版権もついていないような、無名な人形がタイプです。

──無名性に惹かれる理由について、考えたことはありますか?

キム:メジャーで人気者じゃないところ、ですかね。私は、ぬいぐるみというより、その子たちを“人”として捉えているんです。複数の人の人生を一緒にしたい、という感覚があるんですよね。人気者でも、注目を浴びない子でも、結局みんなひとつになって、仲良く光を灯そう、みたいな感じです。そういう意味では、ずっと“平和”について考え続けているのかもしれません。

──その考え方はどこから生まれたんですか?

キム:自分が在日朝鮮人として生まれて、日本での居場所や、自分のアイデンティティについて考え始めたことが影響しています。私の日常では、病院に行って診察券の名前を呼ばれた時に周りから振り返られる、みたいなことが頻繁に起きる。日本では日本人とみなされず、韓国に行っても韓国人としては受け入れられない。はたして自分が何者なのか、ずっと考えながら生きてきました。一応、日本語名も持っていて、私の同世代は通名を使って(出自を)隠している人が多かったんですが、私は使いたくなかった。ずっと本名でいようというプライドがあったんですよね。

──ご自身の出自が大きく関わっていたんですね。あと、キムさんの作品は、キャラクターがもともと持っていた文脈を一度ほどいて、別の関係性の中に置き直しているようにも見えます。

キム:本来の意味を超越した中で、ギリギリを攻めても作品だからOKみたいなラインでやっていきたいなと思っています。でも、ディズニーさんが自分の作品を見てくれて、そこから正式に作品制作を依頼してくれたことがあったんです。ちょうどミッキー80周年で、パルコでディズニー展をやるのでそれに合わせて作ってください、という内容でした。ほかにもスヌーピーミュージアムや、トムとジェリーの企画でも作品を作っています。そういうお話をいただくと、「訴えるんじゃなくて、オファーしてくれるんだ」と感動しますね。

耽美な映画、ホラー、知らないものへの好奇心

──ご自身のパーソナリティ以外で、作風に影響を与えた作品や出来事はありますか。

キム:映画が大好きで。いろんな人の人生を見るのが、映画の醍醐味じゃないですか。自分が経験できないことを知るといいますか。監督では、ウォン・カーウァイの作品はよく観ています。カラフルな光と、全体に漂う哀愁のコントラストは、自分の作品にも通じるのかなと思っています。

──ウォン・カーウァイは納得です。ほかに美的感覚を形作ったものはありますか。

キム:それ以外だと、ホラー映画ばかりになっちゃうんです。昨日は『サユリ』(白石晃士監督)というホラー映画を見ました。『時計じかけのオレンジ』や『シャイニング』も長年のお気に入り。個人的には、怖さよりも絵の綺麗さに惹かれます。あと、普段はYouTubeで怪談ばかり見ていて(笑)。変な家に行く話とか、都市伝説も好きですね。とにかく、知らないことを知りたい好奇心が強いんです。

──アート作品や作家から強く影響を受けたことはありますか。

キム:現代美術家の塩田千春さんのことは大尊敬しています。20年ぐらい前の横浜トリエンナーレで、泥の付着した巨大なドレスの作品(「皮膚からの記憶」)をはじめて拝見したんですが、それがもう衝撃で。(個展「塩田千春 つながる私(アイ)」で展示されていた)紐を使った作品もすごすぎて……。意味や文脈もさることながら、あの規模のものを作っていること自体に心動かされます。

──キムさんの作品にも見た目のインパクトがある一方で、細部の繋がりには秩序も見えます。全体のバランスはどう考えていますか。

キム:うまく説明できないんですが、それが自分独自のバランス感覚なんだと思います。バラバラのぬいぐるみを使っているので、絶対に左右対称にはならないじゃないですか。その中でも、なんとなく収まりよく、対称っぽく見える感じは意識しています。ただのカオスになるのは嫌で。その子たちがちゃんと主張できる、みんなが平等に見えるようには意識しています。

求められて、作って、喜んでもらう

──作品づくりをこれだけ長く続けてこられた、一番のモチベーションは何ですか。

キム:自分の場合、求めてくれる人がいないと、アートは成立しません。誰も必要としなくなった瞬間に、作品が作れなくなってしまう気がする。今までやってこられているのも、人との関わり合いがあったから。オーダーにせよ自発的な作品にせよ、制作して、求められて、喜んでもらうところまでがセットで、自分のモチベーションになっています。

──オーダーは、どんなところから来ることが多いですか。

キム:お店からのオーダーが多いです。それ以外にも、個人の方から「不要になった子供のぬいぐるみで作ってほしい」という連絡をいただくこともあって。もちろん、その場合はぬいぐるみを選べず、時にめちゃくちゃ巨大なものが送られてきたりもするんですけど、その制約の中でどう作るかというのが醍醐味でもあります。

──ぬいぐるみを探して、選んで、並べて、シャンデリアを制作する。その工程の中で、作り手として一番夢中になるのはどこですか。

キム:うーん、そうですね……やっぱり探している時の方が一番楽しいです。あと、集めて、並べて、「うわー、めっちゃかわいい」となる瞬間も好きなんですよね。そこからは、一気に集中して、制作モードに入る。その中で、それぞれの子たちがぴったりな場所にはまった時の高揚感はあります。「これ、ここだったんだ」みたいな。

──ぬいぐるみを選んでいる時から設計図を考えているわけではないんですね。

キム:はい。最初は見た目だけで選んで、まったくのノープランで進めます。クライアントさんがいる場合は、最初にプランを出す場合もあるんですけど、結局ぜんぜん違うものになったり。今回メルカリさんで制作させてもらった作品も、当初話していたものから大幅に変わっているので、おそらく驚かれたんじゃないのかなと(笑)。

買ったものに責任を持つということ

──キムさんは、主に中古品を使ってアートを制作されていますが、そこには「モノが循環していくこと」に対する意識もあるのでしょうか?

キム:買ったものに責任を持ってほしい、という気持ちが根本にあります。いらないものをこれ以上買わなくてもいいんじゃない?って。ぬいぐるみは、今後もずっと作られ続けると思いますし、その営み自体は止められない。でも、ひとつのものを買うんだったら、責任を持って大事にしてほしい、ということは伝えたいです。

──また、シャンデリアをはじめキムさんの作品は生活空間に自然と馴染みますよね。生活とアートの距離感について考えていることはありますか。

キム:アートって、すごく高尚なものだというイメージが強くなりがちなんですが、いろんなメッセージを内包できるものだからこそ、身近であってほしい。だから、作品を売るだけではなく、ワークショップなど、子供たちに作ることの楽しさを伝える活動も積極的にやっています。今後は、もっと公共の場に進出していきたいんですよね。区役所とか児童館とか、アートに興味のない子たちの目に自然と触れる場所に、どんどん浸食していきたい。

──具体的にやってみたい場所はありますか。

キム:これはずっと考えていることなんですが、いつか街灯をやってみたい。たとえば上野だと、街中にパンダのオブジェが置いてあるじゃないですか。あれがシャンデリアでもいいんじゃないかって、勝手に思っています。電話ボックスとか、ベンチとか、バス停とか、そういうところにも普通にあったらいいなって。その究極が、街灯。こういう場所で口にしていれば、いつかできる気がします。

──まもなく開催される新作の展覧会では、テーマに『愛と接続』という言葉が掲げられています。まさしく今日お話しいただいたことすべてにつながるように感じます。

キム:ありがとうございます。私は結局、すべて“愛”に接続させていく作品を作っているんです。愛って、自分ひとりを愛することもできますけど、ここで表現したいのは、どちらかというと外に向けての愛。だから「愛」と「接続」が同義に近いというか、接続することがすなわち愛の行為につながっている。今まで「接続」という言葉を使ったことはあまりなかったんですけど、今回はすごくしっくり来ています。

キムソンヘ | KIM SONGHE

1982年に在日朝鮮人三世として東京に生まれる。18歳まで朝鮮学校に通い、その後、織田ファッション専門学校に進学。卒業後に作家活動を始め、2005年にセレクトショップ「LOVELESS」で展示したシャンデリア作品が注目を集めたのを契機に、シャンデリア・アーティストとして独立。以降、国内外の企業やブラントへの作品提供、空間ディスプレイ、プロダクトデザインを手掛けてきた。2009年には韓国・ソウルのハラガラム美術館で開かれた「U.S.B: Emerging Korean Artists in the World 2009」展や、サンフランシスコのSUPERFROG Galleryで展示を行ったほか、2016年には初となる作品集『TROPHY』を刊行。併せてラフォーレ原宿で大展覧会「トロフィー」を開催し好評を得た。2021年にはPARCO MUSEUM TOKYOにて個展「天国 ― HEAVEN」を開催。全世界に不安が訪れたコロナ禍中に人々の生について問いかけた。その他個展、グループ展など多数。また、子どもたちを対象としたワークショップや公演も積極的に行っており、人種や性別の境界線を超えたコミュニケーションの在り方を、物作りを通して伝え続けている。
ぬいぐるみやアメリカン・トイ、達磨や招き猫、熊手といったアイテムをコラージュして作られるキムソンへの作品群。「ジャンク・コラージュ」と評される手法を採用することは、キムソンへの在日朝鮮人三世という出自と無関係ではない。作品には常にマイノリティとして生きてこざるを得なかった彼女の多文化主義に対する理想が投影されている。キムソンへの作品は一見ごちゃごちゃなジャンクであるようでいて、その世界は奇妙なバランスで均衡を保っている。

KIM SONGHE Official website: https://kimsonghe.com

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メルカリマガジン編集部

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