YouTuberてんちむの生存戦略「働きたくないから、お金を使う」

好きなものと生きていく #21

働きたくない。誰にだって、そう感じる瞬間がある。
しかし人生100年時代といわれるいま、
「生き甲斐のある仕事を」「好きなことで稼ごう」「趣味を副業に」
世の中には働くモチベーションを鼓舞するフレーズが飛び交う。

「好きなことして生きるより、嫌なことせずに生きてたい」

そんな仕事観でいま絶大な支持を受けるのは、YouTuberてんちむだ。 『天才てれびくんMAX』などで活躍した人気子役「橋本甜歌」から、アフィリエイト収入を得る中学生ブロガー、そしてカリスマギャルモデルへと転身。その後引きこもりのニート時代を経て、「生活費稼がなきゃだけど、通勤とかしたくない」と3年前にはじめたのがYouTube配信だった。

2019年12月31日、てんちむCHの登録者数は100万人を超えた。人生をかけて働き方をアップデートしてきた26歳に、生き甲斐がもてはやされる現代で働く意味を聞いた。
(編集/メルカリマガジン編集部、撮影/いわなびとん)

YouTuber初の伊勢丹外商顧客に 「お金って使わなかったらただの紙」

「やっほー、みんな息してる?」

昼でも夜でも、YouTuberてんちむの動画はいつもこの言葉ではじまる。

「もともとゲーム用語なんです。対戦相手を煽るニュアンスで使うんですね。だから単に『生きてる?』っていうより、『サバイブしてる?』っていう感じかな」

その言葉通り、てんちむの動画では強かに「生き残る日々」の様子が、煽るように更新される。
ある日の動画ではバレンシアガやルイ・ヴィトンなどハイブランドを爆買いし、別の日には母親に2000万のメルセデス・ベンツをプレゼント。食事はウーバーイーツか外食で、ビジネスクラスで行く先はヨーロッパや南の島。「冷え込む消費」「モノを買わない若者」なんて令和の定説をぶっ飛ばすように、パンチの効いた日常が次々と公開されていく。

「YouTuberになって1年目に、伊勢丹に行ってGUCCIでパパパッて100万ぐらい買ったんですよ。値段とか見ずに、服とか靴とか。お金って使わなかったらただの紙になっちゃうんで。そしたら去年、伊勢丹さんからYouTuber初の外商顧客にしていただきました。でも私の場合、物欲があるっていうより、完全に働くモチベーションのために買い物してるんです。お金使ったら、また働かないといけないじゃないですか。いまガチで欲しいものって、今年発売の『桃太郎電鉄』と『どうぶつの森』くらいですもん(笑)」

働きたくないから、お金を使う。
その矛盾こそ、てんちむが支持される理由でもある。キラキラした「リア充動画」をアップする一方で、すっぴんにジャージ姿で鬱屈をさらけ出す「語り系動画」がアップされる。

「自己肯定感低くて辛い」「恋愛ってしないとダメなの?」「生きてる意味が分からない」

てんちむの悩みは、観ているこちら側の日常と地続きなものばかりだ。一見手の届かなそうな「映える」世界の表裏を、ためらうことなく交互に見せていく。

「自分の中にオンとオフというか、陰と陽が常に一緒にあるんです。そもそも人間の本質って、ないものねだりだと思うんですよ。ニートのときは仕事したいって思ってたけど、お陰さまで忙しくなってくると『何もしたくね〜』ってなる(笑)。いまはスウェットで、ゴミみたいに転がって焼き鳥食べて、漫画読みながら寝落ちするっていうのが、すげー幸せって思うんですよね。それは、たまにしかできないから。本当に欲しいものって、常に手に入らないものだと思うんですよ。でもそれが生き続けるモチベーションになるんです」

16歳で目黒にマンション購入、フルヌード、そしてニートになった

人気子役、カリスマギャルモデルとして活躍した10代。その貯蓄で16歳のとき目黒にタワーマンションを購入した。

「子役のときは清純派だったんですけど、ギャルになりたくて事務所をやめたんです。一番最初にフリーランスで仕事したのは中学2年の時でした。その頃ブログをはじめて、広告で稼げるって分かったんです。ギャル雑誌のモデルをやらせていただくことになって、芸能界に復帰したんですけど、子どもの頃から働いているといつの間にか『仕事だと思えば何でもやれるモード』が出来上がっていて。やりたくないこともこなして、知らず知らずのうちに自分を追いつめてたんですね」

そしてギャル雑誌を卒業した頃、主演映画でフルヌードになった。最初に聞いていた「パンチラ程度」という話とは全然違うと思ったけれど、仕事だと思い自分なりのプロ意識で脱いだ。

でも、そこからが地獄だった。自分で選んだことではなかったからだ。撮影が終わったあと、「どうしたらあの映画をみんなに観られなくて済むんだろう」と、麻痺した頭で考えた。
「あ、私が死ねばいいんだ」
睡眠薬をがぶ飲みしたが、ほどなくして目が覚めると床の上で息していた。

映画は何事もなかったように公開され、てんちむは19歳で働くのをやめた。2年間持ち家のマンションにこもり、ひたすらゲームをする日々が続いた。

「収入はゼロに近いけど、ギャル時代の貯金がまだ3500万あったんで、それで生きてました。家を買ってたから家賃はいらないし、かかるコストはゲームのソフト代と、光熱費、あとは主食の冷凍うどんとタバコくらい。普通の人が働きはじめる年齢で、メンタルがどん底に落ちてたんです」

誰にも会わずにすむ生活は、気楽でもあった。けれど貯金が3000万を切ったとき、「この生活がいつまでも続くわけじゃない」という現実を急に突きつけられる。

「どこかで『まだ大丈夫っしょ』っていう気持ちはあったんですけど、一生このままニートで生きていけるわけじゃないって思ったら、焦りや不安が生まれてきて。それでマンションを売って賃貸に引っ越して、貯金通帳も母親に渡して、生きてくために働かないといけない状況を作ったんです」

仕事は物件選びと一緒「最低条件」を徹底的に考える

そうして選んだのが、YouTuberという仕事だ。

「与えられたルーティンをこなす生き方はしたくなかった。よく『好きなことして生きろ』とかいうじゃないですか? でも私は『嫌なことせずに生きる』でもいいんじゃないって思うんですよ。だから仕事を選ぶときは、『自分が絶対にやりたくないこと』を徹底的に考える。そうすると、『本当に嫌なこと』をやらないために選んだ仕事だから、ある程度は他のことを妥協できるんです。仕事って、物件と同じだと思ってるんですよ。間取りでも、譲れない条件のためなら、他の条件を妥協できるじゃないですか。バス・トイレ別ならちょっと駅から遠くてもいいとか。だから仕事を選ぶときも自分と向き合って、まずは『本当にこれだけは嫌だ』ということを明確にしたほうがいいと思う。案外、それができてない人が多い気がします」

どんな仕事でも、大変なことやストレスは避けられない。だが「絶対に譲れない条件」さえ知っておけば、それ以外の苦労や妥協は許せる。幼少期からさまざまな職種を渡り歩いて、「本当に嫌なこと」も経験したからこそ気づくことができた。

「私の場合、YouTuberになる前に『仕事を選べない』ことで悔しかったり悲しかったりしたことがあったので。それが一番嫌だなと思ったんです。だから『これからは仕事を選べる立場の人間になろう』って強く思った。YouTuberってすごく分かりやすいんですよ。動画の視聴回数はもちろん、SNSでどのくらいRTされたのか、いくつ『いいね』がついたかとか、全部数字に出る。結果を出せば評価してもらえるんです。もちろん誹謗中傷とか、ストレスもありますよ。でも私は自分の実力で仕事を選べるようになるために、その現実を受け入れて戦っていくって決めたんです」

自分で芸能界を去ったからこそ、自ら選択した新しい世界で突き抜けたいとも思ってきた。

「あの時もし違う選択をしていたら、今ごろどうなっていたんだろうなって思うときはあります。当時オーディションで一緒だった子が、今でも価値を認められて活躍していたりするのを見ると、常に悔しいっていう気持ちがあるんですよね。でも私は、結局違う道を選んでしまっているわけじゃないですか。重要なのは選んだ選択肢じゃなくて、その後の行動なんじゃないかと思うんです。自分の選択を意地でも正解にすることが大事なんじゃないかって。だから私は自分の選んだ仕事で、価値を上げていかないといけない」

すべては自分の責任、諦めることで確実に前進する

てんちむが自分の価値を上げるために、人間関係でも仕事でも導入しているのが「食べログ方式」だ。

「自分は店で、出会うすべての人がお客さま。『またてんちむと仕事がしたい』って思ってもらえたら、評価の世界で生きている私にはストレスがないし、チャンスをいただけるかもしれない。昔から人前に出る仕事をやっていて、絶対に人と比べられるという環境で育ってきたからこそ身についた考え方かもしれないですね」

ここまで客観的な評価を意識するのは、「必ず前進できるから」と断言する。

「自分に足りないことを把握して、まず諦めるんです。言い換えると、受け入れる、切り替える、許すってことだと思います。諦めることによって、人は確実に前進できるんですよ。バンジージャンプとかもそうですよね。『嫌だ嫌だ』って言っているうちは怖いし何も変わらないけど、飛ぶときは諦めるじゃないですか。それと一緒で、諦めることで新たな領域に行けるんです」

だがときに他人からの評価は、受け入れがたいほど酷なこともある。そういった厳しい評価と向き合うのは、辛くないのだろうか。

「いや、めちゃめちゃ辛いですよ! 私毎晩泣いてますもん(笑)。それでもいったん何もかも自分の責任にしたほうが良いと思う。たまにYouTuberの子から相談を受けることがあるんですけど、『他のYouTuberとコラボしたんだけど全然数字が伸びなかった』とか、『自分の動画がおすすめに表示されない、これってGoogle側の問題じゃないの』とか言う人がいるんですね。いやいや、それ全部自分のせいだよって。まず己を疑って、前進し続ける人が生き残っていくんじゃないかと思いますね」

老後を満喫するより、いまを息したい

近ごろではプロデュースする商品が即完売したり、昨年12月に上梓した書籍『私、息してる?』が発売3週間で10万部突破したりするなど、YouTuber以外の活動も軌道に乗ってきた。

「売り上げって初速も大事だけど、それ以上に維持も大事だと思うんですよ。結果を出し続けるためにはどうしたらいいんだろうって、よりプレッシャーも感じるようになりました。仕事に“幅”は出てきたと思うんですけど、いまは自分の“伸びしろ”をもっと感じたい。そうすれば、期待に対するプレッシャーも乗り越えていけると思うんで」

そしてついに昨年の大晦日、YouTubeの登録者数は100万人の大台を超えた。

「2019年はYouTuberとして安定してきた一方で、この仕事へのモチベーションを保つにはどうすればいいんだろうって考える1年でもありました。それで実は、2021年完成予定の約2億円のタワーマンションを買ったんです。リフォームとか保険とかいろいろ入れたら3億くらいになるんじゃないかな。だから私、まだまだ働かないといけないんですよ(笑)」

働くために、お金を使う。どこまでも潔い26歳は、年金問題や老後資金発言など、若い人を不安にさせるような社会の空気をどう感じているのだろうか。

「未来のことを心配してもしょうがない。お金っていうのはどうあがいても、結局手段でしかないんですよ。自分を幸せにする手段でもあるし、経験の手段でもある。死んだら持っていけないじゃないですか。老後を満喫するより、若くて元気なうちに人生謳歌しようって思いません? たとえ将来どん底に落ちても、そうなったら絶対に人間は頑張るんで。落ちれば這い上がるしかないから、どうにかなると思う。先の不安に負けて、後悔するのはもったいない。私はいまを息してたい」

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てんちむ(橋本甜歌)
1993年北京生まれ。2004年から06年にNHK『天才てれびくんMAX』レギュラー出演。その後、人気ブロガー、ギャルモデルを経て、現在はYouTuberとして「てんちむCH」(チャンネル登録者数100万人)を配信中。著書に『中学生失格』『私、息してる?』がある。

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WRITTEN BY

宮川直実

(みやかわ・なおみ) 編集者。猫3匹と暮らす。好きなものは、コーヒー、プロレス、海外文学、お買い物。

好きなものと生きていく

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